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海鳴り
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しおりを挟む「…秋津さん…?」
か細い声が聞こえた。
「秋津さん…起きて…?」
頬を冷たい手が叩く。
目を開けると、まっしろな霧に覆われていた。
どこだ…?ここ…
「秋津さん…駿さん…」
俺の名前を呼んでる声…
「…駿さん…?」
安心したような声がした。
見上げると、誰か俺の頭の方に座ってる。
「誰だ…?」
「俺だよ…直也…」
「え…?」
起き上がって目を凝らすと、直也くんが座っている。
「どうしたの…?そんなとこで」
直也くんは白いパジャマを着てる。
さっき見たパジャマと同じだ。
「秋津さんこそ…どうしたの?こんなところに…」
そういえば…ここはどこなんだろう…
確か…海に…
「これは…夢なのかな…?秋津さん」
「さあな…少なくとも現実じゃないみたいだぜ…?」
霧は一向に晴れることなく、相変わらず周囲はまっしろで。
直也くんは、さっきよりも青白い顔をしていた。
「直也くん…夢の中まで具合悪いの?」
「え?顔色、悪い?」
「うん…真っ青だよ?」
「やだな…夢なのに…」
直也くんがほっぺたを押さえて、苦笑いする。
「こんなリアルな夢、ないよ」
そう言うと、回りを見渡した。
俺も一緒に回りをみたけど、相変わらずまっしろな世界が広がっているだけだ。
「ちょっと…だるいかな…」
「マッサージ、効かなかった?」
そう聞くと、嬉しそうに少し笑った。
「ううん。マッサージ、とっても気持ちよかったよ」
「そっか。なら良かった」
「ありがとう、秋津さん…」
「いいって…もう…」
直也くんが後ろに手をつく。
「夢なのに…リアルだなぁ…」
またそう呟くと、微笑んだ。
綺麗な、綺麗な笑み。
そうか。極上じゃなくて、綺麗っていうんだ。
汚いものを全て洗い流したような、そんな笑顔。
清冽すぎて、俺にはまっすぐ見ることができない。
「秋津さん…?」
そっぽを向いている俺を、不思議そうに見ている。
「どうしたの?」
そっと俺に近づくと、頬に触れた。
びっくりして直也くんの顔を見ると、恥ずかしそうに下を向いた。
「夢なのに、温かいね。秋津さん…」
「えっ…、まあ…」
「ご、ごめん。嫌だった?触られるの…」
「いや、全然!そんな事ないよ?」
だったら…俺も、直也くんの色白のほっぺたに触ってみたい。
焦ると赤くなって…ちょっとそばかすの散ってるそのほっぺたを…
そっと俺も直也くんの頬に触れた。
少し、冷たく感じた。
「駿さん……」
「直也くん…大丈夫…?」
直也くんが、消えてなくなりそうだった。
なんだか冷たくて、生きてないみたくて。
夢の中なのに、なぜか焦った。
思わず直也くんの身体を抱きしめた。
「直也くんっ…」
「…どうしたの…?駿さん…?」
「行っちゃだめだ!」
「…どこにも行かないよ…?」
直也くんは俺の身体に腕を回すと、そっと抱きしめ返した。
「ここにいるよ…?」
暫く俺たちは、そのまま抱き合っていた。
とくん…とくん…と心臓の音が聞こえる。
温かい…直也くん…
頬はあんなに冷たかったのに
人間って、温かいんだ
直也くんの手が俺の髪をそっと撫でた。
「駿さん…生きて…?」
「え…?」
「俺たち、駿さんのことが大好きだよ…」
直也くんの腕に、ぎゅっと力が入る。
「死ににきたんでしょ…?ここに」
答えられないでいると、直也くんが少し笑った。
「ずっと…皆で心配してたんだよ…?秋津さん、死にに行くんじゃないかって…」
「なんで…」
「すぐわかったよ…だって、少し前の俺みたいだもん」
「え…?」
「生きてる意味がわからなくて、迷路から出られないって顔してた」
直也くんが腕を離し、俺の顔を覗き込んでくる。
「生きて…?駿さん…」
「いやだ…」
「駿さん。お願い…」
「嫌だ…これ以上…耐えられない…」
「皆、あなたのことが好きだよ?」
「嘘だっ…」
「嘘じゃない…大好きだよ。駿さん…」
直也くんが手のひらで俺の頬を包む。
「大好き…」
直也くんが透明な笑顔で、微笑む。
そのままゆっくりと唇が近づいてきた。
思わず目を閉じたら、温かい唇が重なった。
じんわりと、そこから直也くんの熱が伝わってくる。
「夢だから…いいよね…?」
そう言うと、またキスを落とす。
キスの小さな音なのに、白い世界に響く。
「好き…駿さん…」
直也くんの唇から、次々と出てくる言葉はまるで魔法が掛かってるみたいに、俺に吸い込まれる。
「ずっと…このまま…傍にいてよ…」
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