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第一章 蒼乱
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緊張…してきた…
いや、もともとしてる。
だけど、引き回しの湊に連れてこられた風呂に一人で浸かっていると、もっと緊張してきた。
だいたい、男相手に勃つんだろうか。
もしかして、裸を見たら…
「成田様、失礼いたします」
思考があらぬところに行きそうになった時、湊が着物の裾をからげて風呂の中に入ってきた。
「お背中お流しします」
常連になると、おいらんの持っている部屋の風呂に入るらしいが、今日は初会だから一階にある湯屋で体を綺麗にするとのことだ。
檜造りの湯船を出て、木で出来た椅子に座ると湊が背中を泡立てたタオルで擦ってくれる。
「緊張なさってますね」
「あ、ああ…こういうところ自体初めてで…」
「そうですか…そういうお客様は珍しくありませんから、どうぞリラックスなさってください」
「そうなんだ…」
身体を洗っている間、湊からまた注意事項を言い渡された。
曰く、コンドームは必ず付けること
曰く、ローションを必ず使うこと
曰く、手荒な真似は絶対にしないこと
曰く、特殊なプレイがしたい場合は前もって言うこと
「とくしゅな…プレイ…?」
「まあ…中には敵娼にメイド服を着せたりする方もいらっしゃいましてね…そういうのは事前に私に伝えてください」
「安心してください…そういう趣味はないです」
「かしこまりました」
どうも、ここの客は金持ちの中でも金持ち…
所謂、上流のやつらが多いせいか、そういう場所に出入りをしたことのない連中が来ると湊が言う。
しかも相手は男だしな…
皆ガチガチに緊張するから、安心してくださいと言われた。
回数を重ねると、自分の趣味も段々と出せるようになりますよ、なんて言われたけど。
それって、性癖のこと…?
だからないって言ってるんだけどな。
…それとも、そんな変な性癖を持ってるように見えるのかな。
「まあ…緊張する気持ちもわかりますが、リラックスした者勝ちですよ?成田様」
「あ、ああ、そうなんだろうけどね…」
そうだよな。
人からどう見られようと、今ここにいる俺は"そういうことを楽しみに"来ているんだ。
どう見られようと、その事実は変わらないのに…
いつも、こうだ。
人からどう見られるか…そんなことばかり俺は──
お湯を掛けて身体を流されてる間、自分の家を思い出した。
都内有数の企業体を持つ家柄。
大学を卒業して、すぐに俺は子会社の専務の職に就いた。
親族経営に疑問を持っていた俺は拒否したが、強引に押し切られた。
社会に出ていない俺なんかが専務を務めたところで、社員がついてくるわけもなく。
必死に努力して、なんとか子会社で認めて貰えるようになった頃、突然本社に移動させられた。
それが3ヶ月前
ガラガラと、今まで積み上げたものが崩れ去った気がした。
必死に努力した5年間はなんだったんだろう。
会社の皆は、本社に栄転ですねって言ってくれたけど。
昇進祝いを兼ねた送別会も、盛大に開いてくれたけど。
返してくれよ…俺の時間…
やっと築き上げた信頼関係なのに。
俺の、仕事仲間なのに。
いや、彼らは本当は俺のこと──
「成田様?」
「あ…」
「どうかされましたか?」
「いいや…すまない」
湊が手を引いて俺を立ち上がらせた。
俺の目を見ると、微笑んだ。
「もう一度お湯に浸かって、温まってくださいね…」
その笑みを浮かべた顔は、蒼乱と似てる気がした。
顔は全然違うのに何故だろう。
いや、もともとしてる。
だけど、引き回しの湊に連れてこられた風呂に一人で浸かっていると、もっと緊張してきた。
だいたい、男相手に勃つんだろうか。
もしかして、裸を見たら…
「成田様、失礼いたします」
思考があらぬところに行きそうになった時、湊が着物の裾をからげて風呂の中に入ってきた。
「お背中お流しします」
常連になると、おいらんの持っている部屋の風呂に入るらしいが、今日は初会だから一階にある湯屋で体を綺麗にするとのことだ。
檜造りの湯船を出て、木で出来た椅子に座ると湊が背中を泡立てたタオルで擦ってくれる。
「緊張なさってますね」
「あ、ああ…こういうところ自体初めてで…」
「そうですか…そういうお客様は珍しくありませんから、どうぞリラックスなさってください」
「そうなんだ…」
身体を洗っている間、湊からまた注意事項を言い渡された。
曰く、コンドームは必ず付けること
曰く、ローションを必ず使うこと
曰く、手荒な真似は絶対にしないこと
曰く、特殊なプレイがしたい場合は前もって言うこと
「とくしゅな…プレイ…?」
「まあ…中には敵娼にメイド服を着せたりする方もいらっしゃいましてね…そういうのは事前に私に伝えてください」
「安心してください…そういう趣味はないです」
「かしこまりました」
どうも、ここの客は金持ちの中でも金持ち…
所謂、上流のやつらが多いせいか、そういう場所に出入りをしたことのない連中が来ると湊が言う。
しかも相手は男だしな…
皆ガチガチに緊張するから、安心してくださいと言われた。
回数を重ねると、自分の趣味も段々と出せるようになりますよ、なんて言われたけど。
それって、性癖のこと…?
だからないって言ってるんだけどな。
…それとも、そんな変な性癖を持ってるように見えるのかな。
「まあ…緊張する気持ちもわかりますが、リラックスした者勝ちですよ?成田様」
「あ、ああ、そうなんだろうけどね…」
そうだよな。
人からどう見られようと、今ここにいる俺は"そういうことを楽しみに"来ているんだ。
どう見られようと、その事実は変わらないのに…
いつも、こうだ。
人からどう見られるか…そんなことばかり俺は──
お湯を掛けて身体を流されてる間、自分の家を思い出した。
都内有数の企業体を持つ家柄。
大学を卒業して、すぐに俺は子会社の専務の職に就いた。
親族経営に疑問を持っていた俺は拒否したが、強引に押し切られた。
社会に出ていない俺なんかが専務を務めたところで、社員がついてくるわけもなく。
必死に努力して、なんとか子会社で認めて貰えるようになった頃、突然本社に移動させられた。
それが3ヶ月前
ガラガラと、今まで積み上げたものが崩れ去った気がした。
必死に努力した5年間はなんだったんだろう。
会社の皆は、本社に栄転ですねって言ってくれたけど。
昇進祝いを兼ねた送別会も、盛大に開いてくれたけど。
返してくれよ…俺の時間…
やっと築き上げた信頼関係なのに。
俺の、仕事仲間なのに。
いや、彼らは本当は俺のこと──
「成田様?」
「あ…」
「どうかされましたか?」
「いいや…すまない」
湊が手を引いて俺を立ち上がらせた。
俺の目を見ると、微笑んだ。
「もう一度お湯に浸かって、温まってくださいね…」
その笑みを浮かべた顔は、蒼乱と似てる気がした。
顔は全然違うのに何故だろう。
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