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第四章 【覇闘】直前狂騒曲
錬装者煉獄篇⑥哀しき逃亡志願者
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AM8:05──そろそろ凶暴な気温上昇が本格化し、耳を聾する蝉たちの大合唱の中、宗 星愁と那崎恭作が多難な一日になりそうな今日という日に思いを馳せていると、恭作のスマホがいきなりアップテンポの軽快な音の乱舞を開始する。
「ハチャトゥリアンの『剣の舞』か…いい趣味してるな…悪いがスピーカーにしてくれるか?」
感心する先輩に恭作が照れ笑いしつつ頷き、辛うじて爽やかだった森の大気は剛駕嶽仁の喚き声によって2時間早く熱帯化した。
「──おい、一体研究所の状況はどうなってんだ!?
まさか、“未知の異次元ウィルス”による伝染病でも発生してんじゃねえだろうなッ!?
もしそんなことにでもなってみろ、これまで何とか歴史の闇に紛れることに成功してきた絆獣聖団は一気に表舞台に引きずり出され、全世界から糾弾されることになるぜッ!
そうなったら、オレたちはチャチな妖帝星軍なんかとは次元が違う各国軍隊の最新兵器による猛火に曝されることになっちまうんだぜッ!
聞いてんのか、おい!?
さっさと報告しやが…」
「あの大バカ野郎、朝っぱらから何を錯乱してやがるんだ…」
早くも堪忍袋の緖を切った星愁が呟きながら応戦すべく白いスマホに身を乗り出すが、それを制しつつ若き天才錬装者が穏やかに応じる。
「実は今そちらに連絡しようと思っていたところなんですよ…。
剛駕先輩、覇闘を控えて闘争心を昂らせておられるのはお察ししますが、一旦冷静になって聞いて下さい…。
研究所が何者かに襲撃されて、小型絆獣が全滅しています…!」
「な、何いぃッッ?!
こ…光城の奴ら、覇闘の前にテロを仕掛けてきやがったのかッ!?
な、何て卑怯な連中なんだッ!!
そ、そういや昨日の電話でも、向こうの大将…玄矢とかいったか、あの野郎がオレにビビりまくってるのはハッキリ伝わってきたからな!
しかしそれにしてもこんな形で奇襲を掛けてきやがるとは…全く迂闊だった!」
このあまりにも予想通りの反応に太いため息を吐いてガックリと首を垂れる星愁であったが、恭作は挫けることなく会話を続行する。
「お言葉ですが…宗先輩とボクの見解では、犯人はどうやら絆獣聖団員…しかも錬装者であると思われます…」
一瞬の沈黙の後、前にもまして凄まじいがなり声が轟いたが、その破滅的な音響は何も知らぬ蝉たちをも一時的に沈黙せしめるほどであった!
「きょ、恭作、おまえ正気かッ!?
い、一体どういう理由で聖団がオレたちを攻撃するっていうんだよッ!?
い、いいか、おまえこそ落ち着けよ?
たしかにだなあ、異世界への出征という、おまえの一生を文字通り左右する一大試練を前にして精神が不安定になっているのは分かる…だがな、それとこれとは話が違うぞ!
つ、つまりだな、いくら人生経験の浅い若輩者だからって、口にしていいことと悪いことはキチンと弁えるべきだってことよ!
まあ何にせよ、このトンデモない失言を耳にしたのがオレたち中国支部の身内だけでよかった…。
と、とにかくオレの見立てだと、妖帝星軍は今日、姿を現すことはないと思うぜ…つまり、恥ずべき〈敵前逃亡〉ってヤツだ!
真正面からじゃ勝てねえと分かってるからこそ、こんな卑劣な手口でせめて一矢を報いようとしたに違いねえよッ!!
もうすぐツネさんも戻ってくるだろう、そしたらすぐ本部に通報してもらわにゃならんなッ!
──全く呆れてモノも言えねえ…というより何で昨日の段階で気付けなかったんだ、あれだけ今にもションベン漏らしそうな震え声を耳にすりゃあ、この事態は当然予想できたはずじゃねえかッ!?」
「気の毒に…嶽の奴、“最強妖帝”の光城玄矢に心底怯えてるんだな…」
地面に向かって放たれた支部最強錬装者の核心を射抜く呟きは、幸いにも相手の耳に入ることはなかったようであった…。
聡明な後輩もひとまずここでピントの外れた会話を打ち切るべきと判断したらしく、「どうしますか?」と超小声でお伺いを立て、先輩は顔を伏せたまま答えた。
「…まだ開始まで2時間近くある。
二人の集中力を乱さないため、一足先に【誓覇闘地】に潜って装置関連の点検をやっておくが、10時前には戻ると伝えておいてくれ…」
頷いた恭作はその旨を伝えるが、既に逃走モードの〈備前の覇王〉は猛然たる反論を返す…されど〈十年に一人の逸材〉は「それでは、後ほど」と無情に通話を打ち切った。
「…どう考えてもヤバいですね、今日の覇闘…」
夏草に目を落としながらの悲壮感溢れる後輩の呟きに、傍らで俯く先輩は諦念に満ちた返事を返した。
「下手したら、剛駕嶽仁って錬装者…いや人間の寿命は今日で尽き果てることになる…。
しかも、掛け値なしの“史上最大の危機”に見舞われたまさにこの時、これも史上初の救護態勢抜きときた…。
今にして思やあ、支部の命運を決するといっても過言ではない最大の難敵の相手に不可解なほど強硬な態度で嶽を指名したのは、本部がどれほど本気でウチを潰しにかかってるかを明白に予言してたんだな…」
「ハチャトゥリアンの『剣の舞』か…いい趣味してるな…悪いがスピーカーにしてくれるか?」
感心する先輩に恭作が照れ笑いしつつ頷き、辛うじて爽やかだった森の大気は剛駕嶽仁の喚き声によって2時間早く熱帯化した。
「──おい、一体研究所の状況はどうなってんだ!?
まさか、“未知の異次元ウィルス”による伝染病でも発生してんじゃねえだろうなッ!?
もしそんなことにでもなってみろ、これまで何とか歴史の闇に紛れることに成功してきた絆獣聖団は一気に表舞台に引きずり出され、全世界から糾弾されることになるぜッ!
そうなったら、オレたちはチャチな妖帝星軍なんかとは次元が違う各国軍隊の最新兵器による猛火に曝されることになっちまうんだぜッ!
聞いてんのか、おい!?
さっさと報告しやが…」
「あの大バカ野郎、朝っぱらから何を錯乱してやがるんだ…」
早くも堪忍袋の緖を切った星愁が呟きながら応戦すべく白いスマホに身を乗り出すが、それを制しつつ若き天才錬装者が穏やかに応じる。
「実は今そちらに連絡しようと思っていたところなんですよ…。
剛駕先輩、覇闘を控えて闘争心を昂らせておられるのはお察ししますが、一旦冷静になって聞いて下さい…。
研究所が何者かに襲撃されて、小型絆獣が全滅しています…!」
「な、何いぃッッ?!
こ…光城の奴ら、覇闘の前にテロを仕掛けてきやがったのかッ!?
な、何て卑怯な連中なんだッ!!
そ、そういや昨日の電話でも、向こうの大将…玄矢とかいったか、あの野郎がオレにビビりまくってるのはハッキリ伝わってきたからな!
しかしそれにしてもこんな形で奇襲を掛けてきやがるとは…全く迂闊だった!」
このあまりにも予想通りの反応に太いため息を吐いてガックリと首を垂れる星愁であったが、恭作は挫けることなく会話を続行する。
「お言葉ですが…宗先輩とボクの見解では、犯人はどうやら絆獣聖団員…しかも錬装者であると思われます…」
一瞬の沈黙の後、前にもまして凄まじいがなり声が轟いたが、その破滅的な音響は何も知らぬ蝉たちをも一時的に沈黙せしめるほどであった!
「きょ、恭作、おまえ正気かッ!?
い、一体どういう理由で聖団がオレたちを攻撃するっていうんだよッ!?
い、いいか、おまえこそ落ち着けよ?
たしかにだなあ、異世界への出征という、おまえの一生を文字通り左右する一大試練を前にして精神が不安定になっているのは分かる…だがな、それとこれとは話が違うぞ!
つ、つまりだな、いくら人生経験の浅い若輩者だからって、口にしていいことと悪いことはキチンと弁えるべきだってことよ!
まあ何にせよ、このトンデモない失言を耳にしたのがオレたち中国支部の身内だけでよかった…。
と、とにかくオレの見立てだと、妖帝星軍は今日、姿を現すことはないと思うぜ…つまり、恥ずべき〈敵前逃亡〉ってヤツだ!
真正面からじゃ勝てねえと分かってるからこそ、こんな卑劣な手口でせめて一矢を報いようとしたに違いねえよッ!!
もうすぐツネさんも戻ってくるだろう、そしたらすぐ本部に通報してもらわにゃならんなッ!
──全く呆れてモノも言えねえ…というより何で昨日の段階で気付けなかったんだ、あれだけ今にもションベン漏らしそうな震え声を耳にすりゃあ、この事態は当然予想できたはずじゃねえかッ!?」
「気の毒に…嶽の奴、“最強妖帝”の光城玄矢に心底怯えてるんだな…」
地面に向かって放たれた支部最強錬装者の核心を射抜く呟きは、幸いにも相手の耳に入ることはなかったようであった…。
聡明な後輩もひとまずここでピントの外れた会話を打ち切るべきと判断したらしく、「どうしますか?」と超小声でお伺いを立て、先輩は顔を伏せたまま答えた。
「…まだ開始まで2時間近くある。
二人の集中力を乱さないため、一足先に【誓覇闘地】に潜って装置関連の点検をやっておくが、10時前には戻ると伝えておいてくれ…」
頷いた恭作はその旨を伝えるが、既に逃走モードの〈備前の覇王〉は猛然たる反論を返す…されど〈十年に一人の逸材〉は「それでは、後ほど」と無情に通話を打ち切った。
「…どう考えてもヤバいですね、今日の覇闘…」
夏草に目を落としながらの悲壮感溢れる後輩の呟きに、傍らで俯く先輩は諦念に満ちた返事を返した。
「下手したら、剛駕嶽仁って錬装者…いや人間の寿命は今日で尽き果てることになる…。
しかも、掛け値なしの“史上最大の危機”に見舞われたまさにこの時、これも史上初の救護態勢抜きときた…。
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