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第4話 フタナリ相手に恋心が芽生えたんですけど……

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 私の席の後ろで放課後の補習中ずっとオナニーしながらノートに自作のラノベを書いている男子生徒がいる。
 彼の名前は童手井どうてい 拗螺瀬太こじらせた。童貞を絵に描いたようなチー牛顔の非モテでクラスの女子からは完全に無視されていた。


「ハアハア……農田のうたさん♡ 僕の最新作、読んでみて~」


 キモい男子でも存在だけなら辛うじて許してあげないこともないが、やたらと話しかけてくる点は万死に値する。しかも童貞を拗らせたようなキモいオナニー小説を私に読めと迫ってくる始末だ。


「もういいってば……話しかけないでよ」


 私が冷たくあしらっても童手井どうていくんは執拗に粘着してきた。


「今度のは自信作なんだ♡ きっと農田のうたさんも気に入るはずだからさ~、ほら」


 童手井どうていくんは私の机の上にノートをポイっと投げてきた。こんな風に日常的にキモい童貞の妄想に付き合わされて私は迷惑していた。
 だが、頭の悪い私には集中しても勉強なんぞ理解できるはずもないので仕方なく暇つぶしに読んでやることにした。 


 ――ある日、地球を襲った未知の殺人ウイルスによって人類は壊滅的な大打撃を受けた。
後に『失われた世界ロスト・ワールド』と呼ばれる地球上に住む男性の大多数は死滅し、少数の童貞のみは死に絶えることなく生き延び続けていた。
文明レベルは地に落ち、物資に乏しく、明日の食事さえままならぬ世界の中で童貞たちは人間離れした『100%無敵アブソリュート・ストロンガー』と呼ばれるミュータントへ変貌を遂げ、やがて世界の頂点に君臨するようになった――


 全ての非モテ童貞が一度は妄想するであろうオナニーファンタジーをストレートに見せつけられて私のSAN値はピンチになっていた。
 主人公の童貞がひたすら俺tueeeしながら淫乱巨乳美少女ハーレムを形成していく様は最高にキモく、いちいち雑な当て字をした作中用語も厨二的ネーミングセンスのオンパレードで最早ギャグでしかなかった。


「メインヒロインのモチーフは農田のうたさんで、サブヒロインのモチーフは二也井ふたなりいさんなんだ。モチーフ通りの素敵なヒロインだったでしょwww」


 いや、私は巨乳美少女でもないし、キモい童貞を誘惑するような頭おかしいクソビッチでもないんだけど……。
 どうやら童手井どうていくんの脳内で私は盛大に2次創作されているらしく、完全に現実が見えていないようだった。


農田のうたさんって、最近いつも二也井ふたなりいさんと2人でよく一緒にいるよね。なんだか百合っぽく見えてすごく尊いよ~♡」


 童手井どうていくんのキモい発言には毎度のことながら度肝を抜かれるが、今回はいつも以上に激しく動揺してしまう。


「ゆ、百合って……そんな……二也井ふたなりいさんと私が恋人同士に見えるだなんて……」


 見た目は美少女でも中身は正真正銘の男である二也井ふたなりいさんを徐々に意識し始めている自分に戸惑いを覚えた。
 私のような喪女でも恋なんかしてもいいのだろうか?


「あれ? 冗談のつもりだったんだけど、ガチ百合でしたかなぁwww」


 間の抜けたチー牛顔を歪めながらニヤつく童手井どうていくんにイラっとしていると、丁度チャイムが鳴り響いた。


「もう私、行くから」
「あ、農田のうたさん」


 私は童手井どうていくんを無視すると、とぼとぼと帰路につく。
 下校中、私はずっと恋愛とは何なのか考えていた。
 恋愛とは縁のない人生を送ってきた私にとって、それはファンタジーの中でしか体験し得ない空想上の産物だった。
 知能が低すぎるあまり精神年齢まで低い私に現実の恋愛など理解できるはずもない。性に対して未成熟な童手井どうていくんを笑う資格がないどころか、私も同レベルなのだ。
 誰かと人間関係を築くことさえ、まともに出来ない私が恋愛について思いを馳せるなどバカバカしいにも程がある。だが、それでも考えずにはいられないほど今の私はバカになっていた。


「ただいま……」


 しかし、「おかえり」を言ってくれる人はいない。
 私は心に染み込んでいく寂しさを感じながら、誰もいないキッチンに向かう。手を洗ってから冷蔵庫に入っているミネラルウォーターのペットボトルをラッパ飲みする。
 椅子に座って、誰もいない部屋の音に耳を澄ます。
 冷蔵庫のモーター音、時計の針の音、そして自分の心臓の鼓動。普通のJKなら身近に感じない鼓動の音が私の心を蝕む。
 うちは母子家庭で母の障害年金が主な収入源になっている。
 母は精神障害者手帳1級を所持しており、現在は独り立ちした兄と共に親子睦まじく暮らしている。そう、私は除いて……。
 だが、別に構わない。何を隠そう母の実家に一人で残ることを選択したのは紛うことなき自分だからだ。もはや家族とは完全に絶縁状態にあった。
 文武両道に秀でた眉目秀麗の兄とその妹である私は常に比較され、幼い頃から全く似ていないとバカにされていた。
 当然、母の愛は私よりも兄に向いた。やがて成長するたびに母は息子に夫の役割を求め、兄はそれを受け入れ、2人は親子という垣根を越えて肉体関係を持つに至った。そして無能な妹である私は父だけでなく母からも捨てられたのだった。
 両親から見捨てられた私は常に激しい自己嫌悪と戦う日々を送っていた。何者にもなれない劣った自分を責め、存在すら否定したがっていた。そんなことは無意味だと頭では分かっていても私の精神状態が変わることはない。おそらく死ぬまでこの苦しみから逃れることはできないのだろう。
 ピンポン。
 突然鳴った電子音に驚いて、椅子から飛び上がった。慌てて玄関の方へ走っていった。
 鍵を解除してドアを開けると、そこにはいかにもJKらしい可愛い服を着た二也井ふたなりいさんが立っていた。


「えぇ~、住所知ってたの⁉︎」
農田のうたさんのことでボクが知らないことなんてないよ♡」


 そう言うと二也井ふたなりいさんは問答無用で私の家へ勝手に上がると部屋にある物にベタベタと触る。


「ちょっと、物色しないでよ!」
「ごめん、ごめん。でも、意外だなぁ。農田のうたさん、バイオリンなんか弾けるの?」


 二也井ふたなりいさんは棚の隅っこに飾ってあった今は亡き祖父のバイオリンを手にとって尋ねる。


「逆に訊くけど、頭がすこぶる悪い私に楽器なんか弾けると思う?」
「やっぱり、そういうタイプではないよね。だから気になったんだ」


 私は二也井ふたなりいさんからバイオリンを奪い返そうとしたが、さっと躱されてしまう。
 すると、二也井ふたなりいさんはバイオリンを顎と肩で挟んで演奏し始めた。
 何の曲かは分からないが、二也井ふたなりいさんのストレートな気持ちが表現された明るいメロディだった。
 先程まで孤独と寂しさで支配されていた私の心に至福の官能を与えてくれた。


「内にこもっちゃうタイプの隠キャな私には刺激的すぎる音楽だよ……」
「どちらかといえばボクも内向的な人間だけど、音楽に関してはアドレナリンがドバドバ出るようなのが最高に好きなんだよね♡」


 ドラッグのような中毒になる音楽を聴いたのは生まれて初めてかもしれない。
 演奏が終わるたびに私は何度も何度もアンコールしては二也井ふたなりいさんが奏でるバイオリンの美しい旋律に熱狂した。


「音楽は人間の全てを教えてくれるんだよ。音楽の趣味で人間性が分かるなんて断言する心理学者もいるくらいだからね」


 二也井ふたなりいさんが言うように音楽は人間を写す鏡だ。音楽の趣味が合わない人間とは絶対に仲良くできない。それくらい音楽というものは自分自身を表すアイデンティティとして機能している。


「同じ音楽が好きってことはボクと農田のうたさんは似た者同士なんだよ、きっと♡」
「えぇ~、私にはチンコ生えてないけど……」
「いや、そういう意味じゃなくてさwww」


 その後に爆発的な声で大いに笑い合った。
 こんなにも誰かと笑ったのはいつ以来だろうか?
 少なくとも思春期を迎えてからは初めてのことだった。
 二也井ふたなりいさんが私の横に座って、優しく肩を抱いてきた。


「楽しそうに笑う農田のうたさんが見れて良かったぁ~♡ 下校する時の農田のうたさんって、いつも暗い顔してたから心配だったんだ」
「えぇ、そんなに暗い顔してた? 学校にいる時よりは家の中の方が精神的に落ち着いてるけどなぁ」
「最近は学校でも少しずつ笑うようになってきてるよ♡」
「そ、そう? ふ~ん……」


 学校生活が楽しいとは今でも全く思わないが、二也井ふたなりいさんに会うのが楽しみで足早に毎日登校するようになっていた。昔の私ならズル休みしてでも学校を休もうと躍起になっていたはずだ。
 明らかな心境の変化に私は戸惑いを覚えながらも胸の中で沸々と湧き上がる正の感情に身を委ねた。


二也井ふたなりいさんと一緒にいると、なんだか不思議とネガティブな感情がどこかに飛んでいっちゃうんだ。こんな感じ、初めてで自分でもよく分からないんだけど、これだけは言える。私、二也井ふたなりいさんと一緒にいたい。いつまでも、ずっと……」


 ボキャブラリーが貧困で取り留めのない言葉しか出ないが、二也井ふたなりいさんは全てを察してくれたかのように私をベッドの上に押し倒した。


「実はボクも同じこと考えてたんだ。農田のうたさんの傍から離れたくない。農田のうたさんの全てが欲しいッ!」


 そう言うと二也井ふたなりいさんの艶やかな唇が私のザラザラな唇に重なり、睦み合う。舌が絡み合い、お互いの唾液が混ざり合う。
 私の上に覆い被さった二也井ふたなりいさんの目が大人びた色に変わる。
 私の身体はすぐに反応してきた。たちまち乳首が硬く尖ってくる。


「こんな感じ、生まれて初めてかも……ステキ♡」
「ボクも誰かをこんなにも愛おしいと思ったのは初めてだよ♡」


 二也井ふたなりいさんは身体の角度を変えながら、私に色々な愛撫を加えていった。全ての愛撫に私は異常反応してしまう。
 私の胸を揉み上げる二也井ふたなりいさんの指が激しく蠢く。


「ああ、もうダメぇ~ッ!」


 二也井ふたなりいさんは私の乳首をいじりながら首筋にキスをする。性に対して子供並みに純真無垢な私は二也井ふたなりいさんの愛撫によって官能の蟻地獄に落とされていくのだった。
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