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第22話 遭遇

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「カンの活躍を期待したい所だけど、カンは一体、何処に飛んだかな?」

 カンを転送陣でどこかの世界へと飛ばした後、イチカはコーヒーを淹れると書斎の椅子に深く座りながら、コーヒー香りを楽しみながら軽く呟いていた。

『イチカ! 此処は、どこなのだ!』

 イチカの頭の中にカンの怒声が響いてきたが、まるで聞こえなかったかのように穏やかな顔をしながら、イチカはコーヒーを飲んでいた。

 そして目を瞑ると、カンの視界を自分の視界として共有化したのだった。


『カン、人に何でも答えを尋ねる前に、先ずは自分で考える癖をつけようね』

「もっともな事を言っているようだが、そもそもとして、勝手に人を転移させる方がおかしいではないか?」

『人じゃなくて、空き缶ね』

「安定の揚げ足とりか……」

 カンは、何処から聞こえてくるのかはっきりしないイチカの声に呆れながらも、周りを見渡した。

 そして、ここが薄暗い何処かの洞窟のような場所に自分が立っている事に気付いたのだった。

「洞窟というか、迷宮の通路のようだの。まるでどこかのダンジョン・・・・・ようではないか」
  
『まるで物語の主人公のように、しっかりフラグを立てたね』

「フラグだと? ん?」

 イチカに"フラグを立てた"と指摘され、カンは周囲に注意を払ってみると、通路の奥の暗闇から何かの音が聞こえてきている事に気がついた。

「……足音? それにズルズルと何か這うような音が、地面から伝わってくるのだが……あぁ……このパターンなのだな……」
  
 通路の中央にに立っているカンは、次第に大きくなる何かの音と地面から伝わる何かの振動を感知した。

 そして、ある事に気付くとカンは絶望の色が濃く出た呟きを吐いていた。

 何かが自分に向かってきている事を確信しながらも、空き缶は自ら動くことは出来ない。

『さぁさぁ、もうすぐこちらへ向かってくるモノ姿が、しっかり見えそうだよ。カンは気合をいれた方が良いね』

「気合いで何とかなる問題じゃない程に、危機的状況なのだが……」

 イチカの言葉に対し、カンが半ば諦めたような声を出していると、カンに対して世界の声が聞こえて来るのだった。
  
 "スライムとゴブリンがあらわれた!"
 "カンは、逃げ出そうとした! しかし、逃げられない!"
 "魔物は、カンに気づいていない!"
 "カンは、気配をできるだけ消すことで、ただの空き缶に見せかけた!"
  
「……(このまま、過ぎ去ってくれ)……」

『現場のカンさぁあああん!』

「……(無視だ、無視)……」
  
『おかしいですね、返事がありません。通信の乱れでしょうか? 現場のカンさぁあああん! ドMカン! この変態!』

「完全に悪口ではないか!? 誰がドMの変態か!……あ……』
  
 カンは勇敢にも、自分に向かってくるスライムとゴブリンに向かって、大声をあげたのだった。

 その結果、二体の魔物は突然聞こえた声に警戒し、その場で立ち止まっていた。

『めっちゃ見られてるのだがぁああ!?』

 そして、当然の如く、声が聞こえた方へと視線を向けると、一本の缶が道の中央に立っている事に気がついた。

 二体の魔物は、他に声を発する何かがないかと思い辺りを見回したが、やはり目の前の缶しかそこにはいなかった為、再びカンを凝視していた。

「……ハロー?」

 未開の地へ訪れた際に、なくてはならないもの。

 それは言葉。

 異世界召喚の物語なんかでは、大概は召喚時に翻訳みたいなスキルを持っている。喋る空き缶であるカンが元々持っていたスキルは、〝言語理解〟のみであったが、果たして異世界のモンスターとコミュニケーションはとれるのだろうか。

「ハ……ハロー?」
  
 カンは、思わずイチカにツッコミを入れた失態のせいで、前から迫ってきていたスライム一体とゴブリン一体に完全に存在を気付かれてしまった。何とも、芸人肌な空き缶である。

「……我は、一体何を……魔物に言葉など通じる訳がないではないか」
  
 "おまえ、誰と喋っているゴブ?"
 "混乱魔法でも、誰かにかけられたプヨ?"

「……通じた!? 寧ろ魔物の言葉が、わかるだと!?」
  
 "おまえも、魔物でねがゴブ"
 "やっぱり混乱してるプヨ"
  
 カンの目の前までやって来たスライムとゴブリンは、カンの言葉に呆れなからも、カンが自分達側と言わんばかりに言葉を吐かれていた。

『異世界のどこの誰とでも話ができるというビジネスマンなら誰もが欲しいチート能力を持っているカンは、友達百人できそうだね』

「やかましいわ!」
  
「ほれ、新しい勇者が来たから行くゴブ」

「かふっ!? 掴むならもうちょっと優しく!?」
  
「黙れプヨ」

「語尾がかわいいのに、ゴブリンより厳しいぃい!? 本気でこのまま行くのか!?」

 しっかりとゴブリンに掴まれたまま、カンはどこかへと連れて行かれるのであった。
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