棒人間と洗濯機

沼津平成

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第一幕 棒人間って、どんな人?

棒人間と洗濯機

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 棒人間が新しい洗濯機をかった。ボーナスを全部つぎ込んで買った代物で、なんでも最新型らしい。棒人間はこういうのがすきなのである。
「へえ。なんだかボタンがいっぱいだなあ。なんだかよくわからないや」
 次のものへ目移りを繰り返す。
「これはなんだろう?」
 おっと、この前に洗濯物を入れなくちゃあ。でも、ぼくの着るものはおしゃれ……そのおしゃれは汗でびっしょり濡れていて、洗濯しがいがあった。
「まあいいや」と、棒人間はいった。甲高い声で、時には宇宙をつんざくような、「ノー!」だってやってのける。だから、今はまだ穏やか。幸い、近所迷惑にもなっていない。
「さて」
 洗濯物という洗濯物を入れて、棒人間はまず赤くて丸いボタンを押した。
 ぴっぽっぱっぽと音がした。3を2回おすと、表示されたのは、「残り33:00」。
 ところが、1秒経っても、「33:00」のままなのだ。
「まさか……」
 その、まさかは当たった。カップシナソバにお湯を入れ、時間が経ち、見てみると、「32:57」
 そう、棒人間は、二日近く洗濯するボタンの組み合わせを押してしまったのだ!

 糸という糸は抜け落ちて、すっかりボロボロになった赤い服を修繕しに行き、一万円という名の思わぬ出費をした棒人間は、懲りずにまた別のボタン押すことを考えていた。
「ふう、さっきはやばいことになっちまった」
 あのあと用心しながら黒いマーカーでDANGERのDを書いたボタンを見ながら、棒人間がいった。
 その日は、雨が降り、棒人間の細い手では、傘をささえきれず、ボンドでできている棒人間の体がやばいことになり、ボンドを足して感度応急処置をがんばってもだめだった。
 風呂に入り、タオルを取り出しそしてふく。風呂に棒ひとつおちていないか確認したあと、ボンドをぬりぬり。 ——うん、うまくいった。
 さて、洗濯された服を取り出す——。うん、うまくいった。新しい服をいれる。例の赤い服は、すっかり実験対象と化していた。いいものにグレイトのGを書いたあと、青くて四角いボタンを押した。水洗いのボタンである。この洗濯機は前の洗濯機と同じメーカーの品物なので、統一されているはずだ。
「おお」
 棒人間がどこにあるのだか、判別不能な、その目をとめたのは、白くてひし形のボタンだった。意味ありげな予感がする。いくら鈍感な人でも使えばやばいと思うだろう。たぶん全人類、いや全動物は押さないだろう。ただ1人だけ、例外がいた。
 赤丸のボタンの件でもう、時間機能の使い方はわかったので、まともな数字を入れて、実行と書かれた白くて丸いボタンを押す。
 水洗いの音に混じって、なんだか音がする。それはドライブ好きな棒人間にじりじりと汗をかかせる音だった。
 恐怖に怯えながら、「……さて」と棒人間がいった。
 見ると赤い服は白いなにかでもこもこになっていた。棒人間はシャンプーのボタンを押してしまったのだ!

 脱色した服が赤色に戻ったのは、棒人間が赤色の絵の具を塗って三日かけて寝かせたからだ。
「ふう、さきおとといはやばいことになっ——」
 喋る棒人間をとめたのは、ある1つのボタンだった。
「おっと! こいつを忘れてた」
 別に棒人間の記憶力がいいわけではなく、ただマーカーの跡がなかっただけだ。それにしても、彼にとっては大発見!
 と、そのとき、棒人間は取扱説明書をまともに読んでいなかったことに気づいた。
「ありゃ。じゃあ読むか」
 取り出してきて、そのボタンについて触れられているページをみる。
「なになに」
『【警告】 このボタンだけは、絶対に押してはなりません。』

 なんと、それだけしか、そのボタンについてはふれられていなかったのだ!
「えー、よけいに好奇心がかられちゃうんだけど!」
 世の中に、多次元があるという人があるが、その人の説が正しいとする。おそらく某人間がこんなふうにいうのはこの次元しかなかっただろう。
 ポチ。
 ばごーん。
「これは不良品だ! 新しいのに取り替えよう。おっと、ボーナスが入っている! おっと、最新型が発売されたみたい——」
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