ボクらは魔界闘暴者!

幾橋テツミ

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第五章 戦士たちの交錯

錬装者地獄変⑤ 最強者地底対談(後編)

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「首督が…既に死亡している…?

 だ、だがそうなると、恭作が目撃したあの男は…ハッ、そ、そういえばあの時、は頭陀袋のようなものを担いでいたと…もしや、その中に…!?」

 顔面蒼白となりながらの宗 星愁の掠れ声での呟きに、光城玄矢も小さく頷いた。

「…何かいろいろ思い当たることがありそうだな…」

 しかし一抹の憐憫を含んだそのコメントは一心に黙想する錬装者の耳には全く入らぬらしく、その場に片膝をついた星愁は揃えた人差し指と中指で床の微かな染み跡をなぞりつつ独白を続ける。

「そうか…これでようやく合点がいった…。

 恭作が見たあの頭陀袋には、…!

 …そ、そして見事に覇闘で連勝を飾った小型絆獣の骸をも持ち去ったのは、ツネさんがこの15年余りの育成期間でどの程度まで戦闘生物を進化させたかを解剖して詳細に調べるためだろう…。

 血を抜いたのはもちろん、錬装を解いて生身で袋を担ぐ自分の負担を軽減するため…そして作業を行った研究所最奥の排水口から彼の体液と内臓の一部は全て川に流された…!

 そして脱がせた服を身に付けて首督に成りすましたは、素知らぬ顔で車を奪って逃走したんだ…!!」

「──詳しい解説ありがとよ。

 どうやら、絆獣聖団ってのはオレらが思っていた以上にヤベー組織みてえだな…!

 ところでよ、そろそろアンタが到達したっていう“恐ろしい認識”ってヤツを聞かせてもらえるかい?」

 頭上から見下ろす妖帝をゆっくりと見上げた星愁は、小さく頷くと乾いた声で話しはじめた…。

「…もうご存知でしょうが、三代目聖団長に任命される雲行きなのは桂城慧斗という、現在21歳の若者です…。

 職業は、富裕層や著名人に限定された顧客クライアントを多数有する若き〈カリスマ・フィジカルトレーナー〉…。

 いかに才能に恵まれているとはいえ、その年齢に比して彼が有する客層の質量は不自然なまでに圧倒的です…!

 彼と聖団の関係性については、どうやら“初代聖団長”真田時彦にそのルーツがあるらしいのですがね…」

「…ああ、“異端の神話学者にして古武道の達人”…ついでに愛人を27人も抱えて全国八ヶ所の拠点を点々とジプシー生活してたっていう怪物か…。

 全くこの風変わりなオヤジ、何で教祖にならなかったのか不思議だよな…恥をおそれずに告白すりゃあ、ウチのじーちゃん(光城三麿みつまろ=光至教開祖)とソックリなキャラでよ、はじめて知った時にゃ微笑ましい気分になったもんさ…ま、それはそれとして、つまりはその27人の愛人の中に桂城姓の女性がいたってコトか?…あれ、違うのかよ…?」

 一旦首を振った星愁が、苦笑しながらを告げた。

「…桂城を名乗る人物が愛人の中にいたのは事実ですが、…!

 名は慧太郎といったとか…」

「へえ…そりゃまた意外…でもねえか…」

「まあ、性愛…いや、恋愛対象は他人が口出しすべき問題じゃないですからね…」

「そりゃそうだ…ヒトが生きてゆく上で、何より大切なのは〈愛〉だからな…それさえ両人の間に流れているのならば、何ら問題はない…」

 突如として厳かな宗教家の口調となった相手に失笑を禁じ得ない思いの錬装者であったが、もちろん顔に出せるはずもなく先を続ける。

「とにかく組織内でも一部の者しか通覧できぬ【聖団史】の伝えるところでは、およそ40年前の夏、北海道の拠点(牧場)に例のごとく愛人団と滞在していた真田は突如として〈失踪〉したのですが、その時したのが慧太郎といわれてます…」

「失踪?…正確には〈召喚〉だろうが…。

 ──行き先は決まってる、

 だよな…!」

 話者は黙って頷いた。

「…聖団の故事来歴についちゃあ大体のところは魂師からレクチャーを受けてる、

 “敵を知れば、百戦危うからず”

 ──だからな。

 尤も、最近いきなり飛び出してきた桂城って謎の一族についちゃ不明な点だらけだったんで勉強になったよ…。

 ところでによると、初代聖団長のオッサンは二度と地上界こっちに戻らなかったんだろ…だけど問題の慧太郎サンはどうなったんだい?

 彼の地ラージャーラで“彼氏”に殉じたんなら、ってことになるよな…ってことはつまり、“両刀”だったってことになるが…」

「いえ…およそ10年後、慧太郎は一人で戻って来たらしいです…しかも、真田の愛人数人によって維持されていた牧場に…!

 ──ところが…」

「…異世界ラージャーラでの記憶を一切、失っていた…か?」

「…まあ、この流れだとそう読めちゃいますよね。

 ですが、少し違ったんです…。

 勿体ぶらずにお話しますと、帰ってきたのは、だったんですよ…それは…」

 しかし聞き手が横槍を入れ、自己の見解を披露した。

「ほう…そりゃ興味深いな…つまり、ソイツはラージャーラ人が化けたニセ者だったってことなのかい…?」

 ──ご名答だろ?といわんばかりのドヤ顔に、宗 星愁はすまなさそうに首を振った。

「…ナニ、違うのかよ?

 絶対ピンゴだと思ったが、絆獣聖団、なかなか侮れねえな…すると正体は何者だったんだ?」

 10数秒間の思わせぶりな沈黙の後、口を開いた星愁の声音は明らかに禁忌タブーに触れる場合に特有の微かな震えを帯びていた。

「…これらの情報は既に魂師からお聞きになったと思っておりましたが、意外でした…。

 ──戻ってきた桂城慧太郎…彼は、ラージャーラにおいて顔と肉体を変貌させた…!!」

 奇妙な沈黙…そう形容するしかない空白の時はたっぷり1分間は続いた。

「…疑やあキリはねえが、あえてネタ元は問わねえ…。

 それでの去就はどうなったんだ?」

「牧場からの連絡を受けた聖団本部がすぐに動き、身柄を確保したようですね…」

「…だが、二代目はアメリカ人女性だよな?」

「ええ、カレン=クリストファー女史ですね。

 彼女は真田が帰還するとほぼ同時に召喚されました…」

「……」

 そして5年前、いかなる理由でか地上に〈送還〉されていた二代目聖団長は謎の事故死を遂げ、異世界ラージャーラにおける指揮系統の頂点として六天巫蝶が発足し…さらに1年ほど前から、にわかに“三代目誕生”の機運が生まれ…そして…」

「──絆獣聖団はまるで別組織に変わっちまったってか…。

 だが、何でその二つの事象がリンクしちまったんだろうな?

 三代目候補が桂城の…いや、真田の息子か孫かってんなら、時彦がソイツにテメエの〈危険思想〉を吹き込んだってことになるよなあ…?」

 されどようやく立ち上がった宗 星愁は肯定しようとせず、静かに光城玄矢の深く窪んだ双眸を見上げた。

「まさか、おまえ…!

 …!?」
 




 

 


 





 










 

 
 






 

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