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第六章 決戦編
決戦ⅩⅠ 八本足の異変
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魔王城四階、アムリスの担当していた部屋の扉がバンと勢いよく開く。アルエット、ルーグ、ガステイルの三人が血相を変えて部屋へとなだれ込んでいく。
「アムリス!何があったの!?」
その部屋は他の部屋とは違い、そこらじゅうに物が散らばり転がっていた。インテリアや壁紙、カーペットも明るい色調のものが多く、魔王の私室というよりはまるで子供が使う部屋のような飾り付けである。アルエットは落ちているものを踏まないように避けながら、部屋の真ん中で指をさして固まっているアムリスに寄っていく。
「あ、あそこ……」
アルエットがそう促された先を見ると、そこには一匹の小さな蜘蛛が壁に張り付いていた。三人の緊張感は一気に解け、呆れるような目線でアムリスを見つめる。
「蜘蛛ぉ?」
「し、仕方ないじゃないですか!私、蜘蛛はほんっとーに苦手で……きゃぁぁぁ!!!」
その瞬間、蜘蛛がカサカサと数cm移動する。アムリスはこの世の終わりのような絶叫と共に這いずりながらルーグの影に隠れる。アルエットははぁと一つため息をする。
「ガステイル、やってしまいなさい。」
「……はい。」
ガステイルはそう呟くと、蜘蛛めがけて火炎の弾丸を放った。アムリスはルーグの後ろから蜘蛛が消し炭になるのを見届けると、額の汗を拭うジェスチャーをしながら現れ、
「やれやれ……なかなかの難敵でしたね。流石ガステイルです。やはりあなたが来てくれて良かった!さあ、気を取り直して魔王を倒しましょー!」
と右手でガステイルの肩をポンと叩きながら左手を高く突き上げる。暫くの沈黙の後、ガステイルは持っていた本を振りかぶり、
「痛いっ!!!」
勢いよく表紙をアムリスに向けて振り下ろす。ガンという音とともにアムリスの頭部に直撃し、アムリスは蹲りながら頭部を押さえ悶絶する。そして涙目になりながらガステイルを見つめ、
「ちょ、冗談ですって!ねぇ、アルエット様……って、アルエット様までなんですかその目は、まるで汚らわしい存在を見るかのような……」
「そうね。」
「そうねってどういうことですか!私曲がりなりにも聖職者なんですよ!!そんな目で見ないでくださいよぉ……」
「ガステイル」
「なんでしょう、殿下」
アルエットは縋りつくアムリスを無視し、ガステイルを呼びつけ、
「反省してないようなら、次はこっちでね。」
と手のひらを本の背でポンポンと叩くようなジェスチャーをしながら、笑顔で言い放った。アムリスは顔を真っ青に染めながらアルエットに土下座をする。
「アルエット様、反省しています……お願いします、それだけは勘弁してください!」
「何を反省しているの?」
「それは……ええと……」
どもりながら目を逸らすアムリス。ガステイルはやれやれと肩をすくめると、ニヤリと笑いながら
「魔王城なのに緊張感のない行動をしたこと」
とアムリスに向かって小声で囁いた。アムリスは少しビクッと驚きながらも、
「ま、魔王城なのに緊張感のない行動をしたことを、反省しています。」
と、ボソボソと呟くように復唱した。アルエットは呆れ果てた表情で、
「あんたたち……改めて気を引き締めていきなさいよ。デステールが中の魔族をほとんど殺したと言っても、いつ襲われてもおかしくない状況なのよ。」
「ちょっと待ってください、今アルエット様、あんたたちって言いましたよね?」
「そうだけど、それが何か?」
「たち、ってことは、私以外にもう一人いるってことですよね?」
「でっかい本棚に囲まれながら、寝そべって本を読んでた奴がいたわね。」
「やっべ」
ガステイルがアムリスの隣から逃げようとする。しかしアムリスは逃がすことなくガステイルの肩を鷲掴みにした。
「やっぱり!!ガステイル、さっきの答えは自分がそう怒られたから答えられたのね……」
「お、おい!離せよ!」
「離しません!!何よ……私、殴られ損じゃない!今度は私が一発殴ってやるわよ……本の角でね!!」
「角ッ!?バカお前、それはシャレになってないって!!うおわぁっ!」
アムリスは勢いそのままにガステイルを押し倒し、仰向けに転がったガステイルの腹の上にのしかかる。ガステイルは抜け出そうと必死でもがいたが、あっさりとアムリスに組み伏せられ上から押さえつけられてしまった。
「ちょ、お前どんな馬鹿力発揮してるんだ!くそっ、ビクともしねぇ!!」
「それじゃガステイル、覚悟はいい?」
「いいわけないだろ!!」
アルエットはそんな二人の絡みを見つめながら頭を抱えため息をついた。そんな折、
「アルエット様ぁ」
いつの間にか姿を消していたルーグが、部屋の奥から現れた。両手には木製の小さな板のような物を持っている。
「ルーグ……お前だけだよ、ちゃんと真面目に探索してくれているのは。」
「えぇ?……あぁ、なるほど。」
アルエットの表情が緩む。ルーグは困惑しながらガステイル達の方へと目をやると、全てに合点がいったように鼻で少し笑った。ガステイルとアムリスは照れくさそうに離れ、ルーグの元へと駆け寄った。
「それで、この部屋で何を見つけたんだ?」
「あ、これのことですね……投影魔法の写しを入れて飾っていたものです。見てください。」
ルーグはそう言って、アルエットに木の板を差し出すように見せる。そこには一人の女魔族と二人のエルフが幸せそうな笑顔で映っていた。女魔族は魔王にとてもよく似ていた姿をしていた。
「これは……昔の魔王と、他の二人はエルフのようにも見えるが。」
「エルフですって?ちょっと俺にも見せてください。」
ガステイルが二人に割って入るように覗き込む。ガステイルは興味深そうに目を細める。
「確かに、男性と子供のような人はエルフで間違いありませんね。俺も女の方は魔王だと思います。」
「だが、これではまるで親子のようではないか……魔王がエルフの婿を迎えたなんて、そんな話一度も聞いたことないわよ。」
「ちょっとー、私にも見せてくださいよぉ」
アムリスがアルエットのそばでぴょんぴょんと飛び跳ね、何とか覗き込もうと試みていた。アルエットはそんなアムリスに木の板をひょいと渡す。その瞬間、
「え……この人って!」
アムリスの表情が一気に変わる。三人は一斉にアムリスの方へと向き、アルエットはアムリスに問い質すように言った。
「何か知ってるの!?アムリス!」
「はい。真ん中の男の子……うん、彼で間違いないと思います。」
アムリスはそこまで言って息をふうと吐く。そしてアムリスは緊張が走る部屋の中、ゆっくりと口を開いて言った。
「彼は聖剣です……聖剣フレンヴェル・クラウディがここにいます。」
「アムリス!何があったの!?」
その部屋は他の部屋とは違い、そこらじゅうに物が散らばり転がっていた。インテリアや壁紙、カーペットも明るい色調のものが多く、魔王の私室というよりはまるで子供が使う部屋のような飾り付けである。アルエットは落ちているものを踏まないように避けながら、部屋の真ん中で指をさして固まっているアムリスに寄っていく。
「あ、あそこ……」
アルエットがそう促された先を見ると、そこには一匹の小さな蜘蛛が壁に張り付いていた。三人の緊張感は一気に解け、呆れるような目線でアムリスを見つめる。
「蜘蛛ぉ?」
「し、仕方ないじゃないですか!私、蜘蛛はほんっとーに苦手で……きゃぁぁぁ!!!」
その瞬間、蜘蛛がカサカサと数cm移動する。アムリスはこの世の終わりのような絶叫と共に這いずりながらルーグの影に隠れる。アルエットははぁと一つため息をする。
「ガステイル、やってしまいなさい。」
「……はい。」
ガステイルはそう呟くと、蜘蛛めがけて火炎の弾丸を放った。アムリスはルーグの後ろから蜘蛛が消し炭になるのを見届けると、額の汗を拭うジェスチャーをしながら現れ、
「やれやれ……なかなかの難敵でしたね。流石ガステイルです。やはりあなたが来てくれて良かった!さあ、気を取り直して魔王を倒しましょー!」
と右手でガステイルの肩をポンと叩きながら左手を高く突き上げる。暫くの沈黙の後、ガステイルは持っていた本を振りかぶり、
「痛いっ!!!」
勢いよく表紙をアムリスに向けて振り下ろす。ガンという音とともにアムリスの頭部に直撃し、アムリスは蹲りながら頭部を押さえ悶絶する。そして涙目になりながらガステイルを見つめ、
「ちょ、冗談ですって!ねぇ、アルエット様……って、アルエット様までなんですかその目は、まるで汚らわしい存在を見るかのような……」
「そうね。」
「そうねってどういうことですか!私曲がりなりにも聖職者なんですよ!!そんな目で見ないでくださいよぉ……」
「ガステイル」
「なんでしょう、殿下」
アルエットは縋りつくアムリスを無視し、ガステイルを呼びつけ、
「反省してないようなら、次はこっちでね。」
と手のひらを本の背でポンポンと叩くようなジェスチャーをしながら、笑顔で言い放った。アムリスは顔を真っ青に染めながらアルエットに土下座をする。
「アルエット様、反省しています……お願いします、それだけは勘弁してください!」
「何を反省しているの?」
「それは……ええと……」
どもりながら目を逸らすアムリス。ガステイルはやれやれと肩をすくめると、ニヤリと笑いながら
「魔王城なのに緊張感のない行動をしたこと」
とアムリスに向かって小声で囁いた。アムリスは少しビクッと驚きながらも、
「ま、魔王城なのに緊張感のない行動をしたことを、反省しています。」
と、ボソボソと呟くように復唱した。アルエットは呆れ果てた表情で、
「あんたたち……改めて気を引き締めていきなさいよ。デステールが中の魔族をほとんど殺したと言っても、いつ襲われてもおかしくない状況なのよ。」
「ちょっと待ってください、今アルエット様、あんたたちって言いましたよね?」
「そうだけど、それが何か?」
「たち、ってことは、私以外にもう一人いるってことですよね?」
「でっかい本棚に囲まれながら、寝そべって本を読んでた奴がいたわね。」
「やっべ」
ガステイルがアムリスの隣から逃げようとする。しかしアムリスは逃がすことなくガステイルの肩を鷲掴みにした。
「やっぱり!!ガステイル、さっきの答えは自分がそう怒られたから答えられたのね……」
「お、おい!離せよ!」
「離しません!!何よ……私、殴られ損じゃない!今度は私が一発殴ってやるわよ……本の角でね!!」
「角ッ!?バカお前、それはシャレになってないって!!うおわぁっ!」
アムリスは勢いそのままにガステイルを押し倒し、仰向けに転がったガステイルの腹の上にのしかかる。ガステイルは抜け出そうと必死でもがいたが、あっさりとアムリスに組み伏せられ上から押さえつけられてしまった。
「ちょ、お前どんな馬鹿力発揮してるんだ!くそっ、ビクともしねぇ!!」
「それじゃガステイル、覚悟はいい?」
「いいわけないだろ!!」
アルエットはそんな二人の絡みを見つめながら頭を抱えため息をついた。そんな折、
「アルエット様ぁ」
いつの間にか姿を消していたルーグが、部屋の奥から現れた。両手には木製の小さな板のような物を持っている。
「ルーグ……お前だけだよ、ちゃんと真面目に探索してくれているのは。」
「えぇ?……あぁ、なるほど。」
アルエットの表情が緩む。ルーグは困惑しながらガステイル達の方へと目をやると、全てに合点がいったように鼻で少し笑った。ガステイルとアムリスは照れくさそうに離れ、ルーグの元へと駆け寄った。
「それで、この部屋で何を見つけたんだ?」
「あ、これのことですね……投影魔法の写しを入れて飾っていたものです。見てください。」
ルーグはそう言って、アルエットに木の板を差し出すように見せる。そこには一人の女魔族と二人のエルフが幸せそうな笑顔で映っていた。女魔族は魔王にとてもよく似ていた姿をしていた。
「これは……昔の魔王と、他の二人はエルフのようにも見えるが。」
「エルフですって?ちょっと俺にも見せてください。」
ガステイルが二人に割って入るように覗き込む。ガステイルは興味深そうに目を細める。
「確かに、男性と子供のような人はエルフで間違いありませんね。俺も女の方は魔王だと思います。」
「だが、これではまるで親子のようではないか……魔王がエルフの婿を迎えたなんて、そんな話一度も聞いたことないわよ。」
「ちょっとー、私にも見せてくださいよぉ」
アムリスがアルエットのそばでぴょんぴょんと飛び跳ね、何とか覗き込もうと試みていた。アルエットはそんなアムリスに木の板をひょいと渡す。その瞬間、
「え……この人って!」
アムリスの表情が一気に変わる。三人は一斉にアムリスの方へと向き、アルエットはアムリスに問い質すように言った。
「何か知ってるの!?アムリス!」
「はい。真ん中の男の子……うん、彼で間違いないと思います。」
アムリスはそこまで言って息をふうと吐く。そしてアムリスは緊張が走る部屋の中、ゆっくりと口を開いて言った。
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