サバイバル・ラン

Season1 —第一回—

声援とミッション ヒロキサイド

【ミッション。】と、スマホがなった。ヒロキはスマホをとった。配給スマホが灰色の太陽の光を反射させている。ふと、これはなんでできているんだろうかと、ヒロキは思った。
　ヒロキはもともと理系だった。だから走るのは苦手である。今、ベンチの上で、ただ、「がんばれ」と声をかけてやることしかできない。
【ミッション。】と、スマホががなりたてる。いつまで続くのだろうか。
「もう。うるさいなあ。僕は仮にも脱落したんだよ」とヒロキはつぶやいた。それでもまだ、【ミッション。】スマホはうるさい。
「もう！」ヒロキはついに、怒って席をたった。つかつかとマネージャーの方に近づく。
「敗者にまで、この憎々しいスマホはくっついてくるんですか」
「朗報なんだがな」初老のマネージャーが答えた。息が煙草臭い。ヒロキは息を止めた。「ちょっと確認してみてくれないか」
「ったく、なんですか」
「まあまあ、いいから」
　マネージャーに促されて、ヒロキはいやいやベンチの上に放り出したままのスマホを取った。
「敗者復活戦のおしらせ」
　ヒロキは目を見開いた。パスワードであるＡ４０６３を打つと、詳細が見られた。
「敗者復活戦のおしらせ。ただいまより３周目Ａ地点にて敗者復活戦を行う。受付は九時四十五分まで。」
　ヒロキは、そういえば近くに古い時計塔があった、と思い出した。そして、コーストは逆回りのルートを辿って時間を見に行った。

　　　　＊

　九時三十分。あと十五分で、七百四十メートル。
　思わず倒れそうになった。
「大丈夫！」そういって、ありったけのパワーを使って、ヒロキは走り出した。しかし、あと百八十メートル程度だろうか、そのくらいでヒロキは足を止めた。木漏れ日に騒々しい蝉がどうも似合わない。
「予選会だろ？　力残しとこう」
　そういって、彼は歩き出した。

　　　　＊

　九時四十分を回っても、敗者復活戦の戦場にヒロキの姿はなかった。若い女が腕時計を見やった。九時四十五分二分前。
　時計のいちばん細い針が上をさした。一分前——。
「待ってください！」という叫びを聞いたのは、その時だった。
「ヒロキ！」会場がわく。
「大丈夫？」
「はい」ヒロキはハキハキした声で続けた。「ナンバー４６８６３９２７、ヒロキです！」