男色 和泉式部日記

リリーブルー

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昼も夜も

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 こうして、二三日、なんの音沙汰もなかった。
「あんなに、待っていなさいなんて、頼もしげに言っていたのに、どうなったんだろう」
と気にかかると、眠れない。目は覚めたまま、横になっていると、夜更けに、メッセージの着信音がした。あ、切り忘れていた、と思ってスマホを手に取ると、敦道君からのメッセージだった。僕の心が届いたのかな、と嬉しい。

──見ていますか? この夜更け、山の端にくまなく澄んだ冬の月を。

僕は返信した

──見ていません。寝付けない、この夜更け、かえって君を思い出すから。


 二日程経った休日、前のいかついドイツ車でなく、軽いフランス車で、彼はそっとやって来た。昼に会ったことは一度もなかったので、むやみに恥ずかしい。夜に会えば、いきなり抱き合っても、違和感がなかったけれど、白日の下にさらされて、どうふるまったらいいかわからない。でも、一緒に住むようになったら、そんなことは言っていられないのだから、と強いて自分を鼓舞する。彼は、日ごろの会えない寂しさ、会える時が待ち遠しかったことなどを切々と語り、結局、僕らはリビングの床に倒れこんでいた。彼は一息ついて僕の髪をいじりながら、言った。
「この間言ったこと、お心は決まりましたか? こんなふうにこっそり会いに来るのは、私も苦手なんです。かといって、あなたに会わないと不安だし。こんな、はかない仲では苦しい」
彼は再び僕を強く抱きしめた。僕は彼の胸を押しやって、
「もう今は、君の言うままにと思うけれど、見慣れると飽きるっていうじゃないか? それが心配」
と言うと、
「またあなたはそんなことを! よし、見てなさい。慣れていよいよ恋しさが増すっていうことを分からせてやる」
彼はそう言って、庭へ出た。透垣(すいがい)のもとに、美しく色づいた檀(まゆみ)のあるのを、彼は折り取った。テラスの柱に寄りかかって、
「交わす言葉も深く色づく」
と言うので
「かりそめの露の宿りと見しほどに」
と僕は続けた。敦道君の姿は、ものすごく美しかった。さっき脱いだ衣服を、ひきつくろうも、いまだしどけなく、髪の額に乱れかかる様子も、快楽の名残をとどめる潤んだ瞳も、全て艶かしくみえる。
 昼間からこんなことで、いいのだろうか? 僕はためらいの気持ちとは裏腹の、ぞくぞくするような感覚にひきこまれていった。


翌日

──昨日のあなたの態度は、いただけない。反抗的なのも魅力的ではあるが。

と言ってきたので

──葛城の神が姿を恥じたように、君を前にし、はしたなく思い。昼間からあんなことになって。

と送信すると、すぐ返事がくる。

──僕が役の行者なら、夜だけなんて言わせないよ。

 葛城山の一言主(ひとことぬし)神は、昼間姿を見せるのを恥じて、役の行者(えんのぎょうじゃ)に頼まれた橋をかける仕事を、夜だけしかしなかったから、橋が完成しなかったそうだ。夜昼となくって……敦道君ったら!
 彼は、以前より頻繁に来てくれるようになったので、格段に寂しさがまぎれる気がする。
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