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第一章 陰謀編

陰謀Ⅸ 心を貫く業の槍

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 イェーゴ村、牢獄。開戦と同時刻。

「アムリス、あんたはどうしたいの?」

 アルエットとルーグは戦闘準備を進めながら、アムリスに尋ねた。

「私は……」
「アムリスさん、無理に戦う必要はないですよ。結果的に修道士達もこの村も俺達と貴女を裏切ったんですから。」
「……」
「ルーグ、人の話を遮るな。」
「え、あっ、すみません。」
「でも、私もルーグと同じ気持ちだ。この村はアムリスに許されない仕打ちをした。アムリスが守ってやる義務はない。」

 アムリスはクスッと微笑んで

「では、なぜ二人は戦場に向かうのですか?」
「そりゃあ、そのためにここに来たからだし……」
「ロサージュの討伐が結果的に村を守ることになりますから……」
「私も、二人と一緒ですよ。ここに来て守ると決めたからです。それに、ルイのお母さんに生きてもらうって約束しましたからね。みんなが私を裏切っても、私は守るべきものは絶対に裏切らない。……アレクも、きっと私と同じ判断をすると思う。」

 突如、聖剣フレンヴェルが飛来し、牢を破ってアムリスの隣に突き刺さる。

「うわぁ!あっっぶな!!!」

 ルーグは少し掠ったらしい。

「聖剣は持ち主の心に呼応するという。アムリスの強い覚悟によって聖剣は息を吹き返し、持ち主の元へ舞い戻ったんだな。」

 アムリスは聖剣を手に取り、

「フレンヴェル……。ごめんね、あのとき痛かったよね。また、これからよろしくね。」

 そう言って腰に提げた。

「それじゃ、行こうか。アムリス、ルーグ。」
「ええ!」
「おう!」

 三人に増えた一行は、戦場に向かった。


 コロニー前。蜂による蹂躙もほぼ完了し、残るはセリシア一人となった。そのセリシアも、カトレアとの一騎打ちにて満身創痍であった。

「大勢は決したな。」
「はあ……はあ、まだよ……」
「一つ聞きたいことがある。お前、なんのためにこんな無様な負け戦を始めた?」

 瞬間、セリシアは激昂し、カトレアに斬りかかる……も、カトレアは軽く躱し、セリシアを蹴り飛ばした。

「多勢に無勢なのは分かっていただろう。我々が夜行性ということも知らずに、奇襲なら勝てるとでも思ったのか?」
「黙れ!村人を攫っておいて、どの口が言っている!!」
「人間を攫う?何を言っている。」
「き、貴様!しらばっくれる気か!!!」

 セリシアは再び立ち上がり、カトレアを果敢に攻め立てる。だが、それも虚しくカトレアに全て受け流されてしまう。

(人間の拉致だと……そんな話は聞いていないぞ。私がいない間にいったい何が……?)

 ついに、セリシアが力尽き、仰向けに倒れてしまう。

「終わりか。多少骨が折れたな。」

 瞬間、村側の蜂からどよめきが聞こえる。見ると大男と女が二人、蜂を蹴散らしながら向かっている。

「いた!!セリシア隊長!!!倒れてる!!」

 仰々しい剣を持った少女がそう叫ぶ。

「何!?だったら、急がねえとなぁ!!」

 大男は蜂を薙ぎ倒しながら進む。

「この期に及んで援軍だとっ……!!まさかこいつ……!!」

(援軍……?誰だ……?いや、誰でも良いか。巻き込まれてくれるなよ……)

 突如、セリシアが首から提げたネックレスに魔力を込める。

「なっ、貴様ぁ!!今更何を!」
「炎精……煌け……『獄炎の柱廊フューゴー・ピラー』!!!」

 セリシアが唱えた瞬間、ネックレスから魔力が迸り、蜂達の足元から無数の炎の柱が発生した。セリシアとカトレアを囲っていた蜂のほとんどが焼かれ、一帯が炎熱地獄と化した。

「ひええ、危ねーことするなぁ、あの隊長さん。」

 セリシアの『奥の手』を知っていたアムリスの聖魔法により、アルエット達は守られ、事なきを得た。

「蜂の数が一気に減った!セリシアさんの元へ急ごう!!」

 一方カトレアは動揺を隠せず、セリシアから迂闊にも目を離し、自軍の損壊を確認する。すかさずセリシアは最後の力を振り絞り、

「死ねぇ!!」

 とカトレアに一撃を入れる。しかしカトレアも流石の達人、間一髪のところで急所を外し、セリシアのトドメを刺すべく返しの槍を撃った。
 結論から言えば、その瞬間のセリシアには槍を躱すだけの余力は残っていた。しかし、

「隊長!!!!」

 今この戦場に聞こえるはずのない、かつて自分自身が裏切り心を踏みにじった女の声。


 生じた一瞬の隙の内、セリシアの心臓が貫かれた。
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