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1章 出会い(ダイジェスト版)
二日目その1(朝の風景~とある吸血鬼の苛立ち1)
しおりを挟むあれ~、どうしたの。
君から声をかけてくるなんて珍しい。
あ。あれでしょ?
もしかして前の続き聞きたくなった?
でがしょ、でがしょ?
え?そんなことないって?いやいやそんなツンデレなくっても話してあげるよ。
ええっと、確か前は初日の話で終わってたよね。
え?あれだけ語ってて作中で一日しかたっていないのかって?
いや、舞台説明とかが多かったからね。
そう思うのも仕方ないかも?
でもここからはもう少しスピーディーだよ。
もちろん聞きたいよね?
……むふ、よろしい。じゃあ語ってしんぜよう。
え?なんでそんなに偉そうかって?えらそうにするなら帰るって。
あ、や。ごめん、ごめんなさい。ぜひ聞いていって!お願いします。
と、とにかく。
二日目の朝に起きた環は朝に仕掛けられた聖さんのささやかな悪戯に怒っていたのだよ。
だから聖さんを置いて、一人で登校していたけど、環の怒りに全く気付かない聖さんは平然と追ってくる。
その姿に苛立つ環は彼女に謝るよう告げようと振り返ると同時に、ハンカチが飛んでくる。
え?何でハンカチが飛んできたかって。
まあ、慌てなさんなって。
ハンカチを飛ばしたのは黄土の双子だよ。
攻略対象である黄土統瑠と翔瑠が彼らの親衛隊である天城美香を使って飛ばさせたの。
なんのためにって?
それはあれだよ。ラブコメによくある、ハンカチを落として拾って仲良くなるきっかけを作るって、あれ。
別に環を狙ったわけじゃないんだけどね。
その日の前の晩に蒼矢から静かに見守るべく、利音への積極的な接触を禁止された双子は考えたわけだ。じゃあ、相手から声を駆けさせれば問題ないって。
無茶苦茶な理論だけど、彼らは実行に移したわけだ。
いや、べただね?
え?それを考えている僕がそれを言うなって?考えたから突っ込むんだよ。
ともあれ、環にあたってしまったからハンカチ作戦は結局不発に終わったわけだ。
環も普段通学路に姿を見せることがない双子がその場にいたことに、これが出会いを目的としたイベントだと思って、聖さんが何かする前にその場から離れたし、その場は特に何事もなく終わったんだよ。
でもそれであきらめる双子じゃない。彼らのシナリオルートを知ってるでしょ?依存心も執着心半端ない双子だからね。ねちっこい彼らが一度であきらめるわけはないってことさ。
結局その後、何度もハンカチ作戦は決行されるけど、そのことごとくが環の顔に当たり不発に終わる。
なぜなら常に利音の前に環が歩いているからなんだ。
利音はルームメイトである環を気に入っているらしく、教室でもどこでも環にべったりでね。でも彼女は目立つし、目立つことが嫌いな環は彼女から逃げ出すけど、それを利音が追ってきてしまう。なんというかゲーム主人公に執着される主人公。
死亡フラグにしか見えないね。攻略対象から嫉妬で殺されるっていう。
でもまだ、二日目だからそんな血なまぐさいことは起こらないよ。
もう少し安心していいよ。
そんなわけで利音から逃げだした環は一人になれる場所を探して、特別教室の集まる建物の屋上にきてそこでお弁当を広げていろいろ考えられるわけだ。
なんでゲームの記憶が自分にあるのか、死亡フラグを回避するのはどうしたらいいのか、とか。
でも、答えの出ない疑問を悶々と抱えていた環の前に不意に女の子が現れる。
女の子は天城美香。そう、黄土の双子の許嫁にして親衛隊の利音のライバルキャラその二だよね。
彼女は今朝からの環の行動を見て彼女を「吸血鬼ハンター」だとかんちがいしていたんだ。
まあ、記憶もちの環は無意識のうちに出来事の裏側を知っているので、意図せず普通の人間とは行動が異なりがちなんだよ。
例えば朝のハンカチ作戦時、実は顔にあたったハンカチを振り払ったと同時に、そのハンカチを巡って乱闘騒ぎが起こっていたんだけど、皆がその乱闘騒ぎに目を奪われている際に環はその原因を作っただろう天城に視線をやってしまう。
天城にしてみれば、なぜって話だろう。
皆の視線とは違い、まるでことの発端である原因を作った天城をまっすぐ見る環の見透かすような視線を恐れた。
そこで天城は人間の気配しかない環が吸血鬼の存在を知っている雰囲気なのは吸血鬼に関わる人間=吸血鬼ハンターだと思ってしまうわけだ。
何たる話の飛躍かと思ってしまうけれど、天城にとっては双子にとって少しでも障害になりえる者は排除すべしという思考がある。
天城にとって双子は恩人でもあるからね。
作中で天城家では不義の子として虐待を受けていた天城を双子が見つけ、許嫁としたことで家からでて、人並みの扱いを受けたことになっているから、過剰反応してしまうのも無茶な流れではないのかも。
とにかく、天城は環を吸血鬼ハンターと疑って、環の前に姿を現したのだけど、環はそんな疑念を持たれているだとまるで気付いていない。
そのため天城と環の会話はものの見事にすれ違う。
天城の疑念は恐ろしい勢いで育ち、決定的な会話が起こった。
「一体、あなたはどこまでご存じなのですか?」
そんな天城の言葉を環はうっかり聞き逃すんだ。……で、なんて答えたと思う?
「最初から全部……」質問を繰り返して。
そんな環の台詞の冒頭だけ聞いた天城は環を殺そうと自分の中のすべての力を解放した。
覚えてるかわかんないから、説明すると。
天城美香は人間だけど、少しだけ吸血鬼と似た魔法のような力が使える。
吸血鬼の花嫁はそれになるための「誓約」と呼ばれる儀式を受けるわけだけど、それには薄めた吸血鬼の血が使われる。
その血との親和性が高いと稀に人間でも血の力を使うことができるようになる。
その力によって天城はハンカチを飛ばせたし、環を殺すべく全身全霊の力を持って環に魔力をぶつけたわけだ。
しかし、それはたまたま特別教室棟に来ていた紅原に止められた。
え?なんで紅原はいちいちそんな都合の良い時に偶然居合わせるのかって?
まあ、ヒーローというのはいつだって話の都合に合わせて現れるものさ。
紅原だって攻略対象の一人なんだからそんな特殊な特技があっても不思議じゃないよ。
紅原は吸血鬼としての能力は低いけど、それでも人間である天城の力を抑えることなど造作もない。
あっさり、その場を収めてしまうものの、状況がわからず困惑するわけだ。
で、環に聞いてみるものの、環こそ状況がわかっていない。
紅原と関わりたくない環は助けられたことすら気づかず、思わず「紅原には関係ないこと」「天城さんとの女の子同士の話に首を突っ込むな」と邪険にしてしまう。
でもこれって聞こうと思えば、明らか天城を庇っているように聞こえるよね。
天城は紅原が背にかばったことによってあっさりと環=吸血鬼ハンター説が違っていることを悟るわけだけど、その際紅原と環の関係を思いっきり誤解した。
つまりは「多岐先輩は紅原様の良い人なのね?」ですよ。
お嬢育ちの考えの飛躍は素晴らしいものがあるね。
そんな勘違いをしたものの、なぜ殺そうとしたはずの環がかばってくれるのか不思議に思うわけだ。
で、ここで再び、箱入りお嬢様の考えの飛躍その二が来るわけだ。
つまりは「殺されかけたのに情けをかけてくれるなど、なんて慈悲深い!」ですね。
天城はこの一連の考えの飛躍で、完全に環の性格を誤解し、憧れのお姉さまと思ってしまうわけだ。いや、誤解って怖いね(笑)
そんな状況の中、黄土統瑠が天城を呼びに来たので、天城はその場から統瑠に連れられ去り、その場には紅原と環が二人きりで残される。
状況を全くわかっていないが、環は紅原が怒っていることだけは感じて震えた。
紅原は昨夜会長の弱点を武器にしてまでその存在を秘した環が、翌日こんなにあっさりと他の吸血鬼の関係者に殺されかかっているという環のうかつさに腹を立てていた。
何で自分以外の吸血鬼に見つかりかけてんの!、だ。
身勝手な憤りだけど、それをさらに煽っているとしか言いようのない環の台詞に苛立つ。
本当にうかつでおバカな環の言動にやがて怒りを通り越してあきれ返った紅原は、あまりに危機感のない環に一つお仕置きしようと悪戯を仕掛けるわけです。
むふふ。そ・れ・は。
吸血鬼のお約束、吸血……というほどおおげさじゃないけど。
紅原は無防備な姿をさらす環の頬、天城の攻撃で薄く切れて滲んでいた血を丹念に舐めとるわけだ。
それは傷があることすら気づいていなかった、環には突然頬にキスされたのと同じようなことで、混乱して逃げ去るわけだ。
そのことで環はゲームが終了するまでの一年間人気のない場所へ近づかないことを決意するのであったー。まる。
そのあと、混乱するまま全速力で教室に戻った環だったけど、教室に入れなかった。
それはなぜか。
双子と聖さんが教室内で遊んでいて、それを見物する人で入り口がふさがっていたからさ。
……あ、そうだ。よかったらここだけ本文で見る?
ふ、ふーん。今日はちょっとだけためしに本文サンプル書いてみたんだ。
こんなのだよ。
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