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クリスマス
クリスマス-2-
しおりを挟む沈黙していた。何も言わずに胡桃はただ窓の景色を見る。
輝く明るい街。人通りが絶えない街。綺麗な空間。窓にもたれる。
(私はやっぱりダメだ)
拒めたはずだった。必死になれば振りほどけたはずだった。
それが出来なかったのは、たった一%の期待。彼が来てくれた事への期待だった。
ごく普通のホテルは二人の秘密の場所。これまでは時間をずらして別々に入っていた。
「着いたよ」
今日は二人一緒だった。
「帰ります」
「ここから家まで徒歩だと一時間だよ」
「構いません。私は」
もう一度彼女の手を掴んで引き寄せた。周りの人々はクリスマス気分で素通りしていく。
「たけ……んっ」
離れようとした体を強引に押さえつけて、唇を無理矢理ねじ込む。逆らわないように、右から左から何度も角度を変えて舌を絡める。呆気なく抵抗をやめて胡桃は彼を受け入れた。数日ぶりの彼の感触は変わっていなかった。
「帰さない」
耳元で囁かれて力が失われた。剛史はそのままホテルの中に入っていく。
「やめて……ください」
「やめない」
部屋に連れて行かれて、ベッドに降ろされる。両手を彼の手で拘束されて、じたばたするしかなかった。
それでも男の力に叶うはずもなかった。攻防戦を繰り返す。
いつもなら、優しく抱き締めてくれてゆっくり溺れていけるのに。
決別しようとした胡桃にとってこれはもう残酷な拷問だった。
襲われている体勢だった。彼の目は据わっていて、怖い。
あの人と結婚する前は確かに肉食の時もあったけど、大人で愛をくれる彼は変わらなかった。
「あの男、何」
「え……」
「一緒にいたあいつ、何」
無表情だった。あの人にも多分見せていない顔だったと思う。胡桃も知らなかった。
こんな能面のような表情をするなんて。
「尚人くん……のこと?バイトの上司……です」
「それだけか」
凍り付いた目が体を突き刺してくる。恐怖と同時に怒りが沸々と芽生えてきた。
どうしてそんな事を言うのか。
気づけば勝手に口が動いていた。
「剛史さんには……関係ない」
「は?」
「私が誰と何していようが、貴方には関係ないでしょっ。貴方には大切な人がいて、私となんでこんな事してるんですか!なんで……。もう……もう嫌なんです、貴方に翻弄されるのは……こんな関係、もう終わりに」
数秒黙って、剛史はふっと頬を吊り上げた。再び彼女に体重を乗せる。
「言いたいことはそれだけ」
「剛史さ」
「もう喋るな」
ブラウスを引きちぎる音がして、胡桃は悲鳴を上げた。ボタンがベッドのどこかに飛んでいく。
その声を無視して剛史はあらわになった下着の金具も引っ張る。こんなものは必要ないと言いたげに。
「いや……いやっ」
着いている布を全て剥がされていく。
こんな事、今までなかった。彼は絶対にしなかった、はずだ。
「やめて……」
「やめて?……ふうん……やめないよ」
笑った彼が怖い。スラックスの中に入ってくる手。
さらにショーツに隠された秘密の場所にも侵入してくる。羞恥で体を隠したいのに両手が動かない。
彼は目の前の体を荒々しく舐め回す。まるで傷跡を残そうとしているようで、乳首の吸い方も今までより強くて痛い。
一つに過敏に反応する。声を上げる。あらゆる部分を触られる。
怖い。怖い、はずなのに。
胡桃の声色が変わる。悲鳴が変わる。
感じてはいけないはずなのに、甘美が電流になって走ってくる。
彼の手がゆっくりと胡桃の中を溶かしていく。
「やぁ……っ……」
全て剥ぎ取られて、彼もいつの間にか着けていなくて、向かい合ったまま指が胡桃の体を隅までなぞっていく。
秘密の場所をゆっくりと回っている。いつもと同じ感覚、来て欲しかった場所。
もう何も考えられない。恐怖がどこかに消えていく。これは……もう違うものだった。
「胡桃、気持ちいい?」
「……」
「素直に言えよ」
「……きもち……いい」
――最低だ。私の決意はあっという間に砕かれた。
彼に支配されて、嬉しいと思っている。このまま意識を失ってもいいと思っている。身を任せたいと思っている。
荒く息を吐きながら剛史は安堵したように笑っていた。
いつもの、胡桃が見てきた優しい笑顔だった。そして済まさなそうに呟く。
「ごめん」
「えっ」
優しく口づけされる。目を合わせて噛みしめるように彼は告げた。
「愛してる」
「……」
もう一度「愛してる」と言ってくれた。素直な気持ちだと信じたかった。
そして、愛を囁いてくれて胡桃は嬉しかった。
小さな箱を手に取っていた。通い続けている部屋だからベッドサイドにある事は分かっていた。
そのまままた体重を預けてくる。
何度も感じているのに慣れない挿入にぎゅっと目を閉じた。
「ぁあ……」
「っ……」
天まで昇ってしまいそうな、そんな気になる。もう抵抗なんてしなかった。
体は喜んで彼を奥まで引き連れていく。淫乱な音が鳴り響く。
嬉しい。嬉しくて苦しい。苦しいけど嬉しくて心地よくて気持ち良くて、ぐちゃぐちゃになる。
それでも。
心の奥には小さくても自制心があった。砕かれた中に残っていた小さな決意。
――この感覚は、今日で最後にしよう。
「剛史さっ……好き……」
「俺も」
ゆっくり上下に動く。互いに喘ぎながら高みまで上っていく。
すぐに視界が真っ白になる。力が抜けて二人ともベッドに深々と落ちる。
彼に隠れて涙を溢した。胡桃の心はもうどこにも揺らいでいなかった。
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