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序章 旅立ち編
【悲報】日常、終わる
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王国歴458年、王都フォーゲルシュタットにて。
「お嬢!いつまで寝てらっしゃるのですか!」
けたたましくこだまする声にうんざりしながら、私――アルエット・フォーゲルは目を覚ます。
「ルーグ、起きてる。うるさい。」
「まだ布団に篭ったままじゃないですか。至急準備してください。女王様が食堂にてお待ちでございます。」
「え、お母様が?」
確かに、普段なら朝は執事のブラックが起こしてくれるのに、今日は護衛のルーグだった。
「そうですよ。お嬢に何か話があるそうで。」
まあ、そうじゃなきゃあの人がこんな城の離れに来るわけがないんだけど。
「ルーグは何も知らないの?」
「もちろんです。俺にはお嬢を呼べとだけ。」
「憂鬱ね……。ところでルーグ?」
「どうされました?」
「いつまでここにいるつもりなの?」
「え、ああ、申し訳ございません!直ちに!」
慌てて部屋を出るルーグを後目に身支度を整える。
(お母様と朝食なんて、何十年ぶりだろうか……)
王女という身分は肩書きだけ、父親も分からない私は政治的利用価値も魅力も低く、権力を放棄しこの離れで細々と暮らしていた。
「ま、気楽でいいんだけどね。」
一つゆっくりと伸びをして、部屋を出る。
「お嬢、」
「いい加減、お嬢はやめて欲しいんだけど。私貴方よりも歳上なんだし。」
食堂に向かいながら、気を紛らわせたくてルーグと他愛ない話をする。
「むぅ……そう言われますとどうしようもございませんが、貴女様と女王様に関しましては、そのような物言いをなさるのはいささか大人気ないと言いますか……」
ルーグの言い分はもっともである。私は今年で243歳になる。まあ、見た目は普通の人の20歳くらいなのだが。第三者から見れば28歳のルーグとは兄妹くらいに思えるかもしれないが、私は彼の曽祖父くらいから見てきているのだ。子供扱いされるのは不満である。
「はぁ、分かりましたよ。アルエット様。」
「うむ。悪くないわね。」
「結局中身が子供っぽいとこあるんだよなぁ……」
「今失礼なこと言ったよね?」
「なんでもございませんよ。ほら、食堂です。」
はぐらかされたような気がする。
離れの食堂。見慣れた光景のはずだが、今日ばかりは逃げ帰りたいくらいの緊張感だ。
「失礼します。アルエットが参りました。」
いつもの何倍も、このドアに重みを感じる。
「早く入りなさい。朝食が冷めてしまうでしょう。ほら、ルーグも。」
女王ヴェクトリアは既に食事に手をつけていた。
「え、ああ、失礼します。」
ルーグは、手と足が同時に出ている。この男、普段から力自慢だとか偉そうにする割には肝心なところがヘタレだ。そのまま椅子に座り、無言で食事を始める。
「どうやら、あまり歓迎されてないようね。」
「ええ、まあ。」
いかんいかん。さっさと用事を済ませて欲しいオーラがダダ漏れだったようだ。ルーグも隣で顔色が目まぐるしく変化している。
「まあ、余も暇ではないのでな。単刀直入に本題に入るとしよう。」
「魔族の王を討て。手段は問わぬ。」
暫時、何も考えられなかった。
「人間と魔族の争いが激化していることは知っているな?」
「いやいや、お待ちください!魔族の王……って、ええ!?」
「下級魔族の雑兵程度なら軍でどうにでもなるんだが、最近は四天王を名乗る幹部達も前線に出てきているみたいでな…並の兵士だと太刀打ち出来んのだ。」
「いやいやいや、なぜ私なんですか!」
まあ、権力を持たない分自衛として武術と魔法はそれなりに修行してたからそりゃあ兵士よりは流石に強いと思うけど……。
「無論、お前だけとは言わぬ。ルーグも連れていくといい。」
「ぶふぉお!」
「そういうことじゃないよ!!」
ルーグ、かわいそうだとは思うけど吹き出したご飯は自分で掃除してくれ。というか、話がすごいスピードで進んでいく。人の話を聞いて欲しい。
「冒険者ギルドや世界各地の中立種族にも檄文は飛ばしてある。あとは教会にもだ。」
「中立種族……エルフやドワーフまで動くんですね。」
この人、昔から決断力とこういう根回しが本当に早い。伊達に人間の国の王を200年もしていない。……でもやっぱり、もう少し人の話を聞いて欲しい。
「お前が必要ならそちらにもある程度話を通しておく。無論他の協力も惜しむつもりはないが、何か聞きたいことはあるか?」
「あの、拒否権はありますか?」
「何か聞きたいことはあるか?」
「ふぐぅ」
こうして私は、魔王討伐と称した体のいい厄介払いで家を追い出されたのでした。
「お嬢!いつまで寝てらっしゃるのですか!」
けたたましくこだまする声にうんざりしながら、私――アルエット・フォーゲルは目を覚ます。
「ルーグ、起きてる。うるさい。」
「まだ布団に篭ったままじゃないですか。至急準備してください。女王様が食堂にてお待ちでございます。」
「え、お母様が?」
確かに、普段なら朝は執事のブラックが起こしてくれるのに、今日は護衛のルーグだった。
「そうですよ。お嬢に何か話があるそうで。」
まあ、そうじゃなきゃあの人がこんな城の離れに来るわけがないんだけど。
「ルーグは何も知らないの?」
「もちろんです。俺にはお嬢を呼べとだけ。」
「憂鬱ね……。ところでルーグ?」
「どうされました?」
「いつまでここにいるつもりなの?」
「え、ああ、申し訳ございません!直ちに!」
慌てて部屋を出るルーグを後目に身支度を整える。
(お母様と朝食なんて、何十年ぶりだろうか……)
王女という身分は肩書きだけ、父親も分からない私は政治的利用価値も魅力も低く、権力を放棄しこの離れで細々と暮らしていた。
「ま、気楽でいいんだけどね。」
一つゆっくりと伸びをして、部屋を出る。
「お嬢、」
「いい加減、お嬢はやめて欲しいんだけど。私貴方よりも歳上なんだし。」
食堂に向かいながら、気を紛らわせたくてルーグと他愛ない話をする。
「むぅ……そう言われますとどうしようもございませんが、貴女様と女王様に関しましては、そのような物言いをなさるのはいささか大人気ないと言いますか……」
ルーグの言い分はもっともである。私は今年で243歳になる。まあ、見た目は普通の人の20歳くらいなのだが。第三者から見れば28歳のルーグとは兄妹くらいに思えるかもしれないが、私は彼の曽祖父くらいから見てきているのだ。子供扱いされるのは不満である。
「はぁ、分かりましたよ。アルエット様。」
「うむ。悪くないわね。」
「結局中身が子供っぽいとこあるんだよなぁ……」
「今失礼なこと言ったよね?」
「なんでもございませんよ。ほら、食堂です。」
はぐらかされたような気がする。
離れの食堂。見慣れた光景のはずだが、今日ばかりは逃げ帰りたいくらいの緊張感だ。
「失礼します。アルエットが参りました。」
いつもの何倍も、このドアに重みを感じる。
「早く入りなさい。朝食が冷めてしまうでしょう。ほら、ルーグも。」
女王ヴェクトリアは既に食事に手をつけていた。
「え、ああ、失礼します。」
ルーグは、手と足が同時に出ている。この男、普段から力自慢だとか偉そうにする割には肝心なところがヘタレだ。そのまま椅子に座り、無言で食事を始める。
「どうやら、あまり歓迎されてないようね。」
「ええ、まあ。」
いかんいかん。さっさと用事を済ませて欲しいオーラがダダ漏れだったようだ。ルーグも隣で顔色が目まぐるしく変化している。
「まあ、余も暇ではないのでな。単刀直入に本題に入るとしよう。」
「魔族の王を討て。手段は問わぬ。」
暫時、何も考えられなかった。
「人間と魔族の争いが激化していることは知っているな?」
「いやいや、お待ちください!魔族の王……って、ええ!?」
「下級魔族の雑兵程度なら軍でどうにでもなるんだが、最近は四天王を名乗る幹部達も前線に出てきているみたいでな…並の兵士だと太刀打ち出来んのだ。」
「いやいやいや、なぜ私なんですか!」
まあ、権力を持たない分自衛として武術と魔法はそれなりに修行してたからそりゃあ兵士よりは流石に強いと思うけど……。
「無論、お前だけとは言わぬ。ルーグも連れていくといい。」
「ぶふぉお!」
「そういうことじゃないよ!!」
ルーグ、かわいそうだとは思うけど吹き出したご飯は自分で掃除してくれ。というか、話がすごいスピードで進んでいく。人の話を聞いて欲しい。
「冒険者ギルドや世界各地の中立種族にも檄文は飛ばしてある。あとは教会にもだ。」
「中立種族……エルフやドワーフまで動くんですね。」
この人、昔から決断力とこういう根回しが本当に早い。伊達に人間の国の王を200年もしていない。……でもやっぱり、もう少し人の話を聞いて欲しい。
「お前が必要ならそちらにもある程度話を通しておく。無論他の協力も惜しむつもりはないが、何か聞きたいことはあるか?」
「あの、拒否権はありますか?」
「何か聞きたいことはあるか?」
「ふぐぅ」
こうして私は、魔王討伐と称した体のいい厄介払いで家を追い出されたのでした。
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