34 / 54
三章
34.初めての嫉妬
しおりを挟む
その後、レオナードは俺の腹の上にぶちまけて、エプロンがどろどろ、べとべとに…。魔法できれいにしてもらったが、俺はもうへとへとだった。このまま寝てしまいたかったが、自分で人を呼んでおいて、挨拶もなしとはいかない。俺はレオナードに支えられながら、なんとか中庭に向かった。
中庭につくと騎士団の面々が、生暖かい目で俺たちを迎える。もう、大体みんな察してる?だって待たせすぎだもんね。い、いたたまれない……!
俺が乾杯の合図をすると、ようやく会は始まった。料理は大変好評で、安心した。
乾杯が終わると、レオナードは騎士団の部下たちに囲まれて酒を注がれ始めた。こういうのって、日本とちょっと似てる…。俺は騎士団員ではないから蚊帳の外だ。
少し離れたところからレオナードを見ていると、いつの間にか背後に、フローラがやって来ていた。
「先ほどのレオナード様、凄かったですわね。フェリシテ様の潔白を信じてらっしゃる。愛しているんですね、フェリシテ様を一途に…」
「は、はあ…」
フローラは先ほど、ディオンヌや女性たちと帰ったと思っていたのだが、残っていた様だ。俺は大して仲が良くないフローラに突然声をかけられたことに動揺していた。
「私は王都の学校まで競技大会を見に行っていました。あの時は嫡男至上主義のディオンヌ様に虐げられていたレオナード様が、承認欲求を満たすためにアリエス様を打ち負かしたのだと思っていましたけど、違ったのですね…」
「違った、とは…?」
「レオナード様はあの時から、フェリシテ様を深く愛していたのですわ。例え、兄であってもフェリシテ様を渡したくなかった。それで、兄、アリエス様を殺しかけた……」
兄を、殺しかけた…?まさか、そんな…。
『競技大会に優勝してフェリシテと結婚したかったレオナードが優勝して黒魔術を使い、兄、アリエスを殺しかけた』というのは、マリアも言っていた。
そして俺が来たから結界への魔力補充の目的で、魔物にフェリシテの魔力を渡していた。それが一番、やりやすい立場にあるのは確かにレオナードだ。でも、今は俺を遠ざけている。それは…?もう両思いだと分かったから、術者として責任を取るつもりとか……。
そういえばフェリシテも、アリエスの周りをうろちょろしていたと聞いた。まさか、レオナードの罪を探るため、とか?いや、それならレオナードを探るんじゃないか?…考えすぎだ。考え過ぎだよな……?
俺はフローラの言ったことをぐるぐると考えていた。しかし、考えがまとまらない。
考えがまとまらないからつい、うっかり、夜泊まった騎士達にバレないかヒヤヒヤしながらも、レオナードと裸エプロン二回戦が行われてしまったのだ!だってアレ、レオナードの反応がいいから、つい…!
翌朝、邸に泊まった騎士の皆をお見送りしようと思っていたのに、寝坊して出来なかった。ホストとして失格だ!情けない…!
昼まで寝ていた俺のところにやってきたレオナードは、昨日とは打って変わって機嫌が良かった。
「昨日の女の正体が分かりました。娼館に勤める娼婦でした。鑑定をすると言ったら明らかに動揺していましたから、どうせ母上が金でも握らせてつれてきたのでしょう。不快な思いをさせて申し訳ありません」
「俺の潔白が証明出来て良かった。でも、そんなにディオンヌ様に嫌われてるのは、ちょっと複雑だな…」
「フェリシテ殿下が気に入らない…ということではありません。アリエスの子を養子にするという私が気に入らないのです。殿下は気にしないでください。この件は私が…」
レオナードは苦虫を噛み潰したような顔をする。フローラが言っていたが、ディオンヌは以前は嫡男のアリエス至上主義だった。それなのになぜ、アリエスの子を養子にするに反対しているのだろうか?なぜ、以前は冷遇していたレオナードの子を、急に欲しがっているのだ?
でも、そのことできっと傷付いているだろうレオナードには聞きづらい…。
「そう言えば、レオナードは俺が娼館に行ったって疑っていたけど、レオナードは行ったことあったりする?」
「ありません。私はフェリシテ殿下以外、考えられません。私の心も身体もすべてフェリシテ殿下のものです」
「そ、そっか…」
――愚問だった。レオナードって、男前だし体格もあそこも立派だけど、まさかフェリシテしか経験がないとか…。な、なんかそこまでだと俺はちょっと重く感じちゃう派…。処女には手を出せないタイプなんだよな、俺って。
だからその話題もそこで止めた。でも、先日やって来た、娼婦だという女とその子供こことが、何となく気になっていた。俺の子だという男の子が、俺と言うよりむしろ、どことなくレオナードに似ているような気がして……。
「その、先日来た娼婦が働いてる娼館ってひょっとして、領都南西の裏路地にある…?」
「ええ、そうですが……」
「それでさ、表向き『大衆浴場』になっていて、ピンクの看板が付いてたりする?」
「ええ……」
セレナが教えてくれた、無許可営業のお風呂屋さんだ…。でも、本当にレオナードの子だとしたら、こんなに素直に俺に言わないと思うんだけど…。どうしても気になるんだよな…。
「…まさか、身に覚えがあるのですか…?」
「は、はあ?!まさかっ!俺の潔白は証明しただろ!?」
「本当ですね…?!もし行ったりしたら、許しませんよ?」
「行かないよ!行くわけないだろ!」
ジト目で見てくるレオナードに俺は言い切った。言い切ってやった…!そう言えば先日、セレナに忠告された時も「いかない」って言ったんだ。
確かに言った。言ったんだけどさ…。
翌々日、レオナードはまた仕事に戻って行った。今度も一週間ほど、戻らないらしい。先日から行っている結界で使う光の魔力を減らす実験はおおむね良好で、魔物の数が減ったらしい。魔物達は光の魔力で力を得ていたのだ。やはり、術者が光の魔力を対価として何らかの術を使ったことは間違いないようだ。
引き続き結界の状況を注視して、更にもう一段結界から光の魔力を少なくするのか…実験をするらしい。減らしているおかげで、光の魔力は余っていて俺はお役御免。また、邸に置いて行かれたというわけなのだが…。
一人になったら、あの子のことを考えていてもたってもいられなくなった。これってひょっとして嫉妬か?!
嫉妬する奴ってやや、うざい……。当然前世の俺はそう思っていて、嫉妬されることはあっても嫉妬することはなかった。それなのに…。
俺が産めないレオナードの子を、もしあの女が産んでいたとする。そう考えるといても立ってもいられなかったのだ。
俺は教会の畑に行くと偽って一人、娼館に向かった。何かあっても昼間なら言い逃れできる……そう思っていたのだ。
中庭につくと騎士団の面々が、生暖かい目で俺たちを迎える。もう、大体みんな察してる?だって待たせすぎだもんね。い、いたたまれない……!
俺が乾杯の合図をすると、ようやく会は始まった。料理は大変好評で、安心した。
乾杯が終わると、レオナードは騎士団の部下たちに囲まれて酒を注がれ始めた。こういうのって、日本とちょっと似てる…。俺は騎士団員ではないから蚊帳の外だ。
少し離れたところからレオナードを見ていると、いつの間にか背後に、フローラがやって来ていた。
「先ほどのレオナード様、凄かったですわね。フェリシテ様の潔白を信じてらっしゃる。愛しているんですね、フェリシテ様を一途に…」
「は、はあ…」
フローラは先ほど、ディオンヌや女性たちと帰ったと思っていたのだが、残っていた様だ。俺は大して仲が良くないフローラに突然声をかけられたことに動揺していた。
「私は王都の学校まで競技大会を見に行っていました。あの時は嫡男至上主義のディオンヌ様に虐げられていたレオナード様が、承認欲求を満たすためにアリエス様を打ち負かしたのだと思っていましたけど、違ったのですね…」
「違った、とは…?」
「レオナード様はあの時から、フェリシテ様を深く愛していたのですわ。例え、兄であってもフェリシテ様を渡したくなかった。それで、兄、アリエス様を殺しかけた……」
兄を、殺しかけた…?まさか、そんな…。
『競技大会に優勝してフェリシテと結婚したかったレオナードが優勝して黒魔術を使い、兄、アリエスを殺しかけた』というのは、マリアも言っていた。
そして俺が来たから結界への魔力補充の目的で、魔物にフェリシテの魔力を渡していた。それが一番、やりやすい立場にあるのは確かにレオナードだ。でも、今は俺を遠ざけている。それは…?もう両思いだと分かったから、術者として責任を取るつもりとか……。
そういえばフェリシテも、アリエスの周りをうろちょろしていたと聞いた。まさか、レオナードの罪を探るため、とか?いや、それならレオナードを探るんじゃないか?…考えすぎだ。考え過ぎだよな……?
俺はフローラの言ったことをぐるぐると考えていた。しかし、考えがまとまらない。
考えがまとまらないからつい、うっかり、夜泊まった騎士達にバレないかヒヤヒヤしながらも、レオナードと裸エプロン二回戦が行われてしまったのだ!だってアレ、レオナードの反応がいいから、つい…!
翌朝、邸に泊まった騎士の皆をお見送りしようと思っていたのに、寝坊して出来なかった。ホストとして失格だ!情けない…!
昼まで寝ていた俺のところにやってきたレオナードは、昨日とは打って変わって機嫌が良かった。
「昨日の女の正体が分かりました。娼館に勤める娼婦でした。鑑定をすると言ったら明らかに動揺していましたから、どうせ母上が金でも握らせてつれてきたのでしょう。不快な思いをさせて申し訳ありません」
「俺の潔白が証明出来て良かった。でも、そんなにディオンヌ様に嫌われてるのは、ちょっと複雑だな…」
「フェリシテ殿下が気に入らない…ということではありません。アリエスの子を養子にするという私が気に入らないのです。殿下は気にしないでください。この件は私が…」
レオナードは苦虫を噛み潰したような顔をする。フローラが言っていたが、ディオンヌは以前は嫡男のアリエス至上主義だった。それなのになぜ、アリエスの子を養子にするに反対しているのだろうか?なぜ、以前は冷遇していたレオナードの子を、急に欲しがっているのだ?
でも、そのことできっと傷付いているだろうレオナードには聞きづらい…。
「そう言えば、レオナードは俺が娼館に行ったって疑っていたけど、レオナードは行ったことあったりする?」
「ありません。私はフェリシテ殿下以外、考えられません。私の心も身体もすべてフェリシテ殿下のものです」
「そ、そっか…」
――愚問だった。レオナードって、男前だし体格もあそこも立派だけど、まさかフェリシテしか経験がないとか…。な、なんかそこまでだと俺はちょっと重く感じちゃう派…。処女には手を出せないタイプなんだよな、俺って。
だからその話題もそこで止めた。でも、先日やって来た、娼婦だという女とその子供こことが、何となく気になっていた。俺の子だという男の子が、俺と言うよりむしろ、どことなくレオナードに似ているような気がして……。
「その、先日来た娼婦が働いてる娼館ってひょっとして、領都南西の裏路地にある…?」
「ええ、そうですが……」
「それでさ、表向き『大衆浴場』になっていて、ピンクの看板が付いてたりする?」
「ええ……」
セレナが教えてくれた、無許可営業のお風呂屋さんだ…。でも、本当にレオナードの子だとしたら、こんなに素直に俺に言わないと思うんだけど…。どうしても気になるんだよな…。
「…まさか、身に覚えがあるのですか…?」
「は、はあ?!まさかっ!俺の潔白は証明しただろ!?」
「本当ですね…?!もし行ったりしたら、許しませんよ?」
「行かないよ!行くわけないだろ!」
ジト目で見てくるレオナードに俺は言い切った。言い切ってやった…!そう言えば先日、セレナに忠告された時も「いかない」って言ったんだ。
確かに言った。言ったんだけどさ…。
翌々日、レオナードはまた仕事に戻って行った。今度も一週間ほど、戻らないらしい。先日から行っている結界で使う光の魔力を減らす実験はおおむね良好で、魔物の数が減ったらしい。魔物達は光の魔力で力を得ていたのだ。やはり、術者が光の魔力を対価として何らかの術を使ったことは間違いないようだ。
引き続き結界の状況を注視して、更にもう一段結界から光の魔力を少なくするのか…実験をするらしい。減らしているおかげで、光の魔力は余っていて俺はお役御免。また、邸に置いて行かれたというわけなのだが…。
一人になったら、あの子のことを考えていてもたってもいられなくなった。これってひょっとして嫉妬か?!
嫉妬する奴ってやや、うざい……。当然前世の俺はそう思っていて、嫉妬されることはあっても嫉妬することはなかった。それなのに…。
俺が産めないレオナードの子を、もしあの女が産んでいたとする。そう考えるといても立ってもいられなかったのだ。
俺は教会の畑に行くと偽って一人、娼館に向かった。何かあっても昼間なら言い逃れできる……そう思っていたのだ。
139
お気に入りに追加
361
あなたにおすすめの小説


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる