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第五章 刀と竜

ラブとコメ

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 俺は、完全に混乱していた。

 いつもの時間日の出前に目が覚めると、左右に凄く大きなアレと結構大きなアレが、たわわに横になっていたからだ。

 幸い? 下着らしきものは着けていてくれていたため、完全に露わになっていなかったが、非常に不味い。

「(!? 待て待て! 俺は……よし! 俺は脱いでいない! 何がよしだ! 腕が! 腕枕だとぉおおお!)」

「マスター、ちょっとは落ち着きましょう?」

「(な!? しゃべるなよ! 二人が起きたらどうするんだ!?)」

「大丈夫ですよ、イヤホンモードになってますから、私の声はマスター以外には聞こえませんから。それにしても昨夜は……お楽しみでしたね?」

「(……嘘だよ……な?)」

「スキルが嘘を、付くとでも?」

「(そんな……何も覚えていな……)」

「まぁ、冗談は言いますけど」

「ふざけんな!……あ……」

「「うぅん……」」

 思わず声を出してしまい、カヤミとディアナがモゾモゾと身体を動かした。

「(当たる当たる! やばいやばい! くそ! 何で、こんな事に!?)」

「取り敢えずマスター、気配ぐらい消しては如何ですか? それとも、お二人を起こして、社会的にも死にたいんですか?」

 ヤナビに言われて、気配を消していない事に気がついた。

「(俺としたことが! 神出鬼没隠蔽/隠密/偽装!)」

 全力で気配を消し、一先ずの危機は、乗り越えたかのように思えた。

「(え!? ちょ!? 抱き枕じゃないから! やめて! 足を絡めないで! 胸が! あふっ……柔らか……だぁあ! 動けん!)」

 俺は、二人にがっしり抱き枕のように、ホールドされてしまい、身動きが取れなくなった。

 仕方がないので、昨日何が起きたのかを、ヤナビに説明を求めた。

 すると、ヤナビは昨日のことを説明し始めた。

「(そうだった……完全に俺が……被害者じゃねぇか!?)」

 ヤナビの説明を聞いているうちに、徐々に昨日の事を思い出してきた俺は、思わず叫びそうになった。



 夕食を取りに飯屋に入ると、武芸者や鍛治師達が食事と酒を飲んでいた。この店は、夜は飲み屋になっているの為、わいわいと賑わっていた。

「ふぅ、いい汗かいた後の飯は楽しみだな」

「「「うぅう……うぷ……」」」

 後ろから、三人分の呻き声が聞こえてくるがスルー無視して中に入ると、丁度勇者達一行も飯を食べている所だった。

「おっ、お前らも丁度飯だったか、丁度いい一緒に飯を……ん?」



 勇者達が俺に向かって、バツ印のジェスチャーをしてくる。

「どうした? 席が満席ってわけでもなごふぅ!……苦し……なんだ?……」

 俺は振り返り、思わずエディスを見た。

「どうして、最初に私を見たのかは、この際見逃してあげる……私達は、勇者様達とご一緒させてもらうわね……頑張って」

「「頑張って……」」

 三人が、俺から遠ざかっていく。何故か、捨てられていく子犬の気持ちになりながら、ゆっくりと俺を羽交い締めにしている二人・・を見た。

「いぃたぁぁ偽物おお! ジェットぉお様の名を騙るるる奴は、成敗ぃいい」

「簡単んにぃい神鉄採ってくぅるぅううとかぁ言うやつぅ見っけぇええ」

「うわ! 酒くさ! 俺に絡むな! 酒飲んでる奴なんて他にもいるだろ! そっち行け……え? 何? 何でこいつらの周りだけ、誰もいないの?」

 俺が、二人の酔っ払いに文字通り絡まれていると、離れて呑んでいた鍛冶師らしき作業着を着たおっさんが、その理由について教えてくれた。

「にいちゃん、逃げるなら掴まれる前に逃げないとなぁ。カヤミのやつは酔うと抱きつく癖があってな、それだけ美人だしデカイし、普通良いよなぁと思うよな? ただな、そいつは鍛治師の中でも人一倍腕力が強いときててな……『万力ヴァイス』と呼ばれている」

 おっさんが説明をする間にも、確かにカヤミがしがみついている胴廻りが、ドンドン締め上げられていく。

「酔っているそいつに迂闊に近づくと……そうなる。だから、みんな避難してたのさ。そこで回復薬ポーション売ってるから、折れても大丈夫だ、頑張れよ」

「ぎゃぁあああ! 誰か助けてくれ!」

 俺が助けを求めると、全員が目を逸らした。

「アシェリ! セラ! エディス!」

「「「(巻き込まないで!)」」」

 見事に口パクで揃っていた。

「薄情者! そうだ! 勇者……達? あれ? さっきまでそこに居た筈じゃ?」

 俺が驚愕の表情を見せていると、出入り口に気配を感じ振り返ると、勇者達がコソコソ出ていく所だった。

「なっ!? お前らそれでも、同級せがぼがぼぼ……ガハッガハ!……何をするがぼがぼぼ……これ酒じゃねえかがおおふあお……誰か助けて……いだだだだぁ! 折れる! 背骨がビキビキってぇえええ!?」

「「あひゃひゃひゃひゃ!」」

 二人の高笑いを最後に俺の意識は、消去されていった。



「(いくらこっち異世界で、成人してるって言っても、一気飲みはダメ! 絶対ダメ!)」

「そのあと、酔い潰されたマスターを引きづって、飲み足りないお二人が、カヤミ様の部屋で、再度飲み始めたという訳です」

「(俺いらんだろ!? 置いてけよ店に!?)」

「どうやら、二人の話を聞いていると、偶々飯屋で同席になり、マスターの文句で盛り上がり、酒が入って更に盛り上がって、そこにマスターが来たらしいです。正に、カモがスキヤキもって来た状態だったという訳です」

 そして、部屋で酒を飲んでいると暑くなったらしく、服を脱いで半裸になったらしい。完全に見た目は美女だが、中身はおっさんだろこいつら。

「(気配を消してるから、動かなければ気づかれないとは思うが……今なら熟睡してるし、無理すれば抜けられるかな……)」

 俺が意を決して、二人から身体を引き抜こうと試みた瞬間だった。

「置いていかないで……あにぃ……」
「行かないで……兄様……」

 二人が同時に、寂しそうな寝言を呟き、おまけに二人とも目から、一筋の涙を流した。

「ちなみに、マスターが酔い潰された後、この部屋ではお互いのお兄様の自慢大会でした。よっぽど大好きで、自慢のお兄様だったのでしょうね」

「(でも……もういないか……居なければ追いつくことも、追い越すことも出来ないわな……はぁ……)」

 俺は、無理やり抜け出ることを諦めた。

「マスター、このまま美女に色々挟まれたまま寝たふりをして、楽しむことにしたんですね?」

「(やかましいわ……気付かれたら即社会的抹殺が待っている状況で、楽しめるかよ……気配を消した上で、気配察知も全力だ。起きたと思った瞬間に疾風迅雷早く速く疾くで離脱、すぐさま神出鬼没隠蔽/隠密/偽装の『騙し絵トリックアート』で俺自身を壁と同化した様に見せるぞ!)」

「マスター、何やら格好良く言ったつもりでしょうが、やってる事は結局どう見ても情けないですよ」

「(……集中だ……起きる気配を見逃すな!)」

 俺の静かなる戦いが幕を開けた。



 そして、日が昇り始めた頃にまさかの出来事が起きた。

【『明鏡止水精神統一』を取得しました】

 頭の中に、新しいスキル取得のアナウンスが流れた。

「(…………)」

「マスター、おめでとうございます。半裸の美女に気づかれない様に、心を鎮め、精神を集中して、半裸の美女の息遣いまで全ての気配を感じた為に、取得出来たスキルですね。これで、若しかしたらこれまで制御が困難だったスキルも、格段に扱いが上達しそうですね。変態の極みですね、マスター」

 きっと、魔物の大氾濫スタンピードで何日も集中していたため、その経験に今回のこれがダメ押しとなって新スキルの取得に繋がったに違いない。間違いない。そうに決まっている。

「う……うん……ふぁああ……」
「ううん……朝?……」

 新スキルの事に気をとられていた瞬間に、二人が同時に目を覚まそうとした。

「(今だ! 『疾風迅雷早く速く疾く』!)」

 俺は一瞬で、素早く二人を振りほどき、壁際に背をピタッとくっつけた。

「「きゃ! 何!?」」

「(『騙し絵トリックアート』『壁紙』! 頼む! 気づくな!)」

「マスターが、必死すぎて引きますね」

 どうやら二人は、一瞬怪訝な顔をしたが、まだ頭が寝ぼけていた為か、俺が移動して壁にカメレオンの如く気配を消して同化している事は気づかなかったらしい。

「ふぁあ……ディアナ、おはよう。昨日は飲みすぎちゃったわね」

「ふぅ、おはよう、カヤミ。確かにな。何で、下着姿で寝てるのかも思い出せない」

 お互い下着姿で寝ていたことに苦笑して、二人はベッドから立ち上がり・・・・・こちらを・・・・向いていた。

「(ちょっ!? 早く着がえろ! 早く!?)』

「流石マスター、立ち上がりこちらを向くことまで計算して、そこに隠れてガン見してるわけですね。普通に覗き野郎ですよ?」

 ヤナビにそんな事を言われながらも、二人の様子を警戒しないといけない為、目を瞑る事も出来ない。

「やっぱりカヤミは、大きい・・・な」

「ディアナは、形が綺麗で羨ましいわ」

 女子同士な為なのか、二人がお互いの身体の事について、語っていた。

 そして、目の前で生着替えを始めていた。

「(マジでヤバイ……ここで見つかったら……)」

「ん? カヤミ、その格好は?」

「今日は、ちょっと金物の素材を取りに出かけようと思っているから、戦闘用の服と小太刀をね」

 カヤミはまさに、クノイチといった格好をしていた。若干セクシーコスプレみたいな感じなのには、違和感を感じるが、腰には小太刀も携えていた。

 ディアナも、いつもの騎士の格好に着替えていた。

「中々、不思議な格好なのだな」

「初代の刀工の口伝なの。どうやら勇者様のいる世界の、女性はこの格好で戦闘・・するらしいの」

「何の戦闘だよ!?……あ……」

「「え?」」

 つい初代刀工の変態的な口伝に、ツッコミを入れてしまった。

 当然、いくら気配を消していても、あれだけ大きな声をだせばバレる。

「貴様……何故、ここにいる……」

 ディアナの声が、絶対零度に冷え込んでいく。

「寧ろ、いつから・・・・いたのかしら?」

 カヤミの声から、感情が消えていく。

「え? いや、その、今来たところなんだよ! いやぁ、ごめんごめん、驚かそうと思って、そぉっと入ってきたんだよなぁ……ははは」

「へぇ、来たのね? 鍵は、どうしたの?」

「鍵は……空いてたぞ? 閉め忘れたんじゃないのかな? 無用心だなぁ、ははは」

 俺は背中に大粒の汗が、流れるのを感じながら必死に取り繕う。

「おかしいわね。ここの部屋はね、私が打った刀や、装備なんかもあるから、どんなに酔って帰ってきても良いように、私の・・魔力で自動的に鍵が閉まるようになっているのよ。そして、開くのは私の魔力を通さないと開かないのよ?」

「…………」

 すると、何か・・に気づいたディアナが、身体の震わし自分の身体の確認していた。

「カヤミ……そうなると、こいつは初めから・・・・ここにいたという事か?」

「確かに、そうなるわね……ちょっ! あんた何処で寝てたのよ!」

「……黙秘権を行使します……」

 俺が黙っていると、ディアナが声を震わしながらカヤミをよぶ。

「……カヤミ、ここを見てみろ。ベッドに、私たちが寝ていた丁度・・真ん中に、誰か一人寝ていたような凹みが出来ている」

「……本当ね。私達って、さっきまでどんな格好してたかしら? ねぇあんた、教えてもらえる?」

「……俺から・・は、何も触ってないし、何もやましいことは無い!」

 二人は静かに剣を抜いてこちらを見た。

「さっきまで貴様、静かに私達が着替えているのを見ていたのだろう?」

「寝ている私達を、見ていたのでしょう?」

「…………」

 俺は確かにその通りだったので、反論が遅れた。

 そして、どんどん二人の目から正気が失われていく。

「待て! これは事故だ! と言うより、元はと言えば、お前らが酔っ払って俺を連れ込んだんだろうが! 寧ろ俺は、被害者だ!」

「あ、マスター、それは油に火を注ぐだけかと」

「『乙女の逆鱗剣戟威力限界突破』『乙女の決意身体能力倍増倍加』」

「『断頭の暗殺者一撃必殺確率向上』『陽炎の舞身体能力倍増倍加』」

「ちょ!? 待て! 話せば分か……」

「「シネ」」

「ぎゃぁああああ!?」



 その頃、宿屋で朝食を食べていた三人の元へ、ヤナから仲間パーティ通信チャット呼出コールが届いた。

「『ヤナだ! ちょっと急だが、今からカヤミとディアナを連れて、霊峰に神鉄の採取と氷雪竜の討伐を行くことにした!』」

『「「「は?」」」』

「『待てこらぁ! 絶対潰す! あんたの一番大事なとこ、潰してやる!』」

「『待てと言っているだろうがぁ! 貴様の一番大事なとこを、斬り落としてくれる!』」

『「「「……」」」』

「『ぎゃぁああああ! おい! 死ぬ死ぬ! 待て! マジで待ってくれ! という事だから、三人は一応ディアナの代わりに、先見隊としての任務って奴をやっといてやってくれ! 多分、村の防衛しておけばいいだろ! 頼んどぅあああ! ぎゃぁああ……』」

 ヤナの悲鳴と共に、呼出コールが切れた。

「まぁ、アレね、きっといつもの事ね」
「そうですね、いつもの事ですね」
「えぇ、いつもの事でしょうね」

 三人はヤナからの呼出コールが切れた後も、いつも通りに食事を続けるのであった。



「マスター、まさにラブコメですよ!」

「どの辺がラブで! 何処がコメだぁあああ!」

 ヤナの叫びが、霊峰にこだました。

 そして、三人は霊峰への山道を駆け上がっていくのであった。



 二人の兄の命を散らした霊峰へ、二人の妹を召喚者が引き連れ、奥深くへと進んでいく
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