上 下
18 / 58
二章

18.謎行動の男たちに翻弄される花嫁

しおりを挟む
「アルノー様、今日からはいつ何が起こっても良いように、夜着はこれにいたしましょう。」
 メアリーは自信満々に、夜着だと言うものを広げた。
「なんだよこれ!?メイド服?!」
 その服は深い緑の生地に白いヒラヒラした襟がついたワンピースで、カチューシャまでついている。そう、それはつまり後宮の召使達の制服だ。

「アルノー様仕様に胸周りはぺたんこ、腰は寸胴に仕立て直しております!ちゃんとおそろいの色のはしたない…小さい布地に紐の下着付きです!着丈は通常の長さのものと丈が短いものと二つご用意がございます。着衣のまま挑まれる場合は丈が短い方がおすすめです。全く!二つも作らされて、なかなかの時間を要しました!あー手が痛かった!」
 メアリーは自分で仕立てたらしいその夜着と下着を「苦労させやがって」というよう俺に手渡した。好きで煩わせたんじゃない!だって胸がないのも寸胴なのも男なんだから仕方ないじゃないか!しかも何?着衣のまま挑むって…脱がされないの前提?!俺は怒ろうとしたが怒りを通り越して呆れてしまったので、メアリーには何も言わないことにした。

「鍵は掛けられておりますが、いつ、陛下がこちらにいらっしゃるか分かりませんから万全を期してください!そのために一人後宮に残され、引っ越しを私一人で行うハメになったのですから!」

 メアリーは孤児院に行きたくないがために逃げたと思っていたが、実は陛下に命じられて引っ越しの作業をしていたらしい。今、後宮の召使は数が激減しているのでかなり大変だったとメアリーは怒っている。だからしっかり、決めろ、というわけ…。

「色気も素っ気もない男のアルノー様ですから、これまでのお色気作戦は失敗に終わりました。ですのでこれからは陛下のご趣味に寄せる作戦で参ります。」
「陛下の趣味?」
「そうです。陛下の愛妾ジョゼット様は元召使、アルノー様が輿入れする一年前に死亡した恋人も召使…全員おっぱいの大きくて可愛いメイドさんなのです!カーッ!男の夢ですねぇ…!」
「え!?俺が輿入れする一年前に…恋人が亡くなった?」
 そう言えばナタが、ヒューゴが四人の妃を見殺しにした、と言っていたな…。王妃に側妃、愛妾ともう一人いたと言うことか…?
「そのようですね。その女も“呪われていた”そうです。おいたわしや…。」
 つまり彼女も湿疹が広がって亡くなった、ということなのか…。その「湿疹」というのはどのようなものなのだろうか?何が原因だ?その原因が分かれば、呪いではないというのも証明できるはずだが…。

 …王妃や側妃、愛妾が亡くなってからも、俺が花嫁候補として決まる半年前まで陛下には恋人がいたということは……それでは俺にはかなり、不満だっただろう…。

 あ、また鼻の奥がツーンとしてきた。か、花粉だな、また…!

 メアリーはメイド服以外の夜着を全部片付けてしまったので、俺は仕方なくメイド服を着て眠ることにした。念のため、、準備万端だったのだがその夜、寝室の扉が開くことはなかった。


 翌日俺は無駄に顔色が良かった。昨日、もちろん何もなかったからぐっすり眠れたし閨の準備の一環でヒューゴに貰った乾燥に効く薬を塗っていたからお肌もツルツルだったのだ。...それなのに、急に具合が悪くなってしまった。原因はこの二人。ナタとヒューゴがまた俺の部屋に来たからに他ならない。

「こちらの部屋は相変わらず、素晴らしいですね。日差しが柔らかく感じます。」
「ふん、ずいぶん褒めるじゃないか。ここはお前が呪われている、と言った場所だぞ?それに随分、貴族のサロンに顔を出しているらしいな…何を考えている。いい加減、正体を現せ。」
「なんとまあ、酷い言われようだ。私はあなたと違って星詠みの仕事をしているだけですよ。あなたは主治医の契約を切られて、仕事がないのでしょうが私は求められている…。」
「ふん…星詠みが求められているのか?本当に…?」

 ナタとヒューゴの二人は穏やかな口調で罵倒し合い言い、怪しく笑っている。
 辞めてえっ!俺の部屋で舌戦を繰り広げるのは…!!あー、胃が痛い!
 
「残念だったな。アルノー殿下がお帰りになり、王妃の間に移られた。当てが外れただろう?」
「いえ…とんでもない。これでより一層、私の星詠みの力が必要となるはずです。」
「なぜ?二人はもう、以前の王妃同様…強い絆で結ばれたのでしょう?今更恋占いなど必要ない。」
「それはどうでしょう、ふふふ…。」

 いや、強い絆では結ばれてないよ!?だってそもそもまだ結ばれてないんだから…!
 だからそんなに睨みあわないでくれっ!
 ヒューゴは俺の診察、ナタは俺の新しい部屋を見に来ただけのようだったのだが。とにかく二人は折り合いが悪い。決着がつかず、最後はヒューゴがナタを追い出した。

「アルノー様、湿疹は完全に治りましたね!ただ、フォルトゥナの花の最盛期は今です。本格的に熱くなるころに終息となりますので、それまで飲み薬は続けてください。」

 俺は頷いて、薬を受け取った。ヒューゴもナタがいない今は笑顔だった。

「この薬、どうやって作っていると思いますか?」
「作り方ですか…?うーん、全くわかりませんが…。」
  俺の答えにヒューゴはまた笑った。何だろう?そんなにおかしかった?
「騎士団に見張られながら、城にある材料を使い、城で調剤しているのです。陛下は私を疑っているのか、あなたが心配なのか、どちらだと思いますか?」
「え……、と…前者でしょうか?」
「私も初めはそう思っていました。しかし…先日、陛下はあなたが花粉で涙を流していた、と言うのを私に確かめさせました。私が薬は良く効いているようだがどちらとも言えないと報告した後…、あなたと泊まりがけで出かけて、部屋も移してしまわれた。意外でした。陛下はもう…。」
「もう…?」
 ヒューゴは柔らかく微笑んだ。
「続きは陛下にお尋ね下さい。」
 大量に疑問符が浮かんだ俺を無視して、ヒューゴは帰り支度を開始している。
 なんでそんな、含みをもつ言い方をするんだろう?この男といい、陛下といい…。

「アルノー!ヒューゴ!」

 ヒューゴが帰り支度をほぼ終えた時、リディアが部屋に駆け込んできた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

綺麗事だけでは、手に入らない

和泉奏
BL
悪魔に代償を支払えば好きな人を手に入れられるのに想いあわないと意味がないってよくある漫画の主人公は拒否するけど、俺はそんなんじゃ報われない、救われないから何が何でも手に入れるって受けの話

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

【完結】乙女ゲーの悪役モブに転生しました〜処刑は嫌なので真面目に生きてたら何故か公爵令息様に溺愛されてます〜

百日紅
BL
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でしたーー。 最後は処刑される運命の悪役モブ“サミール”に転生した主人公。 死亡ルートを回避するため学園の隅で日陰者ライフを送っていたのに、何故か攻略キャラの一人“ギルバート”に好意を寄せられる。 ※毎日18:30投稿予定

処理中です...