緋色の風

第 4 話

　アントニ・ガウディ・イ・コルネット
　
　彼の運命を変えた建築家の名前。
　1928年に亡くなっているのに、彼の心を捉えて離さない建築家。
　私の心はその時から時間を止めた。
　ちゃんと彼の気持ちを聞かなくては、天空を支えるギリシャ神話のアトラスのように前にもあとにも動けなくなってしまう。このままでは私の時間は凍りついたまま、誰か他の人を好きになる自信さえもない。

　淵にフリルのある真っ白なシャツを着て、なかの胸に刺繍があるインナーは薔薇色。
　まるでクリスマス色の自分の姿を途中途中の鏡に映しながら想ったのは、一緒に迎えることができなかったクリスマス。
　春に出会ったときに、サークルのみんなで克之の家で飲もうと冬の約束をした。それは、ずっと先の約束が見えない未来への不安がそうさせたのかもしれなかった。
　秋にはバルセロナへ飛んでいって、冬を一緒に過ごせなかった。
　長い髪が好きだなとつぶやいた彼の横顔。
　彼と離れてる間に背中まで伸びた髪、見た目も重さがでないように軽く動きが毛先に加えてある。

「こんなに努力して馬鹿みたい…」

　彼からのE-mailの返事を待たなかった。待つことがもう嫌だったのは、適当な理由をつけられて断られるのが怖かったからだと、成田空港行きの快速の電車に揺られながら気がついた。