哀歌-miele-【R-18】

鷹山みわ

文字の大きさ
上 下
31 / 51
誕生日

誕生日-2-

しおりを挟む
『彼女が喜ぶ誕生日プレゼント』
『二十歳の誕生日のおすすめ』
『絶対に喜ばれるプレゼント10選』

そんな画面をスマートホンで眺めつつ、剛史はため息を吐いた。

「仕事前にそんなため息吐かないでください」

結羽が毒づく。テーブルに顔を伏せた男を見てこちらもため息が出そうだ。
これから収録だというのにメイクの最中からスマートホンと睨めっこしては息を吐く事を繰り返してばかりいる。

呆れつつも苦笑いした。
恋人ができたと聞いた時は諸々考えて慌てたが、これまでの恋愛とは違う様子だった。
剛史が明らかに楽しそうで、軽快にステップを踏むように仕事をこなしている。
どうやら今の彼女は彼に良い影響を与えている、かもしれない。

まだ付き合って数ヶ月しか経っていないので様子見ではある。
マネージャーとしては恋愛に夢中になるなんて御法度だと言いたいが……一人の男、剛史の古い友人としては大いに恋愛してほしいと思っているので、仕事の悪影響にならない限り結羽は見守る立場を変えないつもりでいる。

あと普通に、剛史がこうやって恋愛に四苦八苦しているのを見るのは面白い。
顔を上げて頬を膨らませているこの男。
子どもっぽい表情はギャップを感じて喜ぶファンが多いのだ。

「彼女に何をあげたらいいのか悩んでるんだよ。結羽も良い知恵ないのか」
「そういうのは気持ちでしょ。あと、俺がどうこう言っても剛史さんはどうせ納得しないから何も言わないだけです」

”どうせ”を強調されたので黙る。

「……まあ、そうだな」

また息を大きく吐いて画面に目を向ける。

あまり重いと彼女も困るだろうし、でも二十歳という節目の大きなイベントなのだから印象を、強く印象づけてやりたい。ただの剛史の独占欲かもしれないけれど。

彼女が喜んでくれるもの。

そして、できれば、毎日剛史を感じてくれるものが良いと密かに思っている。



「……あ」

それは、プレゼント候補の中に出てきた。
一瞬で画面に釘付けになった。

――剛史さん、好き

耳から彼女の吐息が聞こえてくる。
仕事前なのに呼吸が乱れてしまいそうだった。



「いいかも」
「お、その様子は良いもの見つけたみたいですね」
「……うん」
「では一旦置いて、仕事モードに切り替えてくださいね」

はいはい、と言って鏡の自分をじっと見つめる。
TAKESHIとして切り替えるための儀式だった。

本来の俺はこの鏡にしまい込んで、仕事のTAKESHIが体に乗り移る。
誰とでもコミュニケーションが取れる良い人に。

体の熱はとっくに引いていて、一息ついた後、楽屋からゆっくりと出て行った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

大切だった友達に媚薬を盛ったら、怖いくらい溺愛されています。彼が勧めてくれたお茶からも同じ香りがしていたのは気のせいかな。

下菊みこと
恋愛
媚薬を盛ったらとんでもなく愛されたお話。 マルスリーヌは友人、エルキュールに媚薬を盛る。エルキュールと結婚して、多額の結納金を実家に納めてもらうためだ。けれど肝心のエルキュールは、媚薬を入れた紅茶の香りを嗅いだだけで飲んでないのに媚薬が効いてしまった。マルスリーヌは困惑するも開き直るしかなかった。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...