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第七章 悠久
お星様
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「アリス! 無事だったんだね!」
コウヤの元気一杯の声が、迷宮の最深部響きわたった。
「ひぃ!?」
「何で、三人とも下がるのさ!?」
コウヤが満面の笑みで、戻ってきたアリス達に呼びかけた瞬間、三人とも一斉に後ろに下がった。
「……あんた、もう大丈夫なの? ってか、もしかして、さっきの覚えてない?」
アリスが、完全に警戒しながらコウヤに問いかけていた。
「え? 僕? 全然大丈夫だよ? さっき?」
コウヤは、どうやら先ほどの狂気モードは覚えていないらしい。
「アリスちゃん……アレ……」
「アレは……酷いことをするのじゃ……」
ルイは、震える指で俺を指差した。
「……え?……」
アリスは、俺を見て完全に固まり絶句していた。
「そうだった! ヤナが大変なんだよ! 今、僕の目が覚めたら、何故かとっても汚れてて! 何があったの!?」
「ヤナ……」
「ヤナ君……」
「お主……」
三人は、同情的な声を出しながらも、後ずさりを始めた。
「俺は……もうヨゴレになっちまった……」
俺はそっと、自分に『浄化』をかけ身体の汚れを落とした。
「汚れされちまった俺の心に……誰か『浄化』をかけてくれないかな……」
俺は、心の傷を得ながらも、迷宮から脱出する為に心を再度奮い立たせ、四人の方へと歩いて行くのだった。
「さて! 無事に全員合流出来たし、帰るか!」
「マスター、その強靭な立ち直る精神力には感服いたします。是非、アシェリ様達にマスターがどれ程の苦境から立ち直ったかを、しっかし伝授しなくてはなりませんね」
「……苦境とは……ドレだ」
「……ドレでしょうね?」
この瞬間、ヤナビを単独でアシェリ達と会わせないと、固く心に誓った。
「はぁ……それで、シェンラ、迷宮から外への転移は出来ると言う事でよかったよな?」
「うむ! それは任せるのじゃ! 多分大丈夫な筈なのじゃ!」
シェンラは渾身のドヤ顔を俺に向けていたが、若干不安残る言い方だった。
「多分て何だよ多分て……取り敢えず、それじゃ転移頼もうか」
「ねぇ、ヤナ君、次がもうここの迷宮の最深階層の五百階層なんだよね? このまま踏破して、迷宮核部屋の転移陣から戻ろうとか考えないの?」
俺がやけにあっさりと迷宮の完全踏破を目前に帰ろうとしてた為か、ルイが不思議そうな顔をしていた。
「僕も、てっきりヤナならそうするかなと思ってた」
「私も、あんたならそうするのかなと思ってたけど?」
コウヤとアリスも、ルイと同じように考えていたらしい。
「別に、完全踏破に興味がある訳でないしな。それに、傷はルイに回復させて貰ったが、魔力はまだ戻っていないし、それはお前らも……いや、コウヤはツヤツヤしてるが……次はボス部屋の筈だから、先ずは当初の目的である『アリス救出』をしっかり完了させよう」
妙に調子が良さそうな血色のコウヤを除き、俺とルイ、アリスは少なくとも不測の事態に対応出来る魔力までは回復していなかった。
「それもそうね、特にあんたは心にも大きな傷を……いえ、何でもないわ」
「確かに、早くヤナ君の汚れちゃった心を癒さないと……ううん、何でもないよ」
「……お前ら……」
二人を睨みつけながら、俺は深いため息を吐いた。そして、シェンラに迷宮の外への転移を頼んだ。
「よし!それでは妾の身体に触れるのじゃ!」
俺はシェンラに頭に手を乗せ、他の三人は肩に手を乗せていた。
「……何故、お主だけ頭なのじゃ?」
シェンラは俺を見上げながら、半眼を向けてきた。
「サイズ的に調子良くてな。ほれ、さっさと頼む」
「くっ、妾の頭に手を乗せるなどと……」
シェンラは、一人ぶつぶつと呟いていたが、しぶしぶといった感じで、転移魔法を起動した。
「頭に手を乗せるには、今回だけじゃからな! それでは迷宮から外へ転移お願いなのじゃ!」
「お願い?」
次の瞬間、俺たちは迷宮の外へと転移していた。
『あっ、またシェンラのあっちの姿用の転移陣使っちゃった……まぁ、いっか。そんな事より、こっちよね』
「「「は?」」」
「おい……」
「またなのじゃぁあああああ!」
俺たちは、迷宮の外へと確かに転移したが、同時に街に向かって自由落下していた。
「『ヤナだ。今話せるか?』」
「『ヤナ君!? 今どこなの!? 急に電光掲示板からヤナ君達の表示が消えて、今びっくりしたところなの!』」
シラユキに呼出すると、通話越しでも分かるくらいの涙声になっていた。
「『全員で、ちゃんと迷宮の外には出たから、大丈夫だ』」
俺がシラユキにそう告げると、後ろでアリスの絶叫とルイのはしゃぐ声が聞こえてきたが、全部スルーした。
「『……取り敢えず、アリスがいる事は声が聞こえたからわかったわ。無事そうには聞こえないんだけど……今何処にいるの? それに声が聞こえてないけど、コウヤとシェンラちゃんは?』」
「『コウヤか……げっ……『浄化』……うん、無事だ。何もない。ダイジョウブ』」
「『何で片言になってるのよ……』」
コウヤに目を向けた瞬間、色々危うく再びコウヤが狂気に堕ちそうな目をしていたので、すぐさま誰かに気づかれる前に『浄化』をかけた。
そして、シェンラは何か誰かに文句を言っているような表情と口の動きだったが、急に真剣な表情に変わり、そのまま何か考え込むような仕草しながら落下していた。
「『シェンラは、何か色々別件での用事があるみたいだが、しっかり無事に一緒に迷宮から出てきてるぞ』」
「『そう、よかった。みんなが無事ならよかったわ。それで、今結局何処なの?』」
「『もうすぐ、着くからアシェリ達も連れて、建屋の外に出て空を見上げろ』」
「『……なんでまた、そんな事に……』」
シラユキの酷く同情的な声が聞こえた所で、俺はシラユキとの通話を切り、着地の準備を整え始めた。準備ができた所で、エディスにも通話で帰ってきたことを告げた。当然何処にいるのかという話になり、シラユキに伝えた通り、ギルド本部の窓から空を見ろと告げると、呆れながらも笑っていた。
「『ふふふ、派手ね。あなた、まるで神の使い……いや寧ろその漆黒の翼じゃ、あなたが魔王みたいよ?』」
「『ちょっと無茶してな。魔力回復薬を飲んだが、まだ神火魔法を使えるまでは回復しなくてな。取り敢えず、迷宮出口に降りるぞ』」
「『分かったわ。私もそっちに向かうわ、またあとでね』」
「『あぁ、またあとでな』」
そして、俺は二対に広げた漆黒の大翼の其々に四人を乗せ、パラグライダーで滑空するかの様に、迷宮の出口へと降りて行ったのだった。
その日、『竜が眠り女神が護る地』に空から巨大な二対の漆黒の大翼を広げた者が、空からゆっくりと降りてくる様を、迷宮都市に住む住人や冒険者、探索者等の大勢の目に入ることになった。
その漆黒の炎である大翼を広げたまま、降りてくる様に人々は畏怖の念を感じながらも、不思議と恐怖は湧かなかった。しかし、見た目はまさに『魔王』の如き姿であった為、大騒ぎにはなってしまっていた。エディスと共にギルドの窓からヤナの様子を一目見たゴーンベ室長が一瞬にして青い顔になり、関係各所にアレは敵でなくギルド所属冒険者である事を伝え周り、事態の沈静化をはかるために奔走したのだった。
「えらい騒ぎになっちまったな」
俺が四人を漆黒の翼に乗せたまま迷宮の出口に着地すると、俺たちを囲むように人だからが出来ていた。
「あなた、わかってて遊んだんでしょう」
「主様が、あの様な登場の仕方をするからだと」
「ヤナ様、ゴーンベ室長様が死にそうな顔で走り回ってましたよ」
「ヤナ、私も今度アレに乗せてほしい」
ゴーンベ室長の様子を想像して悪い気になったが、ライに今度せがまれたら絶対にもう一度やろうと心に決めた。
「コウヤ達も、お疲れさん。今日はもう夜になっちまったから、俺たちは宿屋に戻るが、お前達は宿を取ってあるのか?」
「ヤナ様と、恐らく同じ宿だと思いますよ」
ミレアさんが、勇者達が答える前に俺の質問に答えてきた。
「シェンラは、どうするんだ?」
俺は、地上に降りてからも難しい顔をしていたシェンラに話しかけた。
「妾は、ここでお別れじゃ。ちと野暮用が出来たのじゃ。勇者達よ、悪いが迷宮案内人の仕事は続けられぬ、すまぬな」
シェンラは用事が出来たらしく、勇者達から依頼されていた迷宮案内人の仕事も断りを入れていた。勇者達も、それに関して快く受け入れていた。
「そうか、呼出の使い方は覚えているな? 何かあれば、いつでも呼出していいからな」
「……わかったのじゃ」
「別に今生の別れってもないだろ、そんな顔をするなよ。また会えるさ」
「約束してくれるかの?」
「もう、約束ならしているだろ。それにシェンラが、何故勇者達の世界の言葉を知っているか教えてくれる約束は、まだ果たしてないぞ? それまでは、お前こそちゃんと会いにこいよ」
「そうじゃったの。では、また会ったその時にでも、教えてやるのじゃ! さらばじゃ!」
そういうと、転移の術を使ったのかシェンラは一瞬にしてその場から消えていなくなった。
そして、俺たちは宿屋へと向かって歩き出したのだった。
「ねぇ、ヤナ?」
「ん? なんだ」
宿屋へと全員で歩いていると、アリスが横に近づいて来て、俺の名前を小声で呼んできた。
「『接続』した時に、何か私のこと分かったの? 私は全然変わらなかったから、実際どうだったのかなって」
「……え?……あぁ、アレだ、思った以上に情報が一気に流れ込んできてな、すぐさまヤナビに情報統制を委譲したから、殆ど俺はアリスの事を知ることはなかったぞ」
俺は、アリスの記憶の情報の中で、涙ぐましい努力の映像記録が見えてしまっていた。あまりに必死な表情が印象的で、何故か頭に残っていた記憶があるが、覚えていない振りをした。
「それじゃ、私の気持ちとかは、伝わっていない? もしかして伝わったかもと、思ったんだけど」
アリスは、もじもじしながら自分の胸元に視線を落としながら顔を若干赤くしていた。その為、俺はアレの事だと確信し、あくまで気づいていない振りをするかどうか迷った。しかし、アリスが何か言って欲しそうな顔を向けてくるので、ここは俺の意見を述べる事にした。
「気持ち? あぁ、ソレの事か……まぁ、アレだ、気にする事はないと思うぞ? 確かに無い事は、有る事を羨ましいと思うのは仕方ないと思うが、無い事もアリスの個性だと俺は思う。だから、自身もって胸を張ればいいんだ」
俺は、ドヤ顔の笑顔でアリスを精一杯励ました。
「……無い? 有る? 何の話?」
「ん? アレだろ? 牛乳沢山飲みながら揉んでみたりとか、何か変な通販の道具みたいなの試したりとか、少しでも大きくしようと、涙ぐましい努力……を……何故、魔力回復薬を一気飲みしている……もう、宿屋で寝るだけだぞ……?」
俺が、シェンラに負けじ劣らずに絶壁なアリスが、諦めずに立ち向かう姿を見て勇気を貰ったという事を、アリスに伝えると、何故かアリスはシラユキから高級魔力回復薬を貰い、一気のみしていた。
アリスに高級魔力回復薬を渡したシラユキに目を向けると、シラユキも俺に向かって首を傾げていた。
「アリス?……何故ブツブツと小声でえらい長い詠唱を唱えてるんだ? ここはもう、迷宮の最奥じゃないぞ?」
そして、杖を俺に向かって構えながら、これまで聞いたこと無いほど長い詠唱をアリスは光の消えた目を俺に向けながら、唱えていた。
「……『大地激甚隆起』」
「な!? ぐへら!?」
いきなり足元が一気に隆起し、俺を空へと吹き飛ばした。
「な!? 何する……んだ?」
俺が瞬時に街の上空まで打ち上げられ、何を血迷ったかとアリスを空から見ると、声は遠くて聞こえないが、何故か唇の動きで何を言ったか分かってしまった。
『シネ』
アリスが次に唇が何かの詠唱を呟いているのが分かった瞬間、アリスから俺に宇宙に向かった某戦艦の主砲を思い起こさせるような魔力砲が放たれた。
「ぎゃああああああ!」
俺の断末魔の叫びが、迷宮都市の上空で響き渡った。
そして、俺は星になった。
命からがら俺が宿屋に戻る頃には、俺の新たな二つ名が広がっている事を、アシェリ達が宿屋の食堂で耳にしたらしい。
『星になった人』
俺は人知れず、枕を濡らすのだった。
コウヤの元気一杯の声が、迷宮の最深部響きわたった。
「ひぃ!?」
「何で、三人とも下がるのさ!?」
コウヤが満面の笑みで、戻ってきたアリス達に呼びかけた瞬間、三人とも一斉に後ろに下がった。
「……あんた、もう大丈夫なの? ってか、もしかして、さっきの覚えてない?」
アリスが、完全に警戒しながらコウヤに問いかけていた。
「え? 僕? 全然大丈夫だよ? さっき?」
コウヤは、どうやら先ほどの狂気モードは覚えていないらしい。
「アリスちゃん……アレ……」
「アレは……酷いことをするのじゃ……」
ルイは、震える指で俺を指差した。
「……え?……」
アリスは、俺を見て完全に固まり絶句していた。
「そうだった! ヤナが大変なんだよ! 今、僕の目が覚めたら、何故かとっても汚れてて! 何があったの!?」
「ヤナ……」
「ヤナ君……」
「お主……」
三人は、同情的な声を出しながらも、後ずさりを始めた。
「俺は……もうヨゴレになっちまった……」
俺はそっと、自分に『浄化』をかけ身体の汚れを落とした。
「汚れされちまった俺の心に……誰か『浄化』をかけてくれないかな……」
俺は、心の傷を得ながらも、迷宮から脱出する為に心を再度奮い立たせ、四人の方へと歩いて行くのだった。
「さて! 無事に全員合流出来たし、帰るか!」
「マスター、その強靭な立ち直る精神力には感服いたします。是非、アシェリ様達にマスターがどれ程の苦境から立ち直ったかを、しっかし伝授しなくてはなりませんね」
「……苦境とは……ドレだ」
「……ドレでしょうね?」
この瞬間、ヤナビを単独でアシェリ達と会わせないと、固く心に誓った。
「はぁ……それで、シェンラ、迷宮から外への転移は出来ると言う事でよかったよな?」
「うむ! それは任せるのじゃ! 多分大丈夫な筈なのじゃ!」
シェンラは渾身のドヤ顔を俺に向けていたが、若干不安残る言い方だった。
「多分て何だよ多分て……取り敢えず、それじゃ転移頼もうか」
「ねぇ、ヤナ君、次がもうここの迷宮の最深階層の五百階層なんだよね? このまま踏破して、迷宮核部屋の転移陣から戻ろうとか考えないの?」
俺がやけにあっさりと迷宮の完全踏破を目前に帰ろうとしてた為か、ルイが不思議そうな顔をしていた。
「僕も、てっきりヤナならそうするかなと思ってた」
「私も、あんたならそうするのかなと思ってたけど?」
コウヤとアリスも、ルイと同じように考えていたらしい。
「別に、完全踏破に興味がある訳でないしな。それに、傷はルイに回復させて貰ったが、魔力はまだ戻っていないし、それはお前らも……いや、コウヤはツヤツヤしてるが……次はボス部屋の筈だから、先ずは当初の目的である『アリス救出』をしっかり完了させよう」
妙に調子が良さそうな血色のコウヤを除き、俺とルイ、アリスは少なくとも不測の事態に対応出来る魔力までは回復していなかった。
「それもそうね、特にあんたは心にも大きな傷を……いえ、何でもないわ」
「確かに、早くヤナ君の汚れちゃった心を癒さないと……ううん、何でもないよ」
「……お前ら……」
二人を睨みつけながら、俺は深いため息を吐いた。そして、シェンラに迷宮の外への転移を頼んだ。
「よし!それでは妾の身体に触れるのじゃ!」
俺はシェンラに頭に手を乗せ、他の三人は肩に手を乗せていた。
「……何故、お主だけ頭なのじゃ?」
シェンラは俺を見上げながら、半眼を向けてきた。
「サイズ的に調子良くてな。ほれ、さっさと頼む」
「くっ、妾の頭に手を乗せるなどと……」
シェンラは、一人ぶつぶつと呟いていたが、しぶしぶといった感じで、転移魔法を起動した。
「頭に手を乗せるには、今回だけじゃからな! それでは迷宮から外へ転移お願いなのじゃ!」
「お願い?」
次の瞬間、俺たちは迷宮の外へと転移していた。
『あっ、またシェンラのあっちの姿用の転移陣使っちゃった……まぁ、いっか。そんな事より、こっちよね』
「「「は?」」」
「おい……」
「またなのじゃぁあああああ!」
俺たちは、迷宮の外へと確かに転移したが、同時に街に向かって自由落下していた。
「『ヤナだ。今話せるか?』」
「『ヤナ君!? 今どこなの!? 急に電光掲示板からヤナ君達の表示が消えて、今びっくりしたところなの!』」
シラユキに呼出すると、通話越しでも分かるくらいの涙声になっていた。
「『全員で、ちゃんと迷宮の外には出たから、大丈夫だ』」
俺がシラユキにそう告げると、後ろでアリスの絶叫とルイのはしゃぐ声が聞こえてきたが、全部スルーした。
「『……取り敢えず、アリスがいる事は声が聞こえたからわかったわ。無事そうには聞こえないんだけど……今何処にいるの? それに声が聞こえてないけど、コウヤとシェンラちゃんは?』」
「『コウヤか……げっ……『浄化』……うん、無事だ。何もない。ダイジョウブ』」
「『何で片言になってるのよ……』」
コウヤに目を向けた瞬間、色々危うく再びコウヤが狂気に堕ちそうな目をしていたので、すぐさま誰かに気づかれる前に『浄化』をかけた。
そして、シェンラは何か誰かに文句を言っているような表情と口の動きだったが、急に真剣な表情に変わり、そのまま何か考え込むような仕草しながら落下していた。
「『シェンラは、何か色々別件での用事があるみたいだが、しっかり無事に一緒に迷宮から出てきてるぞ』」
「『そう、よかった。みんなが無事ならよかったわ。それで、今結局何処なの?』」
「『もうすぐ、着くからアシェリ達も連れて、建屋の外に出て空を見上げろ』」
「『……なんでまた、そんな事に……』」
シラユキの酷く同情的な声が聞こえた所で、俺はシラユキとの通話を切り、着地の準備を整え始めた。準備ができた所で、エディスにも通話で帰ってきたことを告げた。当然何処にいるのかという話になり、シラユキに伝えた通り、ギルド本部の窓から空を見ろと告げると、呆れながらも笑っていた。
「『ふふふ、派手ね。あなた、まるで神の使い……いや寧ろその漆黒の翼じゃ、あなたが魔王みたいよ?』」
「『ちょっと無茶してな。魔力回復薬を飲んだが、まだ神火魔法を使えるまでは回復しなくてな。取り敢えず、迷宮出口に降りるぞ』」
「『分かったわ。私もそっちに向かうわ、またあとでね』」
「『あぁ、またあとでな』」
そして、俺は二対に広げた漆黒の大翼の其々に四人を乗せ、パラグライダーで滑空するかの様に、迷宮の出口へと降りて行ったのだった。
その日、『竜が眠り女神が護る地』に空から巨大な二対の漆黒の大翼を広げた者が、空からゆっくりと降りてくる様を、迷宮都市に住む住人や冒険者、探索者等の大勢の目に入ることになった。
その漆黒の炎である大翼を広げたまま、降りてくる様に人々は畏怖の念を感じながらも、不思議と恐怖は湧かなかった。しかし、見た目はまさに『魔王』の如き姿であった為、大騒ぎにはなってしまっていた。エディスと共にギルドの窓からヤナの様子を一目見たゴーンベ室長が一瞬にして青い顔になり、関係各所にアレは敵でなくギルド所属冒険者である事を伝え周り、事態の沈静化をはかるために奔走したのだった。
「えらい騒ぎになっちまったな」
俺が四人を漆黒の翼に乗せたまま迷宮の出口に着地すると、俺たちを囲むように人だからが出来ていた。
「あなた、わかってて遊んだんでしょう」
「主様が、あの様な登場の仕方をするからだと」
「ヤナ様、ゴーンベ室長様が死にそうな顔で走り回ってましたよ」
「ヤナ、私も今度アレに乗せてほしい」
ゴーンベ室長の様子を想像して悪い気になったが、ライに今度せがまれたら絶対にもう一度やろうと心に決めた。
「コウヤ達も、お疲れさん。今日はもう夜になっちまったから、俺たちは宿屋に戻るが、お前達は宿を取ってあるのか?」
「ヤナ様と、恐らく同じ宿だと思いますよ」
ミレアさんが、勇者達が答える前に俺の質問に答えてきた。
「シェンラは、どうするんだ?」
俺は、地上に降りてからも難しい顔をしていたシェンラに話しかけた。
「妾は、ここでお別れじゃ。ちと野暮用が出来たのじゃ。勇者達よ、悪いが迷宮案内人の仕事は続けられぬ、すまぬな」
シェンラは用事が出来たらしく、勇者達から依頼されていた迷宮案内人の仕事も断りを入れていた。勇者達も、それに関して快く受け入れていた。
「そうか、呼出の使い方は覚えているな? 何かあれば、いつでも呼出していいからな」
「……わかったのじゃ」
「別に今生の別れってもないだろ、そんな顔をするなよ。また会えるさ」
「約束してくれるかの?」
「もう、約束ならしているだろ。それにシェンラが、何故勇者達の世界の言葉を知っているか教えてくれる約束は、まだ果たしてないぞ? それまでは、お前こそちゃんと会いにこいよ」
「そうじゃったの。では、また会ったその時にでも、教えてやるのじゃ! さらばじゃ!」
そういうと、転移の術を使ったのかシェンラは一瞬にしてその場から消えていなくなった。
そして、俺たちは宿屋へと向かって歩き出したのだった。
「ねぇ、ヤナ?」
「ん? なんだ」
宿屋へと全員で歩いていると、アリスが横に近づいて来て、俺の名前を小声で呼んできた。
「『接続』した時に、何か私のこと分かったの? 私は全然変わらなかったから、実際どうだったのかなって」
「……え?……あぁ、アレだ、思った以上に情報が一気に流れ込んできてな、すぐさまヤナビに情報統制を委譲したから、殆ど俺はアリスの事を知ることはなかったぞ」
俺は、アリスの記憶の情報の中で、涙ぐましい努力の映像記録が見えてしまっていた。あまりに必死な表情が印象的で、何故か頭に残っていた記憶があるが、覚えていない振りをした。
「それじゃ、私の気持ちとかは、伝わっていない? もしかして伝わったかもと、思ったんだけど」
アリスは、もじもじしながら自分の胸元に視線を落としながら顔を若干赤くしていた。その為、俺はアレの事だと確信し、あくまで気づいていない振りをするかどうか迷った。しかし、アリスが何か言って欲しそうな顔を向けてくるので、ここは俺の意見を述べる事にした。
「気持ち? あぁ、ソレの事か……まぁ、アレだ、気にする事はないと思うぞ? 確かに無い事は、有る事を羨ましいと思うのは仕方ないと思うが、無い事もアリスの個性だと俺は思う。だから、自身もって胸を張ればいいんだ」
俺は、ドヤ顔の笑顔でアリスを精一杯励ました。
「……無い? 有る? 何の話?」
「ん? アレだろ? 牛乳沢山飲みながら揉んでみたりとか、何か変な通販の道具みたいなの試したりとか、少しでも大きくしようと、涙ぐましい努力……を……何故、魔力回復薬を一気飲みしている……もう、宿屋で寝るだけだぞ……?」
俺が、シェンラに負けじ劣らずに絶壁なアリスが、諦めずに立ち向かう姿を見て勇気を貰ったという事を、アリスに伝えると、何故かアリスはシラユキから高級魔力回復薬を貰い、一気のみしていた。
アリスに高級魔力回復薬を渡したシラユキに目を向けると、シラユキも俺に向かって首を傾げていた。
「アリス?……何故ブツブツと小声でえらい長い詠唱を唱えてるんだ? ここはもう、迷宮の最奥じゃないぞ?」
そして、杖を俺に向かって構えながら、これまで聞いたこと無いほど長い詠唱をアリスは光の消えた目を俺に向けながら、唱えていた。
「……『大地激甚隆起』」
「な!? ぐへら!?」
いきなり足元が一気に隆起し、俺を空へと吹き飛ばした。
「な!? 何する……んだ?」
俺が瞬時に街の上空まで打ち上げられ、何を血迷ったかとアリスを空から見ると、声は遠くて聞こえないが、何故か唇の動きで何を言ったか分かってしまった。
『シネ』
アリスが次に唇が何かの詠唱を呟いているのが分かった瞬間、アリスから俺に宇宙に向かった某戦艦の主砲を思い起こさせるような魔力砲が放たれた。
「ぎゃああああああ!」
俺の断末魔の叫びが、迷宮都市の上空で響き渡った。
そして、俺は星になった。
命からがら俺が宿屋に戻る頃には、俺の新たな二つ名が広がっている事を、アシェリ達が宿屋の食堂で耳にしたらしい。
『星になった人』
俺は人知れず、枕を濡らすのだった。
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