上 下
12 / 26
一章

12

しおりを挟む
「体調はどうだい?ほぉら、クリスティーナの好きなりんごのうさぎさんだよ。」
「うさぎさん!」

 お兄様お手製のうさぎの形に切り分けられたりんごが、ちょこんとお皿の上に置かれている。愛らしいわ。お兄様はきっといいお嫁さんになると思う。
 りんごをモグモグと頬張ってると、お兄様が遠慮がちに聞いてきた。
「彼女は…?」
「…あんな臆病者なんて知らないわ。」
あの事件の日から悪霊あいつは姿を現さなくなった。




 悪漢共が伸びてしまった後、すぐに街の自警団が助けに来てくれた。
 孤児院の子達が私と栗毛っ子がいない事に気づいて、院長に伝えてくれたらしい。
 私はホッとして悪霊に話しかけようとして、
固まった。

 悪霊の足から膝くらいまで影の様なものが覆い蠢いていた。私は男達に襲い掛かかる光景を思い出して、

一瞬だけ、
後退りをした。

「あっ…」
 顔を上げると、悪霊と目が合った。
黒曜石の瞳の中の私は恐怖で強張った表情を浮かべていた。

 黒曜石が哀しげに揺れた。

そして影に溶ける様に姿を消したのだ。




※※※※※※


 自警団に事情を聞かれた私は、栗毛っ子と一緒に遊んでいたら攫われてしまったという事にした。
 栗毛っ子はすっかり処されると思っていたのか、涙をぼろぼろ流し孤児院に帰るまで何度も何度も謝罪と感謝の言葉を繰り返していた。
 栗毛っ子には悪霊の姿は見えなかったらしい。ただ私に襲いかかろうとした悪漢達が急に苦しみ出して倒れた様に見えたそうだ。
何それ怖い。
 私は孤児院の皆に別れを告げ、お城へ帰った。

 お城にはお兄様が待ち構えていた。
 微笑んでいるけど、目が据わっているわ!
 優しい人程、怒らせると怖いと言うのは本当だったのね。身をもって知ったわ!
 全力で逃げ出そうとスタートダッシュを決めた私は、数秒で捕まり、長い長いお説教の刑に処されたのだ。



※※※※※※


 あれから1週間が経った。悪霊からは一向に現れる気配がない。完全に避けられている。まるで私が悪いみたいじゃない!

「幼気な少女にあんな怖いの見せといて驚くなって言う方が無理だと思うの。」

 2、3日前まであの黒く蠢いてた手達のことを思いだして、夜におトイレに行けなかったもの!下手したら一生トラウマになっていたわ。
 それを聞いたお兄様も苦笑して言った。

「それはそうだね。でもクリスティーナ、君はーー」

じっと私の目をみて諭す様に続ける。

悪霊あの人とまた話したいんでしょう?」

 お兄様は私のことをよく分かっている。
 謝りたいのかと尋ねられたら、そんな事ない!と突っぱねていた。
謝りたい訳じゃない。
ただ、会って話したかっただけ。弁解したかった。ちょびっと怖かっただけなの。決して傷つけるつもりじゃなかったの。

「…私、アイツを成仏させてやると決めているの。勝手に消えて貰っちゃこまるわ!」

 いったい何処に隠れてるんだか知らないけれど、絶対引きずり出してお話してやるんだから!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

婚約破棄された悪役令嬢。そして国は滅んだ❗私のせい?知らんがな

朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
婚約破棄されて国外追放の公爵令嬢、しかし地獄に落ちたのは彼女ではなかった。 !逆転チートな婚約破棄劇場! !王宮、そして誰も居なくなった! !国が滅んだ?私のせい?しらんがな! 18話で完結

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...