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第三章 冒険者
狼狩り
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盗賊団の討伐次の日にギルドに向かい、盗賊団の討伐報酬と宝の鑑定結果を教えてもらった。
討伐指定盗賊団だっただけあって、討伐報酬は金貨五十枚程になった。そして宝の鑑定結果は、金貨百二十枚程らしく余程溜め込んでいたらしい。
それと合わせて奴等が金貨で溜め込んでいた分を合わせると、今回の討伐による成果としては、合計で金貨二百枚程だった。
「もう俺って、クエスト受ける必要なくないかこれ?」
そんな呟きをしてしまっても、仕方がないと思う。
「確かにお金の心配は、暫くありそうにありませんね。好きなようにしたら、良いと思いますよ。ただ、まだ受けたことのないクエストもありますし、色々経験するのも面白いでしょう」
エディスさんは、そう言いながらクエスト依頼書の束をチェックしていると、俺に一つのクエスト依頼書を見せてきた。
「護衛クエストとかどうですか? 他の街を見てみるのも、一興ですよ。一週間後に、ウミナリ商会の商隊が王都から北の都ノスティに向かいます。その護衛クエストはどうですか? 護衛団リーダーは『五蓮の蛇』です。行きと帰りで、大体一週間程ですね」
「どうしよかな……そうだな。他の街も見てみたいし、受ける事にする」
「分かりました。それではその旨、『五蓮の蛇』に伝えときますね。アシェリちゃんも連れて行きますか? 冒険者としてはランクが足りませんが、ヤナ君の従者奴隷としては連れて行けますよ?」
「そうだな、連れて行こう。良い経験になるしな、頼む。あと五蓮のの蛇《ジャ》に『逃げるなよ?』とも一緒に言っといてくれ」
「ふふふ、それヤナ君に言われたら、彼等逃げるんじゃないかしら?」
「そうかな? くくく」
俺とエディスさんは笑い合った。昨日の事があった為か、こう言う時間がとても心を穏やかにさせた。城にいる時もセアラとの何気ない会話に、鍛錬中に随分救われたのを思い出した。
「今度、呼出するかな」
「どうしました?」
「ん? いや、そう言えばエディスさんも、そんな自然な笑顔出来るんだな。営業スマイルと嗤い顔しか見てなかったからなぁ。その笑顔なら、もっとこの列も人気が出るのひぃ!」
「なぁにぃかぁ言いましたかぁ? 余計な事言ってると、また雷落ちますよ?」
エディスさんが嗤いながら、俺を睨みつけるという器用な事をしていた。
「勘弁してくれよったく。ん? でもあれか照れてるのか? 少し耳があかぃいいいいいい! あばばばば! やめぇええええ!」
結局、エディスさんに雷を落とされた。理不尽過ぎる。
「食べ終わったか?」
俺は、食堂で突っ伏しているアシェリに話しかけた。
「けぷ……はい……食べました……」
今日もちゃんと俺たちは夜明け前からジョギングしてから、特盛朝飯を食べていたのだ。昨日の事があって俺はあまり寝てないが、特に問題なく平気だった。これもこっちに来て鍛えたおかげなのか、若くはスキルのおかげなのだろう。何故かアシェリは、かなり眠そうにしていて辛そうだったが。
「よし、ならギルド行って今日の分のクエスト受けてこいよ。俺はここで待ってるから。リアンちゃぁん、カーヒーくださぁい」
「はーい、お待ちくにゃさぁい!」
コーヒーでは無いが、非常に良く似たカーヒーというものがこの世界にはあったのだ。これも、勇者の偉業かも知れない。
「それでは、ギルドへ行ってきます」
「あぁ、気をつけてな。いってらっしゃい」
「……主様、すぐそこですから……」
「はは、油断するなよって事だよ」
アシェリは、納得してなさそうな顔をしていたがギルドへと向かっていった。
「ったく子供なんだから、もうちょっと子供らしくと思うが……そんな世界じゃないかここは……」
リアンちゃんが笑顔でもってきてくれたカーヒーを飲みながら、同じ獣人奴隷のリアンちゃんを見ながらそんな事を呟いてしまっていた。
それから少しして、アシェリ戻ってきた。今日も、薬草採取とスライム討伐クエストらしい。
「それじゃあ、鍛錬にむかうか」
「はい」
そして、俺らは荒野へと鍛錬しに向かったのだった。そして昼食まで俺がアシェリとで組手を行い。昼からは、俺は自分の鍛錬を行い、アシェリはクエスト目的の採取と討伐が終われば俺と合流し、再度俺の『十指』『火の棒』の自動操縦と戦わせた。
こうして三日ほど俺は鍛錬と、アシェリは鍛錬とクエストをこなしていったのだった。
王都の裏街には、冒険者初日のヤナに宿屋でボコボコにされた貴族と取り巻き二人がいた。そして三人の前には、貴族の様な格好をした青年が立っていた。
「私に会いたいと言うのは、お前か?」
「えぇ、そうです、ザコル様。私はラオラインと申します。貴族の端くれではあるのですが、もう没落しておりましてね」
「ふん、で? その没落貴族が、俺に何の用だ」
「ザコル様は、先日ある冒険者に叩きのめされたそうですね?」
「な!? 何故、それを知っている!」
「もう、有名ですよ? 冒険者登録した初日の初心者に、ボコボコにされた貴族の息子っていえば、庶民の酒の肴ですね。クックック」
実際には、冒険者登録初日のヤナにボコボコにされたのは『五蓮の蛇』もいるのだが、冒険者以外はその事を知らない上に、ボコボコにされたのが『貴族』という事が庶民の心を躍らせたのだ。
「なんだと! あのクズ冒険者がぁ! 必ず後悔させてやる! ズタボロにしながら殺さんと、俺の気が済まんぞ!」
「そうでゲス!」
「そうでゴス!」
「えぇえぇ、そうですよね? 憎いですよね? 恨めしいですよね? 実は私はそのヤナという冒険者の持っている奴隷に、用がありましてね。どうでしょう? 協力しませんか? あの二人に『絶望』を届けるのを」
「いいだろう、その話に乗ってやろう」
こうして三人は、目の前の男に更に裏街の奥へと誘われていった。
「クックック、楽しい狼狩りの時間だ」
王都から走って二時間程の森の近くの草原に、ヤナとアシェリはいた。Fランクに上がった事で、討伐クエストの魔物種類が森にいる魔物に変わった為だった。午前中は何時も通りランニング、朝飯後はひたすらヤナとアシェリは組手で過ごしてから、ここにやってきた。
「今日からは、少し鍛錬のやり方を変えようと思う。アシェリも無事にFランクに上がった事だしな。鍛錬も、ランクを上げていこう」
アシェリは薬草採取や討伐魔物を探す勘が良く、指定量より大分多めに毎回ギルドへ持って行っていた。その為、毎回その量に応じてエディスさんがその場でクエストを受けさせて完了しており、四日でFランクに上がる事が出来ていた。
「ぜぇぜぇ……は……はい……何をするんです……か?」
「俺の自動操縦の剣やら棒やらで、多方向から攻撃も飽きてきただろ? そうなんだ、飽きてきたんだよ。だって、武器だけ飛んできても味気ないと思わないか?」
「……は? 主様の自動操縦は、充分今のままでも脅威なんですが?」
アシェリは、何を言っているか分からないと言った顔をしている。
「だって、昨日とかアシェリも『十指』『火の棒』を殆ど躱せてただろ?」
「……殆どなので、結構当たってましたけども?」
「気絶はしなかったよな?」
「……はい……でも! 確か、次は『五指』『火の片手剣』で、徐々に慣らして行くのではなかったのですか?」
ここに来る直前までは、そのつもりだった。
「良いこと思いついたと言うよりな、思い出したんだよ」
俺はニヤニヤ嗤いながら、アシェリを見る。
「先ずはアシェリ用っと……『十指』『火の柱』『形状変化』『火の自動人形達』『自動操縦』『対象:アシェリ・ルナ』『攻撃停止条件:気絶』『待機』っと、これで良し。良い考えだろ?」
アシェリを十体の『火の自動人形達』が取り囲み、その場で停止している。
「……主様……? これは?」
「まだ素手だし、強さは五段階の一番弱いやつだ。気絶すれば止まる、親切設計だぞ? 倒すことが出来れば、次は炎魔法で作ってやるから、安心しろよ」
俺は、これ以上ないくらいのドヤ顔で答えた。
「別に倒した後の心配なんてしてないのですが……」
「次は俺用にっと……『十指』『獄炎の柱』『形状変化』『黒炎の自動人形達』『自動操縦』『対象:ヤナ・フトウ』『攻撃停止条件:無し』『待機』っと、それから全員に黒炎の大剣を渡して」
十体の『黒炎自動人形達』に更に形状変化で黒炎の大剣を装備させた。俺は勿論、革鎧且つ起死回生の発動を止めた。
「ぐう……これは、壮観だな……」
俺を取り囲む十体の、獄炎の使者達。
「変態がいる……」
「だれが変態だ……一緒に……頑張ろう……な? 鍛錬開始ぃいいいい!」
「きゃぁあああああ! 鬼ぃいいいいい!」
更に俺たちは地獄の鍛錬を毎日続け、そして護衛クエストまでニ日後となっていた。
いつも通りアシェリのクエスト完了の報告の為、ギルド受付に来ていた。
「今日も、多めに持ってきましたね。ちょっと待ってくださいね……あら、アシェリちゃんは今回のクエスト達成でEランクね。おめでとう」
「ありがとう……ございま……す」
アシェリはいつも通り、満身創痍でエディスさんに礼を返していた。
「……いつも思うけど、貴方達何してるのよ? 討伐クエストで、そんなボロボロならないでしょうに。ヤナ君に至っては、ボロボロっていうよりズタボロだし」
「ん? 鍛錬だ鍛錬。取り敢えず強くなれば、何とかなるだろ? 死にたくなれば、強くなればいいだけだな。単純で素晴らしい」
「……今、死にそうです……」
「この変態が……それで護衛クエスト明後日だけど、準備はいい? あと、アシェリちゃんはEランクだから、今回はヤナ君の奴隷として参加でいいわね?」
「あぁ、アシェリの件はそれでいい。流石にDランクまでは、間に合わなかったか。準備は大丈夫だ。食料だなんだも全て鞄に入れてある」
護衛クエストはDランクからしか受けられない為、今回は俺の従者奴隷という形で連れて行くことにしたのだ。
「貴方じゃないんだから……アシェリちゃんでも、物凄く早いんですからね?」
「エディスさん……ありがとうございますぅ」
エディスさんが、アシェリを頭を撫でながら俺を呆れた目で見てくる。
「取り敢えず今から頼んでいた防具を取りにいって、明日その防具の調整して、明後日出発って感じだな」
「くれぐれも、出発前に無理しないでくださいね」
「大丈夫大丈夫。無理な事はしてない。無茶してるだけだから」
「「はぁ……」」
そして、ギルドをあとにして防具屋向かった。
「オヤジいるかー!」
「聞こえとるわ! 目の前にいるだろうが!」
「お約束ってやつだ、ははは」
「主様……」
オヤジから瘴気個体のみで作った装備を見せられ、取り敢えず装備してみた。
「おぉ! 何だこれ! ライダースーツみたいで有りながらも、物凄い伸縮自在で全く動きを阻害していない! 更には要所要所に浪漫溢れる外殻を付けて有りながらも、重くないだとぉ!」
「お、おう……そんなに興奮するとは思わなかったが、我ながらよく出来たな。アシェリちゃんのは、こっちだ」
「凄い……全く重くないです。しかも動きやすい……あっ、尻尾も邪魔にならないんですね」
アシェリの装備も俺とほぼ同じなのだが、アシェリはスカート&スパッツ仕様となっていた。
「オヤジぃいいいい!」
「な、なんだ!?」
「良い出来だ……中々わかってるじゃないか。気に入った! 金貨もう五枚追加で払っといてやる!」
「あぁ、そりゃ気に入ってもらえてよかった……で、あとこれはオーガナイフってとこだな」
オヤジは、オーガのツノで作ったナイフを渡してきた。見た目はセラミックのナイフと言った見た目だったが、アシェリに渡して試し切りをさせて貰うとかなりの切れ味だった。
「凄い……」
「切れ味だけじゃなくぞ。流石オーガキングのツノだな、折れるどころか刃こぼれすら起きる気がせん硬さで、加工に一番苦労したかも知れんな、今回の奴の中で」
流石に、瘴気纏いオーガは凄かったみたいだった。ツノは二個体分あったので、二本のオーガナイフをアシェリは装備し、今まで持っていた初心者用ナイフを礼を言いながらオヤジに返した。
「あと、余った素材はどうする?」
「あぁ、それなら貰っていく。またなんか必要な時は頼むわ」
「おう! 任せときな!」
そして俺たちは、新装備に身を包みながら宿屋へと帰った。元々来ていた革鎧は、勿論大事に俺のは鞄にしまった。アシェリが来ていた革鎧も既にボロボロだったが、アシェリが返すとオヤジは逆に礼を言っていた。
そして次の日に、新装備に慣れる為にいつも通りに鍛錬を行った。
「慣らしって……言ってたのに……ガクッ」
「普段通りの動きができるかどうかの慣らしだからな、ほら気を抜くと……死ぬぞ?」
「鬼ぃいいいいい!」
そして、商隊護衛クエスト前日も、いつも通り過ぎていくのであった。
討伐指定盗賊団だっただけあって、討伐報酬は金貨五十枚程になった。そして宝の鑑定結果は、金貨百二十枚程らしく余程溜め込んでいたらしい。
それと合わせて奴等が金貨で溜め込んでいた分を合わせると、今回の討伐による成果としては、合計で金貨二百枚程だった。
「もう俺って、クエスト受ける必要なくないかこれ?」
そんな呟きをしてしまっても、仕方がないと思う。
「確かにお金の心配は、暫くありそうにありませんね。好きなようにしたら、良いと思いますよ。ただ、まだ受けたことのないクエストもありますし、色々経験するのも面白いでしょう」
エディスさんは、そう言いながらクエスト依頼書の束をチェックしていると、俺に一つのクエスト依頼書を見せてきた。
「護衛クエストとかどうですか? 他の街を見てみるのも、一興ですよ。一週間後に、ウミナリ商会の商隊が王都から北の都ノスティに向かいます。その護衛クエストはどうですか? 護衛団リーダーは『五蓮の蛇』です。行きと帰りで、大体一週間程ですね」
「どうしよかな……そうだな。他の街も見てみたいし、受ける事にする」
「分かりました。それではその旨、『五蓮の蛇』に伝えときますね。アシェリちゃんも連れて行きますか? 冒険者としてはランクが足りませんが、ヤナ君の従者奴隷としては連れて行けますよ?」
「そうだな、連れて行こう。良い経験になるしな、頼む。あと五蓮のの蛇《ジャ》に『逃げるなよ?』とも一緒に言っといてくれ」
「ふふふ、それヤナ君に言われたら、彼等逃げるんじゃないかしら?」
「そうかな? くくく」
俺とエディスさんは笑い合った。昨日の事があった為か、こう言う時間がとても心を穏やかにさせた。城にいる時もセアラとの何気ない会話に、鍛錬中に随分救われたのを思い出した。
「今度、呼出するかな」
「どうしました?」
「ん? いや、そう言えばエディスさんも、そんな自然な笑顔出来るんだな。営業スマイルと嗤い顔しか見てなかったからなぁ。その笑顔なら、もっとこの列も人気が出るのひぃ!」
「なぁにぃかぁ言いましたかぁ? 余計な事言ってると、また雷落ちますよ?」
エディスさんが嗤いながら、俺を睨みつけるという器用な事をしていた。
「勘弁してくれよったく。ん? でもあれか照れてるのか? 少し耳があかぃいいいいいい! あばばばば! やめぇええええ!」
結局、エディスさんに雷を落とされた。理不尽過ぎる。
「食べ終わったか?」
俺は、食堂で突っ伏しているアシェリに話しかけた。
「けぷ……はい……食べました……」
今日もちゃんと俺たちは夜明け前からジョギングしてから、特盛朝飯を食べていたのだ。昨日の事があって俺はあまり寝てないが、特に問題なく平気だった。これもこっちに来て鍛えたおかげなのか、若くはスキルのおかげなのだろう。何故かアシェリは、かなり眠そうにしていて辛そうだったが。
「よし、ならギルド行って今日の分のクエスト受けてこいよ。俺はここで待ってるから。リアンちゃぁん、カーヒーくださぁい」
「はーい、お待ちくにゃさぁい!」
コーヒーでは無いが、非常に良く似たカーヒーというものがこの世界にはあったのだ。これも、勇者の偉業かも知れない。
「それでは、ギルドへ行ってきます」
「あぁ、気をつけてな。いってらっしゃい」
「……主様、すぐそこですから……」
「はは、油断するなよって事だよ」
アシェリは、納得してなさそうな顔をしていたがギルドへと向かっていった。
「ったく子供なんだから、もうちょっと子供らしくと思うが……そんな世界じゃないかここは……」
リアンちゃんが笑顔でもってきてくれたカーヒーを飲みながら、同じ獣人奴隷のリアンちゃんを見ながらそんな事を呟いてしまっていた。
それから少しして、アシェリ戻ってきた。今日も、薬草採取とスライム討伐クエストらしい。
「それじゃあ、鍛錬にむかうか」
「はい」
そして、俺らは荒野へと鍛錬しに向かったのだった。そして昼食まで俺がアシェリとで組手を行い。昼からは、俺は自分の鍛錬を行い、アシェリはクエスト目的の採取と討伐が終われば俺と合流し、再度俺の『十指』『火の棒』の自動操縦と戦わせた。
こうして三日ほど俺は鍛錬と、アシェリは鍛錬とクエストをこなしていったのだった。
王都の裏街には、冒険者初日のヤナに宿屋でボコボコにされた貴族と取り巻き二人がいた。そして三人の前には、貴族の様な格好をした青年が立っていた。
「私に会いたいと言うのは、お前か?」
「えぇ、そうです、ザコル様。私はラオラインと申します。貴族の端くれではあるのですが、もう没落しておりましてね」
「ふん、で? その没落貴族が、俺に何の用だ」
「ザコル様は、先日ある冒険者に叩きのめされたそうですね?」
「な!? 何故、それを知っている!」
「もう、有名ですよ? 冒険者登録した初日の初心者に、ボコボコにされた貴族の息子っていえば、庶民の酒の肴ですね。クックック」
実際には、冒険者登録初日のヤナにボコボコにされたのは『五蓮の蛇』もいるのだが、冒険者以外はその事を知らない上に、ボコボコにされたのが『貴族』という事が庶民の心を躍らせたのだ。
「なんだと! あのクズ冒険者がぁ! 必ず後悔させてやる! ズタボロにしながら殺さんと、俺の気が済まんぞ!」
「そうでゲス!」
「そうでゴス!」
「えぇえぇ、そうですよね? 憎いですよね? 恨めしいですよね? 実は私はそのヤナという冒険者の持っている奴隷に、用がありましてね。どうでしょう? 協力しませんか? あの二人に『絶望』を届けるのを」
「いいだろう、その話に乗ってやろう」
こうして三人は、目の前の男に更に裏街の奥へと誘われていった。
「クックック、楽しい狼狩りの時間だ」
王都から走って二時間程の森の近くの草原に、ヤナとアシェリはいた。Fランクに上がった事で、討伐クエストの魔物種類が森にいる魔物に変わった為だった。午前中は何時も通りランニング、朝飯後はひたすらヤナとアシェリは組手で過ごしてから、ここにやってきた。
「今日からは、少し鍛錬のやり方を変えようと思う。アシェリも無事にFランクに上がった事だしな。鍛錬も、ランクを上げていこう」
アシェリは薬草採取や討伐魔物を探す勘が良く、指定量より大分多めに毎回ギルドへ持って行っていた。その為、毎回その量に応じてエディスさんがその場でクエストを受けさせて完了しており、四日でFランクに上がる事が出来ていた。
「ぜぇぜぇ……は……はい……何をするんです……か?」
「俺の自動操縦の剣やら棒やらで、多方向から攻撃も飽きてきただろ? そうなんだ、飽きてきたんだよ。だって、武器だけ飛んできても味気ないと思わないか?」
「……は? 主様の自動操縦は、充分今のままでも脅威なんですが?」
アシェリは、何を言っているか分からないと言った顔をしている。
「だって、昨日とかアシェリも『十指』『火の棒』を殆ど躱せてただろ?」
「……殆どなので、結構当たってましたけども?」
「気絶はしなかったよな?」
「……はい……でも! 確か、次は『五指』『火の片手剣』で、徐々に慣らして行くのではなかったのですか?」
ここに来る直前までは、そのつもりだった。
「良いこと思いついたと言うよりな、思い出したんだよ」
俺はニヤニヤ嗤いながら、アシェリを見る。
「先ずはアシェリ用っと……『十指』『火の柱』『形状変化』『火の自動人形達』『自動操縦』『対象:アシェリ・ルナ』『攻撃停止条件:気絶』『待機』っと、これで良し。良い考えだろ?」
アシェリを十体の『火の自動人形達』が取り囲み、その場で停止している。
「……主様……? これは?」
「まだ素手だし、強さは五段階の一番弱いやつだ。気絶すれば止まる、親切設計だぞ? 倒すことが出来れば、次は炎魔法で作ってやるから、安心しろよ」
俺は、これ以上ないくらいのドヤ顔で答えた。
「別に倒した後の心配なんてしてないのですが……」
「次は俺用にっと……『十指』『獄炎の柱』『形状変化』『黒炎の自動人形達』『自動操縦』『対象:ヤナ・フトウ』『攻撃停止条件:無し』『待機』っと、それから全員に黒炎の大剣を渡して」
十体の『黒炎自動人形達』に更に形状変化で黒炎の大剣を装備させた。俺は勿論、革鎧且つ起死回生の発動を止めた。
「ぐう……これは、壮観だな……」
俺を取り囲む十体の、獄炎の使者達。
「変態がいる……」
「だれが変態だ……一緒に……頑張ろう……な? 鍛錬開始ぃいいいい!」
「きゃぁあああああ! 鬼ぃいいいいい!」
更に俺たちは地獄の鍛錬を毎日続け、そして護衛クエストまでニ日後となっていた。
いつも通りアシェリのクエスト完了の報告の為、ギルド受付に来ていた。
「今日も、多めに持ってきましたね。ちょっと待ってくださいね……あら、アシェリちゃんは今回のクエスト達成でEランクね。おめでとう」
「ありがとう……ございま……す」
アシェリはいつも通り、満身創痍でエディスさんに礼を返していた。
「……いつも思うけど、貴方達何してるのよ? 討伐クエストで、そんなボロボロならないでしょうに。ヤナ君に至っては、ボロボロっていうよりズタボロだし」
「ん? 鍛錬だ鍛錬。取り敢えず強くなれば、何とかなるだろ? 死にたくなれば、強くなればいいだけだな。単純で素晴らしい」
「……今、死にそうです……」
「この変態が……それで護衛クエスト明後日だけど、準備はいい? あと、アシェリちゃんはEランクだから、今回はヤナ君の奴隷として参加でいいわね?」
「あぁ、アシェリの件はそれでいい。流石にDランクまでは、間に合わなかったか。準備は大丈夫だ。食料だなんだも全て鞄に入れてある」
護衛クエストはDランクからしか受けられない為、今回は俺の従者奴隷という形で連れて行くことにしたのだ。
「貴方じゃないんだから……アシェリちゃんでも、物凄く早いんですからね?」
「エディスさん……ありがとうございますぅ」
エディスさんが、アシェリを頭を撫でながら俺を呆れた目で見てくる。
「取り敢えず今から頼んでいた防具を取りにいって、明日その防具の調整して、明後日出発って感じだな」
「くれぐれも、出発前に無理しないでくださいね」
「大丈夫大丈夫。無理な事はしてない。無茶してるだけだから」
「「はぁ……」」
そして、ギルドをあとにして防具屋向かった。
「オヤジいるかー!」
「聞こえとるわ! 目の前にいるだろうが!」
「お約束ってやつだ、ははは」
「主様……」
オヤジから瘴気個体のみで作った装備を見せられ、取り敢えず装備してみた。
「おぉ! 何だこれ! ライダースーツみたいで有りながらも、物凄い伸縮自在で全く動きを阻害していない! 更には要所要所に浪漫溢れる外殻を付けて有りながらも、重くないだとぉ!」
「お、おう……そんなに興奮するとは思わなかったが、我ながらよく出来たな。アシェリちゃんのは、こっちだ」
「凄い……全く重くないです。しかも動きやすい……あっ、尻尾も邪魔にならないんですね」
アシェリの装備も俺とほぼ同じなのだが、アシェリはスカート&スパッツ仕様となっていた。
「オヤジぃいいいい!」
「な、なんだ!?」
「良い出来だ……中々わかってるじゃないか。気に入った! 金貨もう五枚追加で払っといてやる!」
「あぁ、そりゃ気に入ってもらえてよかった……で、あとこれはオーガナイフってとこだな」
オヤジは、オーガのツノで作ったナイフを渡してきた。見た目はセラミックのナイフと言った見た目だったが、アシェリに渡して試し切りをさせて貰うとかなりの切れ味だった。
「凄い……」
「切れ味だけじゃなくぞ。流石オーガキングのツノだな、折れるどころか刃こぼれすら起きる気がせん硬さで、加工に一番苦労したかも知れんな、今回の奴の中で」
流石に、瘴気纏いオーガは凄かったみたいだった。ツノは二個体分あったので、二本のオーガナイフをアシェリは装備し、今まで持っていた初心者用ナイフを礼を言いながらオヤジに返した。
「あと、余った素材はどうする?」
「あぁ、それなら貰っていく。またなんか必要な時は頼むわ」
「おう! 任せときな!」
そして俺たちは、新装備に身を包みながら宿屋へと帰った。元々来ていた革鎧は、勿論大事に俺のは鞄にしまった。アシェリが来ていた革鎧も既にボロボロだったが、アシェリが返すとオヤジは逆に礼を言っていた。
そして次の日に、新装備に慣れる為にいつも通りに鍛錬を行った。
「慣らしって……言ってたのに……ガクッ」
「普段通りの動きができるかどうかの慣らしだからな、ほら気を抜くと……死ぬぞ?」
「鬼ぃいいいいい!」
そして、商隊護衛クエスト前日も、いつも通り過ぎていくのであった。
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