男色 和泉式部日記

リリーブルー

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別荘で

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 久しぶりに、敦道君が来た。
「ほんとにお久しぶりです。こんなつもりじゃなかったのだけれど。もとはと言えば、あなたにも責任があるんですよ」
何のことだろうか。
「僕がここに来るのを、良く思わない人たちがたくさんいるみたいで、気が引けてしまいました。それに、世間体もあって、こんなに日数が経ってしまいました」
と真顔で言う。敦道君の他に恋人がいるとでも思っているのだろうか。それとも、周りの人たちに、僕との交際について、とやかく言われているのだろうか。
「いらっしゃい。今夜は誰もいない所でゆっくり話しましょう」
「え?」
突然の申し出にびっくりしたが、彼が車に乗れというので、言われるままに乗ってしまった。初めてのドライブなので、どきどきする。
 彼は、郊外の別荘に僕を連れて行った。
「ね、ここなら知っている人もいないでしょう? これからは、ここに来て会いましょう。あなたの家だと、他に恋人が来ているんじゃないかと、気がかりなのです」
やはり、彼は、僕が他の誰かともつきあっていると思いこんでいるらしい。夜が明けると、タクシーを呼んで僕を乗せて
「僕が送っていきたいのだけど、いっしょに外泊したことがばれてしまうと困るから」
と言って、彼はとどまった。


 僕は道すがら、変だな、敦道君が、こんなに用心深いのは、僕との仲を、誰かに咎められているのではなかろうか? と思う。一方では、あけぼのに見た、彼の姿の並々ならぬ美しさが、印象深く思い出された。

──夜の内ならともかくも、あかつきになって帰るのでは、差し障りもあるでしょう。

と送信してみると

──あかつき起きの苦しさも、会えずに帰る夜に比べたら、何のことはありません。そんな気遣いは無用です。今夜もお迎えに参ります。

と返信がある。無理をしているんじゃなかろうか、大丈夫なのかな? と思うけれども、昨夜と同じように車で来て
「早く、早く」
と言うので、こんなに、こそこそして会うのは嫌だな、と思いつつも乗り込んで、昨夜の所で過ごす。
 どうやら敦道君には婚約者がいるらしい。彼女には、実家に泊まってくると言ってきたようだ。


 鳥の声がし始めた。
「もう夜明けだ」
僕は窓の外を気にした。
「明るくなると嬉しいものだけど、こういう時の鳥の声はつらいです」
言いながら、彼はしぶしぶ起き上がって、今回は車で送ってくれた。
帰る道すがら、
「僕が迎えに来たときは、必ず逢ってくださいね」
と言うけれども、いろいろ気がかりなので、
「いつもというわけにはいきません」
と答えた。
 敦道君は、僕を家まで送って帰って行った。しばらくしてメールがあった。

──今朝は、鳥の声で、引き離されて、憎かったので殺しました。

と言って、鶏肉の画像を送ってきた。さらに、

──殺してもまだ気がすまない。フライドチキンにして食っちまえ。

と穏やかでない。激しい人だ。返事に

──僕も憎いと思いますよ。毎朝、毎朝、今夜も会えなかったなあと思い知らされる鳥のことは。

と出した。


 二三日経って、月がとても明るい夜、窓辺に座っていると

──今夜は月がきれいですね。見ましたか? あの二晩の時も月が出ていましたね。僕と同じように思い出してくれているでしょうか? 月が沈んでしまうのは悲しいです。

 ちょうど月を見ていた所だったので、同じ月をながめていたのだと心が熱くなる。

──あの夜、君といっしょに見た月だと思って、眺めていたところです。今夜は一人で見ているので、空は見ても、うわの空です。

と少し期待して、月を眺めつつ待っていたけれど、敦道君は来なかった。
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