1 / 4
活字監視員
しおりを挟む
秒針が震え、ピーンと天を指した。
「今日の業務はお終いだ」
リリーは懐中時計の蓋を閉めポケットにしまった。
弟のシミーも同じように金色の時計を懐中にしまった。
リリーとシミーは、言の葉の国で活字監視員をしている。活字が逃げ出さないように監視する地味だが大切な仕事だ。
外は寒く暗かった。
外套の毛羽立ちに白いものがとまって震えた。
天を仰ぐ。暗い穴のようだ。その黒い穴の底から、白い小さなものが、ちりのように、ちらちらと舞いながら湧いてくる。
細雪(ささめゆき)だ。
「もうすぐ春だろうか」
もう、ずっと春を待っている。物心ついた頃からずっと。いつか来る春を待っている。
リリーの肩には「春隣」という痣があった。
だがリリーは春を知らなかった。
冬の後には春が来るのだ。古い書物には春のことが書かれていた。
弟のシミーが持っていた古書を開いて読みあげる。
「『春になると花が咲く』そう書いてありますよ兄さん」
シミーの青灰色の瞳が瓦斯燈の灯りに輝いて揺れる。
恋を、しているのだな。
リリーは双子の弟を横目で盗み見る。
シミーは『花に言葉を宿す人』と仲がいいらしい。シミーの足の甲に「春隣」という痣があるのを、相手はもう知っているのだろうか。
「今日の業務はお終いだ」
リリーは懐中時計の蓋を閉めポケットにしまった。
弟のシミーも同じように金色の時計を懐中にしまった。
リリーとシミーは、言の葉の国で活字監視員をしている。活字が逃げ出さないように監視する地味だが大切な仕事だ。
外は寒く暗かった。
外套の毛羽立ちに白いものがとまって震えた。
天を仰ぐ。暗い穴のようだ。その黒い穴の底から、白い小さなものが、ちりのように、ちらちらと舞いながら湧いてくる。
細雪(ささめゆき)だ。
「もうすぐ春だろうか」
もう、ずっと春を待っている。物心ついた頃からずっと。いつか来る春を待っている。
リリーの肩には「春隣」という痣があった。
だがリリーは春を知らなかった。
冬の後には春が来るのだ。古い書物には春のことが書かれていた。
弟のシミーが持っていた古書を開いて読みあげる。
「『春になると花が咲く』そう書いてありますよ兄さん」
シミーの青灰色の瞳が瓦斯燈の灯りに輝いて揺れる。
恋を、しているのだな。
リリーは双子の弟を横目で盗み見る。
シミーは『花に言葉を宿す人』と仲がいいらしい。シミーの足の甲に「春隣」という痣があるのを、相手はもう知っているのだろうか。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる