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はじまり
25話 信じられる者
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そうか…セギドの狙いはこれだったのか。獣人の地位をまた落としたかった。傭兵団の元とは言え一番隊隊長の息子が、獣化して我を忘れて人を殺した。しかも女神様が降りる教会で。態々、獣人では無い人族の娘を誘拐してきたのも人族の目撃者が欲しかったから…これは獣人への不信感が広まるに違いない。セギドは極度の獣人差別主義者だったのか。
デアドさんとラウラさんになんて迷惑を掛けてしまったんだろう…俺を家族にしたばっかりに…。
「ナート。」
「デアドさん…迷惑を掛けてごめんなさい!
でも俺!初めて獣化したのは本当だけど、我を忘れて襲ったりしてません!本当に!」
「うん。俺は息子の言葉を信じてる!
とりあえず人型に戻る方法を教えよう。落ち着いて自分の人の姿を思い浮かべながら、息を吐き出す様に力を抜くんだ。出来るか?」
「はい。」
俺は言われた通りに人型に戻る事をイメージしながら息を吐き出す様に力を抜く。血が沸き立っていたのが治って身体が縮む様な感覚がしたと思うと俺は元の人型に戻っていた。
「よし!戻ったな!落ち着いたか?」
「はい!ありがとうございます!
そうだ!トールがもう亡くなってしまったセギドの仲間と闘って羽根を切られてしまって!出血が多かったので止血する為に僕が回復魔法を掛けたけど、止血しか出来なかったから早く診てもらわなきゃ!」
「それなら、もう大丈夫だ。トールの親父は腕の良い回復士でもある。さっきトールが倒れてるのを見つけて直ぐに回復魔法を掛けてたから、そろそろ目を覚ますと思うぞ。」
「良かったぁ…」
「おい!人の姿に戻ったなら、警備隊の支部にお前を連れて行く。途中でまた暴走したら困るから、この首輪をつけろ!」
そう言って警備隊の男が俺に奴隷の首輪を俺に付けようとした。
「おい!息子に奴隷の首輪をさせるなんて、それが警備隊のやることか!」
「仕方が無いだろ、また暴走されたら我々だって危ないからな!奴隷の首輪してなかったら安心出来ない。」
「っ…分かりました。それで皆さんが安心するなら奴隷の首輪をつけます。」
「ナート!」
「そういえば、武器は持って無いだろうな?」
「杖と剣はあそこの床に置いてあります。」
「何だってあんな所に?ん?そのベルトは魔道具だろ?外して寄越しなさい。」
首輪を受け取るのと交換にベルトを渡そうとした時、誤ってベルトを落としてしまった。
落とした際に再生ボタンが押されたのだろう、ベルトから声が響いた。
……
…
ーベルトから再生されてる声ー
「ガズ、ルシーナ、デアドさん達に頼む。
今まで…何処から来たかもわからない、得体の知れない俺を本当の家族にしてくれて…お父さん、お母さん…本当に有り難う。」
「感動的だ!獣人でも家族愛が… … …
… … …
…イジオタを殺して皆んなが助かる道を選べば良い!さぁイジオタを殺せ!」
「セギド!裏切りやがったな!」
「… … …
…誘拐事件だって俺は女達を連れてきてない!お前が獣人の女なら奴隷と同じだから大丈夫だって言って連れてきたんじゃないか!」
… … …
「やめろ!… … …死ぬ程の事をお前は犯して無いだろ?まだやり直せる!」
「っ…分かった。<リベル(解放)>」
… … …
「うっ…」
「なんで魔法が使えない?!そうだ杖!杖は… …」
「…イジオタ?!しっかりしろ!!」
… … …
「…そいつは捨て駒さ、だから殺した。
… … …
それに何の為にか…それはこの殺人を君がやった事にする為にだよ!
皆んなが信じるのはこの話、友達が奴隷の首輪を掛けられてた事を知って、怒り狂ったナート・テイルズが獣化し、我を忘れて爪でイジオタの首を切り裂き殺した。止めに入った僕達3人のうち2人も襲われた…
… … …
…もう少し舞台を整えよう…<コルタード>」
「うっ…ぁあああ!な…にを?!」
「なっ!なぜ我らも?!…ぐぁあああ!!」
… … …
「扉の外が騒がしくなったという事は観客も揃った様だ!さぁ舞台の幕上げだ!!」
「ルシーナ?!みんな?!」
「うちの娘は?!きゃああああああ!」
「なんだこの状況はぁ?!」
……
…
「これで録音は全てです。(機械の様な声を真似たセバスチャンさんの声)」
死を覚悟してデアドさん達にメッセージを入れた時、停止をせずそのまま録音し続けてたのか!これで濡れ衣が晴らせるかもしれない!
「なっ…何だこの会話は?!
トラドル様のご子息がそんな事…嘘だ…。そうだ…罪を逃れる為に前以て作っておいたものに違い無い!
貴様!セギド様に濡れ衣を着せる為にどんな小細工した!」
「何を騒いでるんですか?それにナート・テイルズを捕まえておくように言ったはずですが?」
「捕まえておくべきはナートではなく、お前の方じゃないのか?セギド・トラドル。」
「何の話です?」
「お前が向こうに行っている間ここにいた者はこれを聞いて真実を知ってるんだ!」
ーベルトに録音されていた内容が再生される。ー
録音された会話が進むに連れてセギドの人の良さそうな笑顔は歪んでいき、彼の後ろに居た誘拐された娘と家族達は青ざめた顔でそっと彼から距離を取った。
「セギド様!嘘ですよね?あのトラドル様のご子息である貴方がそんな事をするはずが無い!
この録音された魔道具はナート・テイルズが貴方に罪を被せようと貴方の声の真似をして前以て作成していた物ですよね?!」
「おいおい、そいつは無理があるんじゃないか?
お前達の話ではナートは友達に奴隷の首輪を嵌められた怒りで初めて獣化して我を忘れ、3人を殺してしまったんだろ?前以てこの録音を用意するなんて可笑しいだろ?」
「それは!…だったらナート・テイルズは我を忘れて殺したんじゃなくて、計画した殺人だったんだ!」
「ナートが計画的に殺したという証拠がどこにある?証言と食い違うじゃないか。」
「でも…」
「これは驚きました、あの様子が演技だったとは!
何の為か分からないが僕を嵌める為こんな物を用意までして!
証言と言えば、疑われてる僕の証言は無効だとしてもシスターの証言があるじゃないですか。
まさかシスターがこの教会で起きた殺人事件で嘘の証言をしてると言うんですか?」
「えぇ、私は嘘はついておりません。ナートくんがイジオタさんを殺した所は見ております。」
「ほら、シスターの証言とその不思議な声だけ録音された魔道具とどちらが信用できますか?」
セギドはまた人の良さそうな笑みを浮かべて後ろに下がっていた彼女らの方を向き問いかけた。
彼女らは一様に困惑した表情を浮かべている。
「(許さ…ない…ぞ…)」
混乱した状況の中で微かに聞こえてきた声に、皆んなが声の主を探すように辺りを見回した。
するとそこにはセギドの友人であった、死んだ筈の男が壁にもたれ掛かって座っていた!
その男の側でトールの父が回復魔法をかけ続けていた。
「俺を…殺そうとしたのは…はぁはぁ…セギド・トラドルだ!うっ…はぁはぁ…。」
「まだ喋れる状態じゃない。無理をするな。」
「また…殺されるか…しれな…はぁぁ…だから!
セギドは…獣人を…また奴隷に…落としたかった…シスターも…グルだ。」
「シスターが?!!!」
「嘘?!神に仕える方が?!」
「なんて事だ!信じられん!!」
皆んなシスターの方を見て、驚きで口が塞がらないといった様子だ。
シスターは残念そうな表情を浮かべてゆっくりと歩きセギドの前に立った。
「残念でしたね、セギドさん。
貴方の夢は叶いそうにない。私の願いもこのままでは…。
だけど折角ここまで舞台を作り上げたのですから、ここから監督と主役は私に交代していただきましょう。」
「はぁ…確かに僕は此処までの様です。
ここから貴方が願いを叶える為どうされるのか…楽しみです。」
セギドは殺されかけた男の証言で状況が一変してしまい悔しそうに顔を歪ませていたが、シスターと何か話をしている内に力が抜け諦めの表情に変わった。
セギドは警備隊の元へ自ら歩いてきて犯行を認め、そして僕の方を見て言った。
「獣人なんて、いなくなって欲しかったのに。」
デアドさんとラウラさんになんて迷惑を掛けてしまったんだろう…俺を家族にしたばっかりに…。
「ナート。」
「デアドさん…迷惑を掛けてごめんなさい!
でも俺!初めて獣化したのは本当だけど、我を忘れて襲ったりしてません!本当に!」
「うん。俺は息子の言葉を信じてる!
とりあえず人型に戻る方法を教えよう。落ち着いて自分の人の姿を思い浮かべながら、息を吐き出す様に力を抜くんだ。出来るか?」
「はい。」
俺は言われた通りに人型に戻る事をイメージしながら息を吐き出す様に力を抜く。血が沸き立っていたのが治って身体が縮む様な感覚がしたと思うと俺は元の人型に戻っていた。
「よし!戻ったな!落ち着いたか?」
「はい!ありがとうございます!
そうだ!トールがもう亡くなってしまったセギドの仲間と闘って羽根を切られてしまって!出血が多かったので止血する為に僕が回復魔法を掛けたけど、止血しか出来なかったから早く診てもらわなきゃ!」
「それなら、もう大丈夫だ。トールの親父は腕の良い回復士でもある。さっきトールが倒れてるのを見つけて直ぐに回復魔法を掛けてたから、そろそろ目を覚ますと思うぞ。」
「良かったぁ…」
「おい!人の姿に戻ったなら、警備隊の支部にお前を連れて行く。途中でまた暴走したら困るから、この首輪をつけろ!」
そう言って警備隊の男が俺に奴隷の首輪を俺に付けようとした。
「おい!息子に奴隷の首輪をさせるなんて、それが警備隊のやることか!」
「仕方が無いだろ、また暴走されたら我々だって危ないからな!奴隷の首輪してなかったら安心出来ない。」
「っ…分かりました。それで皆さんが安心するなら奴隷の首輪をつけます。」
「ナート!」
「そういえば、武器は持って無いだろうな?」
「杖と剣はあそこの床に置いてあります。」
「何だってあんな所に?ん?そのベルトは魔道具だろ?外して寄越しなさい。」
首輪を受け取るのと交換にベルトを渡そうとした時、誤ってベルトを落としてしまった。
落とした際に再生ボタンが押されたのだろう、ベルトから声が響いた。
……
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ーベルトから再生されてる声ー
「ガズ、ルシーナ、デアドさん達に頼む。
今まで…何処から来たかもわからない、得体の知れない俺を本当の家族にしてくれて…お父さん、お母さん…本当に有り難う。」
「感動的だ!獣人でも家族愛が… … …
… … …
…イジオタを殺して皆んなが助かる道を選べば良い!さぁイジオタを殺せ!」
「セギド!裏切りやがったな!」
「… … …
…誘拐事件だって俺は女達を連れてきてない!お前が獣人の女なら奴隷と同じだから大丈夫だって言って連れてきたんじゃないか!」
… … …
「やめろ!… … …死ぬ程の事をお前は犯して無いだろ?まだやり直せる!」
「っ…分かった。<リベル(解放)>」
… … …
「うっ…」
「なんで魔法が使えない?!そうだ杖!杖は… …」
「…イジオタ?!しっかりしろ!!」
… … …
「…そいつは捨て駒さ、だから殺した。
… … …
それに何の為にか…それはこの殺人を君がやった事にする為にだよ!
皆んなが信じるのはこの話、友達が奴隷の首輪を掛けられてた事を知って、怒り狂ったナート・テイルズが獣化し、我を忘れて爪でイジオタの首を切り裂き殺した。止めに入った僕達3人のうち2人も襲われた…
… … …
…もう少し舞台を整えよう…<コルタード>」
「うっ…ぁあああ!な…にを?!」
「なっ!なぜ我らも?!…ぐぁあああ!!」
… … …
「扉の外が騒がしくなったという事は観客も揃った様だ!さぁ舞台の幕上げだ!!」
「ルシーナ?!みんな?!」
「うちの娘は?!きゃああああああ!」
「なんだこの状況はぁ?!」
……
…
「これで録音は全てです。(機械の様な声を真似たセバスチャンさんの声)」
死を覚悟してデアドさん達にメッセージを入れた時、停止をせずそのまま録音し続けてたのか!これで濡れ衣が晴らせるかもしれない!
「なっ…何だこの会話は?!
トラドル様のご子息がそんな事…嘘だ…。そうだ…罪を逃れる為に前以て作っておいたものに違い無い!
貴様!セギド様に濡れ衣を着せる為にどんな小細工した!」
「何を騒いでるんですか?それにナート・テイルズを捕まえておくように言ったはずですが?」
「捕まえておくべきはナートではなく、お前の方じゃないのか?セギド・トラドル。」
「何の話です?」
「お前が向こうに行っている間ここにいた者はこれを聞いて真実を知ってるんだ!」
ーベルトに録音されていた内容が再生される。ー
録音された会話が進むに連れてセギドの人の良さそうな笑顔は歪んでいき、彼の後ろに居た誘拐された娘と家族達は青ざめた顔でそっと彼から距離を取った。
「セギド様!嘘ですよね?あのトラドル様のご子息である貴方がそんな事をするはずが無い!
この録音された魔道具はナート・テイルズが貴方に罪を被せようと貴方の声の真似をして前以て作成していた物ですよね?!」
「おいおい、そいつは無理があるんじゃないか?
お前達の話ではナートは友達に奴隷の首輪を嵌められた怒りで初めて獣化して我を忘れ、3人を殺してしまったんだろ?前以てこの録音を用意するなんて可笑しいだろ?」
「それは!…だったらナート・テイルズは我を忘れて殺したんじゃなくて、計画した殺人だったんだ!」
「ナートが計画的に殺したという証拠がどこにある?証言と食い違うじゃないか。」
「でも…」
「これは驚きました、あの様子が演技だったとは!
何の為か分からないが僕を嵌める為こんな物を用意までして!
証言と言えば、疑われてる僕の証言は無効だとしてもシスターの証言があるじゃないですか。
まさかシスターがこの教会で起きた殺人事件で嘘の証言をしてると言うんですか?」
「えぇ、私は嘘はついておりません。ナートくんがイジオタさんを殺した所は見ております。」
「ほら、シスターの証言とその不思議な声だけ録音された魔道具とどちらが信用できますか?」
セギドはまた人の良さそうな笑みを浮かべて後ろに下がっていた彼女らの方を向き問いかけた。
彼女らは一様に困惑した表情を浮かべている。
「(許さ…ない…ぞ…)」
混乱した状況の中で微かに聞こえてきた声に、皆んなが声の主を探すように辺りを見回した。
するとそこにはセギドの友人であった、死んだ筈の男が壁にもたれ掛かって座っていた!
その男の側でトールの父が回復魔法をかけ続けていた。
「俺を…殺そうとしたのは…はぁはぁ…セギド・トラドルだ!うっ…はぁはぁ…。」
「まだ喋れる状態じゃない。無理をするな。」
「また…殺されるか…しれな…はぁぁ…だから!
セギドは…獣人を…また奴隷に…落としたかった…シスターも…グルだ。」
「シスターが?!!!」
「嘘?!神に仕える方が?!」
「なんて事だ!信じられん!!」
皆んなシスターの方を見て、驚きで口が塞がらないといった様子だ。
シスターは残念そうな表情を浮かべてゆっくりと歩きセギドの前に立った。
「残念でしたね、セギドさん。
貴方の夢は叶いそうにない。私の願いもこのままでは…。
だけど折角ここまで舞台を作り上げたのですから、ここから監督と主役は私に交代していただきましょう。」
「はぁ…確かに僕は此処までの様です。
ここから貴方が願いを叶える為どうされるのか…楽しみです。」
セギドは殺されかけた男の証言で状況が一変してしまい悔しそうに顔を歪ませていたが、シスターと何か話をしている内に力が抜け諦めの表情に変わった。
セギドは警備隊の元へ自ら歩いてきて犯行を認め、そして僕の方を見て言った。
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