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第二章 常磐
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そっと紫蘭は俺の胸に顔を埋めた。
「眠れそう?」
「…多分…」
「眠れなかったら言えよ?」
「だって…どうすんだよ…」
「俺、おまえが寝てる間、起きとくよ」
「なっ…何言ってんだよ!そんなことしたら湊が…」
「いいって…気にすんな…」
そっと洗いざらしの髪を撫でた。
「…ゆっくり寝な…」
「うん…ありがと…」
しばらくもぞもぞしてたけど。
疲れていたのか、こてんと紫蘭は寝てしまった。
身体があったかい。
いつの間にか紫蘭の髪に顔を埋めて俺も寝てしまった。
昼過ぎに起きたら、紫蘭はもう起きていた。
「…おはよ…」
「おはよ…」
ぐしゃっと俺の肌着に顔を埋めてしがみついてきた。
「どした…?」
「なんでもない…」
ふんわりと紫蘭のいつも付けている香水の匂いがしてる。
しがみついてる身体に腕を廻すと、背中を擦ってやった。
「どうしたんだよ…甘えて…」
何も答えないで、紫蘭はそのまま胸に顔を埋めていた。
「なんでも…ないよ…?」
そうぽつりと呟くと、俺を見上げた。
「紫蘭…?」
紫蘭の顔が近づいてきて、そして唇が重なった。
「し…」
咄嗟のことで動くことができなかった。
気がついたら、俺は一人で布団の中に居て。
紫蘭はもう居なかった。
「…参ったな…」
まだ紫蘭が入ってきたばかりの頃…
慣れない世界に泣いている紫蘭を何度か部屋に泊めたことはある。
でもちゃんと商売を覚えて部屋子になった頃には、もう俺に頼ってくることもなかったのに。
いつもは敷きっぱなしにしておくんだが、なんとなく今日は布団を畳んで、部屋の隅に積んだ。
なんで紫蘭があんなことをしたのか…
俺にはよくわからなかった。
「湊…」
入り口の引き戸に凭れるように朽葉が立っていた。
「おう。どうした?」
「紫蘭ちゃんと寝たの?」
「…添い寝だよ?」
こんなことは珍しいことじゃない。
入ってきたばかりの新人にはよくしてやってることだし…
紫蘭が特別なわけじゃない。
朽葉は…まあ、それ以上のことはしちゃってるけど…
でもそれは、朽葉が生きていくために必要なことなんだ。
「ほんとに…?」
そっと黄色い襦袢を纏ったままの姿で歩いてくる。
ぺたりと俺の前に座り込むと、俺の目を真っ直ぐに覗き込んだ。
「…本当だよ…」
その目の奥に、炎が見えた。
でもそれは、見ちゃいけない。
嫉妬という紅蓮の炎──
「部屋に帰りな。俺は出かけるから」
「どこいくの?」
「どこでもいいだろ」
「…嘘…なんでしょ?」
「え?」
炎が濃くなった。
「湊に行く所なんて、ないでしょ?」
その通りだった。
だけど、俺はこれ以上朽葉と居たら、いけない気がした。
「嘘…つき…」
ゆっくりと朽葉の手が伸びてきて、俺の頬を包んだ。
さっきまで紅蓮の炎を宿していた瞳には、冷たい光。
「眠れそう?」
「…多分…」
「眠れなかったら言えよ?」
「だって…どうすんだよ…」
「俺、おまえが寝てる間、起きとくよ」
「なっ…何言ってんだよ!そんなことしたら湊が…」
「いいって…気にすんな…」
そっと洗いざらしの髪を撫でた。
「…ゆっくり寝な…」
「うん…ありがと…」
しばらくもぞもぞしてたけど。
疲れていたのか、こてんと紫蘭は寝てしまった。
身体があったかい。
いつの間にか紫蘭の髪に顔を埋めて俺も寝てしまった。
昼過ぎに起きたら、紫蘭はもう起きていた。
「…おはよ…」
「おはよ…」
ぐしゃっと俺の肌着に顔を埋めてしがみついてきた。
「どした…?」
「なんでもない…」
ふんわりと紫蘭のいつも付けている香水の匂いがしてる。
しがみついてる身体に腕を廻すと、背中を擦ってやった。
「どうしたんだよ…甘えて…」
何も答えないで、紫蘭はそのまま胸に顔を埋めていた。
「なんでも…ないよ…?」
そうぽつりと呟くと、俺を見上げた。
「紫蘭…?」
紫蘭の顔が近づいてきて、そして唇が重なった。
「し…」
咄嗟のことで動くことができなかった。
気がついたら、俺は一人で布団の中に居て。
紫蘭はもう居なかった。
「…参ったな…」
まだ紫蘭が入ってきたばかりの頃…
慣れない世界に泣いている紫蘭を何度か部屋に泊めたことはある。
でもちゃんと商売を覚えて部屋子になった頃には、もう俺に頼ってくることもなかったのに。
いつもは敷きっぱなしにしておくんだが、なんとなく今日は布団を畳んで、部屋の隅に積んだ。
なんで紫蘭があんなことをしたのか…
俺にはよくわからなかった。
「湊…」
入り口の引き戸に凭れるように朽葉が立っていた。
「おう。どうした?」
「紫蘭ちゃんと寝たの?」
「…添い寝だよ?」
こんなことは珍しいことじゃない。
入ってきたばかりの新人にはよくしてやってることだし…
紫蘭が特別なわけじゃない。
朽葉は…まあ、それ以上のことはしちゃってるけど…
でもそれは、朽葉が生きていくために必要なことなんだ。
「ほんとに…?」
そっと黄色い襦袢を纏ったままの姿で歩いてくる。
ぺたりと俺の前に座り込むと、俺の目を真っ直ぐに覗き込んだ。
「…本当だよ…」
その目の奥に、炎が見えた。
でもそれは、見ちゃいけない。
嫉妬という紅蓮の炎──
「部屋に帰りな。俺は出かけるから」
「どこいくの?」
「どこでもいいだろ」
「…嘘…なんでしょ?」
「え?」
炎が濃くなった。
「湊に行く所なんて、ないでしょ?」
その通りだった。
だけど、俺はこれ以上朽葉と居たら、いけない気がした。
「嘘…つき…」
ゆっくりと朽葉の手が伸びてきて、俺の頬を包んだ。
さっきまで紅蓮の炎を宿していた瞳には、冷たい光。
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