異世界おさんぽ放浪記 ~フェンリルと崇められているけど、その子『チワワ』ですよ?~

こげ丸

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【第40話:ばけもの】

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 辺りには轟音が響き渡り、オレたちも思わず足を止めてしまう。
 音の方に目を向けるが、ここからだと建物が邪魔で何が起こったのかがまだわからない。

「急ごう! 考えたくないが、襲撃が始まったのかもしれない!」

「わ、わかったわ! 急ぎましょ!」

「うん! 急ごう!」

「ばぅ~」

 パズだけ頭の上から、気の抜けた返事をしてくるが、ツッコミを入れている時間も惜しい。

「うわっとと」

 しかし、オレたちの焦る気持ちとは裏腹に、街の人が音に驚き、みんな何事かと通りに出てきてしまったため、思うように走れなくなってしまう。
 運が悪い事に、ここはちょうど市が開かれている通りだったために、凄い人混みになってしまった。

「くっ!? すみません! ちょっと通してください!」

 他の道に行きたくても、ここからだとかなり遠回りになってしまう。
 気持ちばかりが焦っていると、ヒナミが飛び出てきた人とぶつかってしまった。

「きゃっ!? ご、ごめんなさい!」

 何とかギリギリのところで減速したので怪我こそしなかったが、このペースで走り抜けるのはやはり厳しそうだ。
 しかも門に近い前方では既に騒ぎになっており、こちらに向かって逃げてくる人たちで更にごった返してしまっている。

「ねぇ、ユウト! パズだけでも先に行って貰いましょ!」

「ミヒメかしこーい! パズなら隙間縫っていけるよ!」

「ふ、ふん! かしこーいそんなの当たり前じゃない!」

 かしこーいかどうかはともかく、たしかにパズならこれぐらいの人混みはすり抜けていけそうだ。

「パズ、頼めるか?」

「ば……ばぅわぅ!」

 オレが頼むと、パズは任せて! と答えてくれた。

「ばぅ?」

 で、何をすればいいのと……。

「……話聞いてなかったな、お前……」

 静かだと思っていたら、頭の上で寝てたな、コイツ……。
 とりあえず説教は後でするとして、今は時間が惜しい。

「今、前方に見える門の方で何かが起こっているようなんだ! もし魔人や魔物の襲撃が始まっているなら、先に行って衛兵や冒険者の手助けをしてあげてくれ!」

「ばぅ!」

 オレがそう言うとパズは短く一吠えし、まかせて! と、頭から飛び降りた。

「頼んだぞ!」

 パズは着地すると同時に駆け出し、人の足元をスルスルとすり抜けると、あっという間に見えなくなったのだった。


 ◆Side:???

 騒動が起こる少し前。
 一人の男が、セルムスの街へと続く街道を歩いていた。

 ただ、フードを目深にかぶっているため顔までは見えず、全体的な風貌から男だと見えるだけかもしれない。

「あれか……ようやくだな」

 そう呟いた男は、フードをめくると、

「これが第一歩だ。残滓を集め、必ずや魔王様の復活を……」

 と一人呟く。

 フードの下の顔は確かに人間の男のものだった。
 ただ、その頭には二本の歪に曲がった角が生えていた。

 この世界に角が生えた人間などいない。
 つい数時間前、多くの者の命と引き換えに蘇った上級魔人だった。

「しかし、面倒な場所に街などつくってくれたものだ。いや、ちょうどいいか。この身体にまだ馴染んでおらぬからな。肩慣らしにはちょうど良い大きさの街だ」

 そんな事を呟きながら歩みを進め、やがて上級魔人はセルムスの街へと辿り着いた。

「おい! そこの怪しい奴! 何を素通りしようとしてい……な、なんだ。お前の……」

 門を守る衛兵は「なんだ。お前のその角は……?」そう続けようとした……だが、言葉を最後まで発する事は出来なかった。

「ん? どうしたんだ? 何を騒いで……え?」

 そして、同僚の様子がおかしい事に気づき、近づいてきたもう一人の衛兵が同僚の肩に手を置いた時だった。

「ひ、ひぃぃぃ!?」

 外見に似合わない甲高い叫び声をあげた衛兵の男が見たのは、まるでミイラのように干からびた同僚の姿だった。

「なな、なんだよぉ!? いったいどうしちまったって……」

 そこまで叫んだところで、ようやく上級魔人の存在に気付く。

「な、なんだ。お前のその角は……」

 衛兵が発しようとした言葉は、くしくも同僚が最期に発しようとした言葉と同じものだった。
 しかし、そう呟いた数秒後には、その衛兵も同僚と同じ最期をむかえる事になってしまう。

「ひぐっが!?」

 上級魔人が使ったのはライフドレイン。
 生物の命そのものを吸収する特殊な魔法だった。

「う、うわぁぁ!? ば、ばけものだぁ!?」

 門を守っている衛兵は二人だけではない。
 ここには六人の衛兵が配置されていたのだが、残ったわずか四人の衛兵でなんとか出来るような相手では無かった。

「も、門を閉じろぉ!!」

 だから、せめて門を閉じようとしたその判断は間違っていなかった。
 街の門には、魔法的な防御効果が付与されているので、もしかすると魔人の侵入を、一時的にでも防げていたかもしれない。時間稼ぎが出来たかもしれない。

 ただ……門を閉じるには、上級魔人に近づかれすぎてしまっていた。

「ま、間に合わない!?」

 引き上げ式の門だったので、即座に門は閉じられたのだが、その時にはもう既に、上級魔人は街の中へと侵入してしまっていた。

「し、侵入されたぞ! 取り囲め!」

 指揮を執っている衛兵が指示を飛ばすが、その指示に従い、囲もうと近寄った衛兵の上半身が消し飛んだ。

「くっ!? だ、だめだ……せ、せめて皆に知らせを!! 鐘を鳴らすんだ!」

 しかし、そう叫んだ次の瞬間には、指揮を執っていた衛兵も含め、残った三人の衛兵は突然燃え上がり、灰と化してしまう。

 そこでようやく門の近くにいた街の住民たちが、その異変に気付き始める。

「お、おい……あれって、やばいんじゃないのか?」

「今、燃え上がったのって……」

 皆、何が起こったかを理解するにつれ、街の喧騒は一度静まりかえり……絶叫へと変わる。

「うわぁぁぁ!? 衛兵がやられたぞー!!」

「に、逃げろーー!」

 そして、犠牲者が増えていく。

「ば、化け物だぁぁ!?」

「うわっ!? お、押すなってんだ!」

 しかしその時、犠牲者が増え、怯えた悲鳴が木霊し、人々が逃げ惑う中、ちいさなちいさな影が一つ、元凶となった上級魔人の前に立ち塞がったのだった。
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