上 下
47 / 51
四章

47.運河②

しおりを挟む
 小舟は運河を順調に進み、すでにエヴラール領の岸を見ることは出来ない。俺たちは夜のしじまを二人きり、寄り添って過ごした。

「また、父上に助けられてしまった 」
 ローレンはずっと黙っていたがポツリ、とこぼした。
「…偉大な方です。ジェイド様は。そんな方が父上で、羨ましい 」
「…そうだ。俺の父親は…ジェイド・エドガーただ一人 」
 俺はローレンの言葉に頷く。そうだ。いつかジェイドも言っていた。夫婦だって血は繋がっていないけど…一緒に過ごすうちに家族になっていくんだって…。俺とローレンも、そうありたい。俺はローレンを見つめた。

 昼間のような明りが消え、一瞬で暗転した後遺症から回復し、夜の闇でもお互いの顔が確認できるまでになっていた。ローレンは俺と改めて向かい合って座る。

「ノア…恐ろしい目に合わせてすまなかった…。フィリップのこと…。もっと警戒して伝えておくべきだった…。俺も想像以上だったんだ。陛下の血が入っているというだけで…ノアまで殺されかけるなんて 」
「ううん。フィリップ殿下のことは…もういいんだ。それに、フィリップ殿下は…ローレンと血が繋がった兄弟でもあるから、あまり悪く言いたくない。フィリップ殿下も、本当はローレンを傷つけずに解決する方法を探していた。それが、マリクとローレンを番にすることで、だから…… 」
 俺は言葉を選びながら話した。フィリップも苦しんでいた。それはローレンにも伝えたかった。

「だからって許されることじゃない…。それにノアに庇ってもらって、なんだあいつ。気に入らない 」
 ローレンは少し膨れている。
『マリクとローレンが番になっていればフィリップとローレンも兄弟として仲良くできたのではないか』と言おうとした俺に気が付いて止めた…。と、いうよりは、本当に子供のように怒っている気がする。俺は思わず噴き出した。
 俺が噴き出したことで、さらにローレンは不貞腐れる。

「ノアは色々な奴に優しくしすぎる。いつも間にかマリクと友達と言って抱き合ったり呼び捨てにしたり…俺が試合をしている間も、フードの中で何をしていたんだ?!」
 最後の方は、少し怒っていた。あんな緊迫した最中に、ローレンはそんなことを気にしていた?ますますローレンが可愛らしく思えた。
「それに…ルカと結婚する約束をしたと…。許せない。俺とは別れようとしたくせに!」
 ルカとのことはおままごとのような、遊びの上でのことだが…、ローレンと『別れようとした』のは本当だ。本心ではなかったけど、ローレンを傷付けてしまった。

「ローレン…俺が愛しているのは生涯ただ一人…。ローレンだけ… 」
 俺はローレンに抱き着いた。
「永遠に…?」
「はい… 」
「俺もだ。生涯ただ一人…ノアを愛すことを誓う。だから… 」
 
 ローレンは船に置いてあったランタンを一つ、手に取った。折りたたまれた紙製のランタンを膨らませて俺の手のひらに乗せる。そして、俺の手をの上に自分の手を重ねた。
 
「俺は第二性がどうか、番だとか、そんなことは関係なく、ノア自身を愛してる。これは、信じてもらうしかない…、その努力も惜しまない…。でもノアにも、信じてほしいんだ。俺を… 」

 ローレンは俺の目を見つめて言った。先ほどとは違う、真剣な顔。

「ローレンを信じます。ローレンも俺を信じてほしい。もう、ローレンから離れるなんて言わないから… 」

 手の中のランタンに、ローレンは魔法で火をともした。次第に、ランタンは手を離れ、空へと浮かんでいく。

 一つだけの心もとないランタンはまるで運河に佇む俺たちのようだ。でももう、心は揺るがない。俺たちは命の火が消えるその日まで、お互いを愛すると誓った。

 永遠を約束をして、俺たちは口づけた。
 ――長く、深く…。





 小舟は運河を進み、ついに対岸の国…ルナール公国領を視界に映した。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーの悪役モブに転生しました〜処刑は嫌なので真面目に生きてたら何故か公爵令息様に溺愛されてます〜

百日紅
BL
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でしたーー。 最後は処刑される運命の悪役モブ“サミール”に転生した主人公。 死亡ルートを回避するため学園の隅で日陰者ライフを送っていたのに、何故か攻略キャラの一人“ギルバート”に好意を寄せられる。 ※毎日18:30投稿予定

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

オメガパンダの獣人は麒麟皇帝の運命の番

兎騎かなで
BL
 パンダ族の白露は成人を迎え、生まれ育った里を出た。白露は里で唯一のオメガだ。将来は父や母のように、のんびりとした生活を営めるアルファと結ばれたいと思っていたのに、実は白露は皇帝の番だったらしい。  美味しい笹の葉を分けあって二人で食べるような、鳥を見つけて一緒に眺めて楽しむような、そんな穏やかな時を、激務に追われる皇帝と共に過ごすことはできるのか?   さらに白露には、発情期が来たことがないという悩みもあって……理想の番関係に向かって奮闘する物語。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

処理中です...