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第五章 彷徨編

彷徨ⅩⅤ 守られる者

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「どうした?アルエット・フォーゲル。その程度かね。」

 クニシロを庇いアンデッド達と戦うアルエットを見下ろしながらフラーヴは笑っていた。それもそのはず、先程の平和な記憶が邪魔をしてまともにアンデッド達を攻撃できないアルエットは徐々に村の端へと追い詰められていた。

「アルエット様!この人たちはもう……」
「わかってる!!ただの死体だから、私が殺したことにはならない……わかってるから……」

 それでも、アルエットはアンデッド達への攻撃を躊躇していた。すると突然、腰くらいの高さに衝撃を受ける。

「うぐっ!」

 不意を打たれ尻もちを着くアルエットは、腰に抱きついてきた小さなアンデッドを引き剥がし、攻撃を仕掛けようとする。しかしそのアンデッドの顔を見たアルエットは、思わず手を止めてしまう。

「あなたは……」

 突進してきた小さなアンデッドは、先程映像結界でアルエットをすり抜けた少年によく似ていた。引き剥がした際に掴んだ肌がぼろぼろとこぼれ落ち、両目からは血の涙が流れ落ちているが、確かに見覚えのある相好に、アルエットはやり場のない感情を地面に強く叩きつけながら叫んでいた。

「うっ、うわぁぁぁぁぁ!!!」
「アルエット様……!」
「ふん……無様だな。」

 アンデッド達はアルエットに縋るように抱きついていく。アルエットは映像で見たセイレーン達の顔に動揺し、まるで反撃ができずに群れに埋もれてしまう。フラーヴはアルエットの方へと羽ばたいて近付き、顔だけ出しているアルエットの顎をつま先でクイと持ち上げる。

「こんながらくたどもに要らぬ情なぞ抱くなんてな。まぁ、私としては与しやすくて都合がいいのだが。」
「くっ……そ……」
「そんな奴が我が魔王に刃向かうとは……もはや不敬ぞな。」
「ぐぅっ!」

 フラーヴはアルエットの頭を蹴りながらそう吐き捨てる。アルエットは怒りと屈辱のあまりフラーヴを睨みつけるが、アンデッドを振り落とすこともできずそれ以上のことは出来なかった。

「なんです?その目は。そんな目で私を見つめるくらいなら、アンデッドを振り払って私を殴ればよろしいのでは?」
「チッ……言われなくてもそうしてやりたいわよ!!」

 アルエットはフラーヴに向けて啖呵を切るが、フラーヴは余裕の表情でその様子を鼻で笑う。すると

「よくぞ……言ってくれました、アルエット様。」

 アルエットの背後、アンデッドの山の奥底から声が聞こえ、アルエットとフラーヴの身体が唐突に浮き上がる。アルエットが慌てて足元を見つめると、声の主――クニシロがアンデッドの下から二人を持ち上げていた。クニシロはそのまま

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 と叫び、アルエットとフラーヴをアンデッドの山の外に放り出す。

「クニシロ!!」
「今からここに、簡単な閉じ込める結界を張ります……アンデッド達には邪魔をさせませんので、アルエット様はその男を倒してください。」
「違う!貴女はどうするのよ!!」
「私は大丈夫ですから……それに、フラーヴの死霊術は使用者が死ねば解除されるはずです。私のことを助けたいとお思いならば、早く決着をつけてください。」
「クニシロ……」

 クニシロが目を閉じ祈るように手を合わせると、アルエットとフラーヴを除いたケイレス村が光り輝く壁に包まれる。結界が八割がた完成したタイミングで、クニシロは思い出したように口を開いた。

「アルエット様……私、アンデッドに手を出せないアルエット様を見て、貴女にお仕えできて本当に良かったと思いました。最初はお父様の命令だったからですけど、グレニアドールやここで一緒に過ごして、アルエット様自身がとても大好きになっていったんです。ですから……絶対に勝ってください。このアンデッド達はがらくたなんかじゃない、情けをかけることは弱さなんかじゃないと、アルエット様自身で証明してください!お願いします……。」

 クニシロは一筋の涙を流しつつ、アルエットを笑顔で見送り結界を完成させた。この状況に最も動揺したのは……フラーヴであった。

「痛っ……この、デステールのガキの出涸らしごときがァ!!」

 フラーヴは結界に向かって走り出し、結界を破壊しようと攻撃し続ける。しかし結界はビクともしなかった。

「クソッ!!クソォォッ!!!」

 そんなフラーヴを見ながら、アルエットはゆっくりと立ち上がり、フラーヴの元へとふらふらと近付いていく。結界に攻撃しているフラーヴの肩を掴みながら、

「ぶん殴る、約束だったわよね。」

 アルエットはそう言い、右手を固く握りフラーヴの頬めがけて強く殴る。フラーヴは数メートルよろめき頬を押さえながらアルエットの方を見るが、そこに彼女の姿は無かった。フラーヴは慌てて辺りを見回そうとした瞬間、

「ごほぉあ!!」

 と後方の側頭部に衝撃を受け地面を転がされる。倒れた姿勢で頭部を押さえ悶絶するフラーヴを、今度はアルエットが見下ろして踏みつけていた。

「ただのハイキック一発で、このザマねぇ……まあ、その方が私にとっても都合がいいのだけれど。」

 フラーヴの腹部を蹴るアルエット、そしてさらに転がされるフラーヴ。よろよろと立ち上がるフラーヴはなぜか不敵な笑みを浮かべていた。
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