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第二章 錬磨

魔物討伐訓練出発前夜

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「ヤナ君、おはよう!」

 今日も朝食を食べ終わった頃に、ルイがやって来た。

「ジトー」

「そんな声で出して、ジト目をアピールしないでよ! ごめんなさい!」

「おはよう、まぁ気にしてないからいいよ。俺なら逃げるし、実際逃げようとして俺は捕まったしな」

「ふふ、昨日はお疲れ様でした。みんなに四つも上がったよって言ったら、驚かれたよ!」

「よかったな、俺も昨日は結局二つ上がってやっとレベル三になったな」

「おぉ! おめでとう! やったね! しかも何か話し方普通になってない? ずっと辛そうに喋ってたのに」

「あぁ、身体が楽になってな。朝食前のトレーニングも、いつもより楽にできちまったわ」

 常時心堅石穿火事場の馬鹿力を発動する事で、呪いの装備の効果と相殺出来ていた。その為、いつもやっていたトレーニングに余裕が出来た為、素振りや魔法の制御の鍛錬をしていた。

「だけど、まだ『剣技』覚えられないんだよなぁ。恐らく『剣術』関連のスキルを取得できてないからだろうけどさ。でも魔法の制御の方は、少しコツがわかってきたぞ。ほら、『点火イグニッション』」

「わぁ! 全部の指から小っちゃい火がついてる! なんだかケーキのロウソクみたいで、凄く綺麗だね!」

「はは、誕生日ケーキ食べる時は、ロウソク代わりをしてやろう」

「お二人さん、おはよう。今日も気張って貰おうかのぉ」

 アメノ爺さんが、こちらに歩きながら話しかけてきた。

「フハハハ! 爺さんよ! もう腕輪も指輪も克服して、身体にあの重さもダルさも感じないからな! 今までの俺と思うなよ! ぶった斬ってやる!」

「そうだよ! ヤナ君その意気だ! 私は今日から、ヤナ君に斬られたアメノさんを回復してレベルを上げてやるんだから!」

「ほほう、それは恐ろしいですのぉ。怖や怖や。恐ろしいので、儂もちぃっとばかし気合をいれようかの。『魔法マジック付与エンチャント』『雷』」

 アメノ爺さんが『魔法マジック付与エンチャント』『雷』と唱えると、既に抜いていた大太刀に紫色の雷光で輝きだした。

「この状態の武器を受けるには、同じく魔法マジック付与エンチャントで受ける必要があるのじゃが……まぁ、今はただ武器じゃし、受けると感電するでの気をつけるのじゃよ? まぁ、今は躱すしかないのぉ。あとこれでの攻撃は『斬撃』じゃからの? 魔法障壁じゃこいつの雷撃は防げんでのぉ。あぁ、怖や怖や。そら、行きますぞ『紫電の舞』」

「は!? ちょっ! ちょいまて! 『魔法マジック付与エンチャント』ってなんだ! 聞いてないぞ!」
「えぇ! 障壁効かないの!? ずるい!」

「「ぎゃぁあああ! あばばばばばばばば!」」

 その後も何故か嬉しそうにニコニコしながら斬りかかってくるアメノ爺さんに、二人してボロボロにされ続けた。

「だ……大丈夫か?」

「うん……傷は回復ヒールしたけど体力が……がくっ」

「ル……ルイぃいいい!」

「ほれほれ、昼飯食いに行くぞい。午後からは、エイダも控えておるでの」

「「鬼……」」

 不思議と食べると体力も魔力も回復するクックルさんの昼食を食べると、今度は広場にエイダさんが既に待っていた。

「エイダさん、こんな事出来る様になったぞ?『点火イグニッション』!」

「それは……中々、魔法制御がお上手に成りましたね」

「ふふふ、こっからこっから。このまま『点火イグニッション』からのぉ『火球ファイアボール』『待機ホールド』! 差し詰め『十指テンフィンガー』『火球ファイアボール』ってとこかな? 指輪の効果を相殺出来る様になったら制御もしやすくなって、試しに『火球ファイアボール』でやってみたら出来たな」

「凄いよ、ヤナ君! これなら蒸し焼きになる前に、エイダさんの発動止めれそうだね! 障壁で直接攻撃は大丈夫なんだけど、周りの気温が上がって暑いんだよねぇ」

「フハハハ! 闇堕ちメイドめ! これであんたの火球は相殺して、今日こそぶった斬ってやるわ!」

「およよよ、怖い怖い。怖くて泣きそうなので、ちょっと闇堕ちメイドらしく意地悪しちゃおうかしら、ふふふ。ヤナ様には『荒狂うランページ水龍渦メイルストロム』『待機ホールド』とルイ様には『氷結堅牢アイアンメイデン』『待機ホールド

 エイダさんの頭上に、荒れ狂う大渦で出来た水龍と氷で出来た中世の拷問器具アイアンメイデンが出現した。

「「大人気ない!!」」

「さぁさぁ、参りますよ?」

「ぎゃぁあああ! ごぼごぼごぼごぼ……溺れ……ぐべ!」
「きゃああああ! あんなのに捕まったら棘は障壁で防げるけど凍え死ぬよ! 嫌! こっちこないで!ガシャン嫌ぁ!……ガタガタガタ……寒いです……ヤナ君……眠くなるです……」

 結局俺たちは一週間もの間、二人してボコボコボロボロにされ続けた。



「ルイ様のレベルが三十になり、他の勇者様達と同じになられたとお聞きしましたが?」

 今日のエイダさんの鍛錬イジメを耐え切ったあと、エイダさんがルイにレベルの確認をしていた。

「はい! やっとみんなに追いつきました!」

「おぉ! やったな! おめでとう!」

「ありがとう! これもアメノさんとエイダさんに、毎回ボロボロにされて回復ヒールを沢山かけ続けさせてくれたヤナ君のお陰だよ!」

「あぁ……うん……ドウイタシマシテ」

「ルイ様は明日から他の勇者様達と再度合流して、今度は城の外で魔物討伐訓練に移ると聞いております。そろそろ本格的に魔物との戦闘もしていかないと、それ以上のレベルは上がりにくいですからね」

「そうなのか?」

「えぇ、レベルは一定以上に達すると鍛錬だけでは上がりにくくなるのです。実際に魔物を討伐し、本当の命のやり取りを経験する事をしないと、中々上がらないでしょう。ヤナ様はレベルはいくつになりましたか?」

「ちょっと待ってくれ、確認してみる。『ステータスオープン』」

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 ヤナ・フトウ

 17歳

 状態:
 豪傑殺しの腕輪【発動】
 魔導師殺しの指輪【発動】

 ジョブ:
 冒険者Lv.15  New!

 称号:
 召喚を要求した者

 スキル:
 不撓不屈折れない心【発動】
 心堅石穿火事場の馬鹿力【発動】
 死神の囁き危険/気配感知
 生への渇望致命傷回避
 一騎身体/魔力当千回復・増強【発動】New!
 臥薪嘗胆物理/魔法耐性New!
 能工魔法制御巧匠詠唱省略【発動】New!
 疾風迅雷早く速く疾くNew!
 言語/文字理解【発動】
 二刀流剣術(我流)  New!
 焔魔法  New!
 生活魔法快適便利New!
 収納魔法マジックバックNew!
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 この一週間の物理的に地獄に落とされるかギリギリの鍛錬のお蔭いつかやり返す
 レベルが十五に上がった。そして初めてジョブレベルが上がったことによるスキルの取得が起き、レベル5の時に『生活魔法快適便利』、レベル十の時に『収納魔法マジックバック』を覚えた。

生活魔法快適便利』は、『浄化クリーン』は勿論、『送風ファン』、『空間温度調節エアコン』『蛇口タップウォーター』等とにかく現代っ子の俺が快適な冒険者生活をする為の魔法なのだ!

 この事が分かった時、思わず涙を流したくらいだ。これで野宿も安心!

 そして『収納魔法マジックバック』だ。

 魔道具のマジックバックはある事は聞いていたので、冒険者になる時は購入しようと考えていた。だが、魔道具のマジックバックは性能によってかなりの高級品になるらしく、とりあえず安い奴で間に合わせるかと思っていた。
 
 そんな矢先に覚えたこの魔法を検証した結果、収納出来る容量はわからなかった。こう言った空間魔法は術者の魔力量に比例するらしいので、最初は凡人だった俺の魔力量も鍛錬によって少しは増えたのだろうと思うことにした。

 肉や採取済みの植物は収納でき、クックルさんに頼んで解体する前の小型の魔物の死骸も試した行けたので、生きてなければ収納出来るのだろう。

 また出来立ての料理を収納し確認した結果、時間が経っても熱々のままだった。

 なんと時間まで収納中は止まっていたのだ! 俺は最高級マジックバックを手に入れたのだ! 

 目立つかなと思ったが、割と上級者の冒険者はこのレベルの魔道具のマジックバックは持っているらしく、大丈夫だろうとの事だった。恐るべし上級者。

 取り敢えず城をでたら普通のバッグかなんかを買って、その中に発動させる事で魔道具のマジックバックと偽装する事にした。

 流石に収納魔法マジックバックは珍しいらしく目立ちたく無い為だ。

 そして鍛錬により取得したスキルは不撓不屈折れない心が勝手に取り込み、派生スキルを生み出していた。

 今朝のアメノ爺さんとの鍛錬でやっと二刀流剣術我流を取得出来て喜んだが、きっとそのうち勝手に不撓不屈折れない心が取り込んでしまうのだろう。

 カッコいいスキルにしてくれる事を望む。

「今の鍛錬で十五になったみたいだけど……新しいジョブスキルは覚えなかったな。レベルが五、十の時に覚えたから、てっきり五上がる毎に新しいスキルを覚えると思ってたんだけどな」

「その辺は割とバラバラですね。続けて取得する時もあれば、暫く何も覚え無いこともあります。それとヤナ様もレベルが十五なって良い機会ですので、勇者様達と明日からの魔物討伐場所に付いて・・・行くと良いでしょう。今も実戦に近い鍛錬ですが、魔物との『命のやり取り』を経験しても良い頃合いでしょう。勇者様の一団には、私の方から伝えておきます」

「遂に実戦か。分かった。俺も勇者達と一緒に魔物討伐に行く事にする」

「やったぁ! ヤナ君と一緒なら心強いよ!」

「俺もルイの回復があると思うと、楽になるからありがたいな。明日からよろしくな」

「こちらこそよろしくね! みんなにも伝えとくよ! じゃあまた明日!」

 ルイは楽しそうに、城内に戻って行った。

「明日からの魔物討伐訓練は、おそらく一週間程の日程でしょうから、此処での鍛錬はヤナ様が戻って来てからとなります。恐らく今のヤナ様の状態でも十分魔物と戦えるでしょうが、戦いに絶対はありませんので、十分お気をつけて下さい。今の装備はボロボロになってしまっているので、新しい革鎧レザーアーマーはご用意しておきますので、ご安心下さい」

「ありがとう。流石にこのボロボロの装備じゃカッコ悪かったしな。十分魔物には気をつけるよ。二人と違って手加減してくれなさそうだしな魔物は」

「……そうですね。お気をつけて下さいませ」

 苦笑しながら装備の礼と、魔物の忠告を大事にする事を伝えた。そして、その日の夕食時にセアラに現状と明日から魔物討伐に行くため、一週間程塔を離れる旨を話した。



「しばらくこの飯が食えなくなると思うと、結構へこむなぁ」

「討伐訓練の間の食事は、どうなるのですか?」

「勇者達と一緒に行動するらしいから、飯も一緒にたべるんじゃないのかな?」

「勇者様達と御一緒に行動されるのは楽しみですか?」

「ん? どうかな? 同郷ってだけで、別にあっちでも特別親しい訳でもなかったしな。シラユキとは、会ったその日にこっちに来たくらいだから、実際ほぼ知らんしな」

「そうですか。それでは一週間ほど魔物討伐に出て行かれるというこは、実質ここにおられるのは後一週間程ですか……」

「そうなるな。なんだ? 寂しく思ってくれるのか? ん?」

「また一人に戻るだけですから、問題ありません」

 セアラは、少し寂しそうにそう言っていた。

 俺は、最近少しセアラの感情が読めるようになって来た。セアラが感情を出すようになったのではなく、俺がスキルのせいか表象や雰囲気の変化に敏感になった所為だろう。

「帰って来てもまた一週間本物のお姫様と一緒に食事出来る機会があるんだ。俺はそれを楽しみに魔物討伐に言ってくるよ」

 セアラに笑いながらそう言うと、セアラは不思議そうにこちらを見ながら尋ねてきた。

「私との食事を……楽しみにしてくれているのですか?」

「あぁ楽しみだよ。難しく考えるなよ? 穏やかに誰かと美味い飯が食えるってのは、それだけで楽しいだろ。そう言う事だよ」

「そうですか。其れなら私も、ヤナ様との食事は楽しみにしているかもしれません。いつもより、少し食事も美味しい気がします」

「ふふ、そうか其れは良かった。ここの塔ではセアラが一番偉いんだろ? たまには無理やりアメノ爺さんやエイダさんとかと『命令よ。私と一緒に食べなさい』って言ってやればいいさ。それなら皆んなでワイワイ食べれるさ」

「それ私の真似ですか? そんなに偉そうに言いません」

 少し、ほんの少しだけ顔を膨らませながらジト目を向けてくるセアラ。

「ハハハ! そうかそれは悪かった。そんなに怒らないでくれ、くくく」

「それは謝っている顔ではないですよヤナ様、笑いすぎです」

「ハハハ」
「ふふふ」

「それじゃまた1週間後な」

「はい、お気をつけて下さい。また食事を楽しみにしております」

「あぁ、また飯を食いに戻ってくるよ。いってくる、おやすみ」

「いってらっしゃいませ、おやすみなさい」

 そして、誰も居ないアメノ爺さんの部屋に戻り、新しい革鎧レザーアーマーが用意してあるのを確認し布団に入った。

「約束したしな、ちゃんと帰って来ないとな」

 目を瞑り明日の事を考えながら、意識が遠のき眠りに落ちた。

 その頃、別室ではアメノ、エイダ、クックルが集まっていた。



「今日のヤナ様との訓練ですが、手加減していますか?」

「いや、しとらんのぉ。特に今日は結局最後まで、ルイ殿に回復ヒールされずに持ち堪えられたわぃ」

「私もです。詳しく今どんなスキルを得ているか把握していませんが、火魔法駆け出しは確実に焔魔法になっているでしょうね」

「あら、ヤナちゃんそんなに強くなっていたの? 確かに今日とか完全に座学の時、背後のアメノ爺の攻撃の気配バレてたわね」

「これが、あの豪傑殺しと魔導師殺しの装備をしている状態でというのが恐ろしいわい。魔物討伐から帰ってた最後の一週間は、儂は『鍛錬の腕輪』外して臨むとするかの」

「私も『鍛錬の指輪』を外して、お相手するつもりです」

「あらちょっと! それ外したらあんた達の魔力や筋力解放されちゃうじゃないの! ヤナちゃん殺す気!?」

「逆じゃ」
「逆です」

「力を抑えている状態だと、恐らくつぎは斬られるわい。まだ、儂ゃ死にたくないでのぉ」

「同じくですね。私もまだ、焼かれながら斬り捨てられたくありません」

「そんなになのね……じゃあヤナちゃんも、腕輪と指輪外させるの?」

「「絶対外させんません!」」

「あの装備は儂らのしてる調節可能な『鍛錬の装備』じゃないでの。本来屈するまで、身体にかけられる負荷が増すのじゃ。ヤナ殿は鍛錬時に一度もあの装備に屈しておらんでの。今どれ程の負荷が掛かっているのか想像すらできん。それなのにじゃ、その負荷に拮抗し、最近では寧ろ気にもしておらん」

「そんな状態だというのに、解放なんかされたら私たちが瞬殺されそうです」

「分かったわ……既にもう簡単にあの装備外せちゃうことに、ヤナちゃんが気づかない事を願ってるわ」

「「……」」

 こうして、魔物討伐出発前夜は穏やかに過ぎていくのであった。
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