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第六章 偽り
ボディガード
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「ほほう、少しはやるじゃないか。もっと、俺を楽しませろ!」
「マスター、台詞が完全に悪役側です」
「はっ!? この間の後遺症か!」
「いやいや、マスターは元からそんなノリでしたよ?」
「何をゴチャゴチャ言っているのだ!」
俺とヤナビが軽口を戦いながら言い合っていると、誘拐魔族がイラつきながら叫んでくる。
「ほれ、さっさと『これが真の力だぁ!』とか言って、悪神から貰った力で変身しろよ。するんだろ?,ほれ、はよ」
「マスター、益々扱いが雑ですね」
「こいつら、悪神が作った精巧なロボかなんかじゃねぇのか? 大概ワンパターンで、強さもほぼ一緒だしな」
「侮辱するなぁぁああ! これが我の真の力ダァアアア!」
誘拐魔族は、俺に煽られて本当に変身していた。
「『明鏡止水『神殺し』『三重』『天下無双』『黒炎の全身鎧』『解除』」
「マスター、何故『黒炎の全身鎧』を『解除』したのですか?」
「今回は、きちんと俺が救出して、誘拐犯の誤解を解かないと行けないからな。あの屋敷で、知っている格好で助けた方が良いだろう」
勘違い女騎士ディアナの時の教訓を生かし、屋敷の護衛の際の格好で救出する事で、変な誤解を招くことなく、今の誘拐犯の汚名を拭おうと考えていたのだ。
「それに、少し鍛錬もしたいしな」
「鍛錬?」
「ダカラ貴様ラ! ワレをムシスルナァアアアア!」
変身誘拐魔族が、自分の変身が完了し咆哮を上げた。
「別に、無視なんかしてないさ。準備してただけだ。腕輪と指輪をつけている状態で、変身後のお前らが斬れるかどうか試したかったからな」
これまで、腕輪と指輪を外した全力でしか、変身後の魔族を斬ってこなかった。腕輪と指輪をつけた状態での、魔族に対する強さも確認しておきたかったのだ。
「ナニヲ言ってイル?」
「簡単に言えば、俺の鍛錬に付き合えってことだよ」
そして、俺は自分の動きを確認するかのように、変身誘拐魔族と戦いを続けた。
「遅い……折角、ちゃんと待っているというのに」
誰かが、この空間に侵入してきてから、随分時間が経っている。
「空間の中に、まだ居るのは間違いないのだけれども。戦闘音はずっと聞こえているから、別にアレに負けてしまったという事でもなさそうだけど」
私は部屋に椅子に座りながら、いつ主人公が迎えに来てくれても良いように、行儀よく待っている。
「早くぅ、飽きちゃうよぉお」
既に、限界だった。
「キサマ……ナンノツモリというか……バカなのか?」
「ぜぇぜぇ……お前らにバカって言われる筋合いはねぇよ……」
「マスター、戦闘に慣れたらどんどん身体強化の重ねがけを少なくしていって、最後には身体強化自体の発動止めるとか……バカですか?」
俺は、最初『天下無双』を『明鏡止水』で『三重』によって三倍掛けをしていたのだが、戦闘に慣れたら迷わず『双子』に切り替えた。その後、同じように慣れたら倍掛けを止め、今は『天下無双』の発動自体を止めている。
「危機は好機だろ?」
「「………」」
何故か、敵にまで呆れられた気がするが、絶対に気のせいに違いない。
「まぁ、でも流石にそろそろ夜明けだし。終わっておくか、鍛錬はランナーズハイみたいになると止まらんから困るな」
「……マスターだけだと、思います……」
俺は、ヤナビの呟きをスルーして、俺はボロボロになった身体で、何とか構えを取り最後の仕上げを行う。
「まぁ、最後はこれで終いだ……『起死回生』全力発動!」
「ハ!? ナンダ! そのチカラは!?」
「これだけ知っておけば十分だ……『ピンチはヒーローの見せ場』ってな!」
そして、変身誘拐魔を『天』『地』で両断した。
「ギャァアアア! 悪神様ァアアアア!」
誘拐魔は、見事なお約束の断末魔を吐いて、灰になり崩れ落ちた。
「敵ながら、天晴れな断末魔だったな」
「マスターは、どこに感心してるんですか……」
そして、戦闘中も死神の慟哭で、気配を感知していた建屋へと向かった。
「ここだな。中に気配もあるし、間違いないだろ」
おそらく、ライが居るであろう部屋の前まで来て、一度中の気配を確認した。
「おぉい、助けに来たぞぉ」
声を掛けるが、中から返答はなかった。
「別に弱っている気配じゃなかったが、寝てるのか? 入るぞぉ、入るからなぁ? ちゃんと声かけたからなぁ? 入ったらイキナリ『キャー! 襲われるぅ!』とか言うんじゃないぞぉ?」
「何を警戒してるんですか、マスターは……」
「当たり前だろ。これまでのパターンからだとな、ここで勝手に開けると、実は着替え中でした的な場面に出くわし、誘拐犯に加えて痴漢魔とか言われるに違いない!」
「マスター、結構色々実はトラウマになりかけてるんですね……」
俺は、ヤナビの憐れむような呟きをスルーして、ゆっくり部屋の扉を開けた。
「入りますよぉ」
「寝起きドッキリじゃないんですから……」
部屋に中に入ると、ソファーに横になり寝ているライがいた。
「やっぱり寝ていたか」
俺はライが横になっているソファーへと近づき、声を掛ける。
「おぉい、助けに来たぞぉ、起きろぉ」
何度か声をかけるが、全くライは起きる気配がしなかった。
「魔族に攫われているってに、熟睡しすぎじゃね?」
「マスター、もうちょっと耳元で声をかけてあげれば、いいんじゃないですか?」
「あ? 何でだよ? もっとデカイ声出すか、叩き起こせばいいだろ?」
「大声でびっくりして、パニックになってマスターを誘拐犯と思ったらどうしますか? それに、叩き起こすという事は、『触れる』という事ですよ? まぁ、そうした場合はオチが見えますが、それでもいいならドウゾドウゾ」
「……よく考えたら、大声出すのも叩くのも、可哀想だな。うん、そうだな。可哀想だ」
俺は、ソファーに横になっているライの耳元へとしゃがみ込み、声を掛ける。
「迎えにきたぞ。もう、安心だから起きてくれ……ごふぁ!」
「……そう来たかぁ……マスター、どんまい」
俺はライの耳元で声をかけた瞬間、ライの目が開き、そのままいきなり抱きつかれ、二人して床の転がり落ちた。
「痛っ、何だよいきなり……あれ?」
俺は転がった拍子に、ライに所謂床ドンしている状態になっていた。
「すみません、目が覚めて貴方の声がすぐ横に聞こえたものですから、嬉しくてつい……」
俺の目の前で仰向けになりながら、ライは照れ笑いを浮かべていた。
「……そうか、別に構わない。むしろ、受け止めきれずに一緒に転がってしまって、服を汚してしまって悪いな」
俺とライは一緒に床を転がってしまったので、ライのドレスが汚れてしまっていた。
「いいえ、貴方に汚されるのであれば、全く構いません」
「……『浄化』……うん、綺麗になったな」
俺は、ライを起こした後、全身に浄化をかけてやり、元どおりの綺麗な姿へと戻した。
「貴方様は『浄化』が使えるのですね。これで汚れた身体が、綺麗になりました。ありがとうございます」
ライは、ニッコリと微笑みながら俺に礼を述べる。
「……よし、取り敢えず無事で良かったな! 屋敷へ送るから、俺の無実を証言してくれ!」
「マスター、今棚上げした部分は、絶対に後悔すると思いますよ?」
俺はヤナビの言葉をスルーすると、ライと一緒に建物をでた。
「あれ?」
「どうされたんですか?」
「……いや、何でもない。さて、屋敷向かおう」
屋敷に帰る途中に、俺の懸賞金目当てに襲ってきた冒険者達を叩きのめしながら、屋敷に着いた。そして、ライから事情を聞いたキンナリが、執事セバスに俺に懸賞金を取り下げるように指示を出した。
「はぁ、やっと終わったか。宿で寝よかな」
俺は、護衛任務が完了し誘拐犯の汚名も晴れた所で屋敷を帰ろうとすると、ライにキンナリ達がいる前で、呼び止められた。
「ヤナ様、お待ちになって下さい! お願いがあります……」
「……なんだ?」
「暫く、専属の護衛となって頂けないでしょうか? 誘拐された事が、まだ怖くて不安なのです。ほんの数日だけでも良いですから……お願い致します」
「でもなぁ、専属とかってなぁ……」
俺が、明らかに今から断りますよという雰囲気を出そうとした瞬間、ライが先に声を出した。
「ヤナ様に助けられた際に、気づくと私の上にヤナ様がおり、汚れてしまいましたが、私は貴方となら何度汚れても気にしません! だから……お願い出来ませんか?」
「主語を抜かすな! 『服が』汚れただけだろ!……はっ!?」
「マスター……ほらね?」
俺が、ライを汚した事を認めたような発言をした後に、キンナリが近づいてきた。
「ヤナ殿、覚えていますかな? 『ライを救出した者は、恋仲になる事を許す』と、私は言いました。なので、ヤナ殿がライを汚した事は何も言いますまい」
「いや、だからな? 汚れたのは、ライと一緒に床を転がったからで……」
「ほほう、床で一緒に……私も大人ですから、そんな隠喩みたいな言い方しなくても良いですぞ?」
「違うわ! 何? 何コレ!?」
「ヤナ殿……男の責任とは何でしょうな?」
「いや! 待て、そんな責任を取るような事は、何もしていな……」
「因みにですが、私は商人でしてな……色々と耳に入ってくるのですよ。それで思い出したのです」
「……何を?」
「『女狂いの黒き野獣』」
俺は、その名を聞いて絶句した。
「あのライの様子と、その名を私共が知って、何も無かったと言うヤナ殿の言葉を信じろと?」
俺は、ライを見ると僅かに頬を染めて恥じらうように、俺を見ていた。
「いや、それは……」
俺が、何とか言い逃れようとすると、キンナリは俺にトドメを刺しに来た。
「再び訪ねますぞ、ヤナ殿……男の責任とは何でしょうな?」
「………仲間が今、西都の近くでクエストで出かけている。遅くとも、数日で帰ってくるだろう。そしたら俺たちは、迷宮都市国家デキスへと向かう予定だ……それまでで良ければ、専属護衛を受けよう」
「それでいいかい?ライ」
「はい、お父様。ヤナ様、ありがとうございます」
ライは、誰もが見惚れる程の笑顔を作りながら、俺に対して一礼をした。
「マスター、専属ガードマンなんてまるでボディガードですね。歌いましょうか?」
「やかましいわ……」
俺は、ヤナビの軽口に呆れながらも、ライの笑顔を見つめていた。
何も感じないそのライの笑顔を、俺はただただ見ていた。
「マスター、台詞が完全に悪役側です」
「はっ!? この間の後遺症か!」
「いやいや、マスターは元からそんなノリでしたよ?」
「何をゴチャゴチャ言っているのだ!」
俺とヤナビが軽口を戦いながら言い合っていると、誘拐魔族がイラつきながら叫んでくる。
「ほれ、さっさと『これが真の力だぁ!』とか言って、悪神から貰った力で変身しろよ。するんだろ?,ほれ、はよ」
「マスター、益々扱いが雑ですね」
「こいつら、悪神が作った精巧なロボかなんかじゃねぇのか? 大概ワンパターンで、強さもほぼ一緒だしな」
「侮辱するなぁぁああ! これが我の真の力ダァアアア!」
誘拐魔族は、俺に煽られて本当に変身していた。
「『明鏡止水『神殺し』『三重』『天下無双』『黒炎の全身鎧』『解除』」
「マスター、何故『黒炎の全身鎧』を『解除』したのですか?」
「今回は、きちんと俺が救出して、誘拐犯の誤解を解かないと行けないからな。あの屋敷で、知っている格好で助けた方が良いだろう」
勘違い女騎士ディアナの時の教訓を生かし、屋敷の護衛の際の格好で救出する事で、変な誤解を招くことなく、今の誘拐犯の汚名を拭おうと考えていたのだ。
「それに、少し鍛錬もしたいしな」
「鍛錬?」
「ダカラ貴様ラ! ワレをムシスルナァアアアア!」
変身誘拐魔族が、自分の変身が完了し咆哮を上げた。
「別に、無視なんかしてないさ。準備してただけだ。腕輪と指輪をつけている状態で、変身後のお前らが斬れるかどうか試したかったからな」
これまで、腕輪と指輪を外した全力でしか、変身後の魔族を斬ってこなかった。腕輪と指輪をつけた状態での、魔族に対する強さも確認しておきたかったのだ。
「ナニヲ言ってイル?」
「簡単に言えば、俺の鍛錬に付き合えってことだよ」
そして、俺は自分の動きを確認するかのように、変身誘拐魔族と戦いを続けた。
「遅い……折角、ちゃんと待っているというのに」
誰かが、この空間に侵入してきてから、随分時間が経っている。
「空間の中に、まだ居るのは間違いないのだけれども。戦闘音はずっと聞こえているから、別にアレに負けてしまったという事でもなさそうだけど」
私は部屋に椅子に座りながら、いつ主人公が迎えに来てくれても良いように、行儀よく待っている。
「早くぅ、飽きちゃうよぉお」
既に、限界だった。
「キサマ……ナンノツモリというか……バカなのか?」
「ぜぇぜぇ……お前らにバカって言われる筋合いはねぇよ……」
「マスター、戦闘に慣れたらどんどん身体強化の重ねがけを少なくしていって、最後には身体強化自体の発動止めるとか……バカですか?」
俺は、最初『天下無双』を『明鏡止水』で『三重』によって三倍掛けをしていたのだが、戦闘に慣れたら迷わず『双子』に切り替えた。その後、同じように慣れたら倍掛けを止め、今は『天下無双』の発動自体を止めている。
「危機は好機だろ?」
「「………」」
何故か、敵にまで呆れられた気がするが、絶対に気のせいに違いない。
「まぁ、でも流石にそろそろ夜明けだし。終わっておくか、鍛錬はランナーズハイみたいになると止まらんから困るな」
「……マスターだけだと、思います……」
俺は、ヤナビの呟きをスルーして、俺はボロボロになった身体で、何とか構えを取り最後の仕上げを行う。
「まぁ、最後はこれで終いだ……『起死回生』全力発動!」
「ハ!? ナンダ! そのチカラは!?」
「これだけ知っておけば十分だ……『ピンチはヒーローの見せ場』ってな!」
そして、変身誘拐魔を『天』『地』で両断した。
「ギャァアアア! 悪神様ァアアアア!」
誘拐魔は、見事なお約束の断末魔を吐いて、灰になり崩れ落ちた。
「敵ながら、天晴れな断末魔だったな」
「マスターは、どこに感心してるんですか……」
そして、戦闘中も死神の慟哭で、気配を感知していた建屋へと向かった。
「ここだな。中に気配もあるし、間違いないだろ」
おそらく、ライが居るであろう部屋の前まで来て、一度中の気配を確認した。
「おぉい、助けに来たぞぉ」
声を掛けるが、中から返答はなかった。
「別に弱っている気配じゃなかったが、寝てるのか? 入るぞぉ、入るからなぁ? ちゃんと声かけたからなぁ? 入ったらイキナリ『キャー! 襲われるぅ!』とか言うんじゃないぞぉ?」
「何を警戒してるんですか、マスターは……」
「当たり前だろ。これまでのパターンからだとな、ここで勝手に開けると、実は着替え中でした的な場面に出くわし、誘拐犯に加えて痴漢魔とか言われるに違いない!」
「マスター、結構色々実はトラウマになりかけてるんですね……」
俺は、ヤナビの憐れむような呟きをスルーして、ゆっくり部屋の扉を開けた。
「入りますよぉ」
「寝起きドッキリじゃないんですから……」
部屋に中に入ると、ソファーに横になり寝ているライがいた。
「やっぱり寝ていたか」
俺はライが横になっているソファーへと近づき、声を掛ける。
「おぉい、助けに来たぞぉ、起きろぉ」
何度か声をかけるが、全くライは起きる気配がしなかった。
「魔族に攫われているってに、熟睡しすぎじゃね?」
「マスター、もうちょっと耳元で声をかけてあげれば、いいんじゃないですか?」
「あ? 何でだよ? もっとデカイ声出すか、叩き起こせばいいだろ?」
「大声でびっくりして、パニックになってマスターを誘拐犯と思ったらどうしますか? それに、叩き起こすという事は、『触れる』という事ですよ? まぁ、そうした場合はオチが見えますが、それでもいいならドウゾドウゾ」
「……よく考えたら、大声出すのも叩くのも、可哀想だな。うん、そうだな。可哀想だ」
俺は、ソファーに横になっているライの耳元へとしゃがみ込み、声を掛ける。
「迎えにきたぞ。もう、安心だから起きてくれ……ごふぁ!」
「……そう来たかぁ……マスター、どんまい」
俺はライの耳元で声をかけた瞬間、ライの目が開き、そのままいきなり抱きつかれ、二人して床の転がり落ちた。
「痛っ、何だよいきなり……あれ?」
俺は転がった拍子に、ライに所謂床ドンしている状態になっていた。
「すみません、目が覚めて貴方の声がすぐ横に聞こえたものですから、嬉しくてつい……」
俺の目の前で仰向けになりながら、ライは照れ笑いを浮かべていた。
「……そうか、別に構わない。むしろ、受け止めきれずに一緒に転がってしまって、服を汚してしまって悪いな」
俺とライは一緒に床を転がってしまったので、ライのドレスが汚れてしまっていた。
「いいえ、貴方に汚されるのであれば、全く構いません」
「……『浄化』……うん、綺麗になったな」
俺は、ライを起こした後、全身に浄化をかけてやり、元どおりの綺麗な姿へと戻した。
「貴方様は『浄化』が使えるのですね。これで汚れた身体が、綺麗になりました。ありがとうございます」
ライは、ニッコリと微笑みながら俺に礼を述べる。
「……よし、取り敢えず無事で良かったな! 屋敷へ送るから、俺の無実を証言してくれ!」
「マスター、今棚上げした部分は、絶対に後悔すると思いますよ?」
俺はヤナビの言葉をスルーすると、ライと一緒に建物をでた。
「あれ?」
「どうされたんですか?」
「……いや、何でもない。さて、屋敷向かおう」
屋敷に帰る途中に、俺の懸賞金目当てに襲ってきた冒険者達を叩きのめしながら、屋敷に着いた。そして、ライから事情を聞いたキンナリが、執事セバスに俺に懸賞金を取り下げるように指示を出した。
「はぁ、やっと終わったか。宿で寝よかな」
俺は、護衛任務が完了し誘拐犯の汚名も晴れた所で屋敷を帰ろうとすると、ライにキンナリ達がいる前で、呼び止められた。
「ヤナ様、お待ちになって下さい! お願いがあります……」
「……なんだ?」
「暫く、専属の護衛となって頂けないでしょうか? 誘拐された事が、まだ怖くて不安なのです。ほんの数日だけでも良いですから……お願い致します」
「でもなぁ、専属とかってなぁ……」
俺が、明らかに今から断りますよという雰囲気を出そうとした瞬間、ライが先に声を出した。
「ヤナ様に助けられた際に、気づくと私の上にヤナ様がおり、汚れてしまいましたが、私は貴方となら何度汚れても気にしません! だから……お願い出来ませんか?」
「主語を抜かすな! 『服が』汚れただけだろ!……はっ!?」
「マスター……ほらね?」
俺が、ライを汚した事を認めたような発言をした後に、キンナリが近づいてきた。
「ヤナ殿、覚えていますかな? 『ライを救出した者は、恋仲になる事を許す』と、私は言いました。なので、ヤナ殿がライを汚した事は何も言いますまい」
「いや、だからな? 汚れたのは、ライと一緒に床を転がったからで……」
「ほほう、床で一緒に……私も大人ですから、そんな隠喩みたいな言い方しなくても良いですぞ?」
「違うわ! 何? 何コレ!?」
「ヤナ殿……男の責任とは何でしょうな?」
「いや! 待て、そんな責任を取るような事は、何もしていな……」
「因みにですが、私は商人でしてな……色々と耳に入ってくるのですよ。それで思い出したのです」
「……何を?」
「『女狂いの黒き野獣』」
俺は、その名を聞いて絶句した。
「あのライの様子と、その名を私共が知って、何も無かったと言うヤナ殿の言葉を信じろと?」
俺は、ライを見ると僅かに頬を染めて恥じらうように、俺を見ていた。
「いや、それは……」
俺が、何とか言い逃れようとすると、キンナリは俺にトドメを刺しに来た。
「再び訪ねますぞ、ヤナ殿……男の責任とは何でしょうな?」
「………仲間が今、西都の近くでクエストで出かけている。遅くとも、数日で帰ってくるだろう。そしたら俺たちは、迷宮都市国家デキスへと向かう予定だ……それまでで良ければ、専属護衛を受けよう」
「それでいいかい?ライ」
「はい、お父様。ヤナ様、ありがとうございます」
ライは、誰もが見惚れる程の笑顔を作りながら、俺に対して一礼をした。
「マスター、専属ガードマンなんてまるでボディガードですね。歌いましょうか?」
「やかましいわ……」
俺は、ヤナビの軽口に呆れながらも、ライの笑顔を見つめていた。
何も感じないそのライの笑顔を、俺はただただ見ていた。
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