前世を思い出したら愛したはずの旦那様を忘れてしまいました

あさ田ぱん

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二章

15.チート発動、異世界農業生活①

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 教会の主聖堂へ行くと、祈りの場は信者で溢れかえっていた。


「瘴気で天候が悪化し、畑の作物が全滅しています。どうか神のご加護を…」
「川で水揚げした魚も、とても食べられる代物ではありません。我らをお救いください」

  人々からは同じような祈りの言葉が聞こえた。どうりで裁判が延期になるわけだ。瘴気被害で、それどころではない…。
 でも、こんなに瘴気被害が深刻だとは知らなかった。俺の畑は元気だったから、普通に食べられていたのだ。

 俺はそこでハッとした。
 普通の異世界転生なら、前世チートで農作物を作るだろう?でも俺は前世、女性の紐という仕事以外、長続きした事がない男だった。しかも中卒で農業知識など皆無。畑仕事なんか得意でも何でもない。
 それなのにこの畑の実りっぷりはどうだ?これって…『人に親切にするとギリ、死なない』能力が発動してるんじゃないか?農作物を人にじゃんじゃん分け与える『親切』をしてもギリ、死なない程度に俺にもちょっとだけ食べ物が残り、餓死を免れるとしたら…。つまり他人の為なら畑に沢山作物を実らせる事ができるってこと…!
 そうと分かれば…、より多くの人に分け与えるには、教会の小さい畑だけでは効率が悪い。公爵家の土地で余っているところがあれば借りたい。フェリシテは魔法が得意だから畑を耕すのなんか朝飯前だろ!呪文が思い出せれば、だけど。
 思い切って、レオナードに相談してみよう。土地を借りて、呪文に詳しい人を一人貸してもらおう!

「セレナ!教会に転移魔法陣があるだろ?!あと騎士団って何時に終わる?レオナード様に会いに行こうと思うんだけど!」
「と、突然ですね…!?転移魔法陣は教会にもあります。レオナード様は最近、邸には戻らず騎士団本部に詰めていらっしゃると聞いておりますので、そちらに行かれた方がよろしいかと」
 セレナに転移魔法陣のある部屋を教えてもらい、早速俺は騎士団のレオナードを訪ねることにした。

「転移魔法陣って、ドラえもんの『どこでもドア』みたいに行きたいところ言えば良いんだよね?」
「ど、ドラ…??私も魔法に明るくありませんが…。転移魔法は魔法陣を座標として、魔法陣から魔法陣へと移動するのではないですか?皆様、複雑な呪文を唱えてらっしゃったように記憶しています」
「……」
  そっか、それで結界に行く時、失敗したんだな?でも覚えてないんだから仕方ない。
「じゃ、騎士団本部に行ってくる!」
「ちょ、フェリシテ様、私の話聞いてました?!」

 ――セレナ、ごめん。聞いてはいた…!



「うわーーー!」
「うわーーー!?」
 悲鳴が聞こえた。と、思ったら俺は柔らかくてふかふかな布団の上に落ちていた。唱えた呪文は適当だったが、これは俺的に着地成功でいい……?
 それにしてもこの布団、すっごいふかふかだよ?今日は疲れてたからうっかり寝てしまいそうだ。ふぁー!

 寝てしまいそうになったけど、寝てる場合じゃない。うつ伏せに落ちた体をゴロンと回転させると、目も覚めるような美青年がこちらを見下ろしていた…。しかもすっごい、眉間に皺が寄っている。

「レオナード…さま…?」
「フェリシテ…。ここは私の仮眠室だが、こんな所で何をしている…?言い訳次第ではただ帰すわけには行かない」
「ちょうど良かった!レオナード様に会いに来たんです!」
「………私に?」

 ん?何かちょっと間があった?まあいいや、とにかく話は聞いてくれそうだ!

「最近の瘴気被害で、教会には生活に困窮した者たちがたくさん訪れています。オレ…いや、私は畑仕事が得意でして…ルーベル公爵家の土地を一時的に借りられませんか?それと魔法は使えるのですが呪文が思い出せないので、魔法が得意な方を一人お借りしたいです」
 俺が言い終わると、レオナードはますます眉間の皺を深くし、目を細める。ダメなんだろうか…?
「わかった。土地は教会の南側の公爵領を使え。セバスチャンに連絡しておく。呪文は…ロダンをつけよう」
「あ、ありがとうございます!!」
 頭を下げて、出て行こうとしたら引き止められた。俺の転移魔法はでたらめだから、帰りは馬車で帰れと言うのだ。時間がかかるから面倒だと難色を示すとレオナードの眉間の皺がまた恐ろしい事になった。これはまずい…。

  車寄せで馬車を待つ間、レオナードはポツリとつぶやいた。
「まったく、どんな呪文を唱えたらあんな所に落ちるんだ?」
「ええ。落ちたところがレオナード様のところで良かった」
 前回は荷馬車の藁の上で助かった。これもひょっとして『ギリ死なない』能力だろうか。『ギリ』にしてはフッカフカだったけど。
「フェリシテ…」
「はい…?」
 レオナードの眉間の皺はいつの間にか無くなっていた。笑ってもいないけど、怒るのはやめたらしい。でも何も言わないので気まずくなって、間を埋めるようにレオナードに頭を下げて礼を言う。
「レオナード様、勝手に抜け出してやって来た挙句、急なお願いを聞いていただいてありがとうございます。畑で野菜が収穫出来たら持ってきます。あ、何か作ってほしいものはありますか?今度は麦以外も作りたいなと思ってて…」
「フェリシテ…!」
「は、はい?」
「……私は何もいらない。お前が食べろ。すこし痩せてしまった…。それともう転移魔法は使うな。危ないから、用があるときは使いをよこせ。一人で出歩くな。教会の者を共につけろ。それから……」
「レ、レオナード様…!俺への注意事項、随分たくさんですね…?」
「仕方ないだろう…離れてしまったから…」
 じゃあ離れないでくれれば良かったのに…。
 そんなやり取りをしていると車寄せに馬車とロバートがやって来た。ロダンは俺たちを見るなり、口元を引きつらせる。
「うわ…俺、すごい邪魔でした…?」
「そんなことないです。ありがとうございます。」
 レオナードは何も言わなかった。ん…?また機嫌を損ねた?それ以上なにか話せそうになかったので俺は馬車に乗った。
「レオナード様!土地とロダンをお借りします!美味しいもの沢山つくります!」
 だからまた、出来たら一緒に……。
俺が窓から手を振ると、レオナードは口角を少しだけ上げた気がした。
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