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第二章 錬磨
勇者の旅立ちと王女のお迎え
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「いよいよ、明日となりましたね。お身体の調子は、如何でしょうか?」
セアラが、落ち着いた声で俺に尋ねててくる。
魔物討伐訓練から帰ってきてからというもの、鍛錬の装備を外した本気のアメノ爺さんとエイダを相手に、死ぬ気の鍛錬をこの一週間続けた。
その結果、レベル、スキル共に成長した。
--------------------------
ヤナ・フトウ
17歳
状態:
豪傑殺しの腕輪【発動】
魔導師殺しの指輪【発動】
ジョブ:
冒険者Lv.25 New!
称号:
召喚を要求した者
スキル:
不撓不屈【発動】
心堅石穿【発動】
死神の慟哭
生への渇望
一騎当千
臥薪嘗胆
能工巧匠
疾風迅雷
狂喜乱舞New!
神隠しNew!
獄炎魔法 New!
生活魔法
収納魔法
通信魔法New!
言語/文字理解【発動】
--------------------------
レベルがこの一週間でLv.25 にまで上がったのだ。アメノ爺さんとエイダさんの「本気中の本気」と言うのは凄まじく、クックルさんが最高級回復薬を用意してなければ、毎回どちらかが死んでいたに違いなかった。
最近では「なんちゃら奥義!」とか「極意なんちゃら!」とか言い出す始末で、それに対応するだけでスキルも鍛えられていた。
アメノ爺さんの剣技に対応していたら俺の二刀流剣術が『狂喜乱舞』に変化した。名前が戦闘狂みたいで嫌だが、コレのおかげで剣技においてもアメノ爺さんに引けを取らなくなった。
またエイダさんに戦闘中に魔力の流れを隠して不意打ちやら戦闘の布石に使用していたら『神隠し』を取得した。これにより、魔力だけでなく自身の気配までも隠せるようになった。戦闘中不意打ちやら設置型の技をかなり有効に使えるようになったのはありがたい。
そして結構嬉しかったのが、エイダさんの獄炎魔法に焔魔法で拮抗させているうちに、焔魔法の熟練度が上がり『獄炎魔法』を習得出来たことだ。
これを取得してからは、エイダさんとも魔法でかなり良い勝負を出来るようになった。心の中では「獄炎だと……俺……かっこいい……」なんて思っていたことは内緒である。取得した際にニヤニヤしてしまい、二人に生温かい目線を投げられた気がしたがスルーした。
そして鍛練最終日の今日、『冒険者Lv.25』になったことで、ジョブスキル『通信魔法』を取得したのだ。
これは正に、ゲームのチャット機能みたいな感じだった。スキルを発動すると、目の前にゲームの設定画面みたいな物が表示され、そこでパーティ登録や友達登録が出来るようだった。
登録した相手とは相手と離れていても、会話が出来るようになる感じだ。只、一応念話モードもあったが心の声がだだ漏れは勘弁願いたいので機能をオフにしてある。
その為、基本的には声をその場で出さないと会話を行えないが、それでも電話がないこの世界では相当重宝すること間違いないだろう。しかも登録した相手は俺に対しても、この機能を使えるようになるみたいだった。
早速、その場にいたアメノ爺さんとエイダさんを個人登録しようとしたら、まずセアラを登録する事をお願いされた。
「一国の王女を友達登録ってどうなの?」
俺は一応確認を取ると、二人から構わないからお願いしますと言われ、本人が良ければと返答しておいたのだった。
「調子は良いぞ。スキルの熟練度も上がりジョブレベルも上がって、新しいジョブスキル覚えたしな。それでセアラに聞きたいことががあるんだが、俺が覚えた新しいジョブスキルで『通信魔法』を覚えてな。そのスキルを使うと、離れていても会話が出来るようになるんだ」
「え?……城から離れても……ですか?」
「あぁ、そうなんだ。スキルの説明はしにくいが、要はセアラがその事を了承してくれれば、外でも俺と話せるという事だな。どうかな? 一国の王女様と一介の冒険者が直接話せるってのは、やっぱり問題だよなぁ?」
「……じゃありません……」
「ん?」
「問題じゃありません!」
「お……お、おう。ありがとうな。じゃあ、今から『登録』するからな。『通信魔法』っと。セアラを友達登録に『申請』……セアラなんか変化あったか?」
「!? 何か頭に声が! えっと……『許可』します……これで良いのでしょうか?」
「おう、俺も頭の中に『セアラ様への友達登録申請が許可されました』って声が聞こえたわ」
通信魔法の『登録』をするには、相手の『許可』必要になる。『許可』されれば使用可能になる。
「使う時は、『呼出』と唱えてから俺の名前を言えば繋がるぞ。試しにやってみてくれ」
「はい。『呼出』『ヤナ様』」
セアラが俺に『呼出』すると、俺の頭の中にジリリリと黒電話の音なった。着信音は残念ながら、これから変えられなかった……
「『受話』『どうだ?聞こえるか?』」
「『!?なんだか頭の中に直接響いてくるように、ヤナ様の声が聞こえます。目の前にもヤナ様がいるので声が二重で聞こえて変な感じですね』」
「『通話をやめるときは、回線切断と唱えてくれ』」
「『回線切断』どうですか?」
「あぁ、大丈夫ちゃんと発動が終わってる。終わる時に回線切断忘れるなよ? これ、結構周りの音も拾うらしくてな、使ってる間はセアラの周囲の音が聞こえてくるからな」
「分かりました」
「これで、セアラとの友達登録がちゃんと完了できたな。よかったよかった」
「……友達……私とヤナ様は……友達なんでしょうか?」
「ん? やっぱり失礼かな? 俺は、そのつもりだったけどな。先に言っておくけど、難しく考えるなよ?」
「……はい……ヤナ様が城を出られても、私から『呼出』してよろしいのでしょうか?」
セアラは少し緊張した表情で聞いてきたので、俺は笑いながら答えた。
「おいおい、何をそんなに緊張してんだよ? だからその為に、聞いたんだろ? むしろかけてくれなかったら、嫌われてると思っちゃうぞ?」
とても悲しそうな顔をして、セアラをみる。するとセアラは、珍しく慌てた様子で答えた。
「絶対『呼出』します! 嫌いなんかじゃ……ありません」
「ははは、それなら安心だな。セアラから『呼出』して貰えるの、楽しみにしてるからな?」
「ヤナ様からも……『呼出』して下さいね……されないと、嫌われてると思っちゃいますからね?」
セアラは少し頬を赤くしながら、ジト目を向けてきた。
「ははは、絶対『呼出』するよ」
「ふふふ、絶対ですからね」
セアラは、これまでで一番の微笑みを浮かべていた。
「あぁ、約束だ。それじゃあな」
「えぇ、またお会いできる日を楽しみにしております」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
そして俺は部屋を出た。
「ふふふ、最後のセアラの笑顔は良かったな」
明日は国から勇者が召喚されたことを、民衆に大々的に発表するらしい。その後に、勇者四人が民衆にお披露目という事になっているそうだ。俺は目立ちたくないし、召喚者だと知られたくない旨を伝え、勇者達の出立した後に、そっと城から出る予定にしていた。
既に国からは、召喚者に対する支援金として金貨10枚を貰っている。それとこの間の瘴気に汚染された迷宮核の破壊の褒賞として金貨30枚と言われたが、俺一人で攻略したわけではないので、5枚貰って残りは勇者達とケイン騎士団長とミレア団員に渡してくれと伝えた。「一応一番俺頑張ったし!」という事で、勝手にだが等分より少し多めに貰っておいた。
「村からの報酬の金貨もあわせれば、金貨二十五枚もあれば当面の生活は大丈夫かな? 金貨一枚あれば、一ヶ月は十分暮らせるって言ってたし、大丈夫だなきっと」
そして、離れの塔の最後の夜は更けていった。
城から出立の朝、いつも通り朝食前のトレーニングをする為に塔の前の広場へ出て行くと、アメノ爺さんとエイダさん、クックルさんまでもが揃っていた。
「どうしたんだ? 揃いも揃って、最後は三人で俺をボコボコにしに来たのか?」
「儂らも今日はセアラ様の警護があるしの、この時間しか会えんからの。見送りじゃ」
クックルさんも今日は塔の厨房には立たないらしく、二人と同じく見送りらしい。
「それにのぉ、餞別と腕輪と指輪のこともあるしの」
「おぉ! 呪いの装備か! 最近全く気にしてなかったから忘れてた! 外せるのか? 今から外れるなら、最後にこの装備とってアメノ爺さんとエイダさんに、俺の『本気中の本気』って奴で相手してほしんだけど?」
「「嫌じゃ(です)!」」
「嫌だって……一回くらい万全で闘わせろよ全く……」
「今、神官様もいらっしゃらないですしね! 残念ですねぇ、外せなくてぇ」
「全くじゃ! 残念無念じゃ、外せなくてのぉ」
「あんた達……ヤナちゃん、城を出たら『試しに』無理やり外してみなさい? 装備が外れるかもしれないわよ?」
クックルさんが微笑みを浮かべながら、伝えて来た。
「なら今から無理やり……」
「「城を出てからじゃ(です)!」」
「お、おう……ならそうする」
「くれぐれもじゃぞ! あと外す時は、周りに建物や人がいない時に外すのじゃぞ! 間違っても城にいる間や街の中で外すでないぞ!」
「わかったよ……そんなに必死になるなよ。まぁ、確かに外したら一気に身体が楽になって、建物とか壊したら大変だしな」
「そうですよ? お気をつけてください」
「餞別は、まずその腕輪と指輪じゃ。とりあえずつけとけば、普段から鍛錬になるしの」
「それって、呪いの装備押し付けただけじゃねぇのかよ……」
俺の呟きをスルーされ、アメノ爺さんは話を続けた。
「あとはこれじゃ。流石に無銘の刀じゃ格好がつかんじゃろ? 儂の持っていた刀からヤナ殿に合いそうな大太刀を二振り選んできたわい、『烈風』と『涼風』じゃ。ヤナ殿の、嵐の様な剣戟に合うじゃろうて」
「こいつは……うん、いいな。何がいいとかは言葉に出来ないが……ありがとう、大事にする」
「私からはこの鞄を。ヤナ様は収納魔法がありますから、偽装の為の鞄です。特に丈夫な皮を持つレッドブルホーンを使用し、更に私が耐久性強化の補助魔法をかけてありますから、安心して無茶なさって下さい」
「ありがとう。これは助かるな。収納魔法もバレたくなかったし、偽装鞄が丈夫だと嬉しい」
「最後は私よ? この本はね、野営時のお勧め料理のレシピ! これで、みんなの胃袋掴んでらっしゃい!」
「クックルさんまで、しかもこの本……かなり嬉しいぞこれ! 俺の料理のレパートリーって、まだ少ないからなぁ。ありがとう。しかも革鎧まで、まだ使えたのに新調してもらっちゃって、まさに新米冒険者って感じだ。心が躍るな」
「なに、セアラ様の様子がヤナ殿と食事を取られる様になってから、大分感情が出る様になって来たからの。皆、そのお礼じゃよ」
「そっか、ならよかった。俺も癒されたしなぁ。お互い様だよ。そうだ! 三人とも俺の通信魔法に登録させてくれよ。また何かあったら助けてくれ。俺も何かあったら、力になるからさ」
三人にも登録をさせてもらうと、三人ともこれから仕事に行くらしく、そこで別れた。
「勇者達は、機会があったら登録させて貰うか」
俺は新しい装備にウキウキしながら、装備を確認する様に朝食の時間まで身体を動かした。朝食を済ませ、アン&アニーさんに連れられて城の門の所へ来た。門が開き、勇者達一行が出て行き割れんばかりの歓声が轟いた。
「待ちに待った勇者のお披露目だもんな。あいつらも、無事に魔王倒せるといいけど」
城のバルコニーを見ると、王とセアラとエルミアが勇者達を見送っていた。流石にこの日は、セアラもちゃんと人前に出るらしい。偶然セアラと目が合った。気のせいか目に涙を溜めているように見えた。それを見て、感情を出せている事に安心しながら、しばらくそこで勇者達が遠ざかっていくの見ていた。
「さて、そろそろ行くかな」
勇者達一行も、しばらくすると城下町を抜けて無事に旅立って行ったらしい。
「そう言えば、あいつらどこ行くんだ? 聞くの忘れてたな……まぁいっか、そのうち会うだろ」
俺が城門を抜けようとした瞬間だった。セアラからの『呼出』があった。
「『もしもしセアラか? なんだもう寂しくなったのか?』」
「『……お見送り出来ませんので、せめてお言葉だけでもと思いまして』」
「『そうか、わざわざありがとうな。それじゃ、行ってくる』」
「『はい……お気をつけて。行ってらっしゃいませ』」
こうして俺は改めて城門をくぐり城の外にでた。城門が閉まっていくのを見ながら、召喚されてからの一ヶ月のことを想っていた。
『……そろ……ろ……に……戻り……よ』
不意にエイダさんの声が聞こえ振り向いたが、エイダさんはいない。おかしいなと思っていると、セアラがさっきの通話の最後に回線切断していないという事に気付いた。
「まぁ慣れない事だし、忘れるよな。『セアラ、回線切断忘れ……』」
「『ドォオオオオン』」
「なんだ!?」
思わず耳を塞ぎ、周りの人達を見るが全く今の音に気付いた様子が無い。
「『クハハハハ! さぁ悪神様の巫女よ、今代のお前にも『絶望』が迎えに来たぞ? クハハハハ!』」
「なんだ!? セアラの通話から聞こえてくるのか!?」
そして今度はセアラの声が聞こえてきた。
「『……やっと迎えに来たのですね……待ちくたびれました……さぁ……私を殺しなさい』」
一番最初に会った時のような、全く抑揚の無い感情を捨て去ったような声だった。
「ふざけるなよ……」
俺は、全力で城門へ向かって駆け出したのだった。
セアラが、落ち着いた声で俺に尋ねててくる。
魔物討伐訓練から帰ってきてからというもの、鍛錬の装備を外した本気のアメノ爺さんとエイダを相手に、死ぬ気の鍛錬をこの一週間続けた。
その結果、レベル、スキル共に成長した。
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ヤナ・フトウ
17歳
状態:
豪傑殺しの腕輪【発動】
魔導師殺しの指輪【発動】
ジョブ:
冒険者Lv.25 New!
称号:
召喚を要求した者
スキル:
不撓不屈【発動】
心堅石穿【発動】
死神の慟哭
生への渇望
一騎当千
臥薪嘗胆
能工巧匠
疾風迅雷
狂喜乱舞New!
神隠しNew!
獄炎魔法 New!
生活魔法
収納魔法
通信魔法New!
言語/文字理解【発動】
--------------------------
レベルがこの一週間でLv.25 にまで上がったのだ。アメノ爺さんとエイダさんの「本気中の本気」と言うのは凄まじく、クックルさんが最高級回復薬を用意してなければ、毎回どちらかが死んでいたに違いなかった。
最近では「なんちゃら奥義!」とか「極意なんちゃら!」とか言い出す始末で、それに対応するだけでスキルも鍛えられていた。
アメノ爺さんの剣技に対応していたら俺の二刀流剣術が『狂喜乱舞』に変化した。名前が戦闘狂みたいで嫌だが、コレのおかげで剣技においてもアメノ爺さんに引けを取らなくなった。
またエイダさんに戦闘中に魔力の流れを隠して不意打ちやら戦闘の布石に使用していたら『神隠し』を取得した。これにより、魔力だけでなく自身の気配までも隠せるようになった。戦闘中不意打ちやら設置型の技をかなり有効に使えるようになったのはありがたい。
そして結構嬉しかったのが、エイダさんの獄炎魔法に焔魔法で拮抗させているうちに、焔魔法の熟練度が上がり『獄炎魔法』を習得出来たことだ。
これを取得してからは、エイダさんとも魔法でかなり良い勝負を出来るようになった。心の中では「獄炎だと……俺……かっこいい……」なんて思っていたことは内緒である。取得した際にニヤニヤしてしまい、二人に生温かい目線を投げられた気がしたがスルーした。
そして鍛練最終日の今日、『冒険者Lv.25』になったことで、ジョブスキル『通信魔法』を取得したのだ。
これは正に、ゲームのチャット機能みたいな感じだった。スキルを発動すると、目の前にゲームの設定画面みたいな物が表示され、そこでパーティ登録や友達登録が出来るようだった。
登録した相手とは相手と離れていても、会話が出来るようになる感じだ。只、一応念話モードもあったが心の声がだだ漏れは勘弁願いたいので機能をオフにしてある。
その為、基本的には声をその場で出さないと会話を行えないが、それでも電話がないこの世界では相当重宝すること間違いないだろう。しかも登録した相手は俺に対しても、この機能を使えるようになるみたいだった。
早速、その場にいたアメノ爺さんとエイダさんを個人登録しようとしたら、まずセアラを登録する事をお願いされた。
「一国の王女を友達登録ってどうなの?」
俺は一応確認を取ると、二人から構わないからお願いしますと言われ、本人が良ければと返答しておいたのだった。
「調子は良いぞ。スキルの熟練度も上がりジョブレベルも上がって、新しいジョブスキル覚えたしな。それでセアラに聞きたいことががあるんだが、俺が覚えた新しいジョブスキルで『通信魔法』を覚えてな。そのスキルを使うと、離れていても会話が出来るようになるんだ」
「え?……城から離れても……ですか?」
「あぁ、そうなんだ。スキルの説明はしにくいが、要はセアラがその事を了承してくれれば、外でも俺と話せるという事だな。どうかな? 一国の王女様と一介の冒険者が直接話せるってのは、やっぱり問題だよなぁ?」
「……じゃありません……」
「ん?」
「問題じゃありません!」
「お……お、おう。ありがとうな。じゃあ、今から『登録』するからな。『通信魔法』っと。セアラを友達登録に『申請』……セアラなんか変化あったか?」
「!? 何か頭に声が! えっと……『許可』します……これで良いのでしょうか?」
「おう、俺も頭の中に『セアラ様への友達登録申請が許可されました』って声が聞こえたわ」
通信魔法の『登録』をするには、相手の『許可』必要になる。『許可』されれば使用可能になる。
「使う時は、『呼出』と唱えてから俺の名前を言えば繋がるぞ。試しにやってみてくれ」
「はい。『呼出』『ヤナ様』」
セアラが俺に『呼出』すると、俺の頭の中にジリリリと黒電話の音なった。着信音は残念ながら、これから変えられなかった……
「『受話』『どうだ?聞こえるか?』」
「『!?なんだか頭の中に直接響いてくるように、ヤナ様の声が聞こえます。目の前にもヤナ様がいるので声が二重で聞こえて変な感じですね』」
「『通話をやめるときは、回線切断と唱えてくれ』」
「『回線切断』どうですか?」
「あぁ、大丈夫ちゃんと発動が終わってる。終わる時に回線切断忘れるなよ? これ、結構周りの音も拾うらしくてな、使ってる間はセアラの周囲の音が聞こえてくるからな」
「分かりました」
「これで、セアラとの友達登録がちゃんと完了できたな。よかったよかった」
「……友達……私とヤナ様は……友達なんでしょうか?」
「ん? やっぱり失礼かな? 俺は、そのつもりだったけどな。先に言っておくけど、難しく考えるなよ?」
「……はい……ヤナ様が城を出られても、私から『呼出』してよろしいのでしょうか?」
セアラは少し緊張した表情で聞いてきたので、俺は笑いながら答えた。
「おいおい、何をそんなに緊張してんだよ? だからその為に、聞いたんだろ? むしろかけてくれなかったら、嫌われてると思っちゃうぞ?」
とても悲しそうな顔をして、セアラをみる。するとセアラは、珍しく慌てた様子で答えた。
「絶対『呼出』します! 嫌いなんかじゃ……ありません」
「ははは、それなら安心だな。セアラから『呼出』して貰えるの、楽しみにしてるからな?」
「ヤナ様からも……『呼出』して下さいね……されないと、嫌われてると思っちゃいますからね?」
セアラは少し頬を赤くしながら、ジト目を向けてきた。
「ははは、絶対『呼出』するよ」
「ふふふ、絶対ですからね」
セアラは、これまでで一番の微笑みを浮かべていた。
「あぁ、約束だ。それじゃあな」
「えぇ、またお会いできる日を楽しみにしております」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
そして俺は部屋を出た。
「ふふふ、最後のセアラの笑顔は良かったな」
明日は国から勇者が召喚されたことを、民衆に大々的に発表するらしい。その後に、勇者四人が民衆にお披露目という事になっているそうだ。俺は目立ちたくないし、召喚者だと知られたくない旨を伝え、勇者達の出立した後に、そっと城から出る予定にしていた。
既に国からは、召喚者に対する支援金として金貨10枚を貰っている。それとこの間の瘴気に汚染された迷宮核の破壊の褒賞として金貨30枚と言われたが、俺一人で攻略したわけではないので、5枚貰って残りは勇者達とケイン騎士団長とミレア団員に渡してくれと伝えた。「一応一番俺頑張ったし!」という事で、勝手にだが等分より少し多めに貰っておいた。
「村からの報酬の金貨もあわせれば、金貨二十五枚もあれば当面の生活は大丈夫かな? 金貨一枚あれば、一ヶ月は十分暮らせるって言ってたし、大丈夫だなきっと」
そして、離れの塔の最後の夜は更けていった。
城から出立の朝、いつも通り朝食前のトレーニングをする為に塔の前の広場へ出て行くと、アメノ爺さんとエイダさん、クックルさんまでもが揃っていた。
「どうしたんだ? 揃いも揃って、最後は三人で俺をボコボコにしに来たのか?」
「儂らも今日はセアラ様の警護があるしの、この時間しか会えんからの。見送りじゃ」
クックルさんも今日は塔の厨房には立たないらしく、二人と同じく見送りらしい。
「それにのぉ、餞別と腕輪と指輪のこともあるしの」
「おぉ! 呪いの装備か! 最近全く気にしてなかったから忘れてた! 外せるのか? 今から外れるなら、最後にこの装備とってアメノ爺さんとエイダさんに、俺の『本気中の本気』って奴で相手してほしんだけど?」
「「嫌じゃ(です)!」」
「嫌だって……一回くらい万全で闘わせろよ全く……」
「今、神官様もいらっしゃらないですしね! 残念ですねぇ、外せなくてぇ」
「全くじゃ! 残念無念じゃ、外せなくてのぉ」
「あんた達……ヤナちゃん、城を出たら『試しに』無理やり外してみなさい? 装備が外れるかもしれないわよ?」
クックルさんが微笑みを浮かべながら、伝えて来た。
「なら今から無理やり……」
「「城を出てからじゃ(です)!」」
「お、おう……ならそうする」
「くれぐれもじゃぞ! あと外す時は、周りに建物や人がいない時に外すのじゃぞ! 間違っても城にいる間や街の中で外すでないぞ!」
「わかったよ……そんなに必死になるなよ。まぁ、確かに外したら一気に身体が楽になって、建物とか壊したら大変だしな」
「そうですよ? お気をつけてください」
「餞別は、まずその腕輪と指輪じゃ。とりあえずつけとけば、普段から鍛錬になるしの」
「それって、呪いの装備押し付けただけじゃねぇのかよ……」
俺の呟きをスルーされ、アメノ爺さんは話を続けた。
「あとはこれじゃ。流石に無銘の刀じゃ格好がつかんじゃろ? 儂の持っていた刀からヤナ殿に合いそうな大太刀を二振り選んできたわい、『烈風』と『涼風』じゃ。ヤナ殿の、嵐の様な剣戟に合うじゃろうて」
「こいつは……うん、いいな。何がいいとかは言葉に出来ないが……ありがとう、大事にする」
「私からはこの鞄を。ヤナ様は収納魔法がありますから、偽装の為の鞄です。特に丈夫な皮を持つレッドブルホーンを使用し、更に私が耐久性強化の補助魔法をかけてありますから、安心して無茶なさって下さい」
「ありがとう。これは助かるな。収納魔法もバレたくなかったし、偽装鞄が丈夫だと嬉しい」
「最後は私よ? この本はね、野営時のお勧め料理のレシピ! これで、みんなの胃袋掴んでらっしゃい!」
「クックルさんまで、しかもこの本……かなり嬉しいぞこれ! 俺の料理のレパートリーって、まだ少ないからなぁ。ありがとう。しかも革鎧まで、まだ使えたのに新調してもらっちゃって、まさに新米冒険者って感じだ。心が躍るな」
「なに、セアラ様の様子がヤナ殿と食事を取られる様になってから、大分感情が出る様になって来たからの。皆、そのお礼じゃよ」
「そっか、ならよかった。俺も癒されたしなぁ。お互い様だよ。そうだ! 三人とも俺の通信魔法に登録させてくれよ。また何かあったら助けてくれ。俺も何かあったら、力になるからさ」
三人にも登録をさせてもらうと、三人ともこれから仕事に行くらしく、そこで別れた。
「勇者達は、機会があったら登録させて貰うか」
俺は新しい装備にウキウキしながら、装備を確認する様に朝食の時間まで身体を動かした。朝食を済ませ、アン&アニーさんに連れられて城の門の所へ来た。門が開き、勇者達一行が出て行き割れんばかりの歓声が轟いた。
「待ちに待った勇者のお披露目だもんな。あいつらも、無事に魔王倒せるといいけど」
城のバルコニーを見ると、王とセアラとエルミアが勇者達を見送っていた。流石にこの日は、セアラもちゃんと人前に出るらしい。偶然セアラと目が合った。気のせいか目に涙を溜めているように見えた。それを見て、感情を出せている事に安心しながら、しばらくそこで勇者達が遠ざかっていくの見ていた。
「さて、そろそろ行くかな」
勇者達一行も、しばらくすると城下町を抜けて無事に旅立って行ったらしい。
「そう言えば、あいつらどこ行くんだ? 聞くの忘れてたな……まぁいっか、そのうち会うだろ」
俺が城門を抜けようとした瞬間だった。セアラからの『呼出』があった。
「『もしもしセアラか? なんだもう寂しくなったのか?』」
「『……お見送り出来ませんので、せめてお言葉だけでもと思いまして』」
「『そうか、わざわざありがとうな。それじゃ、行ってくる』」
「『はい……お気をつけて。行ってらっしゃいませ』」
こうして俺は改めて城門をくぐり城の外にでた。城門が閉まっていくのを見ながら、召喚されてからの一ヶ月のことを想っていた。
『……そろ……ろ……に……戻り……よ』
不意にエイダさんの声が聞こえ振り向いたが、エイダさんはいない。おかしいなと思っていると、セアラがさっきの通話の最後に回線切断していないという事に気付いた。
「まぁ慣れない事だし、忘れるよな。『セアラ、回線切断忘れ……』」
「『ドォオオオオン』」
「なんだ!?」
思わず耳を塞ぎ、周りの人達を見るが全く今の音に気付いた様子が無い。
「『クハハハハ! さぁ悪神様の巫女よ、今代のお前にも『絶望』が迎えに来たぞ? クハハハハ!』」
「なんだ!? セアラの通話から聞こえてくるのか!?」
そして今度はセアラの声が聞こえてきた。
「『……やっと迎えに来たのですね……待ちくたびれました……さぁ……私を殺しなさい』」
一番最初に会った時のような、全く抑揚の無い感情を捨て去ったような声だった。
「ふざけるなよ……」
俺は、全力で城門へ向かって駆け出したのだった。
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まるで駄目な引きこもりのオッサンこと遠野コウ(三十歳)が、 目を覚ますとそこは、うっそうと茂った森の中だった! 見知らぬ世界で、このダメなオッサンは生き抜く事が出来るのか!? *他で連載していたもののrefine版です。
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