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一章
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「体調はどうだい?ほぉら、クリスティーナの好きなりんごのうさぎさんだよ。」
「うさぎさん!」
お兄様お手製のうさぎの形に切り分けられたりんごが、ちょこんとお皿の上に置かれている。愛らしいわ。お兄様はきっといいお嫁さんになると思う。
りんごをモグモグと頬張ってると、お兄様が遠慮がちに聞いてきた。
「彼女は…?」
「…あんな臆病者なんて知らないわ。」
あの事件の日から悪霊は姿を現さなくなった。
悪漢共が伸びてしまった後、すぐに街の自警団が助けに来てくれた。
孤児院の子達が私と栗毛っ子がいない事に気づいて、院長に伝えてくれたらしい。
私はホッとして悪霊に話しかけようとして、
固まった。
悪霊の足から膝くらいまで影の様なものが覆い蠢いていた。私は男達に襲い掛かかる光景を思い出して、
一瞬だけ、
後退りをした。
「あっ…」
顔を上げると、悪霊と目が合った。
黒曜石の瞳の中の私は恐怖で強張った表情を浮かべていた。
黒曜石が哀しげに揺れた。
そして影に溶ける様に姿を消したのだ。
※※※※※※
自警団に事情を聞かれた私は、栗毛っ子と一緒に遊んでいたら攫われてしまったという事にした。
栗毛っ子はすっかり処されると思っていたのか、涙をぼろぼろ流し孤児院に帰るまで何度も何度も謝罪と感謝の言葉を繰り返していた。
栗毛っ子には悪霊の姿は見えなかったらしい。ただ私に襲いかかろうとした悪漢達が急に苦しみ出して倒れた様に見えたそうだ。
何それ怖い。
私は孤児院の皆に別れを告げ、お城へ帰った。
お城にはお兄様が待ち構えていた。
微笑んでいるけど、目が据わっているわ!
優しい人程、怒らせると怖いと言うのは本当だったのね。身をもって知ったわ!
全力で逃げ出そうとスタートダッシュを決めた私は、数秒で捕まり、長い長いお説教の刑に処されたのだ。
※※※※※※
あれから1週間が経った。悪霊からは一向に現れる気配がない。完全に避けられている。まるで私が悪いみたいじゃない!
「幼気な少女にあんな怖いの見せといて驚くなって言う方が無理だと思うの。」
2、3日前まであの黒く蠢いてた手達のことを思いだして、夜におトイレに行けなかったもの!下手したら一生トラウマになっていたわ。
それを聞いたお兄様も苦笑して言った。
「それはそうだね。でもクリスティーナ、君はーー」
じっと私の目をみて諭す様に続ける。
「悪霊とまた話したいんでしょう?」
お兄様は私のことをよく分かっている。
謝りたいのかと尋ねられたら、そんな事ない!と突っぱねていた。
謝りたい訳じゃない。
ただ、会って話したかっただけ。弁解したかった。ちょびっと怖かっただけなの。決して傷つけるつもりじゃなかったの。
「…私、アイツを成仏させてやると決めているの。勝手に消えて貰っちゃこまるわ!」
いったい何処に隠れてるんだか知らないけれど、絶対引きずり出してお話してやるんだから!
「うさぎさん!」
お兄様お手製のうさぎの形に切り分けられたりんごが、ちょこんとお皿の上に置かれている。愛らしいわ。お兄様はきっといいお嫁さんになると思う。
りんごをモグモグと頬張ってると、お兄様が遠慮がちに聞いてきた。
「彼女は…?」
「…あんな臆病者なんて知らないわ。」
あの事件の日から悪霊は姿を現さなくなった。
悪漢共が伸びてしまった後、すぐに街の自警団が助けに来てくれた。
孤児院の子達が私と栗毛っ子がいない事に気づいて、院長に伝えてくれたらしい。
私はホッとして悪霊に話しかけようとして、
固まった。
悪霊の足から膝くらいまで影の様なものが覆い蠢いていた。私は男達に襲い掛かかる光景を思い出して、
一瞬だけ、
後退りをした。
「あっ…」
顔を上げると、悪霊と目が合った。
黒曜石の瞳の中の私は恐怖で強張った表情を浮かべていた。
黒曜石が哀しげに揺れた。
そして影に溶ける様に姿を消したのだ。
※※※※※※
自警団に事情を聞かれた私は、栗毛っ子と一緒に遊んでいたら攫われてしまったという事にした。
栗毛っ子はすっかり処されると思っていたのか、涙をぼろぼろ流し孤児院に帰るまで何度も何度も謝罪と感謝の言葉を繰り返していた。
栗毛っ子には悪霊の姿は見えなかったらしい。ただ私に襲いかかろうとした悪漢達が急に苦しみ出して倒れた様に見えたそうだ。
何それ怖い。
私は孤児院の皆に別れを告げ、お城へ帰った。
お城にはお兄様が待ち構えていた。
微笑んでいるけど、目が据わっているわ!
優しい人程、怒らせると怖いと言うのは本当だったのね。身をもって知ったわ!
全力で逃げ出そうとスタートダッシュを決めた私は、数秒で捕まり、長い長いお説教の刑に処されたのだ。
※※※※※※
あれから1週間が経った。悪霊からは一向に現れる気配がない。完全に避けられている。まるで私が悪いみたいじゃない!
「幼気な少女にあんな怖いの見せといて驚くなって言う方が無理だと思うの。」
2、3日前まであの黒く蠢いてた手達のことを思いだして、夜におトイレに行けなかったもの!下手したら一生トラウマになっていたわ。
それを聞いたお兄様も苦笑して言った。
「それはそうだね。でもクリスティーナ、君はーー」
じっと私の目をみて諭す様に続ける。
「悪霊とまた話したいんでしょう?」
お兄様は私のことをよく分かっている。
謝りたいのかと尋ねられたら、そんな事ない!と突っぱねていた。
謝りたい訳じゃない。
ただ、会って話したかっただけ。弁解したかった。ちょびっと怖かっただけなの。決して傷つけるつもりじゃなかったの。
「…私、アイツを成仏させてやると決めているの。勝手に消えて貰っちゃこまるわ!」
いったい何処に隠れてるんだか知らないけれど、絶対引きずり出してお話してやるんだから!
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