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1章
4.エリザベート・ヘリオプシス
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王城を抜けた裏手に後宮はあった。
両陛下や王子達は後宮内に独立した離宮を持っているが、それ以外の側妃、愛妾は後宮の邸内に部屋を割り振られて住んでいる。
後宮の邸は、白を基調とした壮麗な宮殿だった。邸の中は、広く長い回廊や中庭で仕切られており、割り当てられた部屋は国王や王子が側妃のもとに通っても、他の側妃たちと鉢合わせしないよう、巧みに構成されている。
ギルフォードの他の妃たちは皆、麗しい令嬢だと聞く。アナベルは彼女たちと比べられたらと思うと不安だったから、邸の構造を見て安堵した。
アナベルの案内役である官吏は、何も説明しないまま、一つの部屋に入っていく。
短い廊下を通り過ぎると、扉の前で立ち止まりノックをした。するとすぐに、短い返事が聞こえる。
「入りなさい」
促されて中に入ると、そこは大きな窓がある私的な居室であるらしい。豪華なソファーセットに、黄金の髪を結い上げた美しい女性がしどけなく寝そべっていた。
「予定時間をだいぶ過ぎていてよ。ずいぶん愚鈍なのね。あなたで本当に大丈夫なのかしら?」
逆光を背にしていて、女性の表情を確認することは出来ないが、その発言から彼女が苛立っていることはわかった。
呆然としているアナベルに、官吏が挨拶をするよう視線で合図する。
「も、申し訳ありません。アナベル・モールでございます。あの、貴方様は?」
「全くこれだから、田舎者は嫌だったのよ。ギゼルハールがなぜあなたを評価するのか分からない…!」
寝そべっていた女性は話しながら、ゆったりとした動きでソファーを降りた。
「まあいいわ。愚鈍な田舎者でも、ここに来たあなたの”すべき事”は理解しているんでしょう?」
そしてアナベルの方に向かってくる。
逆光で見えなかった顔が、近づくにつれて、はっきりと確認できるようになった。女性は30代半ばくらいだろうか?目が醒めるような美女だ…。
「いい?一週間後に宮殿であなたをお披露目する夜会が開かれる。それが実質、ギルフォードとあなたの結婚式になるの。その夜が初夜よ。同衾して、必ず契りなさい 」
「え……?」
「我が息子はとんでもない堅物よ。初夜では薬を使いなさい。それはこちらで用意するから、使い方は侍従に確認するように 」
「く、薬?!」
「そうよ。私はエリザベート・ヘリオプシス。後宮にようこそ。あなたが自分の"すべき事"を見失わない才子であるなら、ヘリオプシス家はアナベル・モールの後ろ楯になりましょう 」
ギルフォードの母である王妃、エリザベート・ヘリオプシスは、口の端だけを上げて、微笑んだ。
両陛下や王子達は後宮内に独立した離宮を持っているが、それ以外の側妃、愛妾は後宮の邸内に部屋を割り振られて住んでいる。
後宮の邸は、白を基調とした壮麗な宮殿だった。邸の中は、広く長い回廊や中庭で仕切られており、割り当てられた部屋は国王や王子が側妃のもとに通っても、他の側妃たちと鉢合わせしないよう、巧みに構成されている。
ギルフォードの他の妃たちは皆、麗しい令嬢だと聞く。アナベルは彼女たちと比べられたらと思うと不安だったから、邸の構造を見て安堵した。
アナベルの案内役である官吏は、何も説明しないまま、一つの部屋に入っていく。
短い廊下を通り過ぎると、扉の前で立ち止まりノックをした。するとすぐに、短い返事が聞こえる。
「入りなさい」
促されて中に入ると、そこは大きな窓がある私的な居室であるらしい。豪華なソファーセットに、黄金の髪を結い上げた美しい女性がしどけなく寝そべっていた。
「予定時間をだいぶ過ぎていてよ。ずいぶん愚鈍なのね。あなたで本当に大丈夫なのかしら?」
逆光を背にしていて、女性の表情を確認することは出来ないが、その発言から彼女が苛立っていることはわかった。
呆然としているアナベルに、官吏が挨拶をするよう視線で合図する。
「も、申し訳ありません。アナベル・モールでございます。あの、貴方様は?」
「全くこれだから、田舎者は嫌だったのよ。ギゼルハールがなぜあなたを評価するのか分からない…!」
寝そべっていた女性は話しながら、ゆったりとした動きでソファーを降りた。
「まあいいわ。愚鈍な田舎者でも、ここに来たあなたの”すべき事”は理解しているんでしょう?」
そしてアナベルの方に向かってくる。
逆光で見えなかった顔が、近づくにつれて、はっきりと確認できるようになった。女性は30代半ばくらいだろうか?目が醒めるような美女だ…。
「いい?一週間後に宮殿であなたをお披露目する夜会が開かれる。それが実質、ギルフォードとあなたの結婚式になるの。その夜が初夜よ。同衾して、必ず契りなさい 」
「え……?」
「我が息子はとんでもない堅物よ。初夜では薬を使いなさい。それはこちらで用意するから、使い方は侍従に確認するように 」
「く、薬?!」
「そうよ。私はエリザベート・ヘリオプシス。後宮にようこそ。あなたが自分の"すべき事"を見失わない才子であるなら、ヘリオプシス家はアナベル・モールの後ろ楯になりましょう 」
ギルフォードの母である王妃、エリザベート・ヘリオプシスは、口の端だけを上げて、微笑んだ。
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