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第四章 【覇闘】直前狂騒曲
錬装者煉獄篇⑦二つの悲劇と想定外着信
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外の二人からの報告に動揺しまくりの剛駕嶽仁の傍らで冬河黎輔はある意味それ以上の衝撃を受けていた。
気の利かない先輩は当然ながらスピーカーボタンなど押してくれてはいなかったが、唾を飛ばしまくりながらの返答を聞いているだけで大意は摑める。
小型絆獣軍団の全滅──この大事件の犯人を、敬愛する兄貴分と盟友は聖団員と目星を付け、ノーリスペクトの巨漢は本日の対戦相手(光城一族)と断定した…そして彼自身の見立ては当然前者に傾き…かけはしたものの、皆が忘れている“第三の男”に着目せざるを得なかった。
『…動機という部分でいやあ、貞昌さんも結構濃厚なんじゃね?
だってあのヒト、本来の夢は動物病院を開くことでその資金稼ぎのために親父の甘言に乗ったのに、毎日薄給でコキ使われて話が全然違うって顔を合わせるたびにボヤいてたもんなあ…。
しかも押し付けられたのがこの三次元世界の動物とは縁もゆかりも無い異世界起源の凶暴さMAXのヤバい戦闘生物…そしてとうとう極悪なハンゾウによってヒドい目に遭わされちまった…!
──あっ、そういやあのクソ猿も殺られたのかッ!?
だとしたら万々歳だが…ちきしょう、恭くんに確認すりゃよかった…。
だがまあいずれにせよ、貞昌さんが犯人なら頑張ったもんだよなあ…!
まだ傷も完治しちゃいないだろうに…。
でも一体どんな手段を使ったんだろ?…まず、絆獣どものアブねえ爪と牙を防ぐのに鉄板でも仕込んだ防護服が必要だよな…たしかにガタイは結構いい上に山登りが趣味とかで体力にも自信はあるとか言ってたけど、そんな重装備を背負って例えば刃物類を凶器にあのすばしこい連中を仕留め切れるもんか?
…となると、あの食い意地の張ったケダモノどもの好物(果物)に毒か眠り薬を仕込んで…?』
「チッ、切りやがった!
恭作、たかだか弱メン相手に連勝したからって調子に乗ってやがるな…。
ツネさんも常々言ってたが、那崎父子はどーもオレたち岡山県民を見下してるとこがあるな…、
大体なあ、湘南の海でサーフィンやったことがあるってのがそんなに偉えことなのかよ、ええッ!?
まあ、天響神もそーゆーイケ好かねえ部分を矯正すべくアイツを〈召喚〉するんだろうぜッ!
ぜひとも地獄の戦場でその歪んだ性根を叩き直してもらうんだなッッ!!」
一方的に電話を切られた〈備前の覇王〉は、顔面を紅潮させつつ意に沿わぬ後輩に渾身の呪詛を叩きつけた。
『…恭くんや親父さんがサーフィン?
そんなの聞いたこともないぜ、二人とも釣りは好きでしょっちゅう行くって言ってたけど…オレも誘われてんだけど最近何かと慌ただしいからなあ…でも、彼も出征が決まっちゃったし、道具は貸してくれるって言ってたから思い出づくりに今度持ちかけてみようかな…。
妹の弓葉ちゃんも来てくれりゃサイコーなんだけど、さすがにこれはムリか…。
まあとにかく、一つだけ言えることはこの嶽仁の言うことはほとんど信用できねえってこと…。
大体、あの〈完璧美女〉のりさらさんが星さんを売ったってのもどーせ惨めなジェラシーで得意の(被害)妄想を暴走させた挙句にひねり出した誹謗中傷の類だろ…。
百歩譲ってあの女性が星さんに疑いを抱いたとしても密告なんていう陰険な手段を使う訳がない…必ず真正面から本人と向き合って真相を究明し、自分がやれることは全てやり尽くした上ではじめて本部の指示を仰ぐはずだ…。
──あっ、分かったぞ!
例の神田口さん、そりゃたまにはホントの情報も喋ってたんだろうが、基本的にはテキトーに嶽さんをイジることでストレス解消してたに違いねえッ!
何しろ自分に対して完全にメロメロになっちまってるんだから、何を言ったって全部真に受けちまうんだもん、そりゃ面白いよなあ…止められないはずだよ…。
ああ、哀しき備前の覇王ちゃんよ、結局のところ、アンタは性悪人妻の可愛くない夜のマスコットでしかなかったって訳だ…』
未だ興奮冷めやらず、憤懣やる方なしといった表情の剛駕嶽仁は眼前の”ただ一人の話し相手“に向かって吐き出すべき言葉を模索しているようであったが、片言隻語も耳に入れたくない少年錬装者は先手を打って立ち上がった。
「…今思い出したんですけど、そういやボク、昨晩ハンゾウに部屋を占拠されちまって星さんとこで夜を明かしたんですよね…だから多分メチャクチャに荒らされちまってると思うんですよ…。
スゲー気になるんでちょっと見てきますわ…時間はまだあるんでついでに軽く片付けてきます」
されど緊張感が臨界点に達している覇王は孤独に耐えられないものと見え、剛毛が密生する褐色の太い腕を伸ばして後輩の白い手首を摑もうとするが、黎輔は覇闘本番でも不可能だろうと自分でも感心するほどの素早さでスウェーしてそれを回避した。
「じゃあ、9時半までには戻りますからッ」
踵を返すと同時にダッシュし、実に半日ぶりに帰室した彼を、おそるべき惨劇が待ち受けていたのである…。
──予想通り開けっ放しとなっていた扉の向こうに広がる光景は一見、何らの異変もなき日常そのものと思われた。
「…あまりに気分悪くてシャワー浴びた直後にゃ戻る気にもなれんかったが、思ったよりキレイだな…あれ?でも何か臭えぞ…?
もしやアイツ…だとしたら、最悪の予感が的中したことになるが…!?」
おそるおそる室内に踏み込んた冬河探偵…だが室内に漂う鼻孔に突き刺さるかのごとき臭気の発生源は容易に発見できなかった…。
そして、それより先におそるべき悲劇が彼を打ちのめしたのである!
昨晩、侵入者の魂を鷲摑みにしていた秘蔵のSILKY⚔BLADESのライブDVD…週3回の運送倉庫における食品仕分けの夜間バイトによって贖った〈宝物〉が真っ二つに割られて50インチTVの手前に打ち捨てられているではないか!?
「や…やりやがったなあのクソ猿めッッ!!
だ、だが天罰覿面、テメエもブッ殺されてもうこの世にいねえんだろッ!?
ザマー見やがれっ!この糞外道がッッ!!
テメーなんざなあ、地獄の鬼相手に永遠に覇闘やってりゃいいんだよッッ!!!」
──されど、その時黎輔の目の端に“第二の悲劇”の全貌が明らかとなった!
何と、今は亡き極悪絆獣は宿敵に恐るべき〈置き土産〉を残していた…あろうことか、板壁に寄せて敷いた薄い夏布団、その枕にたんまりと脱糞していたのである!
「ぬ、ぬおおおおおおッ!
あ、あのクソッたれがあああッッ!!!
ゆ、許せねえッ!…た、たとえもうくたばっていようが…そ、そしてどんなザンコクな殺され方をしていようとも、だ、断じてなッ!!」
──およそ15分後。
丸めたティッシュを鼻孔に詰め、さらにその上からタオルを巻いて即席の〈防毒マスク〉とし、シンクの薄いゴム手袋を2枚重ねで装着してから文字通り半泣きになりつつやっとの思いで“危険物処理”を終えた時を見計らったかのように、尻ポケットからシルブレストの魂を鼓舞せずにはおかぬ勇壮なメロディーが響き渡った。
『──ちっ、誰だよ?
これから最悪の気分を立て直すために星さんの部屋で、万一を考えてシンク下の棚の奥に厳重に秘匿していた【桂城聖蘭写真集】を堪能する予定なのによ…!』
よほどの相手(たとえば聖蘭様!)でもない限り、直ちにブチ切ってやろうと荒々しくスマホを取り出した彼の目を想定外の五文字が撃ち抜いた!
「なっ、何いぃッ!?
か…神田口礼奈だとッ!!??
い、一体どーゆーことだぁッッ!?!?」
気の利かない先輩は当然ながらスピーカーボタンなど押してくれてはいなかったが、唾を飛ばしまくりながらの返答を聞いているだけで大意は摑める。
小型絆獣軍団の全滅──この大事件の犯人を、敬愛する兄貴分と盟友は聖団員と目星を付け、ノーリスペクトの巨漢は本日の対戦相手(光城一族)と断定した…そして彼自身の見立ては当然前者に傾き…かけはしたものの、皆が忘れている“第三の男”に着目せざるを得なかった。
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だってあのヒト、本来の夢は動物病院を開くことでその資金稼ぎのために親父の甘言に乗ったのに、毎日薄給でコキ使われて話が全然違うって顔を合わせるたびにボヤいてたもんなあ…。
しかも押し付けられたのがこの三次元世界の動物とは縁もゆかりも無い異世界起源の凶暴さMAXのヤバい戦闘生物…そしてとうとう極悪なハンゾウによってヒドい目に遭わされちまった…!
──あっ、そういやあのクソ猿も殺られたのかッ!?
だとしたら万々歳だが…ちきしょう、恭くんに確認すりゃよかった…。
だがまあいずれにせよ、貞昌さんが犯人なら頑張ったもんだよなあ…!
まだ傷も完治しちゃいないだろうに…。
でも一体どんな手段を使ったんだろ?…まず、絆獣どものアブねえ爪と牙を防ぐのに鉄板でも仕込んだ防護服が必要だよな…たしかにガタイは結構いい上に山登りが趣味とかで体力にも自信はあるとか言ってたけど、そんな重装備を背負って例えば刃物類を凶器にあのすばしこい連中を仕留め切れるもんか?
…となると、あの食い意地の張ったケダモノどもの好物(果物)に毒か眠り薬を仕込んで…?』
「チッ、切りやがった!
恭作、たかだか弱メン相手に連勝したからって調子に乗ってやがるな…。
ツネさんも常々言ってたが、那崎父子はどーもオレたち岡山県民を見下してるとこがあるな…、
大体なあ、湘南の海でサーフィンやったことがあるってのがそんなに偉えことなのかよ、ええッ!?
まあ、天響神もそーゆーイケ好かねえ部分を矯正すべくアイツを〈召喚〉するんだろうぜッ!
ぜひとも地獄の戦場でその歪んだ性根を叩き直してもらうんだなッッ!!」
一方的に電話を切られた〈備前の覇王〉は、顔面を紅潮させつつ意に沿わぬ後輩に渾身の呪詛を叩きつけた。
『…恭くんや親父さんがサーフィン?
そんなの聞いたこともないぜ、二人とも釣りは好きでしょっちゅう行くって言ってたけど…オレも誘われてんだけど最近何かと慌ただしいからなあ…でも、彼も出征が決まっちゃったし、道具は貸してくれるって言ってたから思い出づくりに今度持ちかけてみようかな…。
妹の弓葉ちゃんも来てくれりゃサイコーなんだけど、さすがにこれはムリか…。
まあとにかく、一つだけ言えることはこの嶽仁の言うことはほとんど信用できねえってこと…。
大体、あの〈完璧美女〉のりさらさんが星さんを売ったってのもどーせ惨めなジェラシーで得意の(被害)妄想を暴走させた挙句にひねり出した誹謗中傷の類だろ…。
百歩譲ってあの女性が星さんに疑いを抱いたとしても密告なんていう陰険な手段を使う訳がない…必ず真正面から本人と向き合って真相を究明し、自分がやれることは全てやり尽くした上ではじめて本部の指示を仰ぐはずだ…。
──あっ、分かったぞ!
例の神田口さん、そりゃたまにはホントの情報も喋ってたんだろうが、基本的にはテキトーに嶽さんをイジることでストレス解消してたに違いねえッ!
何しろ自分に対して完全にメロメロになっちまってるんだから、何を言ったって全部真に受けちまうんだもん、そりゃ面白いよなあ…止められないはずだよ…。
ああ、哀しき備前の覇王ちゃんよ、結局のところ、アンタは性悪人妻の可愛くない夜のマスコットでしかなかったって訳だ…』
未だ興奮冷めやらず、憤懣やる方なしといった表情の剛駕嶽仁は眼前の”ただ一人の話し相手“に向かって吐き出すべき言葉を模索しているようであったが、片言隻語も耳に入れたくない少年錬装者は先手を打って立ち上がった。
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されど緊張感が臨界点に達している覇王は孤独に耐えられないものと見え、剛毛が密生する褐色の太い腕を伸ばして後輩の白い手首を摑もうとするが、黎輔は覇闘本番でも不可能だろうと自分でも感心するほどの素早さでスウェーしてそれを回避した。
「じゃあ、9時半までには戻りますからッ」
踵を返すと同時にダッシュし、実に半日ぶりに帰室した彼を、おそるべき惨劇が待ち受けていたのである…。
──予想通り開けっ放しとなっていた扉の向こうに広がる光景は一見、何らの異変もなき日常そのものと思われた。
「…あまりに気分悪くてシャワー浴びた直後にゃ戻る気にもなれんかったが、思ったよりキレイだな…あれ?でも何か臭えぞ…?
もしやアイツ…だとしたら、最悪の予感が的中したことになるが…!?」
おそるおそる室内に踏み込んた冬河探偵…だが室内に漂う鼻孔に突き刺さるかのごとき臭気の発生源は容易に発見できなかった…。
そして、それより先におそるべき悲劇が彼を打ちのめしたのである!
昨晩、侵入者の魂を鷲摑みにしていた秘蔵のSILKY⚔BLADESのライブDVD…週3回の運送倉庫における食品仕分けの夜間バイトによって贖った〈宝物〉が真っ二つに割られて50インチTVの手前に打ち捨てられているではないか!?
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──されど、その時黎輔の目の端に“第二の悲劇”の全貌が明らかとなった!
何と、今は亡き極悪絆獣は宿敵に恐るべき〈置き土産〉を残していた…あろうことか、板壁に寄せて敷いた薄い夏布団、その枕にたんまりと脱糞していたのである!
「ぬ、ぬおおおおおおッ!
あ、あのクソッたれがあああッッ!!!
ゆ、許せねえッ!…た、たとえもうくたばっていようが…そ、そしてどんなザンコクな殺され方をしていようとも、だ、断じてなッ!!」
──およそ15分後。
丸めたティッシュを鼻孔に詰め、さらにその上からタオルを巻いて即席の〈防毒マスク〉とし、シンクの薄いゴム手袋を2枚重ねで装着してから文字通り半泣きになりつつやっとの思いで“危険物処理”を終えた時を見計らったかのように、尻ポケットからシルブレストの魂を鼓舞せずにはおかぬ勇壮なメロディーが響き渡った。
『──ちっ、誰だよ?
これから最悪の気分を立て直すために星さんの部屋で、万一を考えてシンク下の棚の奥に厳重に秘匿していた【桂城聖蘭写真集】を堪能する予定なのによ…!』
よほどの相手(たとえば聖蘭様!)でもない限り、直ちにブチ切ってやろうと荒々しくスマホを取り出した彼の目を想定外の五文字が撃ち抜いた!
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