上 下
113 / 165
第六章 偽り

格好は大事

しおりを挟む
「『という訳で、お前達がクエストを完了して帰ってくるまでの間、そのお嬢様の尊属護衛クエストを受ける事になった』」

 俺は、ライの専属護衛を引き受けた事を、仲間パーティ通話チャットでアシェリ達に報告した。


「『何がという訳でなのよ、あなた。予想通りにしてやられてるじゃない』」

「『主様、もはや驚きはしませんが、何故か溜息が出てしまいます』」

「『ヤナ様がよく仰っている、正にお約束テンプレですね』」


「『………で、いつ帰ってくる?』」


「『その縋るような声は、そそるけどまだ無理ね』」

「『近くにいる時に、そう言う声でお願いしてください』」

「『大丈夫ですよ? 私達が帰ったら元気に・・・なりますから』」

 全員に見捨てられ、俺は通話チャットを切り、トボトボと屋敷の食堂へと向かった。



「はぁ、こんな事ならあいつらに付いていけばよかった……元気が出ねぇよ」

「盛り盛り特盛の朝御飯を遠慮なく食べているマスターは、先ず説得力がないですね」

「それとこれとは、別だからな」

「流石、もう慣れっこですね、よっ! このお約束男テンプレマン!」

「やかましいわ! マンつければ、何でもヒーローっぽくなると思うなよ!」

 俺は、ヤナビと軽口を言い合いながら、朝飯食べ続けるのであった。



「色々予定外だったけどぉ、結果ちゃぁんと助けられたしぃ、まぁいっかぁ」

 私は、あの男がヤナ助けに来た時を思い出していた。

「次は、どうしよかなぁ?」

 元々、アレ誘拐魔に引き続き、次の役もやってもらうつもりだった為、変わりを用意しないといけなかった。

 アレ誘拐魔ぐらいでは、あの男ヤナの相手に成りそうにならない為に、私は少し考えた後に一人の魔族の姿を思い浮かべた。

「ケンちゃんに、お願いしようかなぁ。玩具みつけたら教えろって言ってたしぃ」

 私は、次の配役の準備をするべく準備を始めた。

「『貴方を近くに空間接続魔法』『貴方接続対象:ケンちゃん』」

 私は、指定した空間の一部を繋げる『貴方を近くに空間接続魔法』で『貴方接続対象』をケンちゃんに設定して、魔法を発動した。

「『はぁい、ケンちゃぁん、元気ぃ?』」

「『あぁ? アイラスか、お前今何処にいるんだ?』」

「『内緒ぉ』」

「『内緒って、お前なぁ……お前目と耳がないんだから、どこ行くかは誰かに言っておけ』」

 ケンちゃんの呆れた声が、繋げた空間の穴から聞こえてくる。

「『いいじゃぁん、その代わりぃ面白い玩具あげるからぁ』」

「『ほほう、其れならば良いだろう。アイラスが、面白いという位だ。楽しめそうなんだろうな?』」

 ケンちゃんの獰猛な声が、聞こえてくる。

「『うぅん、多分? まぁ、普通の名持ちネームドじゃ、話にならないくらいかなぁ?』」

「『あん? えらく曖昧だな。直接見てないのか?』」

「『見てなぁい、だって私、途中で寝ちゃったしぃ』」

 そもそも、捕まっているフリをして部屋にいたので、戦い自体は見ていない。

「『何だそりゃ? 大丈夫かよ、すぐ壊れちまうんじゃないのか、その玩具』」

「『でも、私の空間に斬って入ってきたよぉ? 見てないけど、ケンちゃんに前斬られた時とぉ同じ感覚が伝わってきたしぃ』」

「『ほう、それは中々良い情報だな。アイラスの空間を斬るってこたぁ、次元を斬る力はあるって事だ。それならば、雑魚名持ちネームドじゃ話にならんだろう。よし、どうしたらその玩具と遊べるんだ?』」

「『それはねぇ……』」



 ライは、誘拐から帰って来たところであった為、自分の部屋で休むと言って食事も部屋で済ませていた。その為、専属護衛としての仕事もなかったので、ひとまず屋敷の使用人の休憩所で横になり、休ませてもらう事にした。

「あれ? セバスも休んだりするんだな」

「勿論、私も人間ですから、休憩くらいとりますぞ?」

「勝手な想像で、執事って常に働いていると思っててな。そりゃ、休むよな」

 俺が寝転んでいたソファーから座り直して、セバスと雑談をしていると慌てた様子で、若い使用人の女性が休憩所に駆け込んできた。

「セバス様! 今玄関に矢文が!」

「なんだと!?」

「矢文って、また古風だなおい」

 その女性が玄関前を掃除していたところ、何処からともなく気付いた時には、矢文が玄関の扉に刺さっていたそうだ。

 矢文を受け取ったセバスが、書いてある文字を読みながら、ワナワナと震えている。

「なんて書いてあったんだ? 誘拐の次は、命を狙いに来るってか?」

 俺が、そう言うとセバスは俺に勢いよく顔を向けて、絶句していた。

「あぁ、マジでそうなのね……」

 俺が呆れていると、セバスが口を開く。

「はい……ヤナ様の仰る通りです。ライ様のお命を、貰いに参ると書いてあります」

「相手の名前やいつ来るかなんかは、まさか書いてあったり?」

 俺が、そう問いかけると、セバスは再度固まった。

「その通りでございます。何故、わかったのですか?」

「ん? そうしたほうが、筋書きシナリオが書きやすいだろ?」

「はい?」

 セバスが意味が分からないと言った顔をしていたが、スルー無視して、相手の名前といつ襲ってくるかを聞いた。

「『本日、日が落ち闇に沈む時、美しき女の命を貰い受ける。ケンシー』と書いてあります」

「剣士?」

「いえ、ケンシーです。本日、日が落ちる頃というと、ここで街の有力者を招いた舞踏会が行われる予定です。恐らく、その時と重なりそうです」

「先ず聞きたいんだが、昨日ライお嬢様誘拐されたってのに、今日の舞踏会は中止にしてなかったのか?」

 そもそも、誘拐の予告状が前日に出されている状況で、次の日の舞踏会が延期になっていないのはおかしいだろう。

「いえ、中止にすることは、誘拐犯に屈する事であり、もし中止を狙った狂言であった場合には、旦那様の顔が潰れる事となるため、その選択はありませんでした」

「そんなもんかねぇ。で、当然今回の暗殺予告に対しても中止はしないと?」

「旦那様にこれからお伝えしますが、当然その様な判断になるかと」

「はぁ……で、その場合は専属護衛の俺はどうしたら?」

「ヤナ様は、こちらで用意する服の着替えて頂きます。流石に上流階級の皆様の集まる舞踏会にそれ・・では……」

 セバスは、俺の格好いいイカした装備を指差し、言いにくそうにしていた。

「くっ、ジャケット着用じなきゃダメなのか!」

「マスター、そんなレベルじゃないですよ、きっと」

「……取り敢えず、夜来るって言ってるんだから、それまでは何もないだろ。昨日は寝てないから、夜までここで寝る。あっ、昼飯は食べに起きるからよろしく」

 セバスを含めてその場にいた使用人達に呆れらていたが、御構い無しに再びソファーで横になり目を瞑る。

「『ヤナビ、俺は本当に寝るが、周囲とライの部屋を警戒しておいてくれ』」

「承知しました、マスター」

 周囲とライの部屋の警戒をヤナビに頼み、俺は眠りについた。

 宣言通り、昼に一度飯を食べる為に起きた後は、再び休憩室のソファーで眠り、完全に身体を休ませる事に集中した。



「ヤナ様、そろそろ着替えをして、舞踏会の警護の準備をなさってください」

「ふあぁあ……よく寝た……分かった……その着る服ってのは、どれだ?」

「此方にございます」

「……何故、黒のスーツ? おまけにご丁寧に白のシャツに、黒ネクタイ。極め付けは編み上げの革靴?」

 まるで、何処ぞの名作映画の主人公のような格好に唖然としていると、更に無線となる魔道具のイヤホンを渡された。

「……これは、誰の趣味?」

「趣味? 昔より舞踏会等で警護する者の格好は、こうですが?」

「昔って?」

「さぁ? 確か何代か前の勇者様が、その様に決めたそうです」

「コスプレじゃねぇかぁああ!」

「エンダァアアアア! しましょうか?」

「俺が撃たれるフラグを立てるな!」

「自分で先に、立てたくせにぃ」

 俺は、そのボディガードのコスプレをしながら、ライの部屋へと向かったのだった。



 ライの部屋の前に着くと、扉の傍に使用人の女性が立っていた。

「ライは、そろそろか?」

「はい、中で舞踏会のドレスに着替えてらっしゃいます」

「一人か?」

?「いえ、使用人がお着替えをさせて頂いております」

「そうか、ならばここで待たせて貰おう」

 日は暮れ始めたが、まだ闇にはなっていない為、暗殺は起きないと判断し、部屋の外で待機した。

「まぁ、狙うならもっと劇的なタイミングだろうしな」

「何か?」

「いや、何でもない」

 若干、使用人の女性が訝しげな表情をしていたが、気づかないふりをして壁際に立ち、ライの準備が終わるのを待っていた。

 十数分待っていると、扉が開き、中から煌びやかなドレスを身を纏ったライが出てきた。

「今日は、よろしくお願いします」

「あぁ、任せておけ」

 俺とライは、それだけ言葉を交わすと、会場となる部屋へと歩き出すのであった。



 先に歩く俺の背中を、ライがどんな表情で見ているのか、俺は知る由もなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

上司に「これだから若い女は」「無能は辞めちまえ!」と言われた私ですが、睡眠時間をちゃんと取れば有能だったみたいですよ?

kieiku
ファンタジー
「君にもわかるように言ってやろう、無能は辞めちまえってことだよ!」そう言われても怒れないくらい、私はギリギリだった。まともになったのは帰ってぐっすり寝てから。 すっきりした頭で働いたら、あれ、なんだか良く褒められて、えっ、昇進!? 元上司は大変そうですねえ。ちゃんと睡眠は取った方がいいですよ?

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...