海鳴り

野瀬 さと

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父、あけぼの荘に帰還す。

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食べ終わって、半分寝たままのちびの世話を直也なおやと一緒にやって、幼稚園に送り出す。

「お父さん、ちびたちを連れて行って?ついでに幼稚園の先生にも挨拶してきてね?」
「ああ。わかった」

幼稚園は、目と鼻の先にある。
以前は保育所に通わせていたが、この春に近所に幼稚園ができたから転園させたということだ。

準備のできたちびどもと手を繋いで家を出た。

「いってきまーす!なーあんちゃん!」
「直あんちゃん!いってくるー!」

玄関の前で見送る直也に、いつまで経ってもちびたちは手を振る。

「いってらっしゃーい!海人かいと陸人りくと!」

ぶんぶんと手を振る直也の姿に、明希子あきこの姿が重なった。

じわりと、目頭が熱くなった。

「父ちゃんどうしたの?」
「とーちゃん?どっか痛いの?」
「ち、違うわ!おら、行くぞ!」

ちびたちを無事に幼稚園に放り込み、担任の中園なかぞの先生にも初めて挨拶ができた。
入園式は海の上だったからな…(つか、転園したことも知らなかったが)

悪人顔の俺にも怯むこと無く、中園先生はほんわかと笑っていた。
さすが…お若く見えるけどベテランなんだろうなあ。俺の顔くらいじゃ動じないようだ。

ふたりともとってもいい子ですって褒めてもらって。
おまけに…

「とってもよく秋津あきつさんが面倒みていらっしゃって…」

なんて言われて…なんだかケツの座りが悪い。

直也が予め電話をしておいたんだろう。
話はスムーズに終わって、俺は幼稚園を後にした。

帰り際、中園先生は門まで見送ってくれた。

「お休みの日に、直也さんと秋津さんが海人くんと陸人くんを連れて歩いているのを見たことがあるんですけどね…まるで親子みたいで…」
「はあ…」
「お母様がいらっしゃらない分、ご家族で頑張ってらして…本当に若いのに頭が下がります」
「い、いえ…そんな…」
「だから、お父さんも安心してお仕事できるんですね」

そう言って、中園先生は園に戻っていった。

「親子、か…」

トボトボと歩きながら、あの光景を思い出した。


そう、あれは…

昔の俺たちの姿──


明希子がいて、俺がいて…
そして子どもたちがいて…

とても懐かしい風景


あけぼの荘に帰ると、直也が居間で繕い物をしていた。
どうやら雑巾を作っているようだ。

「直也…」
「あ、おかえり。ちゃんと中園先生に挨拶できた?」
「む?ああ…できた」
「そう。いい先生だったでしょ?」
「ああ…そうだな」

多少不器用ではあるが、運針は止まることがない。

「なあ…直也」
「んー?」
「秋津のどこが好きなんだ?」
「痛っーーーーーー!」

突然、直也が指に針をぶっ刺した。

「な、な、何を言い出すんだよっ!」

戸棚から出した絆創膏を貼りながらも、まだ焦ってる。

「へ、変なこと言わないでよね」
「変なことでもないだろう…つきあってるんだろう?」
「う…」

真っ赤になって俯いてしまった。

「…秋津は、おまえの病気のこと、知ってるのか?」
「うん…秋津さんがここにきた時、入院したから…知ってる」
「そうか…」
「ちゃんと…説明はしたよ…?」

恐る恐る、直也は視線を上げた。

「なんでわかったの…?」

明希子にそっくりだな…
ピンチになると、顔を真っ赤にして目が潤むんだよな。

「そんなもの、見ていればわかる」
「えっ…」

手を伸ばして、ぐしゃっと直也の頭を撫でた。

「…おまえが選んだんだ。俺は反対はしねえよ」

ポロリと、思ってもない言葉が出た。

「お父さん…」

でも、泣きそうになっている直也の顔を見たら、どうでもよくなった。

孫の顔が見れないのは残念だが、直也の身体のことを考えたら、はなから期待はできなかった。
優也ゆうやが居るし、それにちびたちが居るじゃないか。

「ただし、秋津が直也を泣かせたら、俺がぶん殴るからな」
「や、やめてよ!お父さんが本気で殴ったら、秋津さん死んじゃうよ!」
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