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第17話 ようやく登場
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裕太を保育所から引き取り、家路を急ぐ。
今日は、市役所にベビーカーを持って行くのが嫌だったので、裕太を背中におぶって……。
途中で食材を確保するためにスーパーに寄る。
月曜の今日は冷凍食品が四割引になるので、買いだめのチャンスだから。
いつものように冷凍食品のコーナーに到着すると、まずは冷凍うどんとミックスベジタブルに手を出す。
あと、たこ焼きは必需品だ。
急に裕太がお腹を空かせたときに、レンジでチンすればすぐにおやつになってくれるから。
そうだ、最近、お野菜の値段が下がってきたから、白菜を買わないと……。
忙しいシングルマザーにとって、鍋物は何よりの味方だったりする。
手軽で簡単、そして、美味しくて栄養価も高いので、多いときには週に三回も夕食は鍋だったりする。
鍋物をやるのに白菜は必需品だ。
とりあえずこれだけ入れておけば、鍋で困ることはない。
しかし、少し前までは白菜四分の一個で200円以上と、あまりにも高くて買う気がしなかった。
天候不順と弾丸低気圧の関係らしいが、冬に鍋物がしにくいのは料理の作り手泣かせな話だ。
必要な物を手に、一通りスーパーを見て回る。
カートには大量の食材が……。
うっ……。
これって、裕太をおぶりながら持たなくてはいけないのか。
いつもなら裕太のベビーカーに括り付けて持ち運ぶからそれほどでもないが、背中の裕太とのダブルパンチは結構キツイかも。
だけど、これを逃すとまたいつ白菜の値段が上がるか分からない。
特売物も私を待ってはくれないのだ。
牛乳は重いけど、裕太が毎日飲むから欠かすことは出来ないし。
仕方がない、少々の負担は我慢するしかないか。
などと、自分の中で自問自答しながら、お総菜コーナーに差し掛かる。
裕太にはなるべく私が作った料理を食べさせたいので、あまりスーパーのお総菜は買わない。
だから、私は通り過ぎるだけ……。
夕刻だからか、お総菜コーナーには人だかりが出来ている。
あれ……?
あそこで天ぷらのパックを持っているのって、木原さんじゃないかしら?
スーツの上にダウンジャケットを羽織っている男性は、正しく木原その人であった。
ほとんど女性ばかりの人だかりの中にいると、一際目を引く。
「今晩は……」
「……、……」
私は木原に声をかけた。
しかし、木原はビックリしたような顔でこちらを看ると、急には声が出て来ないのか少し怪訝そうな顔で頭を少し下げた。
ああ、もしかすると、私は木原に認識されていないのかも……。
そう思ったが、日照の件もあるのでここで怯んではいられない。
だから、思い切りの笑顔で、笑いかけてみた。
「あ、晴美さんですか。すいません……、すぐには分からなかったもので……。今晩は」
「すいません、こちらこそ……。突然、お声かけして」
「いえ……、晴美さんの普段着しか見たことがなかったので、よそ行きの姿で一瞬分からなかったのです。すいません」
「私、仕事を始めたのです。ですから、これからはこういう格好で見かける方が多くなるかも知れませんね」
木原は、ようやく私を思い出したようで、さきほどまでの怪訝そうな顔から少し照れくさそうな顔になった。
「今、お帰りですか?」
「ええ、ここのところずっと仕事で帰れなかったもので……。あ、そうそう、晴美さん、僕を訪ねて来られたと聞きましたけど?」
「そうなんです。実は……」
「おっ?」
木原は後ろから中年女性に押されて、ちょっとよろめく。
押した中年女性は、
「そんなところで突っ立って話してるんじゃないわよ」
とばかりに、木原をにらみつける。
「すいません……」
木原は押した中年女性にサラッと謝ると、てんぷらのパックを棚に戻し、お総菜コーナーの前を離れた。
「買わなくて良いのですか?」
「ん? ああ……。まだ値段が下がってないから」
そう言って、木原はまた照れくさそうに笑った。
「さっき言いかけたことですが、今言って良いでしょうか?」
「ああ、どうぞ。何かお困りのことがありますか?」
木原と二人でスーパーを出て、並んで歩く。
いや、裕太もいるから三人か……。
傍目が気になるが、まあ、木原となら親子と思われるだろうから問題ないだろう。
それに、こちらは独身だし……。
傍目が気になるのは、もしかしたら木原の方かもしれない。
「晴美さん……。話の前に、その荷物を持ちましょうか? 裕太君を背負いながらじゃ、辛いのではないですか?」
「いえ……。お気遣いいただいてありがとうございます」
私がスーパーの袋を持ち直したのを見て、すかさず木原はそう言ってくれた。
……と言うか、この人凄く気を遣う人だ。
直人だったら、こちらが何も言わなかったら絶対に自分から荷物を持つとなんて言い出さない。
実家の父だって、母にそんな気遣いを見せたことは一度もないし。
「その……。伺ったのは、日照の件なのです」
「日照?」
「ええ、隣にマンションが建つ計画を御存知ないですか?」
「すいません。ずっと事務所を空けていたもので……」
そうか……。
木原はまだ田所に会ってはいないのか。
だとすれば、これは一から説明しなくてはならないかもしれない。
裕太ママ晴美の一言メモ
「値段の下がっていないお総菜を買わないって、超女性目線じゃない。木原さん、もしかして期待出来るかな?」
今日は、市役所にベビーカーを持って行くのが嫌だったので、裕太を背中におぶって……。
途中で食材を確保するためにスーパーに寄る。
月曜の今日は冷凍食品が四割引になるので、買いだめのチャンスだから。
いつものように冷凍食品のコーナーに到着すると、まずは冷凍うどんとミックスベジタブルに手を出す。
あと、たこ焼きは必需品だ。
急に裕太がお腹を空かせたときに、レンジでチンすればすぐにおやつになってくれるから。
そうだ、最近、お野菜の値段が下がってきたから、白菜を買わないと……。
忙しいシングルマザーにとって、鍋物は何よりの味方だったりする。
手軽で簡単、そして、美味しくて栄養価も高いので、多いときには週に三回も夕食は鍋だったりする。
鍋物をやるのに白菜は必需品だ。
とりあえずこれだけ入れておけば、鍋で困ることはない。
しかし、少し前までは白菜四分の一個で200円以上と、あまりにも高くて買う気がしなかった。
天候不順と弾丸低気圧の関係らしいが、冬に鍋物がしにくいのは料理の作り手泣かせな話だ。
必要な物を手に、一通りスーパーを見て回る。
カートには大量の食材が……。
うっ……。
これって、裕太をおぶりながら持たなくてはいけないのか。
いつもなら裕太のベビーカーに括り付けて持ち運ぶからそれほどでもないが、背中の裕太とのダブルパンチは結構キツイかも。
だけど、これを逃すとまたいつ白菜の値段が上がるか分からない。
特売物も私を待ってはくれないのだ。
牛乳は重いけど、裕太が毎日飲むから欠かすことは出来ないし。
仕方がない、少々の負担は我慢するしかないか。
などと、自分の中で自問自答しながら、お総菜コーナーに差し掛かる。
裕太にはなるべく私が作った料理を食べさせたいので、あまりスーパーのお総菜は買わない。
だから、私は通り過ぎるだけ……。
夕刻だからか、お総菜コーナーには人だかりが出来ている。
あれ……?
あそこで天ぷらのパックを持っているのって、木原さんじゃないかしら?
スーツの上にダウンジャケットを羽織っている男性は、正しく木原その人であった。
ほとんど女性ばかりの人だかりの中にいると、一際目を引く。
「今晩は……」
「……、……」
私は木原に声をかけた。
しかし、木原はビックリしたような顔でこちらを看ると、急には声が出て来ないのか少し怪訝そうな顔で頭を少し下げた。
ああ、もしかすると、私は木原に認識されていないのかも……。
そう思ったが、日照の件もあるのでここで怯んではいられない。
だから、思い切りの笑顔で、笑いかけてみた。
「あ、晴美さんですか。すいません……、すぐには分からなかったもので……。今晩は」
「すいません、こちらこそ……。突然、お声かけして」
「いえ……、晴美さんの普段着しか見たことがなかったので、よそ行きの姿で一瞬分からなかったのです。すいません」
「私、仕事を始めたのです。ですから、これからはこういう格好で見かける方が多くなるかも知れませんね」
木原は、ようやく私を思い出したようで、さきほどまでの怪訝そうな顔から少し照れくさそうな顔になった。
「今、お帰りですか?」
「ええ、ここのところずっと仕事で帰れなかったもので……。あ、そうそう、晴美さん、僕を訪ねて来られたと聞きましたけど?」
「そうなんです。実は……」
「おっ?」
木原は後ろから中年女性に押されて、ちょっとよろめく。
押した中年女性は、
「そんなところで突っ立って話してるんじゃないわよ」
とばかりに、木原をにらみつける。
「すいません……」
木原は押した中年女性にサラッと謝ると、てんぷらのパックを棚に戻し、お総菜コーナーの前を離れた。
「買わなくて良いのですか?」
「ん? ああ……。まだ値段が下がってないから」
そう言って、木原はまた照れくさそうに笑った。
「さっき言いかけたことですが、今言って良いでしょうか?」
「ああ、どうぞ。何かお困りのことがありますか?」
木原と二人でスーパーを出て、並んで歩く。
いや、裕太もいるから三人か……。
傍目が気になるが、まあ、木原となら親子と思われるだろうから問題ないだろう。
それに、こちらは独身だし……。
傍目が気になるのは、もしかしたら木原の方かもしれない。
「晴美さん……。話の前に、その荷物を持ちましょうか? 裕太君を背負いながらじゃ、辛いのではないですか?」
「いえ……。お気遣いいただいてありがとうございます」
私がスーパーの袋を持ち直したのを見て、すかさず木原はそう言ってくれた。
……と言うか、この人凄く気を遣う人だ。
直人だったら、こちらが何も言わなかったら絶対に自分から荷物を持つとなんて言い出さない。
実家の父だって、母にそんな気遣いを見せたことは一度もないし。
「その……。伺ったのは、日照の件なのです」
「日照?」
「ええ、隣にマンションが建つ計画を御存知ないですか?」
「すいません。ずっと事務所を空けていたもので……」
そうか……。
木原はまだ田所に会ってはいないのか。
だとすれば、これは一から説明しなくてはならないかもしれない。
裕太ママ晴美の一言メモ
「値段の下がっていないお総菜を買わないって、超女性目線じゃない。木原さん、もしかして期待出来るかな?」
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