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痛い
痛い-4-
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彼が一番好きな人、なんて分かっているのに自信が無くて何も言えない。
それを考えてこいと不適に微笑んでいる。
でも、でも、今はそれよりも。胡桃は体から離れた彼の表情を見た。
キスをしてほしい。
口を少し開けて目を閉じる。今は、その唇が欲しいとねだる。
一瞬、唾を飲み込む音がした。でも剛史は指でそっとなぞってそれを閉じる。
「夜まで、お預け」
「っ……」
体が完全に離れた。勝手に目が潤む。熱くて堪らないのに、今すぐ抱き締めて欲しいのに。
「じゃあ戻るよ。……また夜に」
まるで風のように去って行く。それは自然な流れで胡桃は言葉が出なかった。
これは拷問だろうか。彼の指が付いた唇を手で覆う。
初めて我慢をさせられて泣きそうになる。きっと水着に手を入れた時に剛史だって気づいたはずだ。
意地悪、と小声で呟く。
しばらく息を整えてから、センタープールに戻った。体を少し冷やそうとプールの水を浴びる。
流れるプールにいた美歩が一人で戻ってきた。
「撮影、終わったの?」
本当はもう少し前から戻っていたが、説明するのが複雑なので頷いた。
彼女曰く、良い男がいて少し話していたが別の集団に彼女がいたらしく、幻滅して戻ってきたそう。
しばらく一人で浮かんでいた所に胡桃を見つけることができたらしい。
「私も流れるプールに入りたい」
「お、そう言うと思って用意したよ」
二人分の浮き輪を持っていた美歩に思わず笑みが零れた。
水色と白の水玉模様の浮き輪に乗って、流れに身を任せる。勝手に動き始める。水の上は自由がきかないが、不思議と制御されている気はしなかった。普段なら何も考えずに身を任せてゆったりと休んでいるだろう。実際に美歩は目を閉じてくつろいでいる。
でも、さっきまで恋人に触れられて尚且つお預けになっている胡桃の体は落ち着こうにも簡単には冷めなかった。
体を捩る。彼が触れた首筋も胸元も熱くて悶えそうになる。
「ああー、やっぱ胡桃と一緒の方が楽だわ。……あんたさっきから体ぐるぐるしてるけど大丈夫?なんかあった?」
「う、ううん。ちょっと撮影見てたら疲れたのかな」
「一ノ瀬紗良ね、あいつモデルやってるから頻繁に学校休んでるみたい。その辺も女子から嫌われてる理由になるのかもね」
「私、全然知らなかった」
「そりゃ、あんたが見るような雑誌じゃないからでしょう。まあたまにファッション系にも出てるみたいだけど、私も実際は読んだことないし」
「すごく綺麗だったね、一ノ瀬さん」
沈んだ声になってしまった。美歩は首を傾げる。
「……そう?私はあんたの方が綺麗だと思うけど」
「え?そ、そんなことないよ。一ノ瀬さんの方が体型も良いし顔も可愛いよ」
ふーん、と美歩はじっと見つめてくる。指でカメラを作って胡桃にフォーカスを当てた。
紗良とは違う意味で体を見られている気がして思わず手で隠した。それを美歩は楽しそうに笑って見る。
「最近の胡桃、すっごく可愛くなってるよ。体つきがどうとかじゃなくて、精神的な何か?内側から溢れる色気を感じるのよねえ」
「美歩ちゃんちょっとやらしいよ」
「あんたは基から体は恵まれているわよ。もっと自信持って良いんじゃない。お淑やかも大事だけど、男は求められた方が嬉しいんだから」
「あ……ありがとう?」
前半は褒められたので一応感謝をした。
求められる。剛史に欲しいとねだられた時を思い出す。
嬉しくて、全てを持って行ってほしいと体を委ねていた。私は貴方のものだと言いたくなった。
同時に……貴方は、私のものであって欲しいと願った。
――剛史さんが欲しい
全部、私のものだって言いたい
もし、自信を持って良いのなら、彼の問題を解くことができる。
早く、夜になってほしい。自分をもっと曝け出したいと思った。
こんなに時間の流れを速めたいと願ったのは、初めてだった。
それを考えてこいと不適に微笑んでいる。
でも、でも、今はそれよりも。胡桃は体から離れた彼の表情を見た。
キスをしてほしい。
口を少し開けて目を閉じる。今は、その唇が欲しいとねだる。
一瞬、唾を飲み込む音がした。でも剛史は指でそっとなぞってそれを閉じる。
「夜まで、お預け」
「っ……」
体が完全に離れた。勝手に目が潤む。熱くて堪らないのに、今すぐ抱き締めて欲しいのに。
「じゃあ戻るよ。……また夜に」
まるで風のように去って行く。それは自然な流れで胡桃は言葉が出なかった。
これは拷問だろうか。彼の指が付いた唇を手で覆う。
初めて我慢をさせられて泣きそうになる。きっと水着に手を入れた時に剛史だって気づいたはずだ。
意地悪、と小声で呟く。
しばらく息を整えてから、センタープールに戻った。体を少し冷やそうとプールの水を浴びる。
流れるプールにいた美歩が一人で戻ってきた。
「撮影、終わったの?」
本当はもう少し前から戻っていたが、説明するのが複雑なので頷いた。
彼女曰く、良い男がいて少し話していたが別の集団に彼女がいたらしく、幻滅して戻ってきたそう。
しばらく一人で浮かんでいた所に胡桃を見つけることができたらしい。
「私も流れるプールに入りたい」
「お、そう言うと思って用意したよ」
二人分の浮き輪を持っていた美歩に思わず笑みが零れた。
水色と白の水玉模様の浮き輪に乗って、流れに身を任せる。勝手に動き始める。水の上は自由がきかないが、不思議と制御されている気はしなかった。普段なら何も考えずに身を任せてゆったりと休んでいるだろう。実際に美歩は目を閉じてくつろいでいる。
でも、さっきまで恋人に触れられて尚且つお預けになっている胡桃の体は落ち着こうにも簡単には冷めなかった。
体を捩る。彼が触れた首筋も胸元も熱くて悶えそうになる。
「ああー、やっぱ胡桃と一緒の方が楽だわ。……あんたさっきから体ぐるぐるしてるけど大丈夫?なんかあった?」
「う、ううん。ちょっと撮影見てたら疲れたのかな」
「一ノ瀬紗良ね、あいつモデルやってるから頻繁に学校休んでるみたい。その辺も女子から嫌われてる理由になるのかもね」
「私、全然知らなかった」
「そりゃ、あんたが見るような雑誌じゃないからでしょう。まあたまにファッション系にも出てるみたいだけど、私も実際は読んだことないし」
「すごく綺麗だったね、一ノ瀬さん」
沈んだ声になってしまった。美歩は首を傾げる。
「……そう?私はあんたの方が綺麗だと思うけど」
「え?そ、そんなことないよ。一ノ瀬さんの方が体型も良いし顔も可愛いよ」
ふーん、と美歩はじっと見つめてくる。指でカメラを作って胡桃にフォーカスを当てた。
紗良とは違う意味で体を見られている気がして思わず手で隠した。それを美歩は楽しそうに笑って見る。
「最近の胡桃、すっごく可愛くなってるよ。体つきがどうとかじゃなくて、精神的な何か?内側から溢れる色気を感じるのよねえ」
「美歩ちゃんちょっとやらしいよ」
「あんたは基から体は恵まれているわよ。もっと自信持って良いんじゃない。お淑やかも大事だけど、男は求められた方が嬉しいんだから」
「あ……ありがとう?」
前半は褒められたので一応感謝をした。
求められる。剛史に欲しいとねだられた時を思い出す。
嬉しくて、全てを持って行ってほしいと体を委ねていた。私は貴方のものだと言いたくなった。
同時に……貴方は、私のものであって欲しいと願った。
――剛史さんが欲しい
全部、私のものだって言いたい
もし、自信を持って良いのなら、彼の問題を解くことができる。
早く、夜になってほしい。自分をもっと曝け出したいと思った。
こんなに時間の流れを速めたいと願ったのは、初めてだった。
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