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第二章 錬磨
穏やかな
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「死ぬかと思った…クックルさん、ありがとうございます」
あの後、俺とルイは文字通り地獄の黒炎に焼かれながら、地獄の鍛錬を行った。最後の最後でルイがエイダさんの放った獄炎の宴を、鍛錬中に取得したスキル不可侵の区域によって力が増幅した聖なる領域で、初めて耐え切った所で体力切れで気絶した。
俺はと言うと、勿論聖なる領域の外で雨の様に降り注ぐ黒炎の火球を必死に、それはもう命の危険を全開で感じながら、目には汗を溜め「斬る・躱す・誘爆させる」で対処していた。しかし、最後に意地になったエイダさんが大人気なく魔法の威力を上げ、敢え無く立ったまま黒焦げなった。その後、呼びに来たクックルさんがすぐさま高級回復薬を身体全体にぶっかけられ、絶命寸前の所で無事に生還した。
「ヤナ君ごめんね。自分に精一杯で、耐え切った所で気が抜けて倒れちゃった…」
「いや、ルイは全く悪くない……あの闇堕ちメイドが全て悪い!……人の事を瀕死にさせといて、まだ悪役ロールプレイしてやがって! 聞いたか? 高笑いしてやがったからな! あの……脳筋メイドめ!」
「まぁまぁ、ヤナちゃん。初めてレベルも上がったんでしょ? 結果良ければってことで、許してあげてましょ?」
確かに、初めてジョブレベルが上がったのだ。俺は一つだけだったが、ルイはまたも二つも上がった。勇者達は全員『成長促進』というスキルを持っておりレベルの上がりが早いのだ。ここでも凡人との差を見せつけられた形になったが、兎にも角にもレベルが上がったことは嬉しかった。
「……まぁ……そうですね。それは素直に嬉しいですから……まぁプラマイゼロで……まぁいっか」
「そうそう! 後ろを見てもしょうがないわよ! 前を見なきゃ、前をね!」
「……ちなみにクックルさんの座学で命懸けとか……無いですよね?」
クックルさんに『冒険』させられたら、色んな意味で怖すぎると思い確認した。
「大丈夫よん。精々問題間違った時のお仕置きのレベルを上げるのと、講義中に斬りかかるくらいかしらねん」
「……はい?」
「さっきのエイダの鍛錬で、『危険回避』覚えたでしょ? せっかくだから、ついでにそれを使い慣れた方がいいじゃない? だからね、講義中はヤナちゃんの後ろに、アメノ爺に立ってもらって突然斬りかかって貰おうかと思ってぇ頼んだのぉ。大丈夫よ? 先ずは斬りかかる瞬間に殺気を出してもらうからぁ、慣れたら殺気を隠して斬りかかって貰うつもりだけどねん!」
「……ルイがんばろう……な? あれ? ルイ?」
「ルイちゃんなら話してる途中で、そぉっと出て行ったわよ? 手を合わせて『ごめんね。また明日ね!』っていう口の動きしてたわよ?」
「……に……逃げやがったなぁあああ! 連れ戻しに行ってきますね! では! ごふあ!?」
「逃がさないわよ? 丁度いいじゃない? 回復して貰えないっていうことで、余計に緊張感増すわ。さぁ行くわよ。アメノ爺お願いねぇ」
「了解じゃよ。儂の時にレベル上がらんかったからのぉ、儂も張り切らんとの」
「ルイちゃん! カムバァ嗚呼ック!」
そして、地獄がまた手招きを始めた。
【『危険気配』を『不撓不屈』が取り込み、派生スキル『死神の囁き』を取得しました】
【『危険回避』と『集中』を『不撓不屈』が取り込み、派生スキル『生への渇望』を取得しました】
「ひどい目にあった……ルイ無しであれは酷い……まともな人は、ここにはいないのか……」
クックルさんの座学は更にマニアックさを増してきて、毒草を美味しく食べさせる料理、見た目も味も回復薬なのに三日後に状態異常を起こさせる毒薬の作製法等「何やってんのクックルさん!?」と言った講義を聞きながら、背後では俺の首を狙う殺し屋爺ぃが唐突に斬りかかってくる気配にも集中し、必死に回避する。そんな事を、クックルさん夕食の準備の時間になるまで続けられた。
「取得したスキルの名前が、もう全てを物語ってるよ全く」
ブツブツ一人愚痴りながら、夕食を食べる為にセアラの待つ部屋へ向かう。しかし、毎日セアラと夕食を食べているが、全くセアラが何を考えているのかわからなかった。俺と食事をして少しは楽しいのか、億劫なのか、嫌なのか、嬉しいのか、全く感情が読めないからだ。
「はぁ……これはこれでしんどいんだけどな……」
部屋の前でぼそりと呟き、顔を両手で軽く叩き気持ちを入れ替えてから、部屋の扉を開けて中に入った。
「ようセアラ! あぁ腹減ったな!」
「もうすぐ、食事は来ると思いますよ」
「そうか、今日は何かなぁ? 量は半端無いが、クックルさんの料理は外れがないから楽しみだ」
「それは良かったです。クックルもさぞかしその言葉を聞けば喜ぶ事でしょう。一つお聞きしても? ヤナ様今日はとても身体の調子が良さそうですが、如何されたのですか?」
セアラが気づいた様に実は今の身体の状態は、腕輪や指輪をつける前の感じと変わらない。
「ふふふ、セアラ良くぞ聞いてくれた! 実はさっきまでクックルさん達と鍛錬していた時に、気付いた事があってな」
座学の際に背後の殺し屋からの不意打ちに気付くのが遅れ、咄嗟に心堅石穿を使いギリギリ躱すことが出来た。そしてその後も、心堅石穿を発動し続けないと死ぬと確信した為、意識して発動状態を続けた。座学が終わり小休止している時に「何だかヤナ殿楽そうじゃの?」とアメノ爺さんに言われ心堅石穿を発動していたままだった事に気付いたのだ。心堅石穿が発動状態の際は、腕輪や指輪の効果が感じられないばかりか力が湧き出る様になり、ただ耐えていたこれまで違い装備の効果を相殺していた。
これまで危機に瀕した際に使用すると力が身体に漲るになった心堅石穿というスキルは、恐らく火事場のバカ力の様な物だと思っていた。その為発動を継続するという考えがなかったが、どうやら継続発動が可能であり、腕輪や指輪による身体への負担もこのスキルの発動条件に見合うらしく、命の危険に察した時ほどの力の漲りはなかったが、腕輪と指輪の力を相殺するのは十分に力が湧いてきたのだ。
「つまりヤナ様は、危機に瀕すると力が増すスキルを常時発動する事により、現在正常な状態にあるわけですね?」
「そう! 腕輪と指輪の所為で寝る時以外、常に危機に瀕しているお蔭だな!……そう、常に危機に瀕してるお蔭だな……?」
「おめでとうございます?」
「ありがとう?」
「ふふっ」
「はははっ。やっと笑ってくれたな。今日も散々目にあったけど、終わりよければ全て良しだ! 初めて、セアラの笑顔が見れたしな」
それを聞いて、セアラは少し驚いた様な顔をして、すぐ様いつもの無表情に戻った。
「ヤナ様が、いつも以上に楽しそうしていた為でしょうか、つられてしまいました。レベルが上がらないと悩んでいらっしゃいましたが、其方はどうなりましたか?」
「おう! そっちも上がったぞ。レベルが二つも上がって今レベル三だ。まぁ俺はアメノ爺さん、エイダさん、クックルさんの三人にこれまでよりも『冒険』した鍛錬してやっと二つあがったんだけどな。アメノ爺さんとエイダさんの鍛錬を一緒に受けていた勇者のルイは、その二人だけの鍛錬で四つも上がったぞ。ははは……勇者と凡人の差はでかいな」
「これまでの勇者様も皆様総じてレベルが上がるのは、常人より早かったそうです。気にせずヤナ様はご自身の成長を喜ばれば良いかと。レベルアップおめでとうございます」
「あぁ、ありがとう。ふふ、まさかセアラに慰められるとはな。今日は本当に良い日みたいだ。さて、飯も来たみたいだし食べるか!」
「そうですね」
「「いただきます」」
「ははっ」
「ふふっ」
この日の夕食はいつにも増して美味しく感じた。それが、初めてレベルアップして嬉しかった為なのか、腕輪と指輪の負荷を克服して楽だった為なのか、それとも……セアラといつもより少しだけ、和やかに食事が出来た為なのか。
この日の夜、こちらの世界に召喚されてから初めて、穏やかな気持ちで眠ることが出来た。
あの後、俺とルイは文字通り地獄の黒炎に焼かれながら、地獄の鍛錬を行った。最後の最後でルイがエイダさんの放った獄炎の宴を、鍛錬中に取得したスキル不可侵の区域によって力が増幅した聖なる領域で、初めて耐え切った所で体力切れで気絶した。
俺はと言うと、勿論聖なる領域の外で雨の様に降り注ぐ黒炎の火球を必死に、それはもう命の危険を全開で感じながら、目には汗を溜め「斬る・躱す・誘爆させる」で対処していた。しかし、最後に意地になったエイダさんが大人気なく魔法の威力を上げ、敢え無く立ったまま黒焦げなった。その後、呼びに来たクックルさんがすぐさま高級回復薬を身体全体にぶっかけられ、絶命寸前の所で無事に生還した。
「ヤナ君ごめんね。自分に精一杯で、耐え切った所で気が抜けて倒れちゃった…」
「いや、ルイは全く悪くない……あの闇堕ちメイドが全て悪い!……人の事を瀕死にさせといて、まだ悪役ロールプレイしてやがって! 聞いたか? 高笑いしてやがったからな! あの……脳筋メイドめ!」
「まぁまぁ、ヤナちゃん。初めてレベルも上がったんでしょ? 結果良ければってことで、許してあげてましょ?」
確かに、初めてジョブレベルが上がったのだ。俺は一つだけだったが、ルイはまたも二つも上がった。勇者達は全員『成長促進』というスキルを持っておりレベルの上がりが早いのだ。ここでも凡人との差を見せつけられた形になったが、兎にも角にもレベルが上がったことは嬉しかった。
「……まぁ……そうですね。それは素直に嬉しいですから……まぁプラマイゼロで……まぁいっか」
「そうそう! 後ろを見てもしょうがないわよ! 前を見なきゃ、前をね!」
「……ちなみにクックルさんの座学で命懸けとか……無いですよね?」
クックルさんに『冒険』させられたら、色んな意味で怖すぎると思い確認した。
「大丈夫よん。精々問題間違った時のお仕置きのレベルを上げるのと、講義中に斬りかかるくらいかしらねん」
「……はい?」
「さっきのエイダの鍛錬で、『危険回避』覚えたでしょ? せっかくだから、ついでにそれを使い慣れた方がいいじゃない? だからね、講義中はヤナちゃんの後ろに、アメノ爺に立ってもらって突然斬りかかって貰おうかと思ってぇ頼んだのぉ。大丈夫よ? 先ずは斬りかかる瞬間に殺気を出してもらうからぁ、慣れたら殺気を隠して斬りかかって貰うつもりだけどねん!」
「……ルイがんばろう……な? あれ? ルイ?」
「ルイちゃんなら話してる途中で、そぉっと出て行ったわよ? 手を合わせて『ごめんね。また明日ね!』っていう口の動きしてたわよ?」
「……に……逃げやがったなぁあああ! 連れ戻しに行ってきますね! では! ごふあ!?」
「逃がさないわよ? 丁度いいじゃない? 回復して貰えないっていうことで、余計に緊張感増すわ。さぁ行くわよ。アメノ爺お願いねぇ」
「了解じゃよ。儂の時にレベル上がらんかったからのぉ、儂も張り切らんとの」
「ルイちゃん! カムバァ嗚呼ック!」
そして、地獄がまた手招きを始めた。
【『危険気配』を『不撓不屈』が取り込み、派生スキル『死神の囁き』を取得しました】
【『危険回避』と『集中』を『不撓不屈』が取り込み、派生スキル『生への渇望』を取得しました】
「ひどい目にあった……ルイ無しであれは酷い……まともな人は、ここにはいないのか……」
クックルさんの座学は更にマニアックさを増してきて、毒草を美味しく食べさせる料理、見た目も味も回復薬なのに三日後に状態異常を起こさせる毒薬の作製法等「何やってんのクックルさん!?」と言った講義を聞きながら、背後では俺の首を狙う殺し屋爺ぃが唐突に斬りかかってくる気配にも集中し、必死に回避する。そんな事を、クックルさん夕食の準備の時間になるまで続けられた。
「取得したスキルの名前が、もう全てを物語ってるよ全く」
ブツブツ一人愚痴りながら、夕食を食べる為にセアラの待つ部屋へ向かう。しかし、毎日セアラと夕食を食べているが、全くセアラが何を考えているのかわからなかった。俺と食事をして少しは楽しいのか、億劫なのか、嫌なのか、嬉しいのか、全く感情が読めないからだ。
「はぁ……これはこれでしんどいんだけどな……」
部屋の前でぼそりと呟き、顔を両手で軽く叩き気持ちを入れ替えてから、部屋の扉を開けて中に入った。
「ようセアラ! あぁ腹減ったな!」
「もうすぐ、食事は来ると思いますよ」
「そうか、今日は何かなぁ? 量は半端無いが、クックルさんの料理は外れがないから楽しみだ」
「それは良かったです。クックルもさぞかしその言葉を聞けば喜ぶ事でしょう。一つお聞きしても? ヤナ様今日はとても身体の調子が良さそうですが、如何されたのですか?」
セアラが気づいた様に実は今の身体の状態は、腕輪や指輪をつける前の感じと変わらない。
「ふふふ、セアラ良くぞ聞いてくれた! 実はさっきまでクックルさん達と鍛錬していた時に、気付いた事があってな」
座学の際に背後の殺し屋からの不意打ちに気付くのが遅れ、咄嗟に心堅石穿を使いギリギリ躱すことが出来た。そしてその後も、心堅石穿を発動し続けないと死ぬと確信した為、意識して発動状態を続けた。座学が終わり小休止している時に「何だかヤナ殿楽そうじゃの?」とアメノ爺さんに言われ心堅石穿を発動していたままだった事に気付いたのだ。心堅石穿が発動状態の際は、腕輪や指輪の効果が感じられないばかりか力が湧き出る様になり、ただ耐えていたこれまで違い装備の効果を相殺していた。
これまで危機に瀕した際に使用すると力が身体に漲るになった心堅石穿というスキルは、恐らく火事場のバカ力の様な物だと思っていた。その為発動を継続するという考えがなかったが、どうやら継続発動が可能であり、腕輪や指輪による身体への負担もこのスキルの発動条件に見合うらしく、命の危険に察した時ほどの力の漲りはなかったが、腕輪と指輪の力を相殺するのは十分に力が湧いてきたのだ。
「つまりヤナ様は、危機に瀕すると力が増すスキルを常時発動する事により、現在正常な状態にあるわけですね?」
「そう! 腕輪と指輪の所為で寝る時以外、常に危機に瀕しているお蔭だな!……そう、常に危機に瀕してるお蔭だな……?」
「おめでとうございます?」
「ありがとう?」
「ふふっ」
「はははっ。やっと笑ってくれたな。今日も散々目にあったけど、終わりよければ全て良しだ! 初めて、セアラの笑顔が見れたしな」
それを聞いて、セアラは少し驚いた様な顔をして、すぐ様いつもの無表情に戻った。
「ヤナ様が、いつも以上に楽しそうしていた為でしょうか、つられてしまいました。レベルが上がらないと悩んでいらっしゃいましたが、其方はどうなりましたか?」
「おう! そっちも上がったぞ。レベルが二つも上がって今レベル三だ。まぁ俺はアメノ爺さん、エイダさん、クックルさんの三人にこれまでよりも『冒険』した鍛錬してやっと二つあがったんだけどな。アメノ爺さんとエイダさんの鍛錬を一緒に受けていた勇者のルイは、その二人だけの鍛錬で四つも上がったぞ。ははは……勇者と凡人の差はでかいな」
「これまでの勇者様も皆様総じてレベルが上がるのは、常人より早かったそうです。気にせずヤナ様はご自身の成長を喜ばれば良いかと。レベルアップおめでとうございます」
「あぁ、ありがとう。ふふ、まさかセアラに慰められるとはな。今日は本当に良い日みたいだ。さて、飯も来たみたいだし食べるか!」
「そうですね」
「「いただきます」」
「ははっ」
「ふふっ」
この日の夕食はいつにも増して美味しく感じた。それが、初めてレベルアップして嬉しかった為なのか、腕輪と指輪の負荷を克服して楽だった為なのか、それとも……セアラといつもより少しだけ、和やかに食事が出来た為なのか。
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