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四章
47.運河②
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小舟は運河を順調に進み、すでにエヴラール領の岸を見ることは出来ない。俺たちは夜のしじまを二人きり、寄り添って過ごした。
「また、父上に助けられてしまった 」
ローレンはずっと黙っていたがポツリ、とこぼした。
「…偉大な方です。ジェイド様は。そんな方が父上で、羨ましい 」
「…そうだ。俺の父親は…ジェイド・エドガーただ一人 」
俺はローレンの言葉に頷く。そうだ。いつかジェイドも言っていた。夫婦だって血は繋がっていないけど…一緒に過ごすうちに家族になっていくんだって…。俺とローレンも、そうありたい。俺はローレンを見つめた。
昼間のような明りが消え、一瞬で暗転した後遺症から回復し、夜の闇でもお互いの顔が確認できるまでになっていた。ローレンは俺と改めて向かい合って座る。
「ノア…恐ろしい目に合わせてすまなかった…。フィリップのこと…。もっと警戒して伝えておくべきだった…。俺も想像以上だったんだ。陛下の血が入っているというだけで…ノアまで殺されかけるなんて 」
「ううん。フィリップ殿下のことは…もういいんだ。それに、フィリップ殿下は…ローレンと血が繋がった兄弟でもあるから、あまり悪く言いたくない。フィリップ殿下も、本当はローレンを傷つけずに解決する方法を探していた。それが、マリクとローレンを番にすることで、だから…… 」
俺は言葉を選びながら話した。フィリップも苦しんでいた。それはローレンにも伝えたかった。
「だからって許されることじゃない…。それにノアに庇ってもらって、なんだあいつ。気に入らない 」
ローレンは少し膨れている。
『マリクとローレンが番になっていればフィリップとローレンも兄弟として仲良くできたのではないか』と言おうとした俺に気が付いて止めた…。と、いうよりは、本当に子供のように怒っている気がする。俺は思わず噴き出した。
俺が噴き出したことで、さらにローレンは不貞腐れる。
「ノアは色々な奴に優しくしすぎる。いつも間にかマリクと友達と言って抱き合ったり呼び捨てにしたり…俺が試合をしている間も、フードの中で何をしていたんだ?!」
最後の方は、少し怒っていた。あんな緊迫した最中に、ローレンはそんなことを気にしていた?ますますローレンが可愛らしく思えた。
「それに…ルカと結婚する約束をしたと…。許せない。俺とは別れようとしたくせに!」
ルカとのことはおままごとのような、遊びの上でのことだが…、ローレンと『別れようとした』のは本当だ。本心ではなかったけど、ローレンを傷付けてしまった。
「ローレン…俺が愛しているのは生涯ただ一人…。ローレンだけ… 」
俺はローレンに抱き着いた。
「永遠に…?」
「はい… 」
「俺もだ。生涯ただ一人…ノアを愛すことを誓う。だから… 」
ローレンは船に置いてあったランタンを一つ、手に取った。折りたたまれた紙製のランタンを膨らませて俺の手のひらに乗せる。そして、俺の手をの上に自分の手を重ねた。
「俺は第二性がどうか、番だとか、そんなことは関係なく、ノア自身を愛してる。これは、信じてもらうしかない…、その努力も惜しまない…。でもノアにも、信じてほしいんだ。俺を… 」
ローレンは俺の目を見つめて言った。先ほどとは違う、真剣な顔。
「ローレンを信じます。ローレンも俺を信じてほしい。もう、ローレンから離れるなんて言わないから… 」
手の中のランタンに、ローレンは魔法で火をともした。次第に、ランタンは手を離れ、空へと浮かんでいく。
一つだけの心もとないランタンはまるで運河に佇む俺たちのようだ。でももう、心は揺るがない。俺たちは命の火が消えるその日まで、お互いを愛すると誓った。
永遠を約束をして、俺たちは口づけた。
――長く、深く…。
小舟は運河を進み、ついに対岸の国…ルナール公国領を視界に映した。
「また、父上に助けられてしまった 」
ローレンはずっと黙っていたがポツリ、とこぼした。
「…偉大な方です。ジェイド様は。そんな方が父上で、羨ましい 」
「…そうだ。俺の父親は…ジェイド・エドガーただ一人 」
俺はローレンの言葉に頷く。そうだ。いつかジェイドも言っていた。夫婦だって血は繋がっていないけど…一緒に過ごすうちに家族になっていくんだって…。俺とローレンも、そうありたい。俺はローレンを見つめた。
昼間のような明りが消え、一瞬で暗転した後遺症から回復し、夜の闇でもお互いの顔が確認できるまでになっていた。ローレンは俺と改めて向かい合って座る。
「ノア…恐ろしい目に合わせてすまなかった…。フィリップのこと…。もっと警戒して伝えておくべきだった…。俺も想像以上だったんだ。陛下の血が入っているというだけで…ノアまで殺されかけるなんて 」
「ううん。フィリップ殿下のことは…もういいんだ。それに、フィリップ殿下は…ローレンと血が繋がった兄弟でもあるから、あまり悪く言いたくない。フィリップ殿下も、本当はローレンを傷つけずに解決する方法を探していた。それが、マリクとローレンを番にすることで、だから…… 」
俺は言葉を選びながら話した。フィリップも苦しんでいた。それはローレンにも伝えたかった。
「だからって許されることじゃない…。それにノアに庇ってもらって、なんだあいつ。気に入らない 」
ローレンは少し膨れている。
『マリクとローレンが番になっていればフィリップとローレンも兄弟として仲良くできたのではないか』と言おうとした俺に気が付いて止めた…。と、いうよりは、本当に子供のように怒っている気がする。俺は思わず噴き出した。
俺が噴き出したことで、さらにローレンは不貞腐れる。
「ノアは色々な奴に優しくしすぎる。いつも間にかマリクと友達と言って抱き合ったり呼び捨てにしたり…俺が試合をしている間も、フードの中で何をしていたんだ?!」
最後の方は、少し怒っていた。あんな緊迫した最中に、ローレンはそんなことを気にしていた?ますますローレンが可愛らしく思えた。
「それに…ルカと結婚する約束をしたと…。許せない。俺とは別れようとしたくせに!」
ルカとのことはおままごとのような、遊びの上でのことだが…、ローレンと『別れようとした』のは本当だ。本心ではなかったけど、ローレンを傷付けてしまった。
「ローレン…俺が愛しているのは生涯ただ一人…。ローレンだけ… 」
俺はローレンに抱き着いた。
「永遠に…?」
「はい… 」
「俺もだ。生涯ただ一人…ノアを愛すことを誓う。だから… 」
ローレンは船に置いてあったランタンを一つ、手に取った。折りたたまれた紙製のランタンを膨らませて俺の手のひらに乗せる。そして、俺の手をの上に自分の手を重ねた。
「俺は第二性がどうか、番だとか、そんなことは関係なく、ノア自身を愛してる。これは、信じてもらうしかない…、その努力も惜しまない…。でもノアにも、信じてほしいんだ。俺を… 」
ローレンは俺の目を見つめて言った。先ほどとは違う、真剣な顔。
「ローレンを信じます。ローレンも俺を信じてほしい。もう、ローレンから離れるなんて言わないから… 」
手の中のランタンに、ローレンは魔法で火をともした。次第に、ランタンは手を離れ、空へと浮かんでいく。
一つだけの心もとないランタンはまるで運河に佇む俺たちのようだ。でももう、心は揺るがない。俺たちは命の火が消えるその日まで、お互いを愛すると誓った。
永遠を約束をして、俺たちは口づけた。
――長く、深く…。
小舟は運河を進み、ついに対岸の国…ルナール公国領を視界に映した。
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