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企画SS

夜の教室にて<蒼矢>

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蒼矢×環

※全てifの設定。物語の進行上にはまったく関係ございません。
※書きたかったからかいた、それだけです。苦情は受け付けません。

・ゲーム終了後、蒼矢の卒業式の後の夜。教室。恋人同士設定。
・吸血行為あり。少し痛い表現有りなので、気になる人はみないでください。

・キャラ崩壊しているかも?気をつけてご生還ください。
・本編のネタバレ要素はありませんが、本編読後がもちろん推奨
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 高校最後の日が終わり、講堂では卒業パーティーが開かれる。
 蒼矢は華やかな喧騒から離れた校舎の一室でその光景を見下ろしていた。

 思えば、三年間あっという間だった。
 特に三年になった後の一年は。内容の濃さでも十数年生きてきた中でとびきりだった。
 そんなことを考えて目下の光に目を細めていると、背後で人の気配がした。
 だが、その気配はよく知るものだ。蒼矢は視線も向けずに声をかけた。

「なんだ、見つかったか」
「今夜の主賓がこんなところでなにをしているんですか?」

 憮然と告げられた声に、蒼矢はようやく振り返った。
 入口のすぐそばに立つのは、つい先日蒼矢の恋人となった少女だ。
 多岐環。今まで蒼矢が付き合ってきたどの女との異なる印象の少女だった。
 だが、今まで誰にも抱いたことのない感情を抱いた少女でもある。

「こんなところで何をしてるんです?」

 窓際の蒼矢の下まで歩いてくる環。それまで見ていた窓の外を覗き込む彼女の腕を掴んで引き寄せた。
 油断していたのか、あっさり環は蒼矢の腕の中に収まった。
 驚いたためか、羞恥のためか。環から早い鼓動が聞こえ、蒼矢は笑った。そんな蒼矢を環は赤い顔をして睨んでくる。

「何するんですか。危ないじゃないですか!」
「油断しすぎなのが悪い。」

 環の抗議など無視して、そっと蒼矢は環の頭を抱き寄せ、その髪に口付ける。
 その行為に環は固まった。俯いて顔は見えないが、おそらく照れて顔を真っ赤にしているのだろう。うぶな反応に思わず笑いが漏れた。


「わ、笑わないでくださいよ」
「いや、無理。お前、本当に可愛いな」

 蒼矢の言葉に絶句して固まる環をこめかみにそっと唇を落とす。
 それから、蒼矢はくすぐったそうに身をよじる環の耳にそっと囁いた。

「……卒業のお祝いに、プレゼントくれる気はないか?」
「え?何ですか。奮発して花をあげたじゃないですか?」

 たしかに彼女からは花束をもらっていた。小さなブーケで、他のどの生徒にもらうものより小さいものではあったが、それでももらえるとは思っていなかったので、嬉しかった。
 生花は高かったのに、と眉間に皺を寄せる環。その首筋に、蒼矢は無言でそっと手を伸ばした。

「っ……」

 突然触れたので驚いた彼女。ゆるゆると手を動かし指でその首をなぞった。
 その仕草に蒼矢が何を求めているのか、わかったのだろう。
 驚いた顔をしたあと、頬が赤くなる。

「……だめか?」

 首を上に辿り、頬に手をおいて微笑めば、彼女は真っ赤になってうつむいている。

「……そう言うことは聞かないでくださいよ」
「勝手にもらったら怒るだろ?」
「それは当たり前です」

 怒ったように腰に手を当てる彼女は、しかしすぐに視線を反らせた。

「……ちょっとだけですよ?」

 恥ずかしそうに視線を斜め下に向ける彼女を、蒼矢は抱き寄せた。
 一度ぎゅっと抱きしめれば、少女の体は一瞬固くなるが、すぐに蒼矢に寄りかかってくれる。
 その預けられた重さと体温に胸が熱くなる。
 その頭にもう一度唇を押し当てる。ふわりとシャンプーの香りがした。手で彼女の髪に触れると真っ直ぐでやわらかなその髪は蒼矢の指に優しく、いつまでもなでていた気分になる。
 柔らかく手で頭をなでれば、そっと環が頭を蒼矢の胸に押し付けてくる。

「……会長」
「……もう会長じゃないぞ?」

 月下騎士会の次の会長は紅原を指名している。つつが無く叙任式は行われ、事実今の蒼矢は月下騎士会ではない。名前で呼べよ、とささやき、その耳に口付ける。
 すると意外とくすぐったがりの環は身をよじり逃げようとするのを抱き込む。

「っ、……名前って。蒼矢様?」
「……お前、普通は名前だろ?」

 耳の淵をなぞり、それから項に唇を寄せる。

「無茶言わないんでくださいよ。まだ会長のファンはまだ……んん!」
「だから、会長じゃない。……それに、名前で呼ぶことの何が無茶だよ」

 彼女の首筋の髪に隠れる場所を強く吸い上げる。まだ傷つけていないそこには赤いうっ血のあとが残る。

「……っ。あとを残さないでくださいよ」
「……だから気を使って、見えないところにしてるだろ?」

 あとを残した場所に、ちゅっとリップ音を響かせれば、耳の横で呆れた声がした。

「そもそも残さないって言う方向で……」
「もう黙れ」

 そう言いおいて蒼矢は、ゆっくり環の髪をかき上げ、晒された首に唇を押し当てた。
 身をすくませる彼女に極力痛い思いをさせないように慎重に場所を選ぶ。その間抱き込んだ彼女の体は震えていた。本能的な恐怖なのだろう。痛い思いをさせるのは本意ではないが、既に蒼矢にやめるという選択肢はない。
 震える彼女を強く抱きしめ、蒼矢はその白い首筋を傷つける。人より鋭い牙が白い肌に食い込み、痛みに環が「……くっ」とうめいた。苦痛にゆがむ顔が見たいわけじゃない。
 しかし、本能には抗えず、蒼矢は牙を突き立てる。ぷつりと肌が破られ、赤い命の水が湧き出してくる。流れ出す赤い蜜に唇を寄せ、吸い上げ、舐め取っていく。
 その間、痛みをこらえているのだろう。固まる彼女の背をできるだけ優しくさすってやる。
 固まる肩が少しずつ緩んでくる。
 それにホッとしつつも、蒼矢は環の血に溺れる。
 痛くないように最小限しか傷つけていない肌からは思ったよりも、血を得られない。深く噛み付き思う存分血をすすりたい衝動に駆られるものの、それを必死に抑える。
 それでも吸血衝動は蒼矢を支配し、本能は貪欲に彼女の首筋に溺れる。
 彼女という恋人を得てからは、蒼矢は彼女以外から血を得ていない。常に空腹を覚える吸血鬼の本能が蒼矢を支配し、思わず夢中になって、彼女の首筋を吸い上げる。彼女の血は甘く、地上のどの水よりも美味しく、まるで天上の甘露のように感じる。
 頭上で、環の苦しそうな声が聞こえた。

「っ……か、いちょ……ちょ、もう……」

 その声に蒼矢はハッとした。
 思いがけず理性が飛んでいた。気づけばいつもよりも長く彼女に吸い付いていた。
 慌てて、傷口を舐めとり止血する。唇を離せば、血の気の引いた環の顔が見えた。
 血を吸いすぎたせいで力が入らないのだろう。抱きかかえる体はくったりしている。

「っ!わ、悪い。吸いすぎた」
「……ほ、ホントですよ。うぅ、クラクラする」

 頭を抑え、どこか潤んだ瞳でぼんやり蒼矢を見る彼女の表情は妙に色っぽい。
 その表情に思わず、ゴクリと喉がなる。吸血衝動とは異なる本能に突き動かされ、蒼矢はその唇にくちづけた。

「っ!」

 突然で驚いたのだろう。環が僅かに身を引いたが、構わず、その頭を抑え、唇を吸い上げる。
 至近距離に彼女の様子を見れば、羞恥に顔を赤くしているが、やはりその顔色は血を失い悪い。
 それに罪悪感を覚えた蒼矢は、理性を総動員して、彼女のやわらかな唇を一度軽く食んだのち、唇を離した。その際見えた環の表情はトロンと溶けて、実に美味しそうに見えた。
 思わず、口づけのあとの残る口の端に残る唾液を舌ですくい上げ、軽く啄んだ。
 軽いリップ音を最後に、彼女の頭を腕で抱き込んだ。顔を見てるとさらにキスしそうだったからだ。とはいえ、抱き込んだ体の柔らかさと暖かさに欲は収まらない。むしろ、血を過ぎすぎたせいで力の入らない彼女の体は抵抗らしい抵抗もなく、猫のように柔らかく蒼矢の体に絡み、それがより蒼矢の若い欲望を煽る。しかし、流石に血を吸いすぎた手前、これ以上の行為は憚られた。

「……はあ。なんというか、……生殺しだ」

 思わずつぶやけば、環の肩がぴくりとはねる。
 もぞもぞと腕の中で動き、頭を抑える手から逃れ、顔だけ仰向けて睨んでくる。

「……な、何ですか。こんなにいろいろしておいて……」

 ううう、と恥ずかしそうに腕の中で思い出したのか身悶え、環は蒼矢の胸をぽかぽか、叩いた。
 しかし、おそらく血が足りないからだろう。その手は力は感じられず、まるで羽が触れるかのように軽い。その仕草が何とも可愛らしく思えて、蒼矢は思わず、抱きしめる腕に力をこめれば、環が抗議の声を上げる。

「ちょ…、会長痛い」
「……っお前、本当に可愛いすぎっ!」
「っ!……な、なんですかいきなり!」

 腕の中で暴れる環に蒼矢は抱擁を強めた。しばらく、環は唸りながら、パカパカ叩いてきたが、やがて疲れたのか腕の中でおとなしくなる。
 蒼矢はおとなしくなった環の頭をそっと撫でる。すると気持ちがいいのか目を閉じ擦り寄ってくる。
 その仕草に、再び自身の欲が刺激される。
 可愛い、可愛い。……このままいっそ食べてしまおうか。
 だが、血を失い貧血気味の彼女をこれ以上興奮させたら失神するかもしれない。流石にそこまで行くと翌日以降彼女は怒ってしばらく血をくれなくなるだろう。
 その危惧に蒼矢は情動を押さえつける。理性で蓋をして力を失い、しなだれかかる彼女の体を抱えなおす。触れ合った部分から感じる暖かな体温と匂いは蒼矢を煽るが、同時に落ち着かせもする。
 優しく触れ合うだけでも、満足している自分に蒼矢は苦笑する。こんなことで満ち足りてしまう自分にあったことが驚きだが、悪い気はしなかった。
 その夜、二人は姿の見えない二人を探しに来た他の月下騎士たちに見つかるまで、寄り添い抱き合っていたのだった。
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