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第3話 毛がっ!
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5月11日(金)
ふよふよすらたろう
(ぷよぷよスラタロウ。)
5月12日(土)
すらたろうのおうちてきた
(スラタロウのお家、出来た。)
5月13日(日)
きょうあへくんとあそんた
(今日、阿部君と遊んだ。)
5月14日(月)
こうこせんせいすき
(響子先生好き。)
陽翔があれだけ熱心に頼み込んで飼うことになったスラタロウだったが、興味は長くは続かなかったようだ。
絵日記の絵も、四日間オレンジ色に塗った楕円形を描いただけに終わる。
せっかく百均で水槽もどきのお家を買ってきたと言うのに、陽翔的はそこで安心してしまったようで、ここ数日はすっかり幼稚園の友達と遊んでいる。
まあ、それも致し方ないような気もするのだ。
なんせ、スラタロウはぷよぷよするだけで、あとは一切の変化を見せないのだから。
あれでは陽翔でなくても飽きてしまうだろう。
ただ、私のスラタロウに対する評価は変りつつあった。
最初はただただ不気味で生理的に受け付けなかったが、大人しいし、手間が掛からないしで、飼う上で何の不満もない。
水槽のお家も、まったく汚れないし。
どうやって生きているのか分からないが、食事のようなものが必要でもないらしい。
もしかして、水分がないとカラカラに乾いてしまうかも。
などとも思って当初は観察していたのだが、何日放っておいても相変わらずゼリーのような質感は変らないし、色目もオレンジ色のままだ。
飼い始めて数日経ち、スラタロウは私の中ですっかり植物と同義となっていた。
植物と言っても、ほとんど手間のかからない、サボテンなどと同類だ。
だから、陽翔ではないが、段々、私もスラタロウの存在を気にしなくなっていた。
私も、主婦は主婦なりに忙しいのだ。
今度、町内の子供会でバザーをやることになっているのだが、その委員を任されてしまったし。
不要品の出品を父兄の方々にお願いして回るのは、なかなかに手間のかかる作業なのだ。
大体、今の世の中で子供会なんか必要なんだろうか?
共働き世帯が多いから、委員を任されるのはいつも私とお隣の阿部さんの奥様ばかり。
これで陽翔が小学校に上がりでもしたら、今度はPTAの役員なんかも押しつけられるのだろう。
そう思うと若干憂鬱になる。
やるのは構わないが、押しつけられてる感がたまらなく嫌なのだ。
「主婦は暇なんだから、引き受けて当然よね」
みたいな陰の声が聞こえて来そうだし。
夫がしっかり稼いでくれるのだから、
「子供が小さい内は主婦をしたい」
と言うのが私の方針。
別に、子供会やPTAのために仕事をしないわけではないのだ。
私だって、自分のために仕事を持ちたいと思うし。
「ま、ママ……」
「どうしたのハル君?」
「うそをついてはいけないんだよね?」
「そうよ、うそはダメよ」
「僕、うそつかないよ」
「……?」
「だから、ちゃんと言うもんっ!」
「どうしたのよ。泣きそうな顔をして?」
突然何だ?
幼稚園から帰ってきていくらも経っていないのに、陽翔が涙目で訴えかけてくるではないか。
さっきまで、幼稚園で響子先生といっぱいお話をしたと、ご機嫌だったのに。
陽翔は滅多に泣かない子だ。
芯が強いとかではなく、何となくのほほんと受け入れてしまうから、泣くまでには至らないのだ。
その陽翔がここまで思い詰めた様子を見せるなんて。
これは一大事かもしれない。
って、また何か持って帰ってきたのかな?
「ママ、こっち」
「な、何よ?」
陽翔が私の袖を引っ張る。
このサマーセーター、まだ買ったばかりだから、そんなに引っ張らないでもらいたいんだけど。
ほら、伸びちゃうわよ。
わ、分かったから。
そんなに慌てないでっ!
「す、スラタロウが……」
「あっ!」
「毛が生えちゃったの」
「毛? そ、そうね。これは毛かな?」
「僕、お世話しなかったから毛が生えちゃったのかな?」
「うん? まあ、そうねえ」
見てビックリ。
陽翔が言うように、スラタロウにはいつの間にかビッシリと毛が生えていた。
いや、毛と言うか、繊毛と言うか。
細くて短い、ネズミ色の毛で覆われていて、オレンジ色の身体が見えなくなっている。
近いのは、タワシか?
ただ、タワシほど見た目がゴワゴワしてはいず、毛も1センチ程度で生えそろっている。
「ママ、毛が生えたら飼っちゃダメなんだよね?」
「えっ? あ、そうね。パパが苦しくなっちゃうといけないわね」
「じゃあ、スラタロウはどうなっちゃうの?」
「ど、どうって……」
そんなこと突然言われてもねえ。
そもそも、スラタロウに毛が生えるとなんて思ってもみなかったのだから。
でも、ハル君。
嫌なことでもちゃんとママに言ったのはえらかったね。
「うわっ、スラタロウの毛、モフモフしてるよ」
「ちょ、ちょっと、ハル君。触っても大丈夫なの?」
「これ、気持ち良いよ。ふわふわでモフモフなの」
「……、……」
い、いや。
気持ち良いって、そんなの触っちゃダメよ。
今までのぷよぷよの身体も触ったことがないが、このふわふわモフモフは更に生理的に受け付けない。
あ、ほら、そんなに撫で回してっ!
うわ、持ち上げてる。
「ママも触ってみて?」
「えっ? ママは良いわ。遠慮しておくね。スラタロウが痛がるといけないから」
「大丈夫だよ。ほら、モフモフだよ」
「きゃっ!」
「ね、モフモフでしょう?」
「……、……」
た、たしかに。
この感触はウサギの毛に近いかな?
陽翔の言う通り、ふわふわでモフモフしてる。
あれ?
スラタロウって随分ひんやりしているのね。
だけど、この毛が抜けたり生え替わるようだと、夫の喘息には良くないかも……。
陽翔、残念だけど、スラタロウは家では飼えないかな?
ふよふよすらたろう
(ぷよぷよスラタロウ。)
5月12日(土)
すらたろうのおうちてきた
(スラタロウのお家、出来た。)
5月13日(日)
きょうあへくんとあそんた
(今日、阿部君と遊んだ。)
5月14日(月)
こうこせんせいすき
(響子先生好き。)
陽翔があれだけ熱心に頼み込んで飼うことになったスラタロウだったが、興味は長くは続かなかったようだ。
絵日記の絵も、四日間オレンジ色に塗った楕円形を描いただけに終わる。
せっかく百均で水槽もどきのお家を買ってきたと言うのに、陽翔的はそこで安心してしまったようで、ここ数日はすっかり幼稚園の友達と遊んでいる。
まあ、それも致し方ないような気もするのだ。
なんせ、スラタロウはぷよぷよするだけで、あとは一切の変化を見せないのだから。
あれでは陽翔でなくても飽きてしまうだろう。
ただ、私のスラタロウに対する評価は変りつつあった。
最初はただただ不気味で生理的に受け付けなかったが、大人しいし、手間が掛からないしで、飼う上で何の不満もない。
水槽のお家も、まったく汚れないし。
どうやって生きているのか分からないが、食事のようなものが必要でもないらしい。
もしかして、水分がないとカラカラに乾いてしまうかも。
などとも思って当初は観察していたのだが、何日放っておいても相変わらずゼリーのような質感は変らないし、色目もオレンジ色のままだ。
飼い始めて数日経ち、スラタロウは私の中ですっかり植物と同義となっていた。
植物と言っても、ほとんど手間のかからない、サボテンなどと同類だ。
だから、陽翔ではないが、段々、私もスラタロウの存在を気にしなくなっていた。
私も、主婦は主婦なりに忙しいのだ。
今度、町内の子供会でバザーをやることになっているのだが、その委員を任されてしまったし。
不要品の出品を父兄の方々にお願いして回るのは、なかなかに手間のかかる作業なのだ。
大体、今の世の中で子供会なんか必要なんだろうか?
共働き世帯が多いから、委員を任されるのはいつも私とお隣の阿部さんの奥様ばかり。
これで陽翔が小学校に上がりでもしたら、今度はPTAの役員なんかも押しつけられるのだろう。
そう思うと若干憂鬱になる。
やるのは構わないが、押しつけられてる感がたまらなく嫌なのだ。
「主婦は暇なんだから、引き受けて当然よね」
みたいな陰の声が聞こえて来そうだし。
夫がしっかり稼いでくれるのだから、
「子供が小さい内は主婦をしたい」
と言うのが私の方針。
別に、子供会やPTAのために仕事をしないわけではないのだ。
私だって、自分のために仕事を持ちたいと思うし。
「ま、ママ……」
「どうしたのハル君?」
「うそをついてはいけないんだよね?」
「そうよ、うそはダメよ」
「僕、うそつかないよ」
「……?」
「だから、ちゃんと言うもんっ!」
「どうしたのよ。泣きそうな顔をして?」
突然何だ?
幼稚園から帰ってきていくらも経っていないのに、陽翔が涙目で訴えかけてくるではないか。
さっきまで、幼稚園で響子先生といっぱいお話をしたと、ご機嫌だったのに。
陽翔は滅多に泣かない子だ。
芯が強いとかではなく、何となくのほほんと受け入れてしまうから、泣くまでには至らないのだ。
その陽翔がここまで思い詰めた様子を見せるなんて。
これは一大事かもしれない。
って、また何か持って帰ってきたのかな?
「ママ、こっち」
「な、何よ?」
陽翔が私の袖を引っ張る。
このサマーセーター、まだ買ったばかりだから、そんなに引っ張らないでもらいたいんだけど。
ほら、伸びちゃうわよ。
わ、分かったから。
そんなに慌てないでっ!
「す、スラタロウが……」
「あっ!」
「毛が生えちゃったの」
「毛? そ、そうね。これは毛かな?」
「僕、お世話しなかったから毛が生えちゃったのかな?」
「うん? まあ、そうねえ」
見てビックリ。
陽翔が言うように、スラタロウにはいつの間にかビッシリと毛が生えていた。
いや、毛と言うか、繊毛と言うか。
細くて短い、ネズミ色の毛で覆われていて、オレンジ色の身体が見えなくなっている。
近いのは、タワシか?
ただ、タワシほど見た目がゴワゴワしてはいず、毛も1センチ程度で生えそろっている。
「ママ、毛が生えたら飼っちゃダメなんだよね?」
「えっ? あ、そうね。パパが苦しくなっちゃうといけないわね」
「じゃあ、スラタロウはどうなっちゃうの?」
「ど、どうって……」
そんなこと突然言われてもねえ。
そもそも、スラタロウに毛が生えるとなんて思ってもみなかったのだから。
でも、ハル君。
嫌なことでもちゃんとママに言ったのはえらかったね。
「うわっ、スラタロウの毛、モフモフしてるよ」
「ちょ、ちょっと、ハル君。触っても大丈夫なの?」
「これ、気持ち良いよ。ふわふわでモフモフなの」
「……、……」
い、いや。
気持ち良いって、そんなの触っちゃダメよ。
今までのぷよぷよの身体も触ったことがないが、このふわふわモフモフは更に生理的に受け付けない。
あ、ほら、そんなに撫で回してっ!
うわ、持ち上げてる。
「ママも触ってみて?」
「えっ? ママは良いわ。遠慮しておくね。スラタロウが痛がるといけないから」
「大丈夫だよ。ほら、モフモフだよ」
「きゃっ!」
「ね、モフモフでしょう?」
「……、……」
た、たしかに。
この感触はウサギの毛に近いかな?
陽翔の言う通り、ふわふわでモフモフしてる。
あれ?
スラタロウって随分ひんやりしているのね。
だけど、この毛が抜けたり生え替わるようだと、夫の喘息には良くないかも……。
陽翔、残念だけど、スラタロウは家では飼えないかな?
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