上 下
30 / 51
三章

30.アルファの発情期※

しおりを挟む
「ノア!すまない…!」

 俺は首を振った。涙でローレンが霞む…。涙のせいで一瞬幻かとも思ったが、すぐに馬を降りたローレンに抱きしめられて、現実だと分かった。

「ノア…。早くここを出よう。急がないと日が暮れる 」
「でも、マリク様の馬が逃げてしまって… 」
「それなら大丈夫だ。…マリクの馬はもう厩に戻っている 」
 ローレンは話ながら俺を馬に乗せた。

「ノア、置き去りにしてしまって…すまない。俺が馬鹿だった。誰かがお前を連れて帰るだろうと思ってしまったんだ… 」
 ローレンは悔しそうに声を詰まらせた。ローレンが謝ることじゃない。あの時はそうするしかなかったのだから…。
「ノア、俺は決めた。もう、王宮騎士団は辞める。ノアをこんな目に合わせるフィリップ…オランレリアに忠誠など誓えない!」
「ローレン… 」
「ノアの借金は今度の騎士祭りで優勝して、その賞金で返済する。そうしたら…ノア…俺についてきてくれ 」
 返事の代わりに俺はローレンに抱き着いた。できればアロワとの約束通り、絵を描いて俺の手で借金を返したかった。けれど、王宮騎士を離反するローレンと結婚する俺が、宮廷画家にはなれないだろう。
 それでもいいんだ。ローレンと一緒にいられるなら、身分、名誉、金…何も要らない。ローレンだけいればそれでいい。

 ローレンはあっという間に森を駆け抜けてエヴラール辺境伯家に到着した。厩に馬を返すと、ローレンは俺に「帰ろう」と微笑んだ。
 ローレンは笑顔だったが、いつもより顔色が悪く、俺は少し、胸騒ぎがした。多分、無理して笑っている。疲れからだろうか…。


 厩をでると、会うつもりは無かったのだが、待ち伏せをしていたらしいフィリップに呼び止められてしまった。

「ローレン、随分と顔色が悪いな?また強い抑制剤を飲んだんだろう?完全に飲み過ぎだぞ?そんなに痩せ我慢をせずとも、マリクもその気だ、オメガを抱けばいいではないか。番になれば抑制剤はいらない 」
「…… 」
 抑制剤をまた飲んだ…?顔色が悪く見えたのは、そのせい?
 ローレンはフィリップを無視して俺に「行こう」と言った。

「素直じゃないなあ…。分かった。そんな素直になれないお前たちのために、私も騎士祭りに出てやろう。私が優勝したら、ローレン、マリクと結婚して番になれ 」
 ローレンはフィリップを冷めた目で見つめた。俺はその様子に心臓が口から出そうだった。でもローレンは落ち着いている。
「何故フィリップ殿下はそこまでして、俺をマリクと結婚させたいのですか?」
「ふ…。友人の恋をかなえるため、ひと肌脱ぎたいんだ。それにお前はアルファ。ベータよりオメガと結ばれるべきだ。それが自然の摂理…マリクと結ばれるのがお前の『運命』だ 」
「俺の運命は俺が決める 」

 ローレンは俺の腕をつかみ、フィリップの前を素通りした。通り過ぎる瞬間、フィリップは恐ろしく暗い顔でローレンを見つめていた。




 俺は心配でたまらなかった。たぶんローレンは、マリクの発情期のフェロモンに抗うために、追加で抑制剤を飲んだのだろう。先ほど感じた通り、顔色が悪い。俺のせいで無理をさせている…。

「ローレン…。俺のせいでローレンは、本能に逆らって無理してまた抑制剤を… 」
「ノア…。無理はしてない。確かに、今日念のため追加で飲んだ抑制剤は余計だった。念を入れ過ぎた…それだけだから。だからそんなに泣くなよ 」

 家に着くと不安と一緒に涙が溢れる。ローレンは寝台に腰掛けて俺を隣に座らせると優しく抱き寄せた。

「先日、ノアを抱いた後から…ずっと軽い興奮状態が続いているんだ。それで、まずいと思って強い薬に代えていた。それを更に追加で飲んだから…。心配させたな。でも本当に大丈夫だから 」
 ローレンは俺の唇を指で撫でながら、俺を見つめる。
「アルファにも発情期ラット、って言うのがあるらしい。ひょっとして、それかも知れない。…俺をこんなふうにしたのはノア、お前だ。初めてだ。こんなことは…。」
 ローレンは話しながら俺に口付けた。軽く口付けながら、俺の手を握り、ローレンの中心へ移動させる。手で触れると服の上からでも、ローレンの猛りが分かった。
「ローレンの、大きくなってる… 」
「そうだよ、ノア。ノアだけだ。俺をこんなにするのは… 」
 ローレンに囁くように言われて身体が痺れる。俺だってそうだ…。精通も遅く、射精もままならなかったのに、ローレンを思い出して手淫する迄になっていた。
「ノア、お前を抱けば収まるから…。良い?」
「でもローレン、具合が悪いなら休んだ方が… 」
「元々、発情期ラットを抑えてることが原因だから。ノアを抱いた方が具合は良くなる 」

 ローレンは口付けを深めて行く。だんだん姿勢を保っていられなくなって、俺はローレンに身体を預けた。ローレンは俺を一旦抱き上げると、寝台に寝かせる。

「ノア…。一緒に良くなろう 」
「ろ、ローレン…。俺の事はいいから… 」
「…精通が遅かったからまだ、射精の感覚が掴めていないって…?」
 ローレンは俺に跨ってから、上着を脱いだ。熱に浮かされたような顔で微笑まれて、腰がずきんと疼く。自分の上着を脱いだローレンは俺の下穿きを下着ごと脱がせた。
「ノアはたぶん成長期に栄養が足りなかったんだな…。身体も華奢だしほら…下生えもすごく薄くて… 」
「そ、そんなに見ないで… 」
 恥ずかしくなって手で隠すと、手を掴まれた。
「だめ…見せて 」 
 ローレンは俺の下半身を手で撫でる。だんだん、腹の中が熱くなってくる…。これ、ローレンの魔法だ…。

「魔法、使えないんじゃ…?」
「心配した?…このくらいは出来るよ 」
 ローレンは悪戯っぽく笑うと、下穿きのポケットから小さな瓶を取り出す。
「これ、傷を塞ぐ塗り薬なんだけど…口の中にも入れられるもので、熱で溶けるんだ。」
 ローレンはその薬を指に取ると、俺の後孔に塗った。後ろを優しく撫でながら念入りに薬を塗り込まれる。

「ノアも俺に… 」
 ローレンは俺にも小瓶を渡すと、下穿きの前を寛げた。ローレンの猛りを見て、ごく、と喉がなる…。薬を手にとって馴染ませてから、まず亀頭に塗る。次にくびれの部分、その後、裏筋にも…。

「ノア、手が止まってる 」
「だって…硬くて…血管も浮いて…すごくて… 」
「興奮した…?よかった。ノアも反応してる 」
 ローレンは俺の下半身が兆したのをみて、嬉しそうに笑った。恥ずかしくて堪らない…。でもローレンは俺が赤くなるとより、嬉しそうな顔をする。
 ローレンは俺の後孔に指を差し入れ、中にも薬を塗った。指を増やしながら、上半身は倒して俺の胸の突起を舐める。下を指で責められて、上半身の胸の突起をチロチロと舐められて、堪らず喘ぎ声を漏らした。

「あ…ぁ…ン… 」
「かわいい、ノア。…もうあまり我慢できないから、入れるよ?」
「ん… 」

 俺が頷くと、ローレンは見つめ合ったまま、ゆっくり俺の中に入ってきた。さっき手で、大きさを確認した物が、中に…。
「ぁ…っ、はぁ……ん 」
 「この間、ノアの良いところ見つけたんだ。ほら、ここ… 」
 ローレンは奥まで入れずに、手前の敏感な膨らみを何度も擦る。
「や…、だめ…!ぁ…っ…ん…!いや…!」
「うそだ。ほら、ここから先走りが漏れてる。もうびしょびしょだよ、ノア… 」
「だめ…っ、そんなこと言わないで…!」
 手前を重点的に擦られて、気持ちがいい。でも、もどかしくて、達することが出来ない。もっと、もっと奥が疼く…。堪らなくなってローレンの身体に脚を絡めた。
「ノア…どうしたの…?物足りない…?」
 わかっているくせに…。ローレンは意地悪く、また手前ばかり責める。
「足りないんでしょ?…言って、ノア… 」
 口にはだせないけれど、俺が素直に頷くと、ローレンは腰に絡めた俺の足を掴んで、自分の肩に乗せた。
 足に肩を乗せられると、腰が浮いて結合部分がローレンに丸見えだ。
「は、恥ずかしい…!や…ぁッ!」
 あまりの恥ずかしさに、抵抗を試みたが難なく躱されて、その体勢のままローレンは奥まで進んでくる。
「はぁっ!ノア…!」
「ぁ…ぁ…っ!深い…!だめっ!」 
 脚を抱えられて腰が浮く体制での挿入は深く突き刺さるようだ。先程まで焦らされて続けてようやく奥まで挿入されたからか、意識が朦朧となりそうな程の快楽に襲われた。自分の中が歓喜を持ってローレンを迎え、きゅう、と締め付けたのが分かる。
 すぐに激しい抽送が始まり、もう、喘ぐ事しか出来ない。
「あ…っ!はぁ…っ!ぁん…!や…ぁっ!だめ!」
「ノア…、気持ちいい!はぁ…!」
「ぁ…っ、ン…!!」
「出すぞ、ノア!」
 激しい抽送の後、ローレンが吐精し、奥に熱い飛沫が大量に注がれた。吐精の刺激に、身体中がブル、と震えて、中が痙攣したようにうねる。

「ノアの中、凄い…。小刻みに動いて…俺のを搾り取るみたいに締め付けてくる。」
 ローレンは俺の足を肩から下ろしたが、繋がったままで、囁いた。
「成長が遅くて射精もままならないのに、中だけで達してしまったの?ねぇ…ノア、教えて…?」
「ち…ちが…っ、違う…っ!」
「嘘… 」
 ローレンは腰を緩く動かした。その刺激だけで、喘ぎ声が漏れる。
「や…っ!だめ…!なか、動かさないで…!変になっちゃう…!」
「ノア…。変じゃないよ。大丈夫…。俺も同じだから… 」
 優しく揺さぶられているうちに中でローレンのものがまた熱を帯びてくるのを感じた。
「ぁ…ローレン…また、大っきくなってる… 」
「うん…。こんな、いやらしいノアを見たら一度で収まるはずが無い 」
 ローレンは溶けそうな笑顔で微笑んで、俺に口付けた。そんな事されたらあっという間に快楽の波に飲まれてしまう。俺は溺れないように、一晩中ローレンにしがみついていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。 叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……? エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う

hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。 それはビッチングによるものだった。 幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。 国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。 ※不定期更新になります。

騎士団やめたら溺愛生活

愛生
BL
一途な攻め(黒髪黒目)×強気で鈍感な受け(銀髪紫目) 幼なじみの騎士ふたりの溺愛もの 孤児院で一緒に育ったアイザックとリアン。二人は16歳で騎士団の試験に合格し、騎士団の一員として働いていた。 ところが、リアンは盗賊団との戦闘で負傷し、騎士団を退団することになった。そこからアイザックと二人だけの生活が始まる。 無愛想なアイザックは、子どもの頃からリアンにだけ懐いていた。アイザックを弟のように可愛がるリアンだが、アイザックはずっとリアンのことが好きだった。 アイザックに溺愛されるうちに、リアンの気持ちも次第に変わっていく。 設定はゆるく、近代ヨーロッパ風の「剣と魔法の世界」ですが、魔法はほぼ出てきません。エロも少な目で会話とストーリー重視です。 過激表現のある頁に※ エブリスタに掲載したものを修正して掲載

「その想いは愛だった」騎士×元貴族騎士

倉くらの
BL
知らなかったんだ、君に嫌われていたなんて―――。 フェリクスは自分の屋敷に仕えていたシドの背中を追いかけて黒狼騎士団までやって来た。シドは幼い頃魔獣から助けてもらった時よりずっと憧れ続けていた相手。絶対に離れたくないと思ったからだ。 しかしそれと引き換えにフェリクスは家から勘当されて追い出されてしまう。 そんな最中にシドの口から「もうこれ以上俺に関わるな」という言葉を聞かされ、ずっと嫌われていたということを知る。 ショックを受けるフェリクスだったが、そのまま黒狼騎士団に残る決意をする。 夢とシドを想うことを諦められないフェリクスが奮闘し、シドに愛されて正式な騎士団員になるまでの物語。 一人称。 完結しました!

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

【完結】王子様の婚約者になった僕の話

うらひと
BL
ひょんな事から第3王子のエドワードの婚約者になってしまったアンドル。 容姿端麗でマナーも頭も良いと評判エドワード王子なのに、僕に対しては嘘をついたり、ちょっとおかしい。その内エドワード王子を好きな同級生から意地悪をされたり、一切話す事や会う事も無くなったりするけれど….どうやら王子は僕の事が好きみたい。 婚約者の主人公を好きすぎる、容姿端麗な王子のハートフル変態物語です。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱でちょっと不憫な第三王子が、寵愛を受けるはなし。 ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。 イラストを『しき』様(https://twitter.com/a20wa2fu12ji)に描いていただき、表紙にさせていただきました。

処理中です...