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第六章 凱歌の行方
錬装者の宿命
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「こ…このド畜生がッ!
テメエの武器はどこまで不快度MAXなんだよッ!!
だがな、この錬装磁甲に窒息殺法なんざ通用する訳ねえのが分からねえのかッ…」
とはいえ、このまま長大な肉のマフラーにまとわりつかれたままでは攻撃に支障をきたすため、直ちに取り除かんと黎輔が首筋に手をやった瞬間、恐るべき事態が彼を襲った!
『なぜだ!?腕がうまく動かせねえ…!』
実は、先ほどの跳躍時も、両脚の動きに違和感を覚えていたばかりであったのだ。
『──いつもならもっと高く飛べたはずだ…そういえば立ち上がった瞬間から動きがやたら重かったっけ…あ、そうかッ!』
機眼こそ怪液を除去したものの、青い磁甲の前面部はあたかも大量の水飴をブチまけたかのように、黄緑色のにちゃにちゃとした物質で汚されたままなのであった。
『も、もしかしてこの汚物は強力な接着剤なのか…!?
そうだとしたらこのままじゃヤベえ…ヘタしたら身動きできなくなるぞッ!!』
「あれ?──どうも黎くんの動きがおかしい…何か急に鈍ってしまったような…!?」
恭作の憂わしげな呟きに、星愁の非情な宣告が被せられる。
「あの粘液攻撃が単なる目つぶしのみであったはずがない──どうやらあの妖仙獣の〈必殺フルコース〉の序曲だったようだな…」
光城玄矢もまた、目論見通りの展開に会心の笑みを浮かべていた。
「くくく、この呀門は20分という時間内においていかに敵(錬装者)を効率的に破壊しうるかを計算し尽くして設計・育成された光城派自慢の一頭──ま、次戦以降この必勝パターンは修正されようが、〔粘縛弾〕の使い道は他にいくらでもあるからな…!」
当の冬河黎輔は、まさにパニック状態にあった。
『ヤベえッ!こりゃあマジでヤベえぞッ!!
この汚らしい舌を引きちぎるためにスピニング・コーンを目一杯伸ばしても、肝心の両拳を首まで持っていけん…し、しかもコイツ、とんでもねえ力で締め付けてきやがる…錬装磁甲を形成してる〔エグメド鋼〕がギシギシと軋むなんざ、2年半ではじめての体験だぜ…あッ、いけねえ!顔面全体に巻き付かれてまた視界ゼロになっちまったッ!!」
かくて進退窮まった僚友の窮地を見かねたか、那崎恭作は抑えた口調ながらも憤懣やる方ないといった心情を吐露した。
「…これは以前から思っていたことなんですが、〈人外戦力〉にかくも自在な特殊能力を認めている以上、それと相対する際には錬装者にもせめて刀槍類の使用は認められてもいいんじゃないですかね?
五体を武器とした格闘戦は対人間(極術士)だけで十分だと思うんですが…」
この後進による提言に、先輩は無表情のまま返答する。
「妖仙獣に得物を使い、極術士には素手で臨む?──それはムリだな…。
なぜかって?…それは各々がまとった錬装磁甲や極術身装そのものが何者にも勝る〈超兵器〉であるからだ…その潜在性能をフルに使いこなし切るならば、その破壊力は到底“人外”の比じゃない──今のおまえがそう思えないならば、問題は磁甲ではなく運用する錬装者の側にある。
だがな、決して武器の訓練が無意味だと言ってる訳じゃないぜ…現にオレと同郷の敬愛する後輩で、おまえも現地で邂逅するであろう、【霊拳旅団】なる錬装者チームを率いて堂々本隊の一角を担ってる鄭 士京君の大小剣及び槍戟の変幻自在の扱いっぷりなどはまさに芸術…いや、神業といっても過言じゃないレベルだからな──あそこまで行けば、むしろ磁甲の拡張装備として使用が督励されるべきだろう…しかしそれは、士京が八極拳をはじめとする中国拳法の極意を既にして極め尽くした早熟の…いや、不世出の天才だからこそ許されることなのだ…」
「……」
「…幸い、同じ東洋系の誼もあって、霊拳旅団とおまえが加わる【星拳鬼會】は友好的な関係を保ち、技術交流も盛んらしい…鄭君自身も若くして大人の風格漂う素晴らしい人格だから、生真面目なおまえは必ずや親密な関係を結べると思う…技はもちろんだが、人間的にも得るところが多々あるだろう──楽しみにしておくといい」
「え、ええ…」
鄭 士京及び霊拳旅団については出征決定後、本部からもたらされた〈本隊情報〉によってその存在を告知されており、恭作自身最大の興味を唆られていたところであったが、話題がそちらに行くのであればどうしても聞いておきたいことがあった。
「…その“鄭先生”はもちろんですがもう一人、ボクとしては異世界でどうしても会ってみたいヒトがいるんですよ──冬河晃人…黎くんのお兄さんですが、一体どういう感じの方なんですか?」
ここではじめて、鉄仮面の表情に変化が生じた。
「ふふ、やはりそうきたか…。
晃人か──そうだな、まさに鄭 士京とは真逆の、不真面目な天才というべきかな…」
「不真面目な天才…ですか?」
戸惑う後輩に微笑みつつ頷く星愁に、出征を控えて心に余裕を欠いた那崎恭作は単刀直入に切り込んだ。
「あの…ズバリお聞きしますが、冬河晃人氏と宗先輩とでは、果たしてどちらが実力的に上なんでしょうか?」
支部最強者は即答した。
「今がどうかはもちろん断言できんがな…アイツが旅立った4年前の時点においてなら、はるかに向こうが上だった──ちなみに、初陣はほぼ同時期だ…」
テメエの武器はどこまで不快度MAXなんだよッ!!
だがな、この錬装磁甲に窒息殺法なんざ通用する訳ねえのが分からねえのかッ…」
とはいえ、このまま長大な肉のマフラーにまとわりつかれたままでは攻撃に支障をきたすため、直ちに取り除かんと黎輔が首筋に手をやった瞬間、恐るべき事態が彼を襲った!
『なぜだ!?腕がうまく動かせねえ…!』
実は、先ほどの跳躍時も、両脚の動きに違和感を覚えていたばかりであったのだ。
『──いつもならもっと高く飛べたはずだ…そういえば立ち上がった瞬間から動きがやたら重かったっけ…あ、そうかッ!』
機眼こそ怪液を除去したものの、青い磁甲の前面部はあたかも大量の水飴をブチまけたかのように、黄緑色のにちゃにちゃとした物質で汚されたままなのであった。
『も、もしかしてこの汚物は強力な接着剤なのか…!?
そうだとしたらこのままじゃヤベえ…ヘタしたら身動きできなくなるぞッ!!』
「あれ?──どうも黎くんの動きがおかしい…何か急に鈍ってしまったような…!?」
恭作の憂わしげな呟きに、星愁の非情な宣告が被せられる。
「あの粘液攻撃が単なる目つぶしのみであったはずがない──どうやらあの妖仙獣の〈必殺フルコース〉の序曲だったようだな…」
光城玄矢もまた、目論見通りの展開に会心の笑みを浮かべていた。
「くくく、この呀門は20分という時間内においていかに敵(錬装者)を効率的に破壊しうるかを計算し尽くして設計・育成された光城派自慢の一頭──ま、次戦以降この必勝パターンは修正されようが、〔粘縛弾〕の使い道は他にいくらでもあるからな…!」
当の冬河黎輔は、まさにパニック状態にあった。
『ヤベえッ!こりゃあマジでヤベえぞッ!!
この汚らしい舌を引きちぎるためにスピニング・コーンを目一杯伸ばしても、肝心の両拳を首まで持っていけん…し、しかもコイツ、とんでもねえ力で締め付けてきやがる…錬装磁甲を形成してる〔エグメド鋼〕がギシギシと軋むなんざ、2年半ではじめての体験だぜ…あッ、いけねえ!顔面全体に巻き付かれてまた視界ゼロになっちまったッ!!」
かくて進退窮まった僚友の窮地を見かねたか、那崎恭作は抑えた口調ながらも憤懣やる方ないといった心情を吐露した。
「…これは以前から思っていたことなんですが、〈人外戦力〉にかくも自在な特殊能力を認めている以上、それと相対する際には錬装者にもせめて刀槍類の使用は認められてもいいんじゃないですかね?
五体を武器とした格闘戦は対人間(極術士)だけで十分だと思うんですが…」
この後進による提言に、先輩は無表情のまま返答する。
「妖仙獣に得物を使い、極術士には素手で臨む?──それはムリだな…。
なぜかって?…それは各々がまとった錬装磁甲や極術身装そのものが何者にも勝る〈超兵器〉であるからだ…その潜在性能をフルに使いこなし切るならば、その破壊力は到底“人外”の比じゃない──今のおまえがそう思えないならば、問題は磁甲ではなく運用する錬装者の側にある。
だがな、決して武器の訓練が無意味だと言ってる訳じゃないぜ…現にオレと同郷の敬愛する後輩で、おまえも現地で邂逅するであろう、【霊拳旅団】なる錬装者チームを率いて堂々本隊の一角を担ってる鄭 士京君の大小剣及び槍戟の変幻自在の扱いっぷりなどはまさに芸術…いや、神業といっても過言じゃないレベルだからな──あそこまで行けば、むしろ磁甲の拡張装備として使用が督励されるべきだろう…しかしそれは、士京が八極拳をはじめとする中国拳法の極意を既にして極め尽くした早熟の…いや、不世出の天才だからこそ許されることなのだ…」
「……」
「…幸い、同じ東洋系の誼もあって、霊拳旅団とおまえが加わる【星拳鬼會】は友好的な関係を保ち、技術交流も盛んらしい…鄭君自身も若くして大人の風格漂う素晴らしい人格だから、生真面目なおまえは必ずや親密な関係を結べると思う…技はもちろんだが、人間的にも得るところが多々あるだろう──楽しみにしておくといい」
「え、ええ…」
鄭 士京及び霊拳旅団については出征決定後、本部からもたらされた〈本隊情報〉によってその存在を告知されており、恭作自身最大の興味を唆られていたところであったが、話題がそちらに行くのであればどうしても聞いておきたいことがあった。
「…その“鄭先生”はもちろんですがもう一人、ボクとしては異世界でどうしても会ってみたいヒトがいるんですよ──冬河晃人…黎くんのお兄さんですが、一体どういう感じの方なんですか?」
ここではじめて、鉄仮面の表情に変化が生じた。
「ふふ、やはりそうきたか…。
晃人か──そうだな、まさに鄭 士京とは真逆の、不真面目な天才というべきかな…」
「不真面目な天才…ですか?」
戸惑う後輩に微笑みつつ頷く星愁に、出征を控えて心に余裕を欠いた那崎恭作は単刀直入に切り込んだ。
「あの…ズバリお聞きしますが、冬河晃人氏と宗先輩とでは、果たしてどちらが実力的に上なんでしょうか?」
支部最強者は即答した。
「今がどうかはもちろん断言できんがな…アイツが旅立った4年前の時点においてなら、はるかに向こうが上だった──ちなみに、初陣はほぼ同時期だ…」
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