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第五章 刀と竜

此処に来た理由

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「マスター、どうやらここの深さがほぼ・・最奥の深層なようです」

「そうか、いきなり落ちたあの奈落の崖が当たり・・・だったってことか、結果的に」

 現在進行形で動き回っている火鼠ファイアマウスの情報を元に、案内者ヤナビ地図を作成マッピングし、俺のサングラスヤナビに映し出している。因みにこのサングラスヤナビは地味に暗視機能が付いていて、内心驚いたのだがヤナビにバカにされそうだったので、ぐっと我慢した。俺だって元々『暗視』あるし、別に負けてないし。

「こりゃ、完全にここの深層自体が竜の巣だな。所ところにある大部屋に、奈落の崖を落ちてくる最中に襲ってきた氷竜と雪竜が固まっているのが、地図マップに表示されている」

ヤナ・・それサングラス、そんな事までわかるの?」

『あんた』から『ヤナ』にクラスチェンジしてくれたカヤミが、不思議そうに俺に尋ねた。

「あぁ、最近・・身につけたスキルのお陰で、これまで出来なかったことが、色々出来るようになってな。前は、そこまで分からなかったが、今は画面に俺たちは『青』、魔物は『赤』で印が付いている。しかも『赤』の明るさが異なるから、これが相手の強さの指標だろうな」

「マスター、正確に物事は伝えないと。最近というか今朝……」

「だぁ! うるさい! 今ちょっといい感じなんだから、むし返すな!」

「何を騒いでいるのだヤナ・・。それより、目的地は分かったのか?」

『貴様』から『ヤナ』にランクアップしてくれたディアナが、少し顔を強張らせながら聞いてくる。

「それらしい強烈な光を出している『赤』は見つけた。恐らくそいつが親玉だろうな」

「そうか……」

「その親玉の所で、道は終わってるの? 神鉄は、最奥と伝承があるけど」

「それがなぁ、道っぽいのがあるんだが、そこで地図が・・・消えている。恐らくその部屋に行き着いた火鼠ファイアマウスが、親玉に気付かれて消されたんだろう」

 火鼠ファイアマウスには、起動力優先で創造した為、特に隠密機能は付けられなかった。まだ、同時に色々機能を付けられないという事は、改善の余地があると思っておくが、現状では未だ無理だろう。

「雑魚竜は、俺の火鼠ファイアマウスに気付なかったみたいだが、流石に親玉竜はダメだったみたいだ。カヤミの兄弟子は、隠密は得意だったのか?」

「えぇ、かなりの腕前だったと思ったわ。そうか……あにぃ・・・は、氷雪竜から隠れるようにして最奥の神鉄の採掘へ向かったのね……そして、脱出の際に見つかった……」

 カヤミが、苦しそうに言葉を吐き出す。

「その可能性が高いな。ただ、何で帰りに見つかったんだろうな?」

「恐らく、採掘した神鉄を抱えていた為だと思うわ」

「抱える? マジックバックは、持って行ったんだろう?」

「初代の伝承では、神鉄は『入らない』そうよ。そして、とてつもなく『重い』の。あにぃが持ち帰った掌の大きさの神鉄でさえ、マジックバックの中には入れられなかったし、見た目以上に重かったわ」

 神鉄はマジックバックに『入らない』という事は、そもそも空間魔法で収納できないという事だ。恐らく、俺の収納魔法マジックバックでも無理だろう。

「その初代はどれくらい持ち帰ったか、伝承はあるのか?」

「曖昧なんだけど、人一人分ぐらいの大きさを、背負って持ち帰ったそうよ」

「それで、一振り分か……二振り打とうと思ったら単純に倍か?」

 俺がそう告げると、カヤミは目を見開いた。

「二振り!? 一振り分を持ち帰るのにも、初代『刀工』の勇者様が精一杯だったのよ! それに持ち帰れたって、二振りも打てるなんて思えない……」

「もう、いいからそういう・・・・の。俺が聞きたいのは、初代の倍ほどもって帰れば、足りるのかどうかを聞いているんだ。どうなんだ?」

 カヤミは、少し考え込んだ後、ゆっくり口を開いた。

「伝承から考えると……恐らくは……でも……」

「よし、それがわかればいいんだ」

 俺は、その答えを聞くと、歩いていた足を止めた。

「どうしたんだ?」

「最奥に向かうにはな、幾つか竜の巣を通らないと無理だ。まぁ、別に隠密行動で隠れて進んでもいいんだが、戦闘鍛錬と素材集め、間引きに丁度いいだろう?」

「「は?」」

 二人が呆気にとられいる間に、俺達は一つ目の竜達の巣になっている大部屋に辿り着いた。そして俺は傷付いている二振りの大太刀『烈風』『涼風』を抜き、歩きながら二刀に形状変化デフォルマシオンを用いて刀身を獄炎で表面加工コーティングした。

「さぁ、二人とも惚けていると死ぬぞ? おらぁ! 『トカゲ共ぉおお! かかってこいやぁ!』」

 俺は大部屋全体に響き渡る声で、そこにいた全ての竜達に向かって『挑発』した。

「「何故!?」」

危機死地好機鍛錬だろ?」

「流石マスター、いつでも何処でも鍛錬変態なのですね」

「そんなに褒めるなよ。俺はブレない男だからな」

「今のって、褒めてる?」
「多分、違うと思うんだが?」

 二人が何かブツブツ言っているが、全てスルー無視だ。

「親玉の所に行くまで、全部鍛錬しながら進むからな? 俺といる間に、意地でも強くしてやる! さぁ! 来たぞ!」

「「「グルァアアアア!」」」

「「いやぁああああ!」

 最初の・・・竜の巣に、ヤナの気合と二人の悲鳴と竜達の咆哮がこだました。



「ぜぇぜぇ……何とか……なったわね」
「はぁはぁ……流石に普段数十頭の竜を相手には……しないからな……やばかった」

 俺は、三人で討伐した数十頭の氷竜と雪竜の死骸を全て鞄に収納して、二人に振り返った。

「ちゃんと帰ったら・・・・、素材は山分けだから心配するなよ?」

「そんな…….心配……してないわよ」
「私はそもそも…….騎士だ……素材はいらん……」

「よし、次の巣に向かうぞ。歩きながら、息を整えておけよ」

「「……」」

 最初の巣で、二人の戦いぶりを観察して、ある程度の実力は把握した。

 カヤミは、正に暗殺者アサシンといった戦い方だった。俊敏な動きで相手の懐や死角へと移動し、手持った小太刀で急所を一閃していた。

 反対にディアナは、どっしりと正眼に大剣グレートソードを構え、向かってくる相手をいなしながら斬りつけていた。

 そして、小一時間程歩くと、次の竜の巣へとたどり着いた。

「さてと、二人の実力は、大体さっき見せてもらった。恐らくここにいる雑魚竜程度ならさっきくらい、いても大丈夫だろう」

「まぁ、何とか・・・なりそうね」
「あぁ、何とか・・・な」

 その言葉を聞いて、俺は嗤った。

「そうなんだよ。何とかなったら・・・・鍛錬にならんだろ? そう、ならないんだよ。少し・・キツイくらいじゃないとさ」

「何を言って……」
「おい、説明し……」

 二人が何か言おうとした時に、俺は鍛錬の準備を始めた。

「『明鏡止水精神統一』『双子ツイン』『獄炎のヘルフレイム絶壁ウォール』『形状変化デフォルマシオン』『黒炎のヘルフレイム肉体改造器具養成ギプス』」

 本当・・は、神火で作りたかったんだが、腕輪と指輪を外している時に万が一魔物に襲われ、俺が対応してしまうと、俺の力で洞窟が崩れる心配があった。その為、獄炎で創ることにしたのだ。勿論、明鏡止水精神統一で獄炎魔法ですら二人が火傷しないよう、温度調節はバッチリだ。

「何!?……身体が締め付け……ぐぅ……何……これ?」
「何だ!?……ぐぬぅ……これは……動きが…」

「辛いだろう? しんどいだろう? そうなんだよ、そこからが鍛錬なんだよ。ちなみに俺は、さっきから同じのを付けているからな? さぁ、行くぞ! 『おらぁああ! トカゲ共! その肉食わせろやぁあ!』」

「「「グルギャァアアア!」」」

「「いやぁああああ!」」

 先程の巣よりも二人の悲痛な叫び声が、大部屋にこだました。



「死ぬ……うっぷ……もう無理……許して…」

「こんな鍛錬……騎士の訓練でも……うっぷ……しない…」

 最初の巣よりも大分時間がかかってしまったが、何とか全ての竜と討伐し死骸を回収し終わり、再度二人の元へ歩いて行った。

それギプス付けてても、本気・・出せば何とかなったろ?」

「今の私達を見て……何とかなっている様に……みえる?……うっぷ…」

「確かに大きな傷は……負わずに切り抜けたが……もう限界だ…」

「まぁ、取り敢えず何とかなったし、休みながら歩けよ。周りは、俺が警戒しておいてやるから」

 二人はヨロヨロとフラつきながら、俺の後ろをついてきていた。当然、歩いている時もギプスは付けっぱなしだ。

「マスター、次のオチが見えますが、もはや鬼畜の所業ですね」

「ははは、スキルにそんなに褒められても、嬉しくないぞ? ふふふ」

「あぁ、ダメだこの人……お二人、御愁傷様です」

「「……」」

 そして、次の巣に到着した。

「さぁ、今日この巣で最後だ。気合い入れろよ?」

「「今日?」」

「ん? 行ってなかったか? 親玉の所に行くまでに、そうだな結構な数の巣があるから、一日三つずつ間引きしていけば、三日後に親玉に行き着くだろうな」

「嘘でしょ……」
「そんな……バカな……」

 二人が何やら驚いているが、きっと親玉までに強くなれる機会がある事に、喜び驚いているのだろう。

「さっきは、二人とも限界まで頑張った感じか?」

 俺が二人に質問すると、何故か警戒しながら二人は答える。

「……限界だったわよ? 本当よ?」
「……そうだ。ギリギリだぞ?」

 俺はその言葉を聞いて、嗤っていた。

「「ひぃ!?」」

「その言葉を、聞きたかったんだよ。ふふふ、『明鏡止水精神統一』『八指エイトフィンガー』『獄炎のヘルフレイム極球フルムーン』『形状変化デフォルマシオン』『黒炎のヘルフレイム重石帯ウェイトバンド』『拘束対象:両手足』」

「がっ!……手足が……重い…」
「ぐぅ!……これでは……動けない…」

「さっきが限界だったなら、これで限界超えれるよな? さぁ、親玉前に死ぬなよ? 『駄竜共ぉおお!ノロノロしてねぇで、 早くかかってこいやぁああああ!』」

「「「グルガァアアアアア!」」」

「「怒らせないでぇえええ! いやぁああああ!」」

「マスター、最早やってる事が、調教ですよ」

 本日最後の部屋では、ヤナと竜の怒号と二人の女性の絶叫が鳴り響いた。



「もう無理……いっそ殺して…」
「私が……悪かったから…」

「二人とも、お疲れさん。取り敢えず、今日のところはこれでお終いだ。飯も寝る場所も俺が創ってやるから安心して、立てる様になるまでそこで寝とけ。

「「……」」

 今日三回目の竜の掃討を終えて、二人は俺の言葉を聞くや否や、その場で気絶した。

 俺は、その間に獄炎を神火のかわりに使った黒炎のヘルフレイム部屋ルームと、黒炎のヘルフレイム騎士ナイトを二体創り出した。そのままだと外見がまんま漆黒の騎士ジェットブラックの様に見えたので、神出鬼没隠蔽/隠密/偽装でただの騎士に見えるに偽装した。勿論、部屋も普通の部屋に見える様に偽装済みだ。

「マスター、偽装だらけですね。正に詐欺師の如き所業、感服致します」

「……さぁ、夕飯だ。大量の雪竜と氷竜の肉が手に入ったからな。特盛で、力つけないとな!」

 俺は、黒炎のヘルフレイム部屋ルーム中の台所で、大量の竜の肉を使って料理を作っていた。そこに、目を覚ました二人が部屋に入ってきた。

「何でこんな所に、部屋が?」
「さっきまでの事が、もしかして夢だったのか?」

「ほら、二人とも席につけ、少し早いが夕食だ。昼飯食わずに戦い続けちゃったからな。しっかり食えよ。明日からは忘れずに、朝、昼、晩としっかり食べるからな」

「うっぷ……これ……全部?」
「朝……から?」

「あぁ、残さず食えよ? ちなみにまだ寝るには早いから、食ったら俺と組手で鍛錬な」

 それを聞いた二人が、同時に席を立とうとしたので、素早く回りこみがっしり肩の上から押さえつけ、席に座らせた。

「「な!?」」

「にぃげぇるぅなぁよぉ?」

 俺は飛びっきりの嗤い顔で言い放つ。

「出来ないだの無理だの、愚痴愚痴言う暇無いくらい、鍛錬しようや。大抵の悩み事なんてものはな、身体動かして汗かけばスッキリするもんだ。それにな、火力があれば、大体何とかなる。な?」

「誰か……助けて…」
変態の中の変態キングオブ脳筋……」

 そして、夕飯を食べた後は、ひたすらぶっ倒れるまで三人は鍛錬を続けた。



「おらおらぁ! 脇が空いてるぞぉ! 躱すならかわしきれ!」

「ぐぺら!」

「待ってるだけじゃ、捌き切れないとタコ殴りになるぞ! おらおらぁ!」

「ぐぎゃぐぺ!」

 二人を、一先ず刀ので叩きのめして、今日の鍛錬を終えた。

「よし! 今日は終了! しっかり部屋の中で休めよ」

「……やっと……助かった……」
「……悪夢だ……悪夢からやっと……覚めたんだ……」

「明日は朝飯前に、軽く・・組手をしてから、朝食。その後、今日と同じ様に三つの巣を掃除な。あと、朝起きたら今身体につけている『黒炎のヘルフレイム肉体改造器具養成ギプス』と『黒炎のヘルフレイム重石帯ウェイトバンド』の負荷を其々にするからな」

「……嘘よ……嘘だと言って……」
「……きっと……夢を見てるんだ……そうじゃないと……」

「それじゃぁ、おやすみ。明日から楽しみだな。くっくっく」

「マスター、やってる事が完全にアレな感じです」

「フフフ、追い込んで追い込んで追い込んだ先に、見える何かもあるさ」

 俺はへばっている倒れている二人に向かって、そう呟きながら嗤った。

「「助けてぇええええ!」」



 そして、兄の後ろ姿を追い続け、兄が居なくなった時からその場に立ち止まっていた妹達は、それから二日間の間、ヤナにとことん追い詰められて行った。

 そして三日目、神鉄の採掘と氷雪竜討伐に挑む日を迎えた。

「神鉄なんて、私が掘り尽くしてやるわよ!」
「今日は、飛び切りの肉料理だ! 親玉竜の肉は、さぞ美味いに違いない!」

「……何か、やり過ぎた?」

「マスター……」

 二人はギラギラと、燃える目でその先にいる目的のモノを見据えていた。

「ふふ、まぁいいか」



 俺は二人に向かって吠える。

「お前たちは、誰だ!」

「鍛治師のカヤミ!」
「騎士のディアナ!」

「何の為に、此処に来た!」

「神鉄を手に入れる為!」
「氷雪竜を討伐する為!」

「そうだ! 自分の叶えたい事の為に、お前らは此処にいる!」

「「おう!」」

「兄の為に此処にいるんじゃない! お前たちは、成りたかった自分になる為に、此処にいるんだ!」

「「……」」

 二人が一瞬、表情を強張らせる。

「心配するな。此処には俺もいる」

 二人に俺は、妹を安心させる時の様に、優しく笑顔で告げる。

「一緒にその一歩を、踏み出そう。その為に俺は、此処に来た」

「「ヤナ……」」



 刻を停めていた妹達の時間が、此処から動き出す
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