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明希子と行信の話
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「お母さんのことも…わかってるから…」
「明希子…」
父親は泣き崩れて、それ以上話ができなかった。
外の連中が公務執行妨害とやらで警察署に連行されることになって、俺と明希子は病院にまず行くことになった。
明希子の頬の殴られた痕について、医師に診察してもらいましょうと言われた。
パトカーで送迎してもらうなんざ、人生で初のことだった。
その道すがら、明希子が語ったところによると…
父親と母親は大学からの恋愛結婚だったんだが、それが父親の実家のじいさんとばあさんには気に入らなかったということだ。
まず母親が地元の人間じゃない。
おまけに明希子の父親は、進学先で勝手に就職してしまった。
そして明希子が大きくなると、勝手に家まで建てた。
父親の実家は総本家で、父親は跡取りだった。
その父親が自分たちの言うことを聞かないものだから、明希子の母に対する嫁いびりは壮絶なものだったそうだ。
母親が男を作って出ていったとかいうのは、ばあさんやじいさんがついた嘘だった。
月に1、2回は上京して来ては嫁いびりをされて、そうじゃなければ毎日電話攻撃。
明希子の母親は神経を病んでしまったそうだ。
ある日ふらりと出ていって、そのまま戻ってこなかった。
行方不明の届けは出したが見つからないそうだ。
それをじいさんとばあさんは、他に男がいると決めつけた。
早々に離婚させて、明希子の父親には言うことを聞く嫁をあてがいたかったらしいが、蒸発しているからその手続も遅々として進まない。
おまけにやっと孫娘と地元に戻ってきたと思ったら、酒浸りで全く家の役に立たなくなっていた。
「…だから、焦ったおじいちゃんとおばあちゃんは、私のこと結婚させて産ませた子に本家を継がせるって…」
「あんだそりゃ…よしんば産まれたとして、そいつが成人する頃じいさんもばあさんも生きてねえだろ」
そう言うと明希子は笑った。
泣きながら、笑った。
「…そうだよね。そうなんだよね。でも、あの人達はいつまでも生きるつもりだったみたいだよ…」
ゾンビかよ…吸血鬼かよ…怖えなあ…
「そんなこともわからないんだよ…あのひとたち…殴れば言うこと聞くって思ってるし…」
やっぱり殴っていたのは、じいさんとばあさんだったか…
父親だと誤解していた。
あの分なら…父親も殴られて育てられていたんだろうな。
明希子の頭を引き寄せて、ポンポンと撫でるとまた泣き笑い。
「それに、私の顔がお母さんに似てたから…憎かったんだと思う…だから私なんてどうなってもいいって思ってたんじゃないかな…」
「なんだそりゃ…ほんと、俺には訳がわからねえ」
「ふふ…そうだよね。行信くんには、わからないよね…あんな人たちのこと…」
助手席の女性警官が、明希子にティッシュを差し出してくれた。
「ありがとうございます…」
それからの警官たちの対応は丁重なものになった。
じいさんは明希子に対する傷害容疑。
ばあさんと高木の白豚は公務執行妨害でそれぞれ署で取り調べを受けた。
俺も結構な回数、呼び出されて話を聞かれた。
ついでにうちの親父とお袋も署に呼び出されて、年末のことを証言したりした。
その間、明希子がどこにいるかはわからなかった。
たまに電話連絡が入っても、どこにいるかは明かせないということだった。
しばらくすると、児相の職員やら何やらを伴って明希子の父親の代理人を名乗る弁護士が家にやってきた。
なんと…
春田家に、明希子の身柄を預かって欲しいということだった。
もちろん、うちさえ迷惑じゃなければ、と言う。
父親は自分の親の罪が確定次第、アル中の治療をしながら親を民事で訴えるそうだ。
どういう名目で訴えるかは弁護士は教えてくれなかった。
もうこんな泥沼に明希子を関わらせたくないのと、それから自分の身近にいないほうがいいという判断でうちに依頼が来た。
近い親族は関わり合うのを拒否したということだ。
というより、もうそれどころじゃないらしい。
父親の実家の集落は天と地をひっくり返したような騒ぎになっている。
あの高木とかいう白豚の家も結構な家柄だったらしく、一触即発の状態だということだ。
そしてなにより、明希子が春田家に来ることを希望しているということだった。
うちは、喜んでそれを引き受けた。
以前、児相にも明希子を引き取りたいと言う話をしていたので、話はスムーズに進んでいった。
「明希子…」
父親は泣き崩れて、それ以上話ができなかった。
外の連中が公務執行妨害とやらで警察署に連行されることになって、俺と明希子は病院にまず行くことになった。
明希子の頬の殴られた痕について、医師に診察してもらいましょうと言われた。
パトカーで送迎してもらうなんざ、人生で初のことだった。
その道すがら、明希子が語ったところによると…
父親と母親は大学からの恋愛結婚だったんだが、それが父親の実家のじいさんとばあさんには気に入らなかったということだ。
まず母親が地元の人間じゃない。
おまけに明希子の父親は、進学先で勝手に就職してしまった。
そして明希子が大きくなると、勝手に家まで建てた。
父親の実家は総本家で、父親は跡取りだった。
その父親が自分たちの言うことを聞かないものだから、明希子の母に対する嫁いびりは壮絶なものだったそうだ。
母親が男を作って出ていったとかいうのは、ばあさんやじいさんがついた嘘だった。
月に1、2回は上京して来ては嫁いびりをされて、そうじゃなければ毎日電話攻撃。
明希子の母親は神経を病んでしまったそうだ。
ある日ふらりと出ていって、そのまま戻ってこなかった。
行方不明の届けは出したが見つからないそうだ。
それをじいさんとばあさんは、他に男がいると決めつけた。
早々に離婚させて、明希子の父親には言うことを聞く嫁をあてがいたかったらしいが、蒸発しているからその手続も遅々として進まない。
おまけにやっと孫娘と地元に戻ってきたと思ったら、酒浸りで全く家の役に立たなくなっていた。
「…だから、焦ったおじいちゃんとおばあちゃんは、私のこと結婚させて産ませた子に本家を継がせるって…」
「あんだそりゃ…よしんば産まれたとして、そいつが成人する頃じいさんもばあさんも生きてねえだろ」
そう言うと明希子は笑った。
泣きながら、笑った。
「…そうだよね。そうなんだよね。でも、あの人達はいつまでも生きるつもりだったみたいだよ…」
ゾンビかよ…吸血鬼かよ…怖えなあ…
「そんなこともわからないんだよ…あのひとたち…殴れば言うこと聞くって思ってるし…」
やっぱり殴っていたのは、じいさんとばあさんだったか…
父親だと誤解していた。
あの分なら…父親も殴られて育てられていたんだろうな。
明希子の頭を引き寄せて、ポンポンと撫でるとまた泣き笑い。
「それに、私の顔がお母さんに似てたから…憎かったんだと思う…だから私なんてどうなってもいいって思ってたんじゃないかな…」
「なんだそりゃ…ほんと、俺には訳がわからねえ」
「ふふ…そうだよね。行信くんには、わからないよね…あんな人たちのこと…」
助手席の女性警官が、明希子にティッシュを差し出してくれた。
「ありがとうございます…」
それからの警官たちの対応は丁重なものになった。
じいさんは明希子に対する傷害容疑。
ばあさんと高木の白豚は公務執行妨害でそれぞれ署で取り調べを受けた。
俺も結構な回数、呼び出されて話を聞かれた。
ついでにうちの親父とお袋も署に呼び出されて、年末のことを証言したりした。
その間、明希子がどこにいるかはわからなかった。
たまに電話連絡が入っても、どこにいるかは明かせないということだった。
しばらくすると、児相の職員やら何やらを伴って明希子の父親の代理人を名乗る弁護士が家にやってきた。
なんと…
春田家に、明希子の身柄を預かって欲しいということだった。
もちろん、うちさえ迷惑じゃなければ、と言う。
父親は自分の親の罪が確定次第、アル中の治療をしながら親を民事で訴えるそうだ。
どういう名目で訴えるかは弁護士は教えてくれなかった。
もうこんな泥沼に明希子を関わらせたくないのと、それから自分の身近にいないほうがいいという判断でうちに依頼が来た。
近い親族は関わり合うのを拒否したということだ。
というより、もうそれどころじゃないらしい。
父親の実家の集落は天と地をひっくり返したような騒ぎになっている。
あの高木とかいう白豚の家も結構な家柄だったらしく、一触即発の状態だということだ。
そしてなにより、明希子が春田家に来ることを希望しているということだった。
うちは、喜んでそれを引き受けた。
以前、児相にも明希子を引き取りたいと言う話をしていたので、話はスムーズに進んでいった。
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