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海鳴り
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あけぼの荘と名前の入ったワゴン車の後部座席に、直也くんを寝かせた。
「ごめん…秋津さん、直也を抱えて貰ってもいい?」
「あ、ああ…わかった」
チビたちを助手席に詰め込んで、俺は後部座席に乗り込んだ。
直也くんの身体を抱えるとぎゅっと抱きしめた。
身体の上に布団を被せると、車は走りだした。
直也くんの身体は、夢と違って熱くて。
額の汗が玉のように光って。
「直也くん…」
小さく呼びかけると、薄っすらと目を開けた。
「あれ…おかしいな…まだ夢みてる…」
そう言うと、にっこり俺に笑いかけて来た。
あの綺麗な笑み…
「直也くん…」
目を閉じた直也くんは、また意識を失った。
ぎゅっと抱きしめると、何もできない自分がもどかしくてしょうがなかった。
優也は無言で車を走らせる。
チビたちは、助手席で大人しく座ってる。
さっき来た病院の前につくと、優也が車から飛び降りていった。
すぐにストレッチャーを持った看護師さんが飛び出してきて、俺の手から直也くんを奪っていった。
それを見送っていると、堰を切ったようにチビたちがわあわあ泣き始めた。
「なーあんちゃぁぁぁん…」
「直あんちゃぁぁぁん…」
また両腕に抱えて、ストレッチャーの後を追った。
硬いタイヤの軋む音が、廊下に響く。
バタバタと普段は走ってはいけない廊下を力一杯走った。
処置室に優也と直也くんが入っていって、泣きやまないチビたちを抱えて長椅子に座っていた。
こんなに時間が経つのが遅く感じることは、最近なかった。
「秋津あんちゃん…なーあんちゃん、大丈夫かなぁ…?」
海人が親指を咥えながら、俺の膝の上で呟く。
片方の膝の上にいる陸人は、ぎゅっと俺の首根っこに抱きついたまま顔を上げない。
小さく震えている肩を抱き寄せた。
「大丈夫だよ…だから、良い子で待ってような?」
「うん…」
チビたちが泣きつかれて眠る頃、やっと優也が処置室から出てきた。
「ごめん…秋津さん…」
げっそりと優也の頬がこけていた。
「どうだ…?」
「なんとか持ち直した…」
ほっと息を吐いた。
優也も長椅子に腰掛けると、そのまま背もたれに沈んだ。
「ああ…良かったぁ…」
暫くすると、ストレッチャーが出てきて病室へ向かった。
やっぱり入院になるみたくて。
チビたちを抱えながら、後に付いて行った。
優也はとぼとぼ俺の後ろを歩いていた。
ぐんっと急に後ろに引っ張られた。
振り向くと、優也が俺のシャツの裾を掴んで泣きそうな顔をしてた。
「ありがと…秋津さん…」
直也くんの病室を確認すると、一旦、あけぼの荘に戻る。
海水でべとべとする身体を洗い流した。
さっとシャワーをして上がると、優也と交代した。
食堂に敷いた布団には、チビたちが眠っている。
俺はチビたちの布団の横に、身体を伸ばした。
泣きつかれて眠るふたりの顔は、まだ不安げで。
ぐしゃっとふたりの髪を撫でた。
優也がシャワーから上がってくると、食堂で座り込んだ。
「秋津さん…ごめんね…」
「え?」
「だって、こんな迷惑かけて…」
「迷惑だなんて…俺のほうが…」
そうだぞ?俺、海に自分で落ちたんだぞ?
あんなに漁師のおっちゃんたちにケチョンケチョンに怒られてたんだぞ?
「だって、秋津さんが居なかったらどうなってたか…」
「え…」
「チビたちをどうしていいか、わからなかった…ありがとう…」
「優也…」
「居てくれて、良かった…」
そう言うと、俯いてはらはらと涙を零した。
「俺…直也が居なかったら、一人でどうしていいか…」
肩が震えてる…
「ば、ばかだな…」
起き上がって、優也の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ありがとう…秋津さん…」
下を向いたままの優也の頭をずっと撫でた。
鼻を啜る音が聞こえなくなった頃、やっと優也は顔を上げた。
「秋津さん、ずっとここに居ない…?」
「ごめん…秋津さん、直也を抱えて貰ってもいい?」
「あ、ああ…わかった」
チビたちを助手席に詰め込んで、俺は後部座席に乗り込んだ。
直也くんの身体を抱えるとぎゅっと抱きしめた。
身体の上に布団を被せると、車は走りだした。
直也くんの身体は、夢と違って熱くて。
額の汗が玉のように光って。
「直也くん…」
小さく呼びかけると、薄っすらと目を開けた。
「あれ…おかしいな…まだ夢みてる…」
そう言うと、にっこり俺に笑いかけて来た。
あの綺麗な笑み…
「直也くん…」
目を閉じた直也くんは、また意識を失った。
ぎゅっと抱きしめると、何もできない自分がもどかしくてしょうがなかった。
優也は無言で車を走らせる。
チビたちは、助手席で大人しく座ってる。
さっき来た病院の前につくと、優也が車から飛び降りていった。
すぐにストレッチャーを持った看護師さんが飛び出してきて、俺の手から直也くんを奪っていった。
それを見送っていると、堰を切ったようにチビたちがわあわあ泣き始めた。
「なーあんちゃぁぁぁん…」
「直あんちゃぁぁぁん…」
また両腕に抱えて、ストレッチャーの後を追った。
硬いタイヤの軋む音が、廊下に響く。
バタバタと普段は走ってはいけない廊下を力一杯走った。
処置室に優也と直也くんが入っていって、泣きやまないチビたちを抱えて長椅子に座っていた。
こんなに時間が経つのが遅く感じることは、最近なかった。
「秋津あんちゃん…なーあんちゃん、大丈夫かなぁ…?」
海人が親指を咥えながら、俺の膝の上で呟く。
片方の膝の上にいる陸人は、ぎゅっと俺の首根っこに抱きついたまま顔を上げない。
小さく震えている肩を抱き寄せた。
「大丈夫だよ…だから、良い子で待ってような?」
「うん…」
チビたちが泣きつかれて眠る頃、やっと優也が処置室から出てきた。
「ごめん…秋津さん…」
げっそりと優也の頬がこけていた。
「どうだ…?」
「なんとか持ち直した…」
ほっと息を吐いた。
優也も長椅子に腰掛けると、そのまま背もたれに沈んだ。
「ああ…良かったぁ…」
暫くすると、ストレッチャーが出てきて病室へ向かった。
やっぱり入院になるみたくて。
チビたちを抱えながら、後に付いて行った。
優也はとぼとぼ俺の後ろを歩いていた。
ぐんっと急に後ろに引っ張られた。
振り向くと、優也が俺のシャツの裾を掴んで泣きそうな顔をしてた。
「ありがと…秋津さん…」
直也くんの病室を確認すると、一旦、あけぼの荘に戻る。
海水でべとべとする身体を洗い流した。
さっとシャワーをして上がると、優也と交代した。
食堂に敷いた布団には、チビたちが眠っている。
俺はチビたちの布団の横に、身体を伸ばした。
泣きつかれて眠るふたりの顔は、まだ不安げで。
ぐしゃっとふたりの髪を撫でた。
優也がシャワーから上がってくると、食堂で座り込んだ。
「秋津さん…ごめんね…」
「え?」
「だって、こんな迷惑かけて…」
「迷惑だなんて…俺のほうが…」
そうだぞ?俺、海に自分で落ちたんだぞ?
あんなに漁師のおっちゃんたちにケチョンケチョンに怒られてたんだぞ?
「だって、秋津さんが居なかったらどうなってたか…」
「え…」
「チビたちをどうしていいか、わからなかった…ありがとう…」
「優也…」
「居てくれて、良かった…」
そう言うと、俯いてはらはらと涙を零した。
「俺…直也が居なかったら、一人でどうしていいか…」
肩が震えてる…
「ば、ばかだな…」
起き上がって、優也の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ありがとう…秋津さん…」
下を向いたままの優也の頭をずっと撫でた。
鼻を啜る音が聞こえなくなった頃、やっと優也は顔を上げた。
「秋津さん、ずっとここに居ない…?」
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