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第六章 偽り
天敵
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「不屈の男か……ふふふ、差し詰め僕が悪のラスボスってところだね」
口調が元のチャラ男に戻った悪神が、確認しなくても良い事を言っている。
「当たり前だろう、他のどんな配役もお前にはあたらねぇよ」
「それに囲っていた女を、そして囲おうとしていた女を、間男に奪われた憐れな男かな僕は」
「酷いストーカー拉致男に付け狙われていた女を、助ける格好いい男だな俺は」
お互いに相手の目を見ながら、俺と悪神は嗤い合う。
そして、ライを再び俺の横へと引き寄せたところで、後ろの三人の気配が此処にそろそろ着くのを感じた。
「ほら、今度はちゃんと僕の物だよって名札をつけておいた女達が来たよ。君に名札を外されちゃったみたいだけどね」
「うるせぇよ、誰もクソヤロウの名札なんぞ、付けられる必要ねぇんだよ」
「本当に、君はもう少し神という者に敬意を払うべきだと思うよ。君の世界にも、神はいたんだろう?」
「元の世界では、神棚に毎朝きちんと手を合わせていたよ。お前が、クソヤロウな駄神だからしないだけだ」
俺が、そう吐き捨てると悪神は嗤っていた。
「楽しみだよ。君が僕と戦う決断が出来るかどうかを、見るのがね」
「戦う決断? もうそれなら、しているが?」
俺は、悪神の言い方に違和感を感じて聞き返すが、悪神は薄気味悪く嗤うだけで、それ以上答えなかった。
「あなた!」
「主様!」
「ヤナ様!」
三人が、俺の元へと駆け寄ってきた。日頃の鍛錬の成果だろう、かなり速い速度で向かってきていたのは感知していたが、三人は息の乱れがなく自然と悪神に対して身構えていた。
「マスター、感心するところがそこですか……」
俺が三人の様子に感心していると、何故かヤナビに呆れられたが意味が分からない。
「あなた、あそこの薄気味悪い笑みを浮かべたクソヤロウは誰?」
「いきなりな挨拶じゃないか、エルフ族の巫女よ。神である僕にそんな汚い言葉使いをするなんて、付いていく男を間違えたんじゃないのかい?」
「神?……悪神!?」
エディスのその言葉に、他の二人も身体が強張った。
「そんなに、怯えなくていいじゃないか、獣人族の巫女と人族の巫女よ。三人共、久し振りと言うべきかな? やはり、お前達は転生を繰り返したとして、いつも美しいな」
「悪神に美しいと言われても、毛が逆立つだけですね」
「そうですね、イラついて金棒を持つ手が、震えるだけです」
アシェリとセアラも悪神に対して、怒気を向けている。
「おい、エディスは魔族に聖痕を見られていない筈だぞ。お前何故、巫女だと知っていた」
俺は悪神がこちらに向かってきている時点で、三人が巫女だとわかっている口振りなことが気になっていた。
「だから、君は神を舐めすぎだよ。世界に顕現さえすれば『鑑定』ぐらい訳ないに決まっているだろう。それに、あの女神クリエラの眷属とも言える様な魂だ。見間違える無いだろう、あんなに美しい魂をさ」
悪神は舐め回すような目線を四人の巫女へと向けた。
「気持ち悪い……」
ライが俺の後ろへと隠れながら、そう呟く。
「あぁ、アレを粘着質のストーカーって言うんだ。お前、女神にまでちょっかいをかけようとしているのか」
「ふふ、元々は女神クリエラが欲しかったんだけど、喧嘩しちゃってさ。まぁ、君の世界の言葉にあるだろう?『嫌よ嫌よも好きのうち』ってさ」
「お前みたいな奴に、そう言われる女が気の毒過ぎるな」
俺が悪神の言葉に対して、そう吐き棄てると悪神は嗤いながら更に口を開いた。
「そろそろ、コレの時間も終わりなようだね」
悪神は、そう言うと次の瞬間には口調が変わり、俺へと言葉を向ける。
「不屈の男よ、我は簒奪神ゴドロブである。精々足掻く事だ。そして、お前の決断が世界を滅ぼす事になる。その時、お前は絶望に倒れる事になるだろう」
「簒奪神ゴドロブよ、必ずお前のところへ行く。それまでその汚ねぇ神の座に、座っているといい」
そして、俺は神殺しの刀『天』『地』を振り抜いた。
「俺は、お前の天敵だ」
「楽しみにしているぞ、不屈の男よ」
そして、ケンシーの身体を使い顕現していた簒奪神ゴドロブは、俺が切り捨てると、捨て台詞を吐きながら灰となり崩れ落ちた。
俺は黙って、その様子を見ていた。
「必ず……」
そして、俺は討つべき神と直接言葉を交わし、改めて敵だと認識した。
「あなた、大丈夫?」
「ん? あぁ、心配無い。あんなクソ神なんぞ叩き切ってやる」
「そっちじゃなくてね、あなたの身体なんだけど」
「ん? 身体?」
「えぇ、あなたが真面目な顔で悪神の灰を見ている間に、黄金の輝きが消えて」
「消えて?」
「あなた、血だるまよ?」
「はい?」
「ほら、足元見てみなさいよ。血の海だから」
俺はエディスに言われて、足元を見ると確かに誰かの血で真っ赤な水溜まりが出来ていた。
「………ごほぉあ!?……死中求活が……切れたからか……ぐぅう」
死中求活によって、身体を侵食していた瘴気は全て吹き飛ばしたが、傷つけられた傷までは治っていなかった。
「主様! 回復薬を!」
アシェリが鞄から回復薬を出そうとしていたが、それを遮りライが魔法を唱える。
「『神聖なる空間』」
俺の四方を屋敷の時と同じように、神聖なる壁が囲んだ。
「これは……聖魔法とも違う?」
セアラが『神聖なる空間』の中で、回復していく様子を見ながら呟いた。
「これは、神聖魔法」
その呟きに答えるように、ライが口を開いた。
「神聖魔法ですって?……文献でも見た事が有りません……貴方は一体……」
セアラが驚愕の表情でライ見ているが、ライは困ったような顔で俺を見る。
「どうした?」
「ヤナに身体を綺麗にしてもらった時に、覚えている事と覚えていない事が出来たの」
「覚えている事と覚えていない事?」
「うん、魔王城にいた時の記憶は靄がかかったみたいであまり思い出せない」
俺は、その事を聞いて、ある意味では少しホッとしていた。魔族の中にいたという事は、何かしら人に仇なす事をしている可能性が高かったからだ。
その事に関して、罪があるのか無いのかと言われれば、俺にはまだそれに対して応えるだけの、自分の中に答えを持つ事が出来ていなかった。
「……そうか、それで覚えている事とは?」
「悪神に見せられた、これまでの私の記憶」
「……全てのか?」
「うん」
俺は、それを聞き、流石に顔を顰めた。
「マスター、他の三名にもきちんと話した方が良いと思いますよ?」
「あぁ、確かにそうだな。一旦屋敷へと戻るか、ライが無事なのも伝えないといけないしな」
「その前にマスター、ライ様の格好がエロカッコイイからずっと見ていたいと言うお気持ちは分かりますが、屋敷の時の姿になってもらった方が良いのでは? まぁ、マスターがエロカッコイイ姿と何処か幼い感じの話し方にギャップ萌を感じるなら、特に私からいう事はありませんが」
「……ライ、屋敷にいた時の姿になれるか?」
「うん」
ライが、すっと目を閉じると悪の女幹部的セクシー衣装から、屋敷に居た時の清楚なお嬢様という姿へと変わった。
「見事ね……詠唱も言葉も無しに全身の姿を変えるなんて」
「はい、私の獣化とも違いますが、少し似ている気もしますね」
「さっきの衣装、自分で作れるかしら」
「ライのさっきの衣装は、再現することを禁止する」
「な!?」
セアラが神聖魔法を見た時以上に驚愕してそうな顔をしたが、スルーした。
「おっとっと、傷は治ったけどまだクラッとするな。流石に、血は戻らないのか?」
俺が、神聖魔法で何処まで元に回復するのか考えていると、三人が俺を見ながら微笑む。
「……なんだ?」
「大丈夫よ、あなた今日はもう遅いから、明日の夜にでも元気になれるから」
「まぁ、確かにもう、今日はまだこれから屋敷に行ったりなんだかんだとしなくちゃならんし、休めるのは明日だろうけど……何故に夜?」
俺は、若干の寒気を感じながらエディスに聞くが、エディスは笑顔のまま答えない。
「主様、みんな主様を心配しているという事ですよ」
「あぁ、うん、そうか、ありがとう。それじゃ、とりあえず帰ろうか」
結構、岩山近くまで移動してきていたので、神火の馬車で屋敷の前まで全員で戻ってみると、既に屋敷の人間が戻ってきている所だった。
「お、流石商人だな。脅威がいなくなったら、すぐに屋敷に戻ってくるとは逞しいな」
俺が、そんな事を呟きながら、神火の馬車からライとともに降りて、屋敷の門へ向かった。
「ヤナ殿! ライはいるか!」
俺を見つけた屋敷の主人のキンナリが、こちらへ憤怒の表情で向かってきている。
「なんで、あんなに怒っているんだ? やっぱり、ここにいる間もしかして魅了系のスキルか魔法使っていたか?」
俺は、これまでのキンナリとあまりにも違う表情から、ライが魅了を使っていたと予想して、その事について確認した。
「使ってたかも? よく覚えてない」
「はぁ、やっぱりか。どう説明しようかな」
俺が、悩んでいるうちに、キンナリと執事のセバスの二人が目の前まで走ってきた。
「ヤナ殿! すぐに、そこの女を差し出せ!」
「そうですぞ! ヤナ殿、その女は私たちを騙していたのです!」
二人が、捲したてるように怒鳴っているものだから、俺は後ろに怖がって隠れていたライへ向かって口を開いた。
「ライ、意識があまりなかったかもしれないが、騙していたのは事実だからな。先ずは、きちんと謝っとけ」
「うん」
そして、ライは少し震えながらも、キンナリとセバス前に出ていった。
「本当に……ごめんなさい…」
そして、しっかりと頭を下げたのだった。
「ちょっと事情があってな、きちんと説明するから、一先ず穏便にしてもらえ……何?」
「ごふぁ!」
「げふぁ!」
二人が再び顔を上げたライを見るなり、地面に四つん這いになった。
「セバス……これは…」
「キンナリ様……はい、その様に」
「大丈夫?」
ライが二人を心配して声をかけると、一斉に二人立ち上がり、和かな表情をしていた。
「ライよ。この度は大変だったな。さぁ、屋敷でしっかり休むがよい」
「ライ様、暖かい飲み物もご用意致しますので、ささ」
「は? ライ、魅了したのか?」
俺は、いきなり豹変した二人の様子を見て、ライにその事を聞いてみた。
「ううん、してないよ?」
ライも不思議そうにしていたので、俺は二人に聞いてみた。
「あんたら、さっき怒ってなかったか? ライに騙されたとか言って」
「なんの事ですかな? 分かるか、セバスよ」
「いえ、私にもなんの事だか?」
「マスター、恐らくお二人は、再度ライ様を見て、怒って追い出すよりも、このまま養女にした方が良いと判断したのでしょう」
「はい? 何で?」
俺が、ヤナビの予想に困惑しているとそれを聞いた二人は、口を揃えて答えた。
「「かわいいは、最強だ!」」
「バカばっかだろ……この世界のおっさん…」
俺が呆れていると、キンナリが口を開いた。
「屋敷なんぞは、別にどれだけ壊れても、直せばよいからな。それより、このライが、娘になったままの方が良い」
「だが、素性が知れないんだぞ?」
「そんな純真な瞳をしている娘が、悪い娘な筈がない!」
固く拳を握りしめ、力説するキンナリに呆れながらも、話を続ける。
「はぁ、全く……まぁ、確かに瘴気を払ってからは、瞳が純粋というか純真に見えるがな」
「そんなわけで、婿殿も屋敷へ一緒に参ろうでは無いか」
「はい?」
ここから俺の、新たな戦いが始まる
口調が元のチャラ男に戻った悪神が、確認しなくても良い事を言っている。
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「酷いストーカー拉致男に付け狙われていた女を、助ける格好いい男だな俺は」
お互いに相手の目を見ながら、俺と悪神は嗤い合う。
そして、ライを再び俺の横へと引き寄せたところで、後ろの三人の気配が此処にそろそろ着くのを感じた。
「ほら、今度はちゃんと僕の物だよって名札をつけておいた女達が来たよ。君に名札を外されちゃったみたいだけどね」
「うるせぇよ、誰もクソヤロウの名札なんぞ、付けられる必要ねぇんだよ」
「本当に、君はもう少し神という者に敬意を払うべきだと思うよ。君の世界にも、神はいたんだろう?」
「元の世界では、神棚に毎朝きちんと手を合わせていたよ。お前が、クソヤロウな駄神だからしないだけだ」
俺が、そう吐き捨てると悪神は嗤っていた。
「楽しみだよ。君が僕と戦う決断が出来るかどうかを、見るのがね」
「戦う決断? もうそれなら、しているが?」
俺は、悪神の言い方に違和感を感じて聞き返すが、悪神は薄気味悪く嗤うだけで、それ以上答えなかった。
「あなた!」
「主様!」
「ヤナ様!」
三人が、俺の元へと駆け寄ってきた。日頃の鍛錬の成果だろう、かなり速い速度で向かってきていたのは感知していたが、三人は息の乱れがなく自然と悪神に対して身構えていた。
「マスター、感心するところがそこですか……」
俺が三人の様子に感心していると、何故かヤナビに呆れられたが意味が分からない。
「あなた、あそこの薄気味悪い笑みを浮かべたクソヤロウは誰?」
「いきなりな挨拶じゃないか、エルフ族の巫女よ。神である僕にそんな汚い言葉使いをするなんて、付いていく男を間違えたんじゃないのかい?」
「神?……悪神!?」
エディスのその言葉に、他の二人も身体が強張った。
「そんなに、怯えなくていいじゃないか、獣人族の巫女と人族の巫女よ。三人共、久し振りと言うべきかな? やはり、お前達は転生を繰り返したとして、いつも美しいな」
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「そうですね、イラついて金棒を持つ手が、震えるだけです」
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俺は悪神がこちらに向かってきている時点で、三人が巫女だとわかっている口振りなことが気になっていた。
「だから、君は神を舐めすぎだよ。世界に顕現さえすれば『鑑定』ぐらい訳ないに決まっているだろう。それに、あの女神クリエラの眷属とも言える様な魂だ。見間違える無いだろう、あんなに美しい魂をさ」
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「気持ち悪い……」
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「あぁ、アレを粘着質のストーカーって言うんだ。お前、女神にまでちょっかいをかけようとしているのか」
「ふふ、元々は女神クリエラが欲しかったんだけど、喧嘩しちゃってさ。まぁ、君の世界の言葉にあるだろう?『嫌よ嫌よも好きのうち』ってさ」
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俺が悪神の言葉に対して、そう吐き棄てると悪神は嗤いながら更に口を開いた。
「そろそろ、コレの時間も終わりなようだね」
悪神は、そう言うと次の瞬間には口調が変わり、俺へと言葉を向ける。
「不屈の男よ、我は簒奪神ゴドロブである。精々足掻く事だ。そして、お前の決断が世界を滅ぼす事になる。その時、お前は絶望に倒れる事になるだろう」
「簒奪神ゴドロブよ、必ずお前のところへ行く。それまでその汚ねぇ神の座に、座っているといい」
そして、俺は神殺しの刀『天』『地』を振り抜いた。
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そして、ケンシーの身体を使い顕現していた簒奪神ゴドロブは、俺が切り捨てると、捨て台詞を吐きながら灰となり崩れ落ちた。
俺は黙って、その様子を見ていた。
「必ず……」
そして、俺は討つべき神と直接言葉を交わし、改めて敵だと認識した。
「あなた、大丈夫?」
「ん? あぁ、心配無い。あんなクソ神なんぞ叩き切ってやる」
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「ん? 身体?」
「えぇ、あなたが真面目な顔で悪神の灰を見ている間に、黄金の輝きが消えて」
「消えて?」
「あなた、血だるまよ?」
「はい?」
「ほら、足元見てみなさいよ。血の海だから」
俺はエディスに言われて、足元を見ると確かに誰かの血で真っ赤な水溜まりが出来ていた。
「………ごほぉあ!?……死中求活が……切れたからか……ぐぅう」
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「主様! 回復薬を!」
アシェリが鞄から回復薬を出そうとしていたが、それを遮りライが魔法を唱える。
「『神聖なる空間』」
俺の四方を屋敷の時と同じように、神聖なる壁が囲んだ。
「これは……聖魔法とも違う?」
セアラが『神聖なる空間』の中で、回復していく様子を見ながら呟いた。
「これは、神聖魔法」
その呟きに答えるように、ライが口を開いた。
「神聖魔法ですって?……文献でも見た事が有りません……貴方は一体……」
セアラが驚愕の表情でライ見ているが、ライは困ったような顔で俺を見る。
「どうした?」
「ヤナに身体を綺麗にしてもらった時に、覚えている事と覚えていない事が出来たの」
「覚えている事と覚えていない事?」
「うん、魔王城にいた時の記憶は靄がかかったみたいであまり思い出せない」
俺は、その事を聞いて、ある意味では少しホッとしていた。魔族の中にいたという事は、何かしら人に仇なす事をしている可能性が高かったからだ。
その事に関して、罪があるのか無いのかと言われれば、俺にはまだそれに対して応えるだけの、自分の中に答えを持つ事が出来ていなかった。
「……そうか、それで覚えている事とは?」
「悪神に見せられた、これまでの私の記憶」
「……全てのか?」
「うん」
俺は、それを聞き、流石に顔を顰めた。
「マスター、他の三名にもきちんと話した方が良いと思いますよ?」
「あぁ、確かにそうだな。一旦屋敷へと戻るか、ライが無事なのも伝えないといけないしな」
「その前にマスター、ライ様の格好がエロカッコイイからずっと見ていたいと言うお気持ちは分かりますが、屋敷の時の姿になってもらった方が良いのでは? まぁ、マスターがエロカッコイイ姿と何処か幼い感じの話し方にギャップ萌を感じるなら、特に私からいう事はありませんが」
「……ライ、屋敷にいた時の姿になれるか?」
「うん」
ライが、すっと目を閉じると悪の女幹部的セクシー衣装から、屋敷に居た時の清楚なお嬢様という姿へと変わった。
「見事ね……詠唱も言葉も無しに全身の姿を変えるなんて」
「はい、私の獣化とも違いますが、少し似ている気もしますね」
「さっきの衣装、自分で作れるかしら」
「ライのさっきの衣装は、再現することを禁止する」
「な!?」
セアラが神聖魔法を見た時以上に驚愕してそうな顔をしたが、スルーした。
「おっとっと、傷は治ったけどまだクラッとするな。流石に、血は戻らないのか?」
俺が、神聖魔法で何処まで元に回復するのか考えていると、三人が俺を見ながら微笑む。
「……なんだ?」
「大丈夫よ、あなた今日はもう遅いから、明日の夜にでも元気になれるから」
「まぁ、確かにもう、今日はまだこれから屋敷に行ったりなんだかんだとしなくちゃならんし、休めるのは明日だろうけど……何故に夜?」
俺は、若干の寒気を感じながらエディスに聞くが、エディスは笑顔のまま答えない。
「主様、みんな主様を心配しているという事ですよ」
「あぁ、うん、そうか、ありがとう。それじゃ、とりあえず帰ろうか」
結構、岩山近くまで移動してきていたので、神火の馬車で屋敷の前まで全員で戻ってみると、既に屋敷の人間が戻ってきている所だった。
「お、流石商人だな。脅威がいなくなったら、すぐに屋敷に戻ってくるとは逞しいな」
俺が、そんな事を呟きながら、神火の馬車からライとともに降りて、屋敷の門へ向かった。
「ヤナ殿! ライはいるか!」
俺を見つけた屋敷の主人のキンナリが、こちらへ憤怒の表情で向かってきている。
「なんで、あんなに怒っているんだ? やっぱり、ここにいる間もしかして魅了系のスキルか魔法使っていたか?」
俺は、これまでのキンナリとあまりにも違う表情から、ライが魅了を使っていたと予想して、その事について確認した。
「使ってたかも? よく覚えてない」
「はぁ、やっぱりか。どう説明しようかな」
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「ヤナ殿! すぐに、そこの女を差し出せ!」
「そうですぞ! ヤナ殿、その女は私たちを騙していたのです!」
二人が、捲したてるように怒鳴っているものだから、俺は後ろに怖がって隠れていたライへ向かって口を開いた。
「ライ、意識があまりなかったかもしれないが、騙していたのは事実だからな。先ずは、きちんと謝っとけ」
「うん」
そして、ライは少し震えながらも、キンナリとセバス前に出ていった。
「本当に……ごめんなさい…」
そして、しっかりと頭を下げたのだった。
「ちょっと事情があってな、きちんと説明するから、一先ず穏便にしてもらえ……何?」
「ごふぁ!」
「げふぁ!」
二人が再び顔を上げたライを見るなり、地面に四つん這いになった。
「セバス……これは…」
「キンナリ様……はい、その様に」
「大丈夫?」
ライが二人を心配して声をかけると、一斉に二人立ち上がり、和かな表情をしていた。
「ライよ。この度は大変だったな。さぁ、屋敷でしっかり休むがよい」
「ライ様、暖かい飲み物もご用意致しますので、ささ」
「は? ライ、魅了したのか?」
俺は、いきなり豹変した二人の様子を見て、ライにその事を聞いてみた。
「ううん、してないよ?」
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「なんの事ですかな? 分かるか、セバスよ」
「いえ、私にもなんの事だか?」
「マスター、恐らくお二人は、再度ライ様を見て、怒って追い出すよりも、このまま養女にした方が良いと判断したのでしょう」
「はい? 何で?」
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「だが、素性が知れないんだぞ?」
「そんな純真な瞳をしている娘が、悪い娘な筈がない!」
固く拳を握りしめ、力説するキンナリに呆れながらも、話を続ける。
「はぁ、全く……まぁ、確かに瘴気を払ってからは、瞳が純粋というか純真に見えるがな」
「そんなわけで、婿殿も屋敷へ一緒に参ろうでは無いか」
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