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第二章 錬磨
王女のお願いと唯の凡人
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セアラは、俺に泣き顔を向けていた。
「なんだ、泣けるじゃないか。もっと笑って泣いて、怒って楽しんでいいんだぞ?」
「それは……」
セアラが俺に何かを言うまえに、目の前のガルガオウ公爵が叫びだした。
「フハハハ! そいつは、悪神様の聖痕を受けている! 感情の昂りで、聖痕の効果が上がるのだ! まるで石像の様になっていなければ、我らにすぐ見つかり周りにも災厄が及ぶのだよ! 何処に隠れていたか知らんが、お前にもすぐに災厄を届けてやる!」
「やかましいわ!」
先ほど受け止めたガルガオウ公爵の剣を、大太刀『烈風』で受けたままニ本目の大太刀『涼風』でガルガオウ公爵に斬りかかった。流石に簡単には斬らしてはくれないらしく、ガルガオウ公爵は後方に距離をとった。
「てめぇの話は、ずっとセアラを通して聴いてたからもう黙れ。うるさい。俺は、セアラと話してるんだ。どれだけここまで来るのに苦労したと思ってやがる。変な結界なぞ張りやがって、慌てて塔に来てみても何にもなっていないのに、声だけは聞こえるし。近付こうとしたら何故か戻されるし。なんかその様子を見てた人から、ちょっと可哀想な人を見る目を向けられるし……すぐ相手してやるから、黙っとけぇええ!」
実際かなり頭にきていたので、今の全力の威圧と殺気をガルガオウ公爵にぶつけた。
「ぐぅおお……」
ガルガオウ公爵が苦悶に満ちた表情で黙り片膝をついたので、改めてセアラに顔を向けた。
「大丈夫か? 一応伝えとくと、アメノもエイダも無事だからな? 俺が応急処置で取り敢えずの処置はしておいた。俺の神隠しであいつから二人を隠して、離れた所に寝かせてある。そんなことやってたら、セアラを助けるのがギリギリになっちまった、ごめんな」
「……なんで……なんで来たのですか!? 回線切断するのを忘れていたから……全部、聞こえていたのでしょう?」
「あぁ、全部聞いていたな」
「私が既に絶望していて、すぐにでも魔族に殺してほしいと言っていたのも……聞いていたでしょう?」
「それも、ちゃんと聞いていたぞ」
「私は悪神の巫女……人からも魔族からも狙われる……この塔からも出られず、何も世界を見ることもできず……生きているだけで、災厄を呼ぶ……貴方にも、それは関係なしに襲いかかる……本当にごめんなさい……」
「ん? なんで謝るんだ? まだ俺もセアラの周りも、その災厄とやらに襲われていないぞ? アメノとエイダは俺との鍛錬の時に、俺が受けていた傷と対して変わらんぐらいだし、そもそも既に手当もしたしな」
俺は笑顔で、極力ゆっくりと話し続ける。何の問題もないと、セアラに聞かせる為に。
「俺と一緒に来たクックルさんが、手当てした二人を守ってるし大丈夫だ。セアラは、何もまだされていないだろ? この結界の所為でここの外も、全く騒がしくなっていないから、日常のままだぞ。それにな……これのお蔭で運良くすぐにまたセアラに会えて俺は嬉しいぞ? ん? どうだ? 後は、アレを斬って捨てて終いだろ?」
「私と会えて……嬉しい?」
「そうだぞ? それに俺は冒険者だぞ? これからこの程度だったら、日常茶飯事だろ。そうでないと俺のレベルも上がらないしな? むしろこんな感じがセアラといると向こうから来てくれるなら、セアラと一緒に旅したいくらいだな、ハハハ」
「私と一緒に……いたいのですか?……一緒に旅を……」
「まぁ、一緒に旅しようとしたら、セアラはもうちょっとお転婆になって、戦える様にならないとな」
「強く……戦える様になれば……ヤナ様と一緒に、旅ができますか?」
セアラが、これまでで一番瞳を輝かせて俺を見ていた。
「そうだな、その時は俺も一緒に王様とかにお願いしてやるよ」
「本当ですよね! 絶対ですよ!」
「ははは、あぁ絶対だ。約束してやるよ。まずはそんな感じで、大声出せる様にならないとな? くくく」
セアラは顔を赤らめながら、それでも俺から視線を外すことなく、俺に"お願い"をした。
「頑張ります。なのでヤナ様、お願いです。早く鍛錬を始めたいので、あの魔族を討ち取ってくれませんか? 時間が勿体無いです」
「おうおう、その調子だな。さっさと終わらせないと、セアラに怒られちゃうからな……だそうだぞ?」
俺は再び、ガルガオウ公爵と名乗る魔族に顔を向けた。
「大分律儀に待っててくれたな? 公爵って名乗る位だから紳士なのか? それとも……俺の威圧で、動けないわけじゃないよなぁ?」
「クソがぁ! なめるなぁあああ!」
ガルガオウ公爵が咆哮を轟かせ、先程までの人の貴族の様な姿から、異形の怪物へと変身した。
「グハハハハ! 悪神サマより頂いタこの力! この状態は魔王サマにも匹敵する力を得ているノダ! その目障りな巫女をコロサセロ! 悪神様の邪魔ダ!」
「おうおうおう、悪役お約束の変身かよ。やっぱり悪神とやらが、セアラの様な巫女を殺したいんだな?」
「ソウダ! 神に目を付けられてイルノダ! これ以上の絶望などナイダロ! 貴様ら巫女は、早く逝け!」
「やっぱり巫女ってのは、何人もいるんだな。もうちょっと教えてくれよ、なんで巫女が邪魔なんだ?」
「教えるワケナイダロ! 死ねぇエエエエ!」
「やっぱりそうだよなぁ……まぁしょうがないか。『黒炎の大剣』『収束』『対象:ガルガオウ公爵』!」
事前に『神隠し』で隠しておいた獄炎魔法で創った『黒炎の大剣』をガルガオウ公爵を指定して『収束』させる。
「逃げても無駄だぞ? お前に集まるように指定しておいたから、何処までも追いかける自動追尾ってとこだな」
「グァアアアア! なんだそれは! 獄炎魔法ではないのか!? なんだこの形は!」
『形状変化』で形状をもたせた魔法は威力が上がるらしい。次々に向かってくる『黒炎の大剣』に怪物は身体が徐々に斬り刻まれていく。そして十本全てが突き刺さり、黒炎の塊となった。
「グルアアアア!……ガハッ……フ……フハハハ! 耐えたぞ! あれ程の威力は人間にしては中々ヤルが、それでもワレには届かないヨウダナ! 見てみろこの身体を! もう自己修復が始まり傷が無かったことになってオルワ!」
先程までズタボロなっていた異形の怪物の身体は、確かに時間が経つにつれて元の姿に戻っている様に見えた。
「めんどくさい身体してるなぁ、全く」
「貴様の攻撃などでワレを倒せんことがワカッタカ! 『絶望』セヨ! ココからはワレが直接『絶望』をトドケテやる! グルアアアア!」
異形の怪物から瘴気が溢れだし、魔力が膨れ上がった。そして、一瞬で俺の前に現れ豪腕を思いっきり叩きつけられた。
「ぐぅううう! がはっ! なんのぉ!」
頭から叩きつけられた豪腕を二本の刀で受け止め、耐え切った所で相手の身体を蹴り飛ばした。
「ごふっ……がはっ……なんだ……? 身体が……」
「ヤナ様!?」
直接攻撃は食らわなかったはずなのに吐血した。まるでクックルさんの毒料理を食べた様だった。
「フハハハ! 瘴気は貴様らにとっては毒だからな! そのままでもシヌだろうが、己が守る姫の前で燃え尽きロ! 『侵食されし獄炎大円』! 魂まで燃えつきロ!」
「ヤナ様! やめてぇええ!」
俺の後ろでセアラが泣き叫んだ。本当に申し訳なく思いながら、異形の怪物に話しかける。
「ぐぅうううう!……最後なんだ……おい……公爵なんて大貴族なら……冥土に土産ぐらい持たせろ……何故巫女達を……狙う……ぬぅううう」
「ほう、中々燃え尽きぬナ。フハハハ! 死ぬ間際までそんな事をキニスルノカ! いいだろう、最後に飛びっきりの『絶望』をくれてやろう! 悪神様の巫女は、その昔に悪神様を女神と共に封印した巫女の魂なのだ! 本来なら貴様らの希望ナノダガナ? それを悪神様によって聖痕を付けられ、人からも魔族からも狙われるのだ! 滑稽で嗤えるぞ! 自分たちで絶望に向かっているのだからナ!」
「そんな……私は……」
「そうか……ぐぅううう……もう一つ、悪神に伝えて欲しい事が有るんだが、どうすればいい?」
「ソンナコトカ、我は『悪魔の目と耳』。我が見たこと聞いたことは、今も魔王サマに直接伝わり、そのまま悪神様も魔王サマを通じて今も見ておるわ!」
「……なるほどな……そうか……今も見てやがるのか……セアラ、危ないから少し離れていろ」
「ヤナ……様……?」
「フハハハ! 貴様をマモル男が、燃え尽きる様をみて『絶望』するがイイ!」
俺は目の前の異形の怪物の、奥を見る様にして叫ぶ。
「おい! 悪神だか何だか知らんがな! 良く見ておけよ俺の顔を……神を殺しに行く男の顔をなぁ!」
「ナニを言っているの……ダ? ハ? お前、ナゼ燃えていない!」
「当たり前だろう? より強い炎に守られている俺が、燃える道理がどこにある?」
「なにを……ナニを言っている……?」
「あぁ、隠してたから見えてなかったな。『神隠し』『解除』!」
『神隠し』によって認識できない様に隠していた俺の今の状態を『解除』し、誰からも見える様にした。
「ナンダその姿は! その鎧は……獄炎で出来ているノカ!」
「お前の汚れた炎よりも、俺の炎の方が上らしいな」
「そんなバカな! 悪神様より授かった『侵食されし獄炎』なのだゾ!」
どうやらあの瘴気を纏った炎は、悪神とやらの力らしい。
「おいおいおいおい、何をそんなに焦っているんだ? 俺はさぁ、怒っているんだぜ? 旅立ちを邪魔されるわ、俺が切り捨てる予定だった師匠達を倒すわ……セアラに絶望なんぞをこれまで与え続けやがって……焦せらすだけで終われると思うなよ?」
俺は『豪傑殺しの腕輪』と『魔導師殺しの指輪』を外し、エイダさんのくれたバッグにしまった。簡単に外れた事に若干の二人へのイラつきを感じつつも、これまでに感じたことのない解放感が俺を襲う。抑えきれない力が漲り、魔力が身体中から迸る。
「これが、てめぇらの絶望の姿だぁああああああ!」
初めて抑えつけられていた力と魔力を、全開放した。
【『心堅石穿』が『起死回生』に能力進化しました】
【『一騎当千』が『天下無双』に能力進化しました】
【『臥薪嘗胆』が『威風堂々』に能力進化しました】
【『能工巧匠』が『正確無比』へ能力進化しました】
【『神隠し』が『神出鬼没』へ能力進化しました】
【『神殺し』を取得しました】
【『獄炎魔法』が『神火魔法』へ能力進化しました】
全力を一気に解放した瞬間、立て続けに能力が進化若しくは取得したとのアナウンスが頭に流れた。
「バ……化け物か……オマエは!……何なんだ、オマエはぁあ!」
「お前達に『絶望』を届ける、唯の〝凡人』さ〟
さぁ、安心して逝け
「なんだ、泣けるじゃないか。もっと笑って泣いて、怒って楽しんでいいんだぞ?」
「それは……」
セアラが俺に何かを言うまえに、目の前のガルガオウ公爵が叫びだした。
「フハハハ! そいつは、悪神様の聖痕を受けている! 感情の昂りで、聖痕の効果が上がるのだ! まるで石像の様になっていなければ、我らにすぐ見つかり周りにも災厄が及ぶのだよ! 何処に隠れていたか知らんが、お前にもすぐに災厄を届けてやる!」
「やかましいわ!」
先ほど受け止めたガルガオウ公爵の剣を、大太刀『烈風』で受けたままニ本目の大太刀『涼風』でガルガオウ公爵に斬りかかった。流石に簡単には斬らしてはくれないらしく、ガルガオウ公爵は後方に距離をとった。
「てめぇの話は、ずっとセアラを通して聴いてたからもう黙れ。うるさい。俺は、セアラと話してるんだ。どれだけここまで来るのに苦労したと思ってやがる。変な結界なぞ張りやがって、慌てて塔に来てみても何にもなっていないのに、声だけは聞こえるし。近付こうとしたら何故か戻されるし。なんかその様子を見てた人から、ちょっと可哀想な人を見る目を向けられるし……すぐ相手してやるから、黙っとけぇええ!」
実際かなり頭にきていたので、今の全力の威圧と殺気をガルガオウ公爵にぶつけた。
「ぐぅおお……」
ガルガオウ公爵が苦悶に満ちた表情で黙り片膝をついたので、改めてセアラに顔を向けた。
「大丈夫か? 一応伝えとくと、アメノもエイダも無事だからな? 俺が応急処置で取り敢えずの処置はしておいた。俺の神隠しであいつから二人を隠して、離れた所に寝かせてある。そんなことやってたら、セアラを助けるのがギリギリになっちまった、ごめんな」
「……なんで……なんで来たのですか!? 回線切断するのを忘れていたから……全部、聞こえていたのでしょう?」
「あぁ、全部聞いていたな」
「私が既に絶望していて、すぐにでも魔族に殺してほしいと言っていたのも……聞いていたでしょう?」
「それも、ちゃんと聞いていたぞ」
「私は悪神の巫女……人からも魔族からも狙われる……この塔からも出られず、何も世界を見ることもできず……生きているだけで、災厄を呼ぶ……貴方にも、それは関係なしに襲いかかる……本当にごめんなさい……」
「ん? なんで謝るんだ? まだ俺もセアラの周りも、その災厄とやらに襲われていないぞ? アメノとエイダは俺との鍛錬の時に、俺が受けていた傷と対して変わらんぐらいだし、そもそも既に手当もしたしな」
俺は笑顔で、極力ゆっくりと話し続ける。何の問題もないと、セアラに聞かせる為に。
「俺と一緒に来たクックルさんが、手当てした二人を守ってるし大丈夫だ。セアラは、何もまだされていないだろ? この結界の所為でここの外も、全く騒がしくなっていないから、日常のままだぞ。それにな……これのお蔭で運良くすぐにまたセアラに会えて俺は嬉しいぞ? ん? どうだ? 後は、アレを斬って捨てて終いだろ?」
「私と会えて……嬉しい?」
「そうだぞ? それに俺は冒険者だぞ? これからこの程度だったら、日常茶飯事だろ。そうでないと俺のレベルも上がらないしな? むしろこんな感じがセアラといると向こうから来てくれるなら、セアラと一緒に旅したいくらいだな、ハハハ」
「私と一緒に……いたいのですか?……一緒に旅を……」
「まぁ、一緒に旅しようとしたら、セアラはもうちょっとお転婆になって、戦える様にならないとな」
「強く……戦える様になれば……ヤナ様と一緒に、旅ができますか?」
セアラが、これまでで一番瞳を輝かせて俺を見ていた。
「そうだな、その時は俺も一緒に王様とかにお願いしてやるよ」
「本当ですよね! 絶対ですよ!」
「ははは、あぁ絶対だ。約束してやるよ。まずはそんな感じで、大声出せる様にならないとな? くくく」
セアラは顔を赤らめながら、それでも俺から視線を外すことなく、俺に"お願い"をした。
「頑張ります。なのでヤナ様、お願いです。早く鍛錬を始めたいので、あの魔族を討ち取ってくれませんか? 時間が勿体無いです」
「おうおう、その調子だな。さっさと終わらせないと、セアラに怒られちゃうからな……だそうだぞ?」
俺は再び、ガルガオウ公爵と名乗る魔族に顔を向けた。
「大分律儀に待っててくれたな? 公爵って名乗る位だから紳士なのか? それとも……俺の威圧で、動けないわけじゃないよなぁ?」
「クソがぁ! なめるなぁあああ!」
ガルガオウ公爵が咆哮を轟かせ、先程までの人の貴族の様な姿から、異形の怪物へと変身した。
「グハハハハ! 悪神サマより頂いタこの力! この状態は魔王サマにも匹敵する力を得ているノダ! その目障りな巫女をコロサセロ! 悪神様の邪魔ダ!」
「おうおうおう、悪役お約束の変身かよ。やっぱり悪神とやらが、セアラの様な巫女を殺したいんだな?」
「ソウダ! 神に目を付けられてイルノダ! これ以上の絶望などナイダロ! 貴様ら巫女は、早く逝け!」
「やっぱり巫女ってのは、何人もいるんだな。もうちょっと教えてくれよ、なんで巫女が邪魔なんだ?」
「教えるワケナイダロ! 死ねぇエエエエ!」
「やっぱりそうだよなぁ……まぁしょうがないか。『黒炎の大剣』『収束』『対象:ガルガオウ公爵』!」
事前に『神隠し』で隠しておいた獄炎魔法で創った『黒炎の大剣』をガルガオウ公爵を指定して『収束』させる。
「逃げても無駄だぞ? お前に集まるように指定しておいたから、何処までも追いかける自動追尾ってとこだな」
「グァアアアア! なんだそれは! 獄炎魔法ではないのか!? なんだこの形は!」
『形状変化』で形状をもたせた魔法は威力が上がるらしい。次々に向かってくる『黒炎の大剣』に怪物は身体が徐々に斬り刻まれていく。そして十本全てが突き刺さり、黒炎の塊となった。
「グルアアアア!……ガハッ……フ……フハハハ! 耐えたぞ! あれ程の威力は人間にしては中々ヤルが、それでもワレには届かないヨウダナ! 見てみろこの身体を! もう自己修復が始まり傷が無かったことになってオルワ!」
先程までズタボロなっていた異形の怪物の身体は、確かに時間が経つにつれて元の姿に戻っている様に見えた。
「めんどくさい身体してるなぁ、全く」
「貴様の攻撃などでワレを倒せんことがワカッタカ! 『絶望』セヨ! ココからはワレが直接『絶望』をトドケテやる! グルアアアア!」
異形の怪物から瘴気が溢れだし、魔力が膨れ上がった。そして、一瞬で俺の前に現れ豪腕を思いっきり叩きつけられた。
「ぐぅううう! がはっ! なんのぉ!」
頭から叩きつけられた豪腕を二本の刀で受け止め、耐え切った所で相手の身体を蹴り飛ばした。
「ごふっ……がはっ……なんだ……? 身体が……」
「ヤナ様!?」
直接攻撃は食らわなかったはずなのに吐血した。まるでクックルさんの毒料理を食べた様だった。
「フハハハ! 瘴気は貴様らにとっては毒だからな! そのままでもシヌだろうが、己が守る姫の前で燃え尽きロ! 『侵食されし獄炎大円』! 魂まで燃えつきロ!」
「ヤナ様! やめてぇええ!」
俺の後ろでセアラが泣き叫んだ。本当に申し訳なく思いながら、異形の怪物に話しかける。
「ぐぅうううう!……最後なんだ……おい……公爵なんて大貴族なら……冥土に土産ぐらい持たせろ……何故巫女達を……狙う……ぬぅううう」
「ほう、中々燃え尽きぬナ。フハハハ! 死ぬ間際までそんな事をキニスルノカ! いいだろう、最後に飛びっきりの『絶望』をくれてやろう! 悪神様の巫女は、その昔に悪神様を女神と共に封印した巫女の魂なのだ! 本来なら貴様らの希望ナノダガナ? それを悪神様によって聖痕を付けられ、人からも魔族からも狙われるのだ! 滑稽で嗤えるぞ! 自分たちで絶望に向かっているのだからナ!」
「そんな……私は……」
「そうか……ぐぅううう……もう一つ、悪神に伝えて欲しい事が有るんだが、どうすればいい?」
「ソンナコトカ、我は『悪魔の目と耳』。我が見たこと聞いたことは、今も魔王サマに直接伝わり、そのまま悪神様も魔王サマを通じて今も見ておるわ!」
「……なるほどな……そうか……今も見てやがるのか……セアラ、危ないから少し離れていろ」
「ヤナ……様……?」
「フハハハ! 貴様をマモル男が、燃え尽きる様をみて『絶望』するがイイ!」
俺は目の前の異形の怪物の、奥を見る様にして叫ぶ。
「おい! 悪神だか何だか知らんがな! 良く見ておけよ俺の顔を……神を殺しに行く男の顔をなぁ!」
「ナニを言っているの……ダ? ハ? お前、ナゼ燃えていない!」
「当たり前だろう? より強い炎に守られている俺が、燃える道理がどこにある?」
「なにを……ナニを言っている……?」
「あぁ、隠してたから見えてなかったな。『神隠し』『解除』!」
『神隠し』によって認識できない様に隠していた俺の今の状態を『解除』し、誰からも見える様にした。
「ナンダその姿は! その鎧は……獄炎で出来ているノカ!」
「お前の汚れた炎よりも、俺の炎の方が上らしいな」
「そんなバカな! 悪神様より授かった『侵食されし獄炎』なのだゾ!」
どうやらあの瘴気を纏った炎は、悪神とやらの力らしい。
「おいおいおいおい、何をそんなに焦っているんだ? 俺はさぁ、怒っているんだぜ? 旅立ちを邪魔されるわ、俺が切り捨てる予定だった師匠達を倒すわ……セアラに絶望なんぞをこれまで与え続けやがって……焦せらすだけで終われると思うなよ?」
俺は『豪傑殺しの腕輪』と『魔導師殺しの指輪』を外し、エイダさんのくれたバッグにしまった。簡単に外れた事に若干の二人へのイラつきを感じつつも、これまでに感じたことのない解放感が俺を襲う。抑えきれない力が漲り、魔力が身体中から迸る。
「これが、てめぇらの絶望の姿だぁああああああ!」
初めて抑えつけられていた力と魔力を、全開放した。
【『心堅石穿』が『起死回生』に能力進化しました】
【『一騎当千』が『天下無双』に能力進化しました】
【『臥薪嘗胆』が『威風堂々』に能力進化しました】
【『能工巧匠』が『正確無比』へ能力進化しました】
【『神隠し』が『神出鬼没』へ能力進化しました】
【『神殺し』を取得しました】
【『獄炎魔法』が『神火魔法』へ能力進化しました】
全力を一気に解放した瞬間、立て続けに能力が進化若しくは取得したとのアナウンスが頭に流れた。
「バ……化け物か……オマエは!……何なんだ、オマエはぁあ!」
「お前達に『絶望』を届ける、唯の〝凡人』さ〟
さぁ、安心して逝け
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