哀歌-miele-【R-18】

鷹山みわ

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痕-2-

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紗良は二つしかない自動販売機の前に仁王立ちになった。

「どれか一つ選びなさい」

首を傾げる胡桃。
急に自販機の前で選べというのは、つまり飲み物を買えということか。

「えっと……?」
「この前の100円分。ここならどれを選んでも変わらないし」
「ああ、そんな、別に良いんですけど」
「私が嫌なの。早く選びなさいよ」

急かされて、どれを買うか並んでいるものを見渡す。使ったことがないだけあって、飲んだ記憶のないドリンクが多い。消去法で見ていると自然と目が缶コーヒーの一覧を追っていた。

「あの、一ノ瀬さん」
「なに」
「……微糖と甘さ控えめって、どちらが甘いんでしょうか」
「は?私はどっちも飲んだことないから知らないわよ。控えめの方が砂糖入ってるんじゃないの」
「なるほど。じゃあこれで」

そう言いながら缶コーヒーの甘さ控えめを指すと、無言で紗良は100円を入れてそのボタンを押す。出てきたものを無造作に胡桃に差し出した。

「ありがとうございます」
「これで貸し借りは無しだからね」

彼女は近くの白い簡易椅子に座った。おずおずと胡桃は向かい側の椅子に座る。
脳裏に剛史が涼しげにコーヒーを飲んでいる姿を思い出して、思わず買ってしまった。
プルタブを開けて一口飲むと、コーヒー豆の苦みが最初に来て顔をしかめた。
不思議そうに自分を見つめる紗良に気づいて、さらに恥ずかしくなって俯く。

「……苦手なら買わなきゃ良かったのに。もったいないわよ」
「コーヒー飲めるようになりたくて。苦いけど前よりは美味しく感じます。ありがとうございます、一ノ瀬さん」
「何で感謝するのかわかんない。変な子」

改めて、噂が絶えない彼女と一対一で話している事実に胡桃は驚いていた。話題が思い浮かばない。
多分100円を払いたくてここまで連れてきたのだろうけど、紗良の表情が読めなかった。

コーヒーは苦い。でも彼の仕草を思い出して心は満たされる。嬉しくて笑みが浮かんでくる。

「……ふうん」

突然、紗良が向かい合っている胡桃に顔をぐっと近づけて、小声で言った。



「貴方、男ができたでしょ?」
「っえ」

缶コーヒーを持つ手がぴたりと止まる。胡桃は真正面からにたりと笑っている紗良を見た。
初めて聞かれた。
美歩や朋香は後ろから見守ってくれたようで何も聞いてこなかったからいきなり核心を突かれて動揺する。
目の前の女は面白そうに足を組んで自分が狼狽している姿を眺めている。

「貴方、変わったわ。授業で特に目立たずに黙々とノートに書いてて地味代表みたいな子だと思ってたけど、最近の授業で見てたら分かるわよ」
「み、見ていたんですか私を」
「私、趣味が人間観察だから。つまんない子が多くてもうやめようかと思ってたら……貴方の顔がすっごく嫌らしい女みたいに変わったから気になってね。ちょっとお話したくなったのよ」
「嫌らしいって……」



「セックスしたいって顔」

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